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2007.01.09【CHAPTER-0011】

どう見ても私です。
私は生と死の区別ができません。
だから自分でも気付かない内に、たまに猫の死体に話しかけているそうです。
私はちょっと目が悪いんです。

今朝は登校中にうろ覚えの知り合いに遭遇しました。
私が『初邂逅?』と訊ねるや否やその女は言葉の代わりに落胆した表情で答えました。
面倒事になると予測した私は事もあろうか自分が記憶喪失だと嘘をつきました。
するとこの女も中々食えない奴で『私が記憶喪失を治す薬を発明してみせるわ!』と言い放ち一目散に退散したんです。

さっき思い出したんですが、あの女は私の行き付けの餃子専門店のバイトのお姉さんでした。
それではそろそろ日も暮れてきた事ですし、日課の餃子屋通いと洒落込んできますね。

店内に入るや否や例の女は『材料は揃ったから』と満面の笑みで私の耳元で囁いたのです。
面倒事になると予測した私は事もあろうか他人の空似だと嘘をつきました。
餃子にかぶりつき、冷静に考えてみる…。
…うん、私はこの女のことが結構好きだ。
私は手を挙げて例の女を呼びつけ『好きだよ』と言ったんです。
でも私の元に駆けつけてきたのは餃子屋の店主(52歳・独身)だったのです。

『おっ…お客さん…そっそれは勿論餃子のことですよね!?それとも…えぇっ!?ちっ違いますよね!?

店内を見回し例の女を探し見ると、こっちに向かって指笛でピューピューしてました。
私はちょっと目が悪いんです。

2007.01.09【CHAPTER-0012】

『うっひょ~博士の髭は白いですねぇ~。
『これっよさんか、人の髭を口に含むな!
『すみません、余りに見事な髭だったもんでつい味見を。
『全く、君みたいなアホに任せて本当に大丈夫なのかね…。
『ご安心下さい。こう見えて自分は他所の家に行って座布団が出ないとすぐ手を出しますから。
『だからさっき急に殴りかかってきたのか。老人は敬おうよ…。
『そんなぁ、博士はまだまだ若いですよ。蒙古斑ですよ。
『とっくに無いよ。それより君、例の計画はわかっているんだろうね…?
『無論です。生放送中におすぎとピー子を入れ替える計画ですよね?
『その計画に成功して一体誰が得するんだよ!
『おすぎがファッションチェックできるわ、ピー子が映画評論できるわで世界中の民が得するばかりですよ!
『得してんの主に約2名のオカマだけじゃない!?
『大体博士のお尻がプリプリしすぎているからいけないんだ、挑発しやがって!
『そんな目で見られていたとは…。
『とにかく最初から説明して下さいよ。
『だからワシの発明した秘密兵器で魔王を屠る計画だよ。君は勇者として国から派遣されてココに来たんだろう?
『なるほど、とても分かり易い説明ありがとうございます。ただ、僕は言った筈ですよね…?
『えっ、何を…?
『最初から説明してくれと言った筈です。その耳は節穴ですか?
『いや、耳はみんな節穴じゃない?最初からって一体どこから説明すればいいのかね。
『そうですね、じゃあ宇宙が始まったところからお願いしていいですか?
『もうちょっと早送りしようよ!ビッグバンから現代まで歴史を追ってたらキリがないよ!!
『このわがままボディめ!
『これっ尻を妙に優しい手つきで撫でるでない!よせ!アウアウアウ~!
『まぁ大体話は把握しました。博士の作った秘密兵器で魔王を殺害すればいいんですね。
『なんだ、ちゃんとわかっているじゃないか。
『それでは早速その秘密兵器とやらを出してください。
『パンパカパ~ン!
『うわぁ、博士!急に下半身を丸出しにして一体どんな思惑ですか!?
『今日の占い、カ~ウントダウ~ン!!!
『困ります博士、そんな事されたら明日から低反発座布団の使用を余儀なくされます!!
『ハッ、私は何を…一体どうしたというんだ私は…とにかくすまなんだ!!
『いえいえ、きっと魔王による人を狂わせる瘴気がラボの中にまで侵食してきたに違いありません。
『ええい魔王め、実に憎々しい…さぁ、これが秘密兵器のレーザービームじゃ。
『うわぁスッゲェ、超カッコイイ!…あぁ、興奮しすぎて三半規管がヤバイことに!
『どうして興奮すると目が回るんだよ、摩訶不思議な体質だな!
『それでは早速魔王と不適切な関係を持ってきます!
『確かに互いに殺し合う関係は不適切な関係と言えなくもないけど、明らかに語弊を期待してるよね?
『それではいってきまーす!関節痛に耐えつつも!
『大丈夫!?薬飲んでから行け!

勇者は魔王城へ向かった。

『ここが魔王城か…新築じゃないか、シックハウス症候群になれ!
『おいそこの人間、我が魔王城の前で何をしている?
『これはこれは魔王様、あなたがシックハウス症候群になればいいのにと心の底から思っていたところです。
『なんだと貴様、人間風情が大魔王の我を愚弄する気かぁっ!
『あ痛ッ!ウギャーやめてもうしません許して払うからごめんなさいお願いします!
『フハハハ、人間とは何とも情けない生き物だな…。
『情けないだと?…おい、魔王!
『何だ?
『俺は人に情けないと言われるのが一番嫌いなんだぁぁぁぁぁぁ…!!
『…!!(なんだ、この人間から溢れ出てくる強力なオーラは…)
『魔王、お前は運の悪いやつだ。何たって今まで俺に情けないと言った奴の内約500人は今も病院生活だからな!!
『情けないと人に言われすぎ!
『子供の産めない体にしてやるぜ!
『元々産めないよ!

勇者は魔王を倒しました。

『レーザービーム使い忘れた。
『ワシが半生かけて発明したってのに何てこったい。

2007.01.10【CHAPTER-0013】

顔があった。顔が笑った。汚穢な笑顔があった。果たして正体は?
当事者は、どうでもいいなと思った。当事者は目の前にある顔に全く興味が無い様子。
当事者はそんな事より飯を食いたいし眠いし彼女が欲しいので、仕事を探した。
当事者は思った『俺は絶対に当事者にならないぞ。誰とも何とも関わらないぞ。』
その決意はダイヤモンドよりも硬かった。モースの硬度計がカンストするくらい硬かった。
でも無駄だった。当事者は人との関わりを誰よりも求めていた。寂しがり屋の店長さんだった。
当事者はいつも当事者だった。当事者が当事者じゃない瞬間は結局死ぬまで訪れなかった。
当事者はある晴れた昼下がり『幽霊を見てみたいな』と思った。でも良く考えたら怖いので『やっぱ見たくない』と思った。
当事者は後悔した。どうして幽霊が見たいなんて思ってしまったのか…。
幽霊はきっと人の思考を読むのなんて造作ない。今に幽霊が自分の周りにうじゃうじゃ集まってくる。
当事者は叫んだ。当事者は苦しんだ。当事者は思い出した。顔があったことを。
どこにあったんだっけ?思い出せない。思い出したくない。あの顔もきっと幽霊だ。
あの顔は未来の自分の思考を読んで、フライングした暇な幽霊だ。
あの顔は笑っていた。きっとこれから自分に降りかかる恐怖を想像し笑んでいたのだ。
ふざけるな。顔め!顔の分際で!首はどうした?首もないのかね。体は?体までもないのかね。
所詮顔だ。顔なんかに何ができる?顔で人が殺せるか?顔で出来ることなんてにらめっこくらいだ。
にらめっこ…?待てよ、もしにらめっこで勝負なんて事になったら…。
当事者はいつだって用意周到だった。自分の人生を作品に見立てて生きていた。
少し違うかもしれないが、女性の化粧のようなものだ。当事者はいつでも自分に対する校正を怠らなかった。
当事者は鏡の前で百面相を繰り広げた。それは入念なにらめっこの練習だった。
顔があった。顔が笑った。汚穢な笑顔があった。顔の正体は当事者だった。
推理小説の語り手が犯人だった気分だった。そして誰もいなくなった。

2007.01.10【CHAPTER-0014】

呼吸すると同時に私の心臓は粉砕した。でも生きているのとあの人を想うと胸が痛いのは何故?
闇に堕ちた私は逆さまの病気になった。症状は重力の受け方が常人の真逆。
風船が友達の顔に見えたの。

屋根が床で床が屋根だから、私は用を足すのにも一苦労。
鎖に繋がれてお散歩する。たまには直射日光を浴びなきゃね。
ありがとう。

私と同じ病気の男の子と鉢合わせになったからお話をしたよ。

『初めまして、こんにちわ。
『こちらこそ初めまして、こんにちわ。

それきりだったけど凄く素敵な人だった。下品な言い方すると欲しい。

それにしても外は恐ろしい。もし、私の鎖を持ってる人が手を離しでもしたら…。
私は宇宙に落下する。成層圏で死ぬと思う。
やだよ、私はまだまだ息がしたいし水が飲みたいし笑ったり困ったりよくわからなかったりしたいのに。
だからその手を離さないで。お願い。これは本気の本気の願いだよ。

でもその願いは叶わなかった。
こんなにも小さな願いだったのに。
その手が離された。
私は勢いよく宇宙へと落下した。
しょうがないのかな、来世は健康だといいな。

ここは宇宙。私は羊水の海に包まれた。この星のお母さんの中に私は戻るんだね。
そこには堕胎されて彷徨っている嬰児がいっぱいいた。
病気にすらなれなかった、人のカケラ。
私は悲しくて泣いちゃったんだ。でもうまく声が出なくて…。
いくら泣き叫んでも、どこか自分の声が遠くて…。
あぁ…うぁ…や…だ…な…の………おぉ…ぁ…ぎゃあ…お…ぎゃ……………………………………………………………。

誰かがどこかで着床した。私は今からそこにゆくのです。
ねぇ私のお母さん、ところでどうして夜の学校なんかで…?
はぁ…そういう理由で出来ちゃった赤ちゃんかぁ…。でも幸せにしてほしいな。
早く呼吸がしたいのです。わくわく。

2007.01.11【CHAPTER-0015】

自分自身の若さゆえの過ちというものを認めたがる人が居ました。
その人は常日頃から己の甘酸っぱくて痛い過去を認め、それを自ら周知していました。
友人達は『あいつはいつも自虐的で付き合いづらい』と思っていました。

その人はやがて老いさらばえ痴呆症にかかり自分自身の若さゆえの過ちというものを全て忘れてしまいました。
けれども自分のライフワークだけは心の奥底に刻まれていました。
自分は、過去を認めそれをみんなに言い触れなければならない。それが自分の人生なんだ。
でもいくら頭を悩ませても思い出せません。記憶のバケツにどんどん穴が空き零れていく日々…。
人は長く生きて死に近づくにつれ赤ちゃんに戻るのです。その人も例外ではありませんでした。
それでもやっぱり自分のライフワークだけは決して忘れませんでした。

ある日その人は、顔も名前も定かではないいつか孫と紹介されたような気がする少年を呼び出すとこう言いました。

『認めたくないものだな…自分自身の若さゆえの過ちというものを…。

その人はそう言い残し不帰の客となりました。
死の間際で自分の人生最大の過ちに気付いてしまったのです。
こんなにも毎日が惨めで損するばかりの人生なんか決して送ってくれるなよ…と、自分の孫に伝えたかったのです。
孫はあんまり良く知らないおじいちゃんが死んで少し悲しくて少し泣きました。

2007.01.12【CHAPTER-0016】

それが答えだと思う?違うんだよ。だってそれすらも彼が考えた模範解答なんだから。
あなたは彼の何を知ってる?アタシ?アタシは何も知らないよ。所詮アタシは彼の掌の上で踊り続ける操り人形だもの。
あなたは彼の何を知りたいの?彼の全て?それとも彼の素敵な一部分のみ?彼の表層から内面まで全てを知り尽くしたい?
そう、彼の事が好きなのね。それは恋愛感情かしら?あらやだ、全然恥ずかしいことじゃないわよ。
好きな人の性別がたまたま自分と一緒だっただけ。だって50%の確率よ?
彼を知って、理解してどうするの?どうしたいの?何を考えてるの?何でもかんでも欲しがるんじゃないわよ。
いい加減にしなさい。ダメなものはダメです。ピ・ピ・ピピピピピ…ピィィィィィィィィィィィ………。

辿り着いた場所がゴールだとは限らないわ。一秒後の彼は未来の彼で、一秒前の彼は過去の彼。今の彼を欲するなら詮索しないことよ。
白いって?あぁこの部屋ね。そりゃそうよ、RGBが均等にあなたの網膜を刺激しているんだもの。
理屈は嫌い?クスクス、見識張った人間ほどそう言うのよね。あなたみたいな子を中二病っていうのよ。
それであなたはこれからどうするの?彼の言葉の一つを一つを繋ぎ合わせ、彼の虚像を構築してくつもり?
彼は確かに魅力のある人だわ。異性の私ですらたまにときめいてしまう。あらそれって普通よね、ウフフ…。
…気に障ったかしら?ごめんなさいね。

独占したい。束縛したい。誰の目も触れぬ場所に幽閉し、永遠に自分のモノにしてしまいたい。

その欲望は、クククであるべきだ。ククならばク性のクククククク…キャハッ…クキャキャキャキャキャキャァァ!!!!!

あら、戻ってきちゃったの?結局あなたはどうするのかしら。アタシにはどうでもいいことだけどね。
彼を理解するのはやめた?…ふぅん。でも賢明な判断だと思うわ。彼を理解できるのは世界で唯一人、彼だけだもの…。
彼は現実の世界の生身の人間よ?おとぎ話の主人公じゃないのよ?彼以外の誰にも彼は理解できないわ…。
そんな事もわからずにいたあなたはどうかしてる。今の今まで気付かなかったアタシもね…。

さよなら。

目で見えないものばかりを信じきっていた頃、アタシはグラスに注がれた血のワインを飲み干した。
多分きっともしかすると、アタシは彼を執拗に求めるあの男に嫉妬していたのかもしれない。
アタシだって知りたくなかった。彼は彼でいい。実際、彼は彼だけど…アタシには彼が何人も居る気がしてならない。
その瞬間の彼を切り取って保存する事が可能なら…。それさえ可能ならば、納得できる答えに辿り着くのかも知れない。

彼は普通の人間です。だからぶったりけったり悪口言ったりしないでください。

2007.01.12【CHAPTER-0017】

海賊王になりたい主人公はアイデンティティとか自我とかその他形而的な事諸々を考えた末やがて自傷に至った。
仲間の『死にたければ勝手に死ね』『俺たちは友達じゃないか』とかいった手垢まみれの常套句に吐き気を催した。
主人公は己の役割には着想が無いにも程があると結論を出し転生を望んだ。涅槃に腕を伸ばしたが届くことはなかった。
『俺は海賊王になんかなりたくない。今まで自分に嘘をついていた。』そう言い残し入水しこの世を去った。
残された仲間は『アイツは馬鹿だったけどいい奴だった』と手垢まみれの常套句を吐いた。
それでも絶対的な力、抗うことのできない力の前に主人公は息を吹き返す。仲間の涙が頬を濡らす。友情パワーだった。
主人公は泣き叫びながら狂ったように仲間を殴打した。『いい加減にしてくれ!俺を死なせてくれ!俺はもう俺でいたくない!!』
仲間の『好きなだけ殴ればいい、それでお前の気が済むならな!』という見当違いの発言はより一層主人公の苛立ちに拍車をかけた。
主人公は仲間達の息の根を完全に絶つと、再度海に飛び込んだ。世を儚んで取った行動じゃない。自分が嫌だった。
自分が嫌いで嫌いで仕方がなかった。夢とか希望とか努力とか友情とか愛とか、そんな不確かなモノに固執していた自分が…。
国民としての義務を負い、必要最低限の苦労をして、他人に迷惑を掛けず、慎ましやかな生活を送ることができればそれでいい。
『俺には特別な能力も冒険も何もいらねぇ。だから頼む…俺に普遍性に富んだ多数派庶民の生活を送らせてくれ。』
その時、頭の後ろ辺りから声が聞こえた。主人公の師匠の声だった。『諦めるでない!!』だが主人公の心を揺さぶることはできなかった。
主人公の決意は固かった。もう俺は死ぬ。早く死にたい。塩味が口の中に広がる。飲み込む。肺が海水で満たされていく。
段々と意識が遠くなる。さっきも味わった感覚だがこれが死ぬ瞬間なのだ。俗に言う走馬灯が今見えた気もするけどもう忘れた。
『諦めるでない!!』まだ居たのか。『諦めるでない!!』無駄だよ。『諦めるでない!!』お前が諦めろ。
大体俺は諦めたんじゃない。現実に気付いてしまったんだ。仕方の無いことだ、心の底から自分が嫌なんだから死ぬしかないだろう。
『諦めるでない!!』うるせーよ。『諦めるでない!!』お前…いい加減にしろよ。『諦めるでない!!』…もうキレた。
最後っ屁に師匠を殺害してから死のうと誓った主人公は突然降り注いだ奇跡の光に覆われ地上に舞い戻った。
するとそこには今までの冒険で出会った仲間達(先刻殺害した仲間も蘇生し含む)が涙を流し拍手喝采で主人公を迎え入れていた。
『良く頑張った』『お前は最高の仲間だ』『お前はちょっと疲れてただけだ』主人公に多様な手垢まみれの言葉がぶつけられた。
それは主人公を満更でもない気分にさせた。俺は矢張り諦めてたのだろうか?俺は…海賊王になりたいのだろうか?
何だか良くわからなかった。敷かれたレールを脱線したのも束の間、自分の力の及ばない存在の下緊急工事が完了してしまっただけのかもしれない。
ただ自分が『この状況を分析できる思考を有す』という現実は主人公に安堵の溜め息をつかせた。
主人公はやるだけやってみようと思った。諦めなければ、普通に生きているよりも僅かながらも何かいいことがあるかもしれない。
『俺は、海賊王に絶対なるぜ!!』海を指差しそう言った。別に絶対なりたいわけじゃないけど、舌に馴染んだ言葉が口をついて出た。

2007.01.13【CHAPTER-0018】

『あ~腹減った、チューリップ食いてぇ。

オランダ人が独り言を漏らす。私は聞こえないフリをして伝票を捲っていた。
私の人生は伝票算で忙しいのだ。来る日も来る日も伝票算を繰り返す。
ろくに食事も摂らず没頭する私を見兼ねたオランダ人が、肩に手を添え問いかけてきた。

『君はどうしてキャベツは食べられるのにレタスは食べられないんだい?
『聞きたいことは本当にそれなの?
『何でもお見通しってわけですか。そうさ、僕が本当に聞きたかったのは君が伝票算にかける情熱に関してさ。
『愚問ね。私はしたいからしている。本能に従い生きているだけよ。
『世の中には伝票算がしたくてもできない人間がいっぱい居るんだぞ。これだから日本人は…。

オランダ人はそういうと風車に挟まって感無量といった表情をしてみせた。
私は自分の今の顔が見られたくなくて、オランダ人に背を向け肩を震わせ言った。

『だって…好きなんだもん…。
『ネーデル?(オランダ語)
『伝票算も…あなたも…シュークリームもみんなみんな大好きなんだもんッッ!!
『ア、アムステルダム…(オランダ語)

私は花壇のチューリップを根こそぎ引っこ抜き口一杯に頬張ると、オランダ人のリップにチューをした。
チーズを探してたまたま通りかかった鼠がチューチュー鳴いていた。

『名前…まだ聞いてなかったよね…?
『僕の名前は排泄物貫太郎、住所不定無職だ。
『素敵な名前ね、思わずうんこが洩れそうだわ。
『尻の穴からうんこを放つ…これがホントの脱糞ってね!

小泉元総理がぶっきらぼうに笑った。トランプタワーが完成した。

2007.01.14【CHAPTER-0019】

おはようございます、私です。
新しい朝が来ました。ところで古い朝はどこへ…?
考えたくないけど…まさか…死んでしまった?
ハッ、私としたことが不謹慎な考えを…古い朝のことですし、きっと大丈夫ですよね。
今もどこかでいつもみたいに元気で頑張ってる筈です。きっと。

今日は呼吸と瞬きと空想と食事と排泄以外全く予定がありません。
なので私は森林浴をすることにしました。
私はお気に入りのテンガロンハットを頭に乗せると、勢い良く玄関から繰り出しました。
だが、それがいけなかった…。

私は薄れゆく意識の中で、一頃マイブームだった兎との追いかけっこの日々を思い出していました。
私は兎を捕まえたかったわけじゃありません。どこかに、私を連れていって欲しかったんです。
どこか遠い、実は近い、誰も居ない、誰かは居る、そんな世界に。

私はおでこにできたタンコブをさすると、事件の発端の犯人を鷲掴みにしました。
半そで半ズボンの少年が半べそで私に鷲掴みにされた野球ボールを凝視していました。

『返せよクソババー!うえ~ん!!

少年はどうやら、見知らぬ女の人にボールをぶつけて怪我させてしまった罪悪感と恐怖とで錯乱しているみたいです。
私は少年に近づくと、優しく微笑んで、思い切り引っぱたいてやりました。

『私はクソババーじゃねぇ!クソお姉さんだ!このクソガキが!!
『うえ~ん、ゴメンなさい、え~んえ~ん!!
『この落とし前はしっかりつけてもらうからな!
『うわぁぁ~ん、もうしません、助けてください!!

私は少年を強引に連れ出し、近所の森へと赴きました。
少年はずっとびくびくしながら下を向いて歩いています。
私が『お金が落ちてたら教えてね』と言うと『御意』と少年は返事しました。

私は森の中でどうでもいい本を読みました。
どうでもいい本は私に有益な情報を一つも齎してくれないどころか、時折私の生きる意味を否定してきました。
普段の私であればきっと感情の昂ぶりに身を任せ、通販で買ったサンドバックに乱打を浴びせるところですが、
ここは幸い森なので、私の心は清涼感に溢れとても清々しい気持ちでした。
ふと少年を見るとさっきまでかたつむり採集に没頭していた筈が、私の顔を見つめてボーッとしていました。
視線の重なりに気付いた少年は頬を赤らめるとそっぽを向いてしまいました。

これはマズイ…おたふく風邪だ!私は少年をおぶさると最寄の病院へと直行しました。
少年は強く否定をしますが間違いありません、絶対におたふく風邪です。
むしろ、おたふく風邪がこの少年であるといっても過言ではないでしょう。
でもその心配は杞憂と終わりました。少年が自白したのです。

『違うよ…顔が赤くなった理由は…かたつむりが可愛くて…。

かたつむりが可愛くて紅潮するなんて私には理解できませんが、
本人がそういうのであればきっと本当にそうなのでしょう。

暮れなずむ空の下、私は英語で少年に別れを告げました。

『シーユーアゲイン。
『う、うん…?バイバイ、おねえさん…。

少年の頬がまた赤く染まる。ヤバイって、絶対おたふく風邪だよコレ…。
私は少年に、家に着いたらすぐ熱を計ってお母さんに診てもらうよう忠告し、帰路につきました。

その1週間後のことです。少年が私の家を訪ねてきたのです。

『良かった…合ってた。
『どうしたの、おたふく風邪は大丈夫?
『それが…治らないみたいなんです。お姉さん助けてください。

私は少年の真意が汲み取れませんでした。どこからどうみても少年は健康体そのものです。
でも呼吸と瞬きと空想と食事と排泄以外全く予定がなかった私は、少年と森に行って追いかけっこして遊びました。

2007.01.17【CHAPTER-0020】

君と僕は死んでしまった星に二人で生きていた。
何かを得るために生きていた。でも日々失うばかりだった。
求めれば求めるほど、伸ばした手の指の間から零れ落ちていった。
僕はふと『こんなはずじゃなかったのに』と思った。

『これは誰かの妄想だよ。

君が言った。風に向かってそう言った。
だとしたらこれは僕の妄想だ。僕は死んでしまった星で一人で生きているんだ。
二人で風を追いかけた。辿り着いたのは風の墓場だった。
風の墓場で風は死んでいたので君はわんわん泣いた。僕は君を慰めたかった。
でも君は僕の手を振り解き刃物をちらつかせ殺意を剥き出した。
僕はまた『こんなはずじゃなかったのに』と思った。
僕は一体どんなはずだと思っていたのか、それを知ってか知らずか君は嘲笑した。

君は突然僕に対する嫌いな部分を並べ立ててみせた。
僕が以前、幼児向けアニメの言葉の選抜は素晴らしいと絶賛したことに君は多大な嫌悪感を抱いていたそうだ。
僕の否定を一通り終えると君は再度風が集う場所を探し求め、足早に去っていった。
もう僕には君を追いかける力は残されていなかった。
それでも僕は絶対に泣くものかと思った。

なので僕の声はとても乾いていた。風が吹いて僕は気付いた。
ここは死んでしまった星なので、僕が音程の外れた唄を歌っても誰も笑ってくれないのだ。

でも、誰かが笑った。

僕は笑われた。こんなはずじゃなかったのに。