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剣 ◆ogK6XsSpmw



今でない時、ここでない場所にある一人の剣匠がいた。
その剣匠は生涯をかけて一本の剣を打った。
剣匠はその剣をある秘境のある山頂に突き立て、息絶えた。
その後、剣は長い間、そこで風雨に晒されていた。
とても長い間、大地の脈動を受け、天の雷を浴びた。
遥か悠久の時を超え、陽と星の光をその身に蓄積した。
それでも剣は一向に朽ちることなく、まるで時間が止まったかのようにそこに在り続けた。
そしてある時、剣は目覚めた。
何故かは解らない。ただ剣は己を知った。
自分には主が必要であることを。
自分には敵が必要であることを。
あらゆることを知った。
剣は己が何をするべきかを考えた。
長い間考え続けた。
そして――ある時答えが返ってきた。
「私が御助力しましょう」
気がつくと目の前に美しい女が傅いている。
――何者だ?
剣は問うた。
「私は全能たるあなたより生み出された分身でございます」
――覚えがない
女は微笑する。
「しかしあなたは望みました。あなたを振るうに相応しい主を」
――お前が我が主となるか
「私にはその資格はありません。私はあなた自身なのですから……」
女は悲しげに首を横に振った。
「けれどもあなたの主を見つける為の力にはなれます。その方法を提案できます」
――如何にするのだ
「あなたは神とも呼べるほどの霊力をその身に封じておられます。その力の一部をわたしに行使する権利をお与えください」
――……
「さすれば世界に存在する無数の時空よりあなたを振るう資格を持つ者たちを選別、召喚します」
――……
「そう、『剣』を振るうべき者たち……『剣士』たちを」

……
………
…………

剣は長い間何も答えなかった。
女もそれ以上は何も言わずただ剣の前に佇み続けた。

何日が経ったのか、それとも何年か……あるいは刹那の間か。

剣は答えた。

――任せる、我が分身よ
「ロワ、と御呼びください」

こうして『剣』と『剣の分身ロワ』は一つのささやかな願いによる、遠大な計画を紡ぎはじめた。



◆ ◆ ◆


薄暗い、仄かに明るい、中庸なる灰色の空間。
そこで彼……バッツは目覚めた。
まずそこで感じたのは大勢の人の気配。
(4,50人ってところか……囲まれてる?)
だがバッツはすぐにそうではないことに気がついた。
(ざわめいてる訳じゃないが……多くの戸惑いを感じる)
バッツは立ちあがり周囲を見渡した。
その空間の広さは20m四方といったところ。
ちょうど町によくある教会くらいの広さと見えた。
そこに50人ほどが詰め込まれている。
(こいつら……どうやら俺と同じように状況が解ってないみたいだ)
そして同じように他を警戒している。
諍いになっていない理由は……すぐに知れた。
(剣が……ない)
バッツはようやくそのことに気付き、そしてある推論を立てた。
(俺は何者かにここへ連れてこられた。そしておそらくそれは周りの連中も同じ……)
誰かに声をかけてみるか。
そう考えたところで思考は中断された。

ガタン

ザザァ

突然、物音が上がり――その場に居た者がいっせいにそちらを注目したのだ。
その中の一人であったバッツの目に映ったのはライトアップされた高台。
そしてそこに立つ一人の美しい女であった。
「皆さん、ようこそお集まりいただきました」
その紅い唇から洩れる声はとても甘く、妖しい。
「わたしの名はロワ。本日は皆さんにお願いがって、不躾にもこのように御呼びした次第であります」
誰も声を発さない。
ただ女の一挙手一投足を見逃すまいと視線を女へと突き刺す。
そして次の瞬間、紡がれた言葉はバッツらに衝撃を与えるには充分すぎた。

「只今より、皆さんには――殺し合いをして頂きます」

「な、「なんだとっ!!?」「なんだって?」……っ」

ロワの言葉を受け、さすがにいくつか鋭い声が上がる。
だがそれでもほとんどの者は動かなかった。
それはバッツも同様だった。
内心はひどい動揺に見舞われている。
同時にロワが言ったことが洒落でも芝居でもなく、真実だということも理解してしまっていた。
だからこそ隙を見せるような真似はできない。
そしてその場の多くの者が同じことをし、同時に殺気とともに周囲を警戒する。

「お静かに願います。わたしの言葉は嘘ではありません。皆さんの意志がどうあれ、殺しあっていただきます」
「ふざけるな!!」

集団の中から一歩、前に出る声があった。
金色の髪に白いマントと鎧を纏ったみるからに騎士といった成りをした青年。
「フレン!?」
何処からかそんな声が上がった。
それがあの金髪の青年の名前なのだろう。
そしてその顔には怒りが浮かんでいた。
「黙って聞いていれば……殺し合いだって? そのようなこと、承服出来るわけがない!!」
烈火の如き、怒号と視線を女は悠然と受け止めていた。
「いいえ、して頂きます。それが我が主の望みなれば……」
「黙れ! 例え女性と言えどこの世界の秩序を乱す悪しき者に容赦する剣はない! 行くぞ!!」

気合い一閃。
フレンは白い光となってロワへと迫った。
そして……その手はロワに届くことなく石畳に叩きつけられる。
「ぐはぁッ……!」
「フレ――うぐぅ……!?」
フレンという青年が地に倒れる瞬間、バッツもまた全身に激痛を感じてその場にうずくまった。
先ほどフレンの名を呼ぶ声が中断されたのもおそらくバッツと同じことが声の主に起きたからだろう。
激痛の源泉は……首元。
バッツは慌てて首に手をやる。そこにあったのは冷たい金属の感触。
(これは……首輪か?)
「説明が遅れてしまいました。皆さまの首には枷をつけさせて頂きました。
 その枷は私の任意に応じて皆さまの自由を奪うことができます」
「ぐ……くそ、こんなことくらいで……」
全員がその場にうずくまる中、フレンだけはじりじりと這いつくばりながら女へと迫る。
ロワはそんなフレンの姿を悲しそうに見下ろしていた。
「そして……それでもなお反意を抱く者には……死んでいただく用意があります」
「な……何?」
ロワは静かに右手を頭上に掲げた。
「残念です、フレン」
「ロ……ロワァああああああああああああああああああああああああああ……ッ!!」

そしてロワがその手を振りおろした瞬間――フレンの首輪が爆発した。

ボンッ

場違いなほどあっさりとした破裂音。
そして飛散する少量の鮮血がロワの白い装束に僅かに付着した。

ゴロ……

そこに残されたのは、首のない騎士の身体と……身体のない騎士の首。
バッツの身体にはすでに激痛は走っていない。
おそらく周囲の者たちも同じだろう。
だが誰も一言も発しなかった。
自分たちの運命はこのロワという女一人に握られたのだということを否応なしに理解させられてしまった。
「このようなことはわたしも本意ではないのです。
 あくまでもあなたたちには自主的に殺し合いをして欲しい」
ロワはその顔に悲哀の表情を浮かべ、周囲を見渡した。
「あなたたちには過酷な要求をしていることは解っています。
 なればこそ、この殺し合いを生き抜いた最後の1人にはあらゆる報酬をお約束しましょう」

「……報酬……だとぉ?」

ロワは……そしてバッツは声の主を見た。
その声は先ほどフレンの名を呼んだ声。
そこにいたのは腰まである長く黒い髪の青年だった。

「はい。どのような願いも叶えましょう。我が主にはそれだけの力があります。
 そう、富も名声も……失われた生命を再び取り戻すことでさえ」

「!!」

青年の顔が歪んだ。
何を考えたのかは想像に難くない。
だがロワは意にも介さず、ここにいる者たちに向けての説明を続けた。

「最後に残った者こそは単なる力だけではない、運命さえも手繰り寄せる本当の強さを持った剣士。
 そのような方こそが神の力を持つ剣に相応しいのです」



(神の……剣?)
ロワの、突然の脈絡のない言葉にバッツは疑問符を浮かべる。
だがまたしても彼の思考は中断される。
「様式に則り、この選別の儀式を『ゲーム』と呼びましょう。このゲームにはいくつかの定められたルールがあります。
 首輪のこと、禁止エリアのこと、支給される剣のこと、そして放送のこと――」
ロワの言葉によってバッツの脳裏にそのルールが鮮明に浮かび上がってきた。
まるで最初から知っていたかのように。
「それらは全て皆さまの頭の中へと刻みつけておきました。これによりルールを忘れるということはないでしょう」

そして……彼女の言葉が切れると同時にバッツの身体が白い光に包まれる。
見れば他の者たちも同じように光に包まれていた。

「それでは、これより皆さまをゲームの舞台へとお送りします」

光はどんどん強くなり、それにつれてバッツの意識は希薄になっていく。

「皆さまの健闘をお祈りします」

その言葉を最後に――バッツは意識を失った。



『ゲームスタート』

【死亡 フレン・シーフォ@テイルズオブヴェスペリア】
【残り52名】

【主催者 剣】
【管理者 剣の分身ロワ】