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受け継ぐ者へ(後編)  ◆k7QIZZkXNs




人間を殺してはならない。

人間を殺してはならない?

人間を殺してもいいのではないか?

そう、剣を向けてくるのなら、相手が人間でも――。

目の前にいる、脆弱な人間を――。


「逃げろ! 私に近づくな!」

ありったけの理性をかき集め、クレアは叫んだ。
クレスはもちろんのことその叫びの意味を理解できない。
彼の本能はうるさいほど危険を警告し、今の内に斬れ、もしくは逃げろとがなり立てている。
だが、クレア自身にはどうも敵意はないように感じるのだ。
左腕のみならず全身を使って右腕を押さえつけるその姿からは、まるで右腕から先が別の誰かに乗っ取られたように見えて。

「まさか……くっ、しっかりするんだ!」
「に、逃げろと……言ってる、だろう」
「僕のせいであなたはそうなったんじゃないのか!? だったら、逃げられる訳ないじゃないか!」

斬り捨てることなど、できはしなかった。
ブルックとは違う、必死にクレスを殺すまいとするクレアという人物を、このまま置いては逃げられない。

「何か僕にできることはないか? どうすればその腕は止まるんだ!?」
「……斬り、落としてくれ。腕を離せば……暴走は止まる、はずだ……」
「斬り落とす……それしか、ないのか」
「やるなら、早くしろ……もう、抑えていられない……」

クレアは苦しげに呻く。見ず知らずの、しか人間であろうクレスを頼ったのは、それだけ追い詰められているからだ。
気を抜けば意識が一瞬で食い潰される。『クレイモアのクレア』ではなく、『覚醒者クレア』と成り果ててしまう。それだけは耐えられない。
逃げればいいのにクレスは残ってクレアを救うと言ってくれる。
彼はクレアを待っているはずの丈瑠と同じ表情をしている。信じられる人間の顔だ。
だからこそ、恥を忍んでクレアは頼んだ。

「……わかった、やるぞ!」

やると決めたら迷いは不要だ。
刀を構え、全身の力を集約させる。

「真空……破斬!」

刀身に真空を纏わせ切れ味を上げる剣技。
放たれた斬撃は、クレアの右腕を見事宙へ舞わせることに――失敗した。
ガキンッ、と刀は受け止められた。地に突き立っていたクレアの右腕が、神速で抜き放たれて刀を受け止めていた。
イレーネから受け継いだ切り札『高速剣』。クレイモアを持たぬ空手の状態で放つそれはいわば『高速爪』と言うところか。
右腕はクレアの意思を完全に跳ね除け、一個の妖魔として自己の保全に動いた。
そしてその行いは――クレアが衝動に敗北したことを意味していた。

「が、あ、ァァァァ……ッアアアアアアァァァッ!」
「ぐあぁっ!」

ニバンボシを叩き落し、クレスの胸倉を掴み上げ、壁際へと叩き付ける。
喀血するクレスに構わずクレアは駆け出した。
向かう先は今だノヴァと丈瑠の戦いが続く場所。仲間ではなく獲物が待つ狩場。
掴んだままのクレスがもがくも、剣もなく膂力でも敵うはずがない。
この場でクレスを喰らってもいいのだが、それでは二人の人間を逃してしまいかねない。
三人とも殺してから喰らえば食い残しはない。クレアの中の妖魔はそう思考する。

やがてクレアの視界に二人の人間が映った。双方共に傷ついてはいるが健在だ。
赤いジャケットを着た人間、志葉丈瑠へとクレスを投げつけた。
人体を砲弾とせしめる常識外の膂力は遺憾なく発揮され、クレスもろともに丈瑠は吹き飛ばされた。

「魔物!?」
「――アアアアアアアアアッ!」

魔物と戦い慣れているノヴァの反応は素早かった。が、相手が悪かったと言うべきだろう。
幾重にもぶれて多方向から襲い掛かる爪撃に対応できず、ノヴァはあえなく殴り飛ばされた。

「がっ……」
「クレア! 一体どうしたんだ!?」

丈瑠がクレスを押しのけ立ち上がったときにはノヴァは無力化されていた。丈瑠と戦った疲労もあろうが、それ以上にクレアが速かったのだ。
クレアは一瞬で間合いへ踏み込んでくる。丈瑠はまだクレアに起きた変化を把握していないため、反応が遅れた。

「獅子戦吼!」

あわや首を刈り取られんというところで、獣面の衝撃波が丈瑠の命を救った。
丈瑠の横に全身傷だらけのクレスが並ぶ。激しく息を吐いているが、致命的なダメージを負ってはいない。

「気をつけるんだ、今の彼女は見境がついていない!」
「お前、誰だ? いや、それはいい。どういうことだ、クレアに何があった?」
「僕のせいなんだ……僕が彼女を追い詰めてしまった」
「何だそれ、どういう意味……くっ!」

言葉の途中、左右に飛び離れる。二人の中間を弾丸のように金眼の獣が駆け抜ける。
クレアは勢いのままにその進行方向にあった一軒の民家に突入し、轟音と共に爆砕させた。
ノヴァの闘気剣に匹敵しようかという威力。ノヴァとは何とか戦えていた丈瑠もさすがに戦慄を禁じ得なかった。

「クレア……! 俺だ、志葉丈瑠だ! わからないのか!?」
「グゥゥゥゥ――シャアアアァッ!」

地を這い掬い上げるように放たれた爪を、絶刀を逆手に構え地に突き立てることで防ぎ止めた。
絶刀の特性故に刀が砕かれるということはなかったが、地面という緩衝材を挟んで尚、丈瑠の腕に凄まじい負担が圧し掛かる。
が、とにかく動きを止めることには成功した。攻守が拮抗し、丈瑠はクレアと睨み合う。
記憶と違う瞳の色に戸惑うが、おそらく正常な意識を保ってはいないだろうと丈瑠は判断した。

「おい、お前。あいつを連れて逃げろ」
「な……何を言ってるんだ、僕も一緒に!」
「剣もないのに何ができるって言うんだ。それにあのノヴァって奴が意識を取り戻したら、また面倒なことになる」
「しかし!」

クレスは抗弁するが、悠長な言い合いを許すほど妖魔と化したクレアは甘くはない。
まだ人の形を保っている左拳が丈瑠の顔面へ向けられる。
とっさに頭を下げる。危ういところで回避。風を切る音でまともに受ければそれで終わりだと確信する。

「早く行け!」

丈瑠にしてみれば、ノヴァはもちろんのこと新顔であるクレスもまた信用できなかった。
クレスは自分のせいでクレアがこうなったと言った。その言葉を額面どおりに受け取りはしないものの、一因であることは間違いないと思っている。
それに足手纏いであることも方便ではない。先ほどまでの丈瑠自身と同じく、今のクレスは丸腰だ。
ノヴァが持っている誠刀はやはりクレスにも使えない。
ならば不確定要素を減らす意味合いでも、彼らには退いてもらった方が丈瑠は戦いやすくなる。

「放っておけば意識のないあいつから殺される。急げ!」
「く……僕はクレス・アルベインだ! 君は!?」
「志葉丈瑠!」
「丈瑠……丈瑠か。わかった、ここは退く。彼を安全なところに移動させたらすぐに戻る。それまで持ち堪えてくれ!」

ぎりぎりと押し留めるのもそろそろ限界だと推し量った丈瑠を置いて、クレスはノヴァを担ぎ上げ退いていった。
足音が遠ざかる。妖魔となったクレアは獲物に逃げられたことに憤慨したか、さらなる力で丈瑠を押し攻める。
昂ぶる妖気が右腕のみならず左腕、右足、左足と巡り、人ならざる力を生み出していく。

「行ったか……さて、どうする……!?」

戦いやすくなったとは言え、生身の丈瑠と半覚醒状態のクレアとでは自力の差は歴然だ。
ノヴァからは何とか逃げ切る自信があったが、今のクレア相手では逃げても容易く追いつかれてしまうだろう。
威勢よくクレスらを逃がしたはいいが、実のところ打つ手などないに等しい。

「クレア、しっかりしろ! 俺の声が聞こえるか!」

それならば。
丈瑠に打つ手がないのならば、クレア自身に何とかさせるしかないだろう。
戻ると言ったクレアの眼差しを、瞳に込められた意思を信じるだけだ。

「お前は俺に、自分を信じてくれと言っただろう。俺はお前を信じて待っていた。ならばお前も、俺に答えろ!」
「ク、ウゥ……?」
「お前は何のために戦う? 答えろ、クレア!」

何のために――クレイモアの存在する意味はただ一つ。
人に仇なす妖魔を狩る、ただそれだけのため。

「人間を斬る訳にはいかない、お前はそう言ったな! なら人を守るために戦う存在、それが本当のお前じゃないのか!」
「――ぁ」

外道覆滅を掲げるシンケンジャーと、妖魔を狩るクレイモア。
魔を討つ者として両者はある意味では近い存在である。
本人ですら気付かないほどに小さな共感を、丈瑠はクレアに感じていた。
だからこそこうして言葉を紡ぐ。クレアとは共に戦えると、信頼できる仲間になれると、確信しているから。
誠刀の導きで自分を知った丈瑠は、同じく己を見失ったクレアを正すべく一振りの刀となる。
斬り捨てるべきは、クレアを取り巻く妖なる力。

「思い出せ、クレア! あるべき自分を……お前が望む、お前の姿を!」
「……わ、たし……は……っ!」

絶刀は無事でも、刀を支える丈瑠の腕が限界を迎える、その刹那の瞬間に。
ふ、と圧力が消失する。

「人間……だ……!」

瞳の色が、妖しき金から気高き銀へと戻っていく。
本能ではなく理性が身体を支配していると、はっきり見て取れる。暴走した妖力の制御を取り戻したのだ。
代償に力を出し尽くしていたか、膝をつく。

「……クレア」
「……丈瑠」

肥大した身体も徐々に収縮し、元に戻る。
完全な覚醒に到る前に、クレアは立ち直ることができたのだ。

「全く。手間をかけさせてくれたな」
「ああ……すま、ない」

動くことも億劫なため絶刀を間に置いてではあるが、自然と笑みがこぼれる。
丈瑠は身を起こし、クレアへと手を差し伸べた。

「だが、良かった。仲間を失わずに済んだからな」
「仲間? 私を仲間と呼んでくれるのか」
「そうだ。俺がそう決めた……不満か?」
「いや……悪くは、ないな」

庇護の対象ではなく、共に戦う仲間。それがクレイモアではなく人間だというのは皮肉な話ではあった。
が、言葉通り、クレアはそれが不快ではなく、むしろ心地良いものとして感じられた。
丈瑠の手を取ろうとし、いまだに変化の解けない右手を見て苦笑する。
すると丈瑠も笑い、それでも右手を引っ込めはしなかった。俺はお前を恐れはしないという意思表示だ。
言葉にしないが深く感謝の念を抱き、クレアは獣の右腕で丈瑠の手を取る。

否――取ろうとしたが、叶わなかった。

それは剣というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。
それはまさに鉄塊だった。

天空より舞い降りた剣が、丈瑠の身長よりもなお長く大きな剣が、クレアの右腕を地面に縫い付けていた。
クレアと自分とを隔てる壁の正体が、一瞬丈瑠は理解できなかった。
それを剣だ、と理解できたのは――剣を追うように空から舞い降りてきた男が、落下の勢いを利用して剣を抜き取り、旋回させてクレアを襲ったからだ。
迷いなくクレアを両断するであろうその剣の軌跡に、丈瑠の身体は意識するよりも先に動き割り込んだ。
引き抜いた絶刀を片手で握り、峰の部分をもう片方の腕で支え大剣を受け止める。
両腕の骨まで砕かれそうな衝撃。
本当に砕かれなかったのは、絶刀の頑強さと直前で丈瑠に気付いた剣の主――金髪の、ツンツン頭の男が力を緩めたからだ。

大剣をひとまず引いて、男はゆっくりと着地する。重力が作用しているのか怪しくなるほどにその速度は緩慢だ。
マントを翻した男は、だが丈瑠の予想に反してそれ以上の攻撃をしてこなかった。

「……どういうことだ?」

金髪の男はそう問いかけてくる。
聞きたいのはこっちだ、と丈瑠が吐き捨てる前に、

「そいつはお前を殺そうとしていたんだぞ。なのに何故庇う?」

そういうことかと得心した。
どうやら男は上空から丈瑠へと爪を生やした腕を伸ばすクレアを確認し、『丈瑠を救うべく』クレアを攻撃したらしい。
確かに今のクレアは一見すれば人よりは魔獣や外道に近い。
傍から見れば――刀を取り落とした丈瑠に止めを刺そうとしていた、と見えても不思議ではない。
理解はできても納得など到底無理な話だったが。

「違う! こいつは……クレアは、俺の仲間だ!」
「だが、そいつの腕は」
「クレアは人間だ。外道なんかじゃない!」

いくら危険に晒されたとは言え、自分の意思で攻撃を止めたクレアはやはり、丈瑠にとっては討滅すべき存在などではなかった。
丈瑠は蹲るクレアを背後に絶刀を構え、男と対峙する。
疲労の極みにあり、もう戦える状態ではないのはわかっていたが、断固として手出しはさせないという意思を視線に乗せて叩きつける。
男はどうしたものかとたじろいでいたが、

「丈瑠……いいんだ」

その丈瑠を静止したのは、庇われているクレア本人からだった。
振り向いた丈瑠を迎えたのは――砲弾のような、クレアの腕。
腹を殴られ突き飛ばされると、金髪の男に受け止められた。

「クレア!?」
「そいつは……間違っていない。私はもう……一線を、踏み越えて……しまったんだ」

顔を上げたクレアの――ぞっとするほど美しい、金色の瞳。
半ばまで斬り裂かれていた右腕が、煙を上げて治癒していく。凄まじい速度。もはや再生と言ってもいい。
クレアは血色を失くした顔に大粒の汗を浮かべている。消耗した身ではもう妖力を制御することができない。

「そいつが止めてくれなければ……私は、お前を殺していた、かも……しれない。だから……これで、いいんだ」
「クレア……だが、まだ何とかなるだろう? さっきみたいに力を抑えられれば!」
「……無理だ。もう、意識が……保てそうに、ない。だから丈瑠、頼みが……ある。聞いてほしい」
「な、何だ? 俺は何をすればいいんだ」

何かできることがあるなら何でも言ってくれ。
お前を助けられるなら何でもしてやる。
丈瑠はそう言おうとした。

「私を、殺してくれ」

だが、告げられた言葉はそんな丈瑠の決意を容易く粉砕した。
耳から入ってきた言葉を脳が理解するまで数秒、必要とした。

「な……何を言ってる。何故俺がお前を殺さなければならない!?」
「私は、妖魔には……なりたくない。人でいたいんだ……人のままで、死にたいんだ」
「……っ!」

クレイモアが妖力の解放に失敗し、妖魔の意識に支配されたとき。
そのクレイモアは、自らが希望するクレイモアに自分を殺してくれと願う。
剣の中に忍ばせてある黒の書と呼ばれる紙を渡し、介錯を頼むのだ。

「クレイモアでない、丈瑠に頼むのは……酷だと思う。だが……クレイモアである私を知っているのは……今は、丈瑠だけなんだ」
「そんなこと……!」
「早く……もう、持たない……!」

瞳孔が開き、鋭い視線が丈瑠を睨め上げる。
懇願しているようでもあり、憎々しげに睨みつけているようでもあり――クレアの中で、人と妖魔の意識がせめぎ合っているのだと知れた。
そしてその均衡はもう長くは続かないことも。

「クレア……」
「……下がっていろ。俺がやろう」

丈瑠を押しのけ、黙って成り行きを見守っていた男が大剣を構えてクレアの前に進み出る。

「俺はクラウド、クラウド・ストライフだ。済まない、俺が余計な横槍を入れたせいだ」
「気に……するな。わからないんだ……あのとき止められなければ、私は本当に、丈瑠を襲っていたかも……しれない。だから……これで、いい」
「……責任は取る。恨んでくれて構わない」
「いいさ……丈瑠を、頼む」

二人の話を聞いている内、男――クラウドは自分の行いがこの事態を招いたのだと知った。
申し訳なく思う。後悔もする。だが、だからこそ、せめてクレアの最期の願いは自分が果たそうと思った。
仲間である丈瑠にやらせる訳には行かない。消えることのない傷になる――

「……俺が、やる」

剣を振り下ろす寸前、クラウドの肩を握り潰さんほどの力を込めて丈瑠が掴んだ。
その瞳には強い力があった。決して自棄になった訳ではなく、自ら選んでこうすると言う意思があった。

「いいのか?」
「ああ。クレア……俺が、介錯を勤めさせてもらう。いいか?」
「ふ……」

クレアはただ微笑んだだけだ。
もう口を開くことすら困難――そしてこれ以上言葉を重ねる必要もない。
絶刀『鉋』を強く握り直す。クレアの剣。クレアを斬る剣。

「志葉丈瑠、これを」

クラウドが懐から何かを取り出し、丈瑠へ渡してきた。
それは一見すると変哲もない携帯電話。だがそうでないことは丈瑠自身が一番よく知っている。
ショドウフォン。
普通の人間が持てばただの携帯電話だが、モヂカラを有する者が用いれば違う意味を持つ道具。
不意に、笑い出したくなった。これがあればノヴァを速やかに取り押さえられて、クレアもこんな有様になることはなかったかもしれなかったのに、と。
傍から見れば泣き笑いのような顔だっただろう。丈瑠は混沌とする感情を抑え付け、ショドウフォンを筆モードに変形させた。

「一筆……奏上」

虚空に描く『火』の一文字。
火のモヂカラを現出させ、身に纏う――戦うための力、真紅のスーツ。
だが、かつてないほどに心が冷えている。『火』を司るシンケンジャーとは思えないほどに。
絶刀を握り締め、肩に担いだ。

「シンケンレッド――志葉丈瑠」

シンケンジャーの『殿』。
一度はその資格がないと自ら捨てた姿に、自らの意思で変身する。
しかし斬るのは外道ではない。
外道ではなく――人。人間のままで死にたいと願う、友だ。

「それが……丈瑠、お前の本当の……」
「そうだ。俺は戦う。そしてこの戦いを止めてみせる。必ず……必ずだ!」
「ああ……信じるよ。お前ならきっと……でき、る……」
「クレア……!」

絶刀をクレアの首に押し当てる。
視線が合う。これが最後と、どちらが言うまでもなく理解した。
やれ、とクレアが目で促す。
ギリ、と歯を食い縛る。
そして、

「これで……人のまま、死ねる。礼を言う、シンケンレッド。志葉……丈瑠」
「……あああああああああああぁぁぁっ!」

刀を――振り抜いた。
肉を裂き、骨を砕き、血を撒き散らし――クレアの首を両断した。

(礼を言う? 礼、礼だと……俺はお前を殺したんだぞ! なのに……!)

剣を振り抜いた体勢のまま、丈瑠は振り返らない。
背後で重たげな音が二つした。クレアの身体が倒れたのと――首が落ちてきたのだろう。
振り返って確認する気にはなれない。
この手で、人を――仲間を斬った。
望まれたから、人のまま死なせてやりたいと思ったから。
だが――

「ぐ……くっ、あ――うあああああああああああああああっ!」

心に突き刺さる痛みだけは、どうしても。
我慢することが出来なかった。



【クレア@CLAYMORE  死亡】


          ◆


落としていたニバンボシを回収し、ノヴァを風が安置されている民家へ移した後、クレスはすぐさま取って返すつもりだった。
だが、走り出そうとした足は急停止した。
寸前で、ノヴァが苦しげに呻いたからだ。
このまま一人にしておけば、もし誰か悪意を持つ者に襲われれば一溜まりもない。

「くっ……志葉丈瑠、それにクレア。まだ二人が戦っているかもしれないのに、僕は何をやっているんだ……!」

焦りばかりが先行し、どうにもままならない状況に翻弄されている。
落ち着け、まずすべきことは――と、クレスは必死に自己の安定に努めた。

「まず、このノヴァという人に事情を聞こう。クレアという人が本当に殺人者なのか、僕は何もわかってはいない……」

呼吸を落ち着けて、クレスはそう独り言ちた。
今の状況で二人と再会しても、クレスの側に情報が揃っていなければ何も切り出せはしない。
ならば当事者の一人でもあるノヴァから情報を得るが最善――そう、判断した。
死人が一人、怪我人が一人、そして自分。
相談する相手が誰もいない暗闇の中、クレスはじっとノヴァが起きるまで待ち続ける。
焦燥だけが加速していく。
クレスの掌は、じっとりと汗ばんでいた。だが、背筋が凍るほどに冷たい汗だった。



【G-2/市街/一日目/黎明】

【ノヴァ@ダイの大冒険】
【状態】疲労(中)、気絶
【装備】誠刀・銓@刀語
【道具】支給品、ランダムアイテム×1
【思考】基本:『勇者』として『悪』を倒す。
 1:……
【備考】
 ・この状況を魔王軍の仕業だと思っています。
 ・クレアの妖力を暗黒闘気だと思っています。

【クレス・アルベイン@テイルズオブファンタジア】
【状態】疲労(中)
【装備】ニバンボシ@テイルズオブヴェスペリア
【道具】支給品×2、 ランダムアイテム×2、バスタード・ソード@現実、
【思考】基本:仲間を募り、会場から脱出する……?
 1: ノヴァを介抱するか、それとも……?
 2:丈瑠ともう一度会って誤解を解きたい
【備考】
 ※参戦時期は本編終了後です


          ◆


「十蔵が、俺を?」
「ああ。あんたを連れて来るように頼まれた」

戦地から離れ、街の外の平原。
目に付いた木の根元に穴を掘り、クレアを埋葬した後、丈瑠はようやくクラウドとゆっくり話す機会を得た。
クレアの荷物及びノヴァが放ったミニチュアサイズの剣も回収し終え、傷の手当も済んでいる。
沈んだ面持ちの丈瑠の手の中には、クレアの首に巻かれていた首輪があった。
その金属の冷たさが、否応なくクレアを斬ったときの記憶を脳裏に刻み付けてくれる。

「日の出まで待っていると言っていた。もう時間はあまりないんだが、どうする」
「……行こう。あいつを野放しにはしておけない」
「いいのか? 俺が言うのも何だが、あいつはお前と戦いたがっているぞ」
「ああ。いずれ決着を着けなければならないとは思っていた。いい機会だ」

そう言う丈瑠の瞳は、クラウドが思わず心配になるほどに思い詰めているようにも見えた。
丈瑠としても、クレアを斬ることになった間接的な原因であるクラウドと共に行動するのは忸怩たる思いはある。
だがノヴァと違いその行動に悪意や含むところがあった訳でもないということもまた、はっきりとわかっている。
だからこそ――鬱屈した感情をぶつける訳にもいかず、半ば八つ当たりのような形で敵を求めているのかもしれない。
冷静に自己の内面を分析している自分に気付き、丈瑠は深く息を吐いた。

「……行くぞ。急がなければあいつを逃がしてしまう。これ以上無用な犠牲を出す訳にはいかない」
「あ、ああ」

クラウドを待つことなく、丈瑠は早足で北へ向かって歩いていく。
その胸中からクレスを待つ、という選択肢は消えていた。
ノヴァ、クレス、クラウド――誰もが余計なことをして、起こるはずのない事態を招いた。
共にクレアの最期に立ち会ったクラウドはともかく、ノヴァやクレスに会えば自分でもどうしてしまうか本当にわからないのだ。
今はただ、どうしようもなく胸に燻ぶるこの熱を、思うさま解き放ってしまいたい――

クレアの形見である絶刀『鉋』を強く握り締め、丈瑠は宙を睨み迷いなく進んでいく。
求めているのは、今この瞬間、一番目の前にいてほしいのは――

(人に仇なす外道を……いいや、敵を、斬る。ただそれだけだ。それだけでいい……)

外道ならば。
十蔵ならば。
迷うことなく叩き斬ることができる。

伝説の刀鍛冶である四季崎記紀が創生した完成形変体刀十二本が一本、絶刀『鉋』の毒は。
誠刀『銓』によって打ち直された志葉丈瑠という刀を。
仲間を斬ったという傷、罅に、その毒は音もなく忍び寄り、溶け込んでいって。
僅かではあるが、黒く、暗く――歪め、澱ませていた。


【G-4/平原/一日目/黎明】

【クラウド・ストライフ@ファイナルファンタジーⅦ】
【状態】健康
【装備】ドラゴンころし@ベルセルク
【道具】基本支給品、風のマント、ランダムアイテム(個数、詳細不明)
【思考】基本:殺し合いに乗る気はない。
 1:丈瑠を十蔵の元へ案内する。
 2:裏正の捜索。見つけたら十蔵に届ける。
【備考】
 ※原作終了後からの参加。

【志葉丈瑠@侍戦隊シンケンジャー】
【状態】疲労(中)、精神的に動揺
【装備】絶刀・鉋@刀語、ショドウフォン
【道具】レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはシリーズ(待機状態)、
    支給品、ランダムアイテム(個数内容ともに不明)、クレアのランダムアイテム×1
【思考】基本:争いを止めるため戦う。
 1:外道は倒す。だが殺し合いに乗った人間は……?
 2:十蔵と決着を着ける




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042:受け継ぐ者へ(前編) 丈瑠 :[[]]
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042:受け継ぐ者へ(前編) クレス :[[]]
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