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聖剣の少女騎士 ◆Mc3Jr5CTis



セシリー・キャンベルの住まう大陸には一匹の獣がいる。
かつて山々を叩き潰し、大地を割り、海を呑みほした史上最悪の人外ヴァルヴァニル。
悪行の限りを尽くしたその獣は一振りの『聖剣』によって封印されたという。

だが聖剣に磔にされ、身動き出来ぬようになった獣は人を憎み、人を互いに殺し合わせるためのシステムを生みだした。

『霊体』

ブレア火山に封印されたヴァルヴァニルが今も吐き出し続ける、その目に見えぬ粒子は、大陸に生を受けたヒトの心臓に干渉し、
そこに『死言』と呼ばれる呪いの文字を刻み込む。

本人のみに認識出来るその言葉を口にすれば、霊体は人間の肉を触媒にして、悪魔と呼ばれる強大な人外をこの世に顕現させる。
大陸の国々は、そのヒトには制御出来るはずもない力を使い、代理契約戦争と呼ばれる悲惨な戦いを起こしてしまった。
かの獣の思惑通りに。

その戦争から四十四年後。
人の肉ではなく、玉鋼を触媒に霊体を利用し、役立てる技術『祈祷契約』の普及で、大陸諸国は復興を遂げていた。
故にかつての聖剣による、ヴァルヴァニルの封印が解けようとしている今。
『霊体』を生みだす永久機関とも言えるヴァルヴァニルへのスタンスの違いから、大陸各国は再び激突しようとしていた。

都市が『神』と呼び、帝国が『王』と呼び、軍国が『獣』と呼び、群集列国が『機械機構』と呼ぶ『ヴァルヴァニル』
の利権をかけて。

唯一、獣を封じる事の出来る、新たなる聖剣も不在のままに。




「あの岩山が右手にあるという事は、町はこっちだな……」

『異世界』より召喚されたというゼロの使い魔――ヒラガ・サイトとの別れの後、セシリーは単身、北東の町へと向かう。
手分けをして反撃への糸口を掴むため、二人は別々に行動する事を決めたのだが、その前にサイトはその経歴から来る
知識と推論をセシリーに色々と教えてくれた。

首輪に仕込まれているであろう、盗聴と盗撮の機能。
未知の技術からなる、異世界の通信アイテム。
そして、二人の住む『世界』の相違について。

サイトの生まれ故郷だというカガクの進んだ国ニホン。
月が二つ浮かび、魔法の力が支配するというハルケギニア。
祈祷契約という技術が日常生活レベルにまで浸透した、セシリーが暮らす独立交易都市ハウスマンが存在する大陸。

サイトはハルケギニアの事をさほど知っているわけではなかったし、セシリーも自分の住む大陸の全貌を知らない。
大陸各国は『大陸法』によって徹底した情報秘匿がなされており、大陸がどのような形であるのかさえ、明確ではないのだ。
だが、月が二つあるという時点で大陸とハルケギニアがまったく別々の世界だというのは明白であるし、サイトの知る
地球にはセシリーのいうような技術はない。

その事をサイトは、参加者たちはそれぞれ別々の世界から召喚された剣士なのかもしれないと推測していた。
にわかには信じがたい話ではあったが、『けーたい』なる異世界の技術を目にしては信じないわけにもいかない。
サイトが異世界へと召喚されたように、ロワも別々の世界から腕の立つ剣士を数名選び、この会場へと召喚したのだろう。


自分などを選んだロワの真意は良く判らないが、それならば自分よりも数段腕の立つ、あの剣士たちもこの島へと喚ばれているのかもしれないと、セシリーは考える。
『聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス)』ルーク・エインズワースと、帝政列集国の戦士団長シーグフリード。
セシリーが所属する三番街自衛騎士団の団長にして大陸最強の男、ハンニバル・クエイサーも喚ばれていてもおかしくなかったが
最初に集まったあの場所に、あの目立つ禿頭の偉丈夫の姿はなかったように思える。
だからもし、この島に自分の知り合いがいるとしたら、この二人であろうとサイトには伝えておいた。

シーグフリード。破廉恥で卑劣漢。だが強くて、悪魔よりも危険な奴。
おそらく言われずとも殺し合いを始めるであろうあの男が、もしこの地にいるのであれば。
今度こそ自分が決着を付けなければならないだろう。
ルークにはこんな戦いよりも大切な、ヴァルヴァニル再封印の為の聖剣の鍛錬という役目があるのだから。

「ルーク……」

ぽつりと、男の名を呟くと暗い森の中を一人歩んでいたセシリーの歩調が緩む。
細い首に嵌められた冷やかなリングを、そっと指の先で撫でた。
サイトには自信ありげな態度を取ってみせたが、突然こんな所に連れて来られて殺し合いを強制されたのだ。
本音を言えば、怖くないはずがない。

あの一見ひ弱そうに見えたサイトとて、七万騎に一人立ち向かうほどの豪傑だという。
かつて帝政列集国との白兵戦に一人身を投じようとしたセシリーには、それが如何に勇気が必要な行為なのか、判る。
あの時も、自分はルークに助けて貰ったのだが……
そんな未熟な剣士に過ぎない自分よりも強い剣士など、この島にはごまんといるはずだ。
その上、サイトのような知識も何もない自分に、果たしてこの殺し合いを止める事など出来るのか。
シーグフリードともし出会ったら――折れずに、一人で立ち向かえるのか。

今にも崩れ落ちそうな、断崖絶壁の上を歩いているような心細さがセシリーを苛む。
ルークに会いたかった。
会って、大丈夫だと手を握って欲しかった。
あの不器用だが頼もしい声で、励まして欲しかった。
彼の事を考えるだけで甘やかな思慕の念が湧きだし、セシリーの弱さを優しく包み込んでくれる。だが――

「――しゃんとしろっ! セシリー・キャンベルッ!」

立ち止まり、セシリーは左右から両頬を叩いた。
バチンといい音が鳴り、痛みと共に気合が入る。


ルークに、励まして欲しいだと?
笑わせるな。こんな私を見せたらあいつは励ますどころか、笑い飛ばすに決まっている。
いや、もしかすると呆れさせてしまうかもしれないぞ。
もう、私を見てくれなくなるかもしれん。

「ああ……それは……いやだな」

忘れるな、私は誓ったのだ。
この目に映る全てを救うと。二度と自分の無力を嘆いたりしないと。
己の力量も弁えぬその傲慢な誓いを、しかし私は諦めてなどいない。
例え相棒(アリア)が隣にいなくても、それは今も変わらずにこの胸の中にある。
だから私は私のままで――この戦いを勝ち抜こう。
誰にも恥じる事のないように。ロワの言葉になど、踊らされる事もなく。

だからロワよ。見ているがいい。
お前が選んだ剣士が――いかに諦めが悪く、往生際の悪い女かを。
そして聞け。我が言葉を。

「私は断じてお前のいいなりになどならないっ!
 首を洗って――待っていろ!!」

剣を鞘から抜き放ち、天に向かって反逆の意思を高らかに吼える。
握りしめた右手の火傷がうずいた。
そうだ。この剣が斬らねばならぬものは、自分で決める。
例え一人では敵わなくても……志を共にする者たちを集め、必ずロワの元へと辿りついて見せる。


気合を入れ直したセシリーは、剣を抜いたまま森の切れ間、光が射し込む方へと歩きはじめる。
その脚はいつの間にか駆けるように弾み、あっという間に森を抜け、光の中へと躍り出た。

眩しい。
森の暗闇に慣れた目に、鮮烈な朝の光景が飛び込んだ。
いつの間にか白じんでいた空の色に、しばし目を細めてセシリーは順応する。

「夜は明けたか……」

水の香りを含んだ爽やかな風が、少女の鼻腔をくすぐる。
目の前には、大きな川と広い草原が広がっていた。

大きく息を吸い込むと、セシリーは手にした剣を目前にかざす。

  エ ク ス カ リ バ ー
約束された勝利の剣。

其は騎士の代名詞とも言える、かの高名な円卓の騎士王と共に在った究極の幻想。
あるいは別の次元にまでその名を轟かせる、この偉大な剣の由来をセシリーは知らない。

知らなかったが、一目見ただけで判った。
その剣の、尊さが。
まるで新たなる聖剣の誕生を待ち望む、大陸の人々の願いをそのまま形にしたようだとセシリーは思う。
ルークが鍛つ、刀と呼ばれる反りがある片刃の剣とは違う、両刃の直剣。
刃渡りは、セシリーの相棒であるレイピアの魔剣アリアとさして変わらないが、刺突専用のアリアとは違い
斬る事も可能な幅広の刃はそれなりに厚く、片手で扱うには少し重い。
ルークにこれを見せれば、きっと聖剣鍛造の大きな手助けとなるだろう。

手に持った剣を軽く上げ下げしていた少女は、ふとエクスカリバーを持った右手を前にして、左半身を後ろに引いてみる。
いつもの刺突の構え。
滑るように右脚で踏み込み、同時に右腕を捻りこみながら突き出した。
鋭く空を裂く剣の切っ先は、セシリーが仮想していた的よりもやや下を穿つ。
構わず、引き戻す。
砂埃をあげながら、セシリーの足が土を蹴り、目にも留まらぬ速度で連続して突きを繰り出す。
型に則った動きを繰り返し、その速度は段々とあがっていく。
セシリーの額を汗が伝い、肩の長さに切りそろえた赤髪が跳ねる。

セシリーは今、幻の敵と対峙していた。
その相手は、先ほど対決する事となったグリフィスという男である。
先の戦いでセシリーは武器破壊を狙っていたのだが、果たしてサイトの邪魔がなければ勝負の行方はどうなっていたのか。
狙い通り、自分はグリフィスの剣を破壊し、彼を取り押さえる事が出来ていたのだろうか。

グリフィス。
少し相対しただけではあるが、その性質はセシリーとは正反対の氷のように冷静な男だった。
唯一ガッツの事を語る口調にだけは熱が籠っていたが、その引き際の鮮やかさといい、戦いの最中に全体を見る目配りといい
戦局を見据えるその泰然自若とした戦術眼には敬服するものがあった。
ならば両者の扱う剣自体の格差など、当然気付いていただろうし、あるいは自分の狙いもわかっていたのかもしれない。
その上で、彼が反撃の策を用意していたとしたら?

考えろ。想定しろ。奴はあの後、どうするつもりだったのか。
例えばあの剣は囮で、反撃の為のサブウェポン……スティレットのような小さな武器を隠し持っていたとしたら?

――ならば……これでどうだ。
セシリーはしっかりと脇を締め、素早く、それでいて柔軟に姿勢を変えられるように身構える。

「エイッ!」

狙うは幻のグリフィスが持つ長剣。
セシリーが両手持ちで振り下ろした聖剣は、狙い通りグリフィスのロングソードを叩き折った。
そのセシリーの行動を読んでいたかのように、幻のグリフィスは小さな短剣を取りだすと、セシリーの胸当ての下
――鎧に覆われていない脇腹目掛けて切っ先を突き出す。
その暗殺者じみた一撃を――セシリーは素早く身を捻ってかわし、脇の下で挟み込む。
と、同時に聖剣の柄を、グリフィスの腹に叩きこんだ。

「よし、次だ!」


――あの剣が、実は魔剣だったとしたらどうする?
サイトが話していた魔剣デルフリンガー。
見た目は錆び付いたボロボロの剣であったが、さまざまな能力を秘めていたという。
外見だけでは剣の性能は判断出来ないという好例である。
セシリーも数多くの魔剣を見てきたし、彼女自身も風を操る魔剣アリアの遣い手だった。
魔剣の脅威は充分に判っていたのだが……敵の技量のみに気を取られ、剣の能力にはまるで無頓着だったと言わざるを得ない。

セシリーは、とりあえずグリフィスの剣が炎の魔剣であったと仮定して、新しい戦いのイメージを練り直す。
あのクロスレンジに入るまで、こちらに魔剣であると気付かせなかった時点で、放たれる炎の回避は既に不可能だ。
だがそれは、相手が魔剣の優位性――ロングレンジでこちらを寄せ付けずに圧倒するという戦法を放棄したという事でもある。
        、、、、、、、、、、
手を出せば、こちらの剣も届く距離。

ならば。
やる事は……やれる事は一つだけだ。
迫りくる幻の炎――かつて見た灼熱の炎風を思い出しながら、セシリーはそのイメージに立ち向かう。

荒れ狂う炎の魔剣。その炎は、セシリーの四肢をあっという間に消し炭のようにするだろう。
だから、それに怯む時間はない。
左の手甲で、顔を……眼を庇いながら、セシリーは草木を燃やしながら吹きつける炎の奔流の中に一歩踏み出す。
かざした左腕は一瞬にして焼き焦げる。
その痛みを明確にイメージしながら――それを堪えて繰り出す一刀は、炎をも断ち斬る渾身の一撃。
旋風のように横薙ぎに払った黄金の閃光が、セシリーのイメージの中のグリフィスの首を刎ねる。


想定したイメージ通りに剣を振り切ったセシリーは、背中にドッと冷や汗を掻く。
そこまでの状況になったら、もはや武器破壊だの気絶させるだのと手加減する事は出来ない。
、、、、、、、、、、、
今のセシリーの実力では、腕一本犠牲にして勝利を得るのが関の山。
ルークなら禍払いの力を持つという彼の刀を手足のように使って炎をいなし、敵を無力化させる事も出来るのかもしれないが、
セシリーにはそこまでの技量はない。
殺し合いに乗った者を止めなければいけないのだから、命を奪う事になるかもしれないのは当然の事だ。
だからそうなった所で、誰にも恥じる必要はないのだが……それでもセシリーはそれしか選べない自分の実力が悔しかった。

――私は、強くなるぞ。サイトよりも……ルークよりも!!

胸の中で、強く思う。

『全てを救う』

聞けば、誰もが笑うであろう荒唐無稽な理想を目指して、セシリーは地道な稽古を繰り返す。
何度でも、何度でも納得がいくまで反復する。
想定出来るだけの状況をイメージし、それに対処すべく汗を流す。
一歩一歩、積み重ねた強さが、胸の中の理想を叶えると信じて。




一通り剣を振ってみて、エクスカリバーの重みにもだいぶ慣れた。
全身にびっしょりと汗を掻いた少女は、稽古の成果に満足いったのか、ようやく動きを止める。

「……サイトが止めてくれて、命拾いをしたのかもしれないな」

敵にどんな策があったのかは、実際の所はわからない。何もなかったのかもしれない。だが、
『俯瞰に徹し、全体を見る』
かつて、ルークに教えられた言葉が脳裏を過る。
それさえ出来れば、相手の二手三手先も見えてくると言われていたのに、あの時のセシリーは横槍を入れてきたサイトにも、
木陰でこちらを見ていた異装の少女にも気付かないほど、何も見えていなかった。
自覚はしていなかったが、この事態に動揺していたのかもしれない。
そんな風に、今反省出来るのも生き延びる事が出来たおかげだ。
サイトと合流出来たら、改めて礼を言っておこうとセシリーは思う。

「さて、タオルは……あ、ああっ!!」

汗を拭く為のタオルを探して、デイパックの中に手を突っ込んだ少女は突如として悲鳴をあげた。
デイパックの中には――タオルなんて入っていない事を思い出したのだ。
サイトとの情報交換の時に、持ち物を確かめていたはずだったのに……
毎朝の習慣からか、つい稽古に身を入れ過ぎてしまったセシリーのミスだった。
これは動揺していたとかいう訳ではなく、単にセシリーがうっかり者だというだけの話なのだが。

「どうしよう……」

少女は形のいい顎に手を当て、自分のいでたちを鎧の上からチェックする。
母親譲りの豊かなボディラインに、ぴったりと張り付く黒いアンダーウェア。
水をぶちまけたように、大量の汗を吸いこんだ生地の感触がキモチワルイ。
そして臭い。

すぐ近くには大きな川もあるが、こんな見晴らしのいい場所で沐浴をするほど、セシリーは女を捨ててはいない。
ならば――

「よし、訓練を兼ねて町まで駆け足だ!」

遠くに見える建物を目指して、セシリーは走りだす。
紅潮する頬を、誤魔化すように。


【E-6/川に近い草原/一日目/黎明】

【セシリー・キャンベル@聖剣の刀鍛冶】
【状態】健康、疲労(小)
【装備】エクスカリバー@Fate/stay night
【道具】支給品一式 、赤の携帯電話
【思考】基本:殺し合いをとめる。その為にもっと強くなる。
1:北東の町へ向かう
2:首輪の解除方法、脱出方法を探す。
3:出会った仲間には盗撮、盗聴の危険性を伝える。
4:グリフィスと決着をつける。
5:エクスカリバーをルークに見せたい。

※携帯電話について才人から教わりました。通話、メールはできます。
 カメラ、ムービー撮影まで教わったのかは不明。



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