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流れの行方は◆Mc3Jr5CTis



空の闇を、そのまま吸い込んだかのように黒々と染まった水面に、月の光を反射した僅かな煌めきが跳ねる。
島の中央を二つに分かつ巨大な大河の勢いはさほどに激しいものではなかったが、その深く穿たれた水路を流れる
たっぷりとした大量の水の力は、ヒト一人を押し流すのに充分過ぎる力強さに満ちていた。

その黒い潮流の中を、どんぶらこ、どんぶらこと、二つの大きな桃の実が流れる。
否。
力強い水流に揉みしだかれて、時に形を歪ませながらも決して張りを失わぬその弾力性は、果肉のそれではあり得なかった。
透き通るような瑞々しい白色の薄皮を、僅かに赤く染めて。
意思を持たぬ果実のように、水流に翻弄されるそれは、先の戦いに敗れた時空管理局機動六課「ライトニング分隊」の副隊長
にしてヴォルケンリッターが烈火の将、シグナムその人であった。

剣聖が行使した防具破壊の剣技を受け、胸部装甲の下にあった機動六課の制服もまたその余波で激しい損傷を受けていた。
しなやかに絞り込まれた腹筋を、女性らしく柔らかな脂肪でうっすらと包んだ腹部から、常ならばきっちりとした
スーツの中に包み隠した豊かな双の膨らみまでもが、無防備に、すっかりと露わになってしまっていたのだ。

気を失って、獅子の如き雄々しい輝きを宿していた瞳が伏せられているせいか、まるでこの誇り高き女騎士らしくもない
弱弱しい印象を受ける姿であった。
もしこのような姿を彼女を慕う者が見れば悲憤慷慨し、またシグナムもそんな自分を見られた事を深く恥じ入るであろうが、
幸いにも辺りには闇夜の川を注視する者などいない。

いや、不幸にも――であろうか。

後頭部で括られた桃色の長髪や、機動六課の制服はすっかり水を吸い込んで重くなり、何よりもシグナムが気絶しても
握って離さぬ剣――凶悪なフォルムの鞘と共に在るそれが、シグナムの肉体が持つ浮力を上回りつつあるのだから。

ぽちゃりと、片側の桃が水中に沈む。
そのままなし崩し的に――剣の重みにひっぱられてシグナムの身体は水中へと沈んでいき、やがて最後まで抵抗していた
片割れの先端までもが水中へと没した。
そして、そのまま再び浮き上がる事もなく――女騎士の姿は、大河の水底へと消えていった……




そして幾許かの時が過ぎ……闇と静寂だけがたゆたう大河のほとりに、突如として煌々と輝く流星が走る。
瞬間、周囲を明るく照らしたその異変の正体は、紫炎の魔力に全身を包みこんだシグナムの姿であった。
水底まで没した女騎士は危うい所でその意識を取り戻し、飛行魔法によって水中より脱したのである。

「ゲホッ、ゲホォッ……クッ……不覚……」

うずくまり、飲み込んでしまった水を吐き出しながら、シグナムは唸る。
為す術もなく一方的な展開となってしまった先の闘い……不意打ちで先手を取られた事もあったが何よりの原因は
自らのマインドセット――この殺し合いへの心構えにあった。
まさかあのような怪しげな女の甘言に乗り、問答無用で襲い掛かってくる者がいようとは想定すらしていなかった
シグナムは、殺し合いに乗った者に対し、どう対応すれば良いか瞬時の判断に迷ってしまったのだ。
それが常に後手を取る結果へと繋がってしまった。

甘すぎた……としか言いようがない。
考えてみれば、数年前のシグナムとてあのように我武者羅であった。
主はやての為――騎士の誇りすらなげうってまで叶えたい願いがあったあの頃であれば、自分もまたあのような
理不尽で、問答無用の闘いを誰かに仕掛けていただろう。

そんな己の全てをなげうってまで叶えたい願いを持つ相手を止めるには、こちらもまた悪魔と罵られようが決意を
貫くだけの覚悟が必要であったのだ。
そう、あの全てを受け止めてくれた心優しき金とさくら色の朋友たちのように。

シグナムは今更ながらに、かの少女たちの『強さ』を思い知る。
彼女たちに救われた者として、そして今は同じ組織に属する者として、自分はこの間違いを正さねばならない。
――それが例え、誰かの願い(ユメ)を撃ち砕く事へと繋がろうとも。
だが、なんの願いも持たぬ今の自分にそれが出来るのか――いや、やるのだ。
即席の決意を胸にシグナムが強く目を瞑ると、衣服として使い物にならなくなっていた、びしょぬれの制服が弾け飛ぶ。
そして一糸まとわぬ姿となったシグナムが新たに纏うは、主自らデザインしてくれた白と赤紫の騎士甲冑。
再び燃え盛るような炎を宿した瞳を見開くと、ここに勇壮なる古代ベルカの騎士が蘇った。

「鎧化ッ!!」

更に、鎧の魔剣を解放し、騎士甲冑の上に纏う。

「はあっ!」

気合一閃。
魔剣を横薙ぎに払い、完全武装を済ませたシグナムはその場に身構える。
なぜならば。

「あら、さっきの女かと思ったけど……。はろー、おっぱいまるだしさん……って、なぁに? その剣……
 面白いもの持ってるのね……」

迸る悪意を隠そうともしない、一人の制服姿の少女がやってきたのだ。
シグナムと同じように、流れるような黒髪を飾り気のない紐で結わえたその少女は、抜き身の刀を肩に担ぎあげ
細めた眼で烈火の将を睨みつけていた。
闇の中でも一際目立つ、輝くような口元の紅に、シグナムは不吉な予感を受ける。

「……こちらは機動六課シグ――」

名乗りをあげ、相手のスタンスを訪ねようとしたシグナムであったが、その必要はなかった。
少女は己のスタンスを如実に告げる。
その、振りかぶった刀で。

鋼の噛み合う音が、耳障りな音を響かせる。
上段から打ち込まれた苛烈な一刀を、シグナムが手にした魔剣で捌くと黒髪の少女――諫山黄泉はそのまま
続けざまに刀を打ち込んで来る。
剃刀のような鋭い斬撃は、シグナムがその身に纏った鎧をも切り刻む。
科学が伝説となった世界――トゥバン・サノオらが生きる時代に、数振りだけ残された伝説のニホントウの切れ味は
凄まじいものであった。

「あはっ!」
「く、やはり、お前も乗っているのか……答えろ! お前はなんのために戦う!?」

素早いステップで己の優位な間合いを保ちながら剣戟を交える黄泉に、シグナムは尋ねる。
時間稼ぎ……という側面が含まれていないわけではなかったが、シグナムは真実知りたかったのだ。
少女の戦う理由を。
もしかすれば、その理由如何によっては戦わずに済む方法もあり得るのではないかと。

「なんのため……私は……なんのために……そう、神楽のため……神楽が憎いから……ううん、愛おしいから、私は……」

だが、その問いは思わぬ変化を黄泉にもたらした。
何かにたじろいだように後退ると、黄泉は背後にあった木の幹に寄りかかる。
虚ろな瞳を手で覆い隠した瞬間、その額に赤く輝く宝石のような石が浮き出した。

「あ、ああああああああああっ!!」
「そ、それは……ロストロギアか!?」

かつて存在し、そして失われた古代の魔法技術の遺産。
それがロストロギアである。
場合によっては世界を滅ぼしかねないその遺産の管理、封印もまた管理局の仕事の一つ。
時に持ち主の意思をもねじ曲げ、意図せぬ悲劇を呼びこんでしまう事例を多く見てきたシグナムは
少女とロストロギアの関係をそれとなく察する。

「おい、気をしっかり持て!」
「――うるさいっ! 私に……近付くなっ!!」

闇の中を薄暗く照らす、赤い光。
その光に導かれるように、黄泉の乱舞は更に勢いを増す。
魔力と体力、双方を消耗していたシグナムは段々その攻撃を捌き切れなくなり、ところどころにダメージを負ってしまう。

(クッ、このままでは――押し切られるかっ!)

速度面での自分の不利を自覚したシグナムは、身に纏った鎧をパージし、鞘へと戻す。
まともに受ければ身を切断されるであろう攻撃を鎧は防いではくれるものの、その重みで敵の動きについていけないのでは
本末転倒だ。
守りに身を固めたまま活路を見出す術もあったが、勇猛果敢な闘将はそれを良しとはしなかった。

剣と鞘の二刀を振りかざし、シグナムは猛然と駆けだす。
時に飛行魔法を使い、常識ではあり得ない挙動でフェイントをかける。
白刃に身を晒し、互いに刀身の届く僅かな空間をせめぎ合う。
無茶な動きに筋肉が軋む。
アクセルべた踏みで挑む剣舞の応酬に、空気は荒れ狂い、血風が飛ぶ。

頬を掠めた一閃で、顔を真紅に染めながら烈火の将はその口元に獰猛な笑みを浮かべる。
限界寸前まで回転するリンカーコアのうねりに、シグナムは心地良さすら感じていた。
こうして戦いに身を置く事で、自己の存在理由……それがやはり闘争にあるのだと実感出来る。
そう、あれこれ思い悩む必要などなかったのだ。
この身は今も昔も変わらず、主の願いを叶える為の戦闘用プログラムなれば――
剣を振るう理由は、主の尊い願いを叶えるためにこそあった。
ならば自分はどこまででも闘える。
再び胸を張って主に再会出来るその時まで。

「フンッ!」

シグナムの体当たりじみた剛剣が、黄泉の身体を弾き飛ばす。
ベルカ式魔法最大の特徴であるカートリッジシステムが使えない今、爆発的な魔力の燃焼を必要とする彼女の
必殺剣を使うには、シグナム自身に大きな負担がかかる。
使えばしばらくは回復出来ないほど魔力を消耗するだろう。
だが、余力を残したとしても、やられてしまっては話にもならない。
一戦、一戦に全力を尽くしてこそ、次に繋がる物が生まれるのだ。
そして何よりも――必殺剣を封じたまま勝てるほど、この地に呼ばれし剣士どもは甘くはない。
シグナムは先の闘いから、その事を学んでいた。

「いくぞっ! 受けてみよ、我が必殺の剣をっ!!」

シグナムの持つ魔剣が一瞬にして節分かれし、黄泉を目掛けて伸びてゆく。

「――ッ!?」

戸惑う黄泉の周りを、たちまちの内に取り囲む蛇腹の剣。
連結刃の結界を為す鋼線を伝うは、炎熱の魔力。
天を焦がすほどの焔を纏い、今、シグナムの必殺剣が発動する。

「紫電一閃ッ!!」

手元で僅かに手首を捻り、鞭状に変化した剣を操る。
伸びに伸びた刃によって、周囲を十重二十重に取り囲まれた黄泉に逃げ場はない。
収束する焔の一撃が、黄泉の身体を貫こうとしたその瞬間。
シグナムは見た。
燃え盛る焔の刃を跳ね退けながら、こちらに突進してくる黄泉の姿を。

「何っ!?」

既に刃の包囲網は完成している。
剣一本でそれを突破出来るほど、シグナムの必殺剣は甘くはない。
だが――それでも事実として黄泉はその包囲網を抜けだそうと駆けて来る。
その身に触れる刃を、不可視の燐光で弾きながら。

(バリアジャケットの類か!?)

敵もまた魔法を使う魔法剣士であったか。
それは敵の手の内を深く知るまで、必殺剣の発動を待てなかったシグナムの失策だった。
なまなかなバリアジャケットで防げる剣ではないと自負していたが、今もまだ黄泉の額に輝く赤い石は
強大な魔力の波動を発している。
その魔力を防御に回しているのであれば……あれを突破するほどの防御力を得てもおかしくはない。

シグナムはグッと唇を噛み、更に剣に魔力を籠めるが……突破されるのも時間の問題だろう。
シュランゲフォルム……鞭のように変化した剣は、敵の間合い外から一方的な攻撃が出来るという超攻性の特質を持っているが、
反面、懐に入られた時の対応が難しい。
伸ばしに伸ばした剣を戻すには時間がかかるし、制御しているその間はこちらも動けないのだ。

「はああああっ!!」

遂に刃の渦を突破した黄泉が、炎を突き破ってその姿を見せる。
構える剣は中段に。
揺るがぬ姿勢でまっすぐに、シグナムの心臓に狙いを定めて疾駆する。

対するシグナムは蛇腹剣を元に戻そうと――しなかった。
剣を捨て、左に持つ鞘で迎撃の姿勢を見せる。
だが、あれだけのスピードで繰り出される突きを鞘だけで捌けるのか。
斬撃に比べ、突きは受けるのが難しい。
横から力を加えようが、突きの勢いが勝れば僅かに軌道が逸れるだけだ。

そんな事は百も承知で、シグナムは弓を引くかのように鞘を構える。
そして黄泉の突きとタイミングを合わせるように――シグナムもまた、鞘を突き出す。

鞘の内を刃が擦る。
耳障りな金属音を立てて――黄泉の突き出した刀は、シグナムの鞘の内に納まった。
シグナムは超絶的な集中力を持って、刀を納めるという鞘本来の使い方で敵の攻撃を防いだのだ。
言葉にすれば簡単だが、黄泉ほどの天才剣士を相手にそれを為しうる技量や如何ほどのものか。

それを認識する間もなく、黄泉の頬が衝撃に歪む。
カウンターで繰り出されたシグナムの鉄拳によって。
充分な魔力を練り込まれていた拳は、今度こそ黄泉の防御を貫いた。




気絶した黄泉の身体を、光り輝く三重のリングで拘束する。
場合によっては殺害も已む無しと思っていたが、なんとか生け捕りに出来た事にシグナムは安堵する。
額のロストロギアを封じる事はシグナムには出来ないが、この少女はまだギリギリで人間だ。
管理局まで連行出来れば――あるいはロストロギアの剥離・封印も可能かもしれない。

「ん? ……これは?」

黄泉の制服のポケットからこぼれ落ちたのか、一本の口紅が転がっていた。
それを拾うと、初めて鎧の魔剣を手に取った時のようにシグナムの脳裏にその口紅の効果、使い方が思い浮かぶ。

ティンカーリップ――魔法の口紅。
使用する事で、プロテス(防御力アップ)、シェル(魔法防御力アップ)、ヘイスト(素早さアップ)の効果がある――

「なるほど、こんな物を使っていたのか……支給品か。私にも何か支給されているはずだが……」

ロワが殺し合いを促進する為に支給したものだ。
ろくなものではあるまいが、それでも力は力。
扱う人間によっては、それを正しく使う事も可能のはずだ。

だが――僅かにデイパックを探るだけの行為が酷く億劫だった。
魔力を消耗しすぎたのだ。

シグナムはその場に膝を屈すると、木にその背を預ける。
騎士甲冑が溶けるようにほどけ、元の制服姿へと戻った。
穏やかな表情のまま、シグナムはいつのまにか泥沼のような眠りへと落ちていた。

森の木の葉がざわめく。
まるでシグナムの勝利を祝福するかのように、その身を優しい風が撫でていった。


【D-3/森の入口/一日目/黎明】

【シグナム@魔法少女リリカルなのはStrikers】
【状態】疲労(大)、魔力消費(極大)、ダメージ(小)、睡眠
【装備】鎧の魔剣@ダイの大冒険(自己修復中)
【道具】基本支給品、ファン・ガンマ・ビゼンのニホントウ@海皇記、ティンカーリップ@ファイナルファンタジータクティクス
    ランダムアイテム(個数、詳細不明)
【思考】基本:主の下に帰還する。
 1:皆を助けるという主の願いを身を持って実現する
【備考】
 ※鎧の魔剣の兜、胸当ては破壊されました。
 ※騎士甲冑はデバイスなしでも展開できますが魔力を消費します。

【諫山黄泉@喰霊-零-】
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)回復中、気絶、拘束中(手足を完全に拘束されています)
【装備】
【道具】支給品
【思考】 基本:神楽の為に他の参加者は皆殺し。
  1:出会った者は皆殺し。
  2:赤い髪の女(ミズー)はいつか殺す
[備考]
  ※参戦時期は三途川に殺生石を埋め込まれた後です。
  ※殺生石の妖力で身体能力が大幅に強化、軽症は時間経過で回復します。
  ※法術の類がどの程度使えるのか不明です(後の書き手氏にお任せします)
  ※ミズーと獅堂光の名前は知りません。




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