※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

英雄交差点 ◆WoLFzcfcE.



気がつけば刀を握っている。
何度目かわからない舌打ちをして、ロイド・アーヴィングは固く強張った指を一本ずつ開いていく。
赤く染め上げられた外套をまとい、鳶色の髪を逆立てた青年は一人夜の街を彷徨う。


殺し合いを打破する。彼はまずそう決めた。
ならば目指すべきはあのロワという女を打倒することだが、その途上で闘いを避けられないとは薄々感じていた。
先ほど刀を合わせた幽鬼のような男、宇練銀閣――ロイドはその名を知らなかったが――のように、殺人に忌避感を持たない人間がいるのだから。
そして殺し合いと言うのなら進んで剣を執ることのない穏健な人物ばかりを集めるはずもない。
相当数、銀閣のような人斬りがいると考えるべきだ。

運良くあの場は切り抜けられたものの、銀閣は相当の手練であったとロイドは感じていた。
世界を巡り腕を磨いてきたロイドでさえ紙一重の攻防だった。
剣士として彼らと腕を競ってみたいと言う欲はある。だがそれはあくまで尋常な試合の中でだ。
確たる理由もなく殺し合う、この状況に流されるままに剣を交え命を奪うなどと、従えるわけがない。

「三人寄れば文殊の知恵って言うしな。まずは仲間を探そう……今度は友好的な奴を」

殺し合いに乗り気でない者は必ずいるはずだとロイドは思う。まさかそういう人間が自分だけということはないだろう。
一人では妙案が浮かばなくとも、仲間が――かつて共に旅した仲間たちのような――いれば、何か活路を見出せるかもしれない。
できるだけ殺さず、犠牲を出さずにこの状況を収束させられる方法を。

「とは、言え……話してわかってくれる奴ばかりでもないだろうな」

仲間を探すにしても、無防備で接触するわけにはいかない。
銀閣のように有無を言わさず襲ってくるかもしれないし、あるいは状況に錯乱して剣を向けてくるかもしれない。
まずは自身の安全を確保することが優先――だが、そこで問題があった。

ロイドの腕はまたも柄を握り締めていた。
これが目下ロイドを悩ませる頭痛の種。どう言う訳か、無意識の内に刀を抜き放とうとしている自分がいる。
抜いてはいけないと直感した刀を抜いてしまったからだろうとロイドは推察していた。
かつて旅の中で蒐集した闇の装備品のような、ある種の魔剣、呪い刀だろうと。

精霊の加護すらも突き破るほどに強力な毒。

ロイドの精神を犯すそれは、我を解き放てとけしかけるように抜刀を促している。
行動を強制されるほどではない。しかし、いざ行動に移るか移らないかと言う境界線――それを揺らがせるには十分だった。

ロイドは静かに歩みを止める。
視線の先には銀髪に翡翠の瞳、男のロイドにさえ美しいと思わせる、そんな男が立っている。
腰におそらく対となる短刀を佩き、感情を感じさせない眼差しでロイドを見ていた。


さあ、ここからが正念場だ――ロイドは息を吸い込んだ。

「俺はロイド・アーヴィング。最初に言っておく、闘う気はあまりない」
「……あまり、とは?」
「やる気なら相手になるが、俺からは手を出さないってことだ」

意識して腕を開く。無意識にも刀を抜くことのないように。
だがそれでいて爪先に重心を移し、いつでも前後左右どこにでも身を投げ出せる体勢を取る。
銀髪の男はロイドのそういった僅かな動きをどう判断したか、腕を組んで品定めするように無遠慮な視線を向ける。

「ふむ……お前はどうやら話が通じる相手のようだな」
「と言うと、あんたも誰かに襲われたのか?」
「ああ。それも二人、恐ろしく凶暴な奴らにな」

肩を竦め、軽く言ってみせる男。ロイドは目を細める。
彼の言葉が本当なら、敵意を持った数で勝る相手をさしたる負傷もなしに切り抜けたと言うことだ。
ならば相当、腕が立つのだろう。

「俺はセフィロス。神羅カンパニー所属のソルジャー、クラスは1stだ」
「神羅カンパニー……ソルジャー? 何だそれ」

「……? ミッドガルに本拠を置く神羅電気動力株式会社、略称神羅カンパニー。ソルジャーはそこの私設軍の兵士だが」
「知らない。ミッドガルってのは街の名前か? シルヴァラントにもテセアラにもそんな街はなかったはずだけど、最近できた街なのか?」
「……ロイド、だったな。少し話を聞かせてもらおうか」

やや瞳を鋭くし、銀髪の男――セフィロスが背後の民家を示す。あの中で話の続きを、ということだろう。
セフィロスが踵を返し、ロイドも後に続く。
無造作に見えてセフィロスの足運びには隙がない。闘うとなれば苦戦は免れないだろう。

セフィロスの武器は二刀。だが短刀ゆえ刃渡りは短い。
ロイドは逆に一刀だが、こちらは長刀だ。

射程で勝り、手数で負ける。
だがロイドは本来二刀を操る剣士。ゆえに、どう攻めれば打ち崩せるかも手に取るように理解でき――


「――ッ!?」

視界の端に銀光が閃く。
ロイドはとっさに身を投げ出す。片手で地を突き、側転。
背後でガツッと音がした。

距離が開き、ゆっくりと立ち上がる。
セフィロスはすでに双刀を抜き、ロイドへと向き直っていた。

「……何のつもりだ? 最初から騙まし討ちでもする気だったのか」
「さて、それは俺が聞きたいな。お前こそ何を考えていたのか」

セフィロスが短刀を中空へと構える。その延長線上、ロイドの手の中に――既に抜き身である、毒刀・鍍がある。
が、それを見て驚いたのは誰でもないロイド自身だ。いつ抜刀したのか、まったく覚えがない。
転がったときに抜いたのか? いやそんな余裕はなかったと、即座に否定する。
まるでそこにあるのが自然で、とても当たり前のことであるかのように毒刀はロイドの手に馴染んでいた。

「背中を見せればどう動くかと思ったが。お前もやる気だったと言うことか」
「い、いや待て……どういうことだ? 俺が先に抜いたのか?」
「何を言うかと思えば……もういい。手足を斬り落として知っていることを全て吐かせてやる」
「待……ッ!」

セフィロスの姿が霞む。
神速で間合いに踏み込んできた銀色の影に危険を察知し、ロイドの身体は脳が命令を下す前に動く。
右から奔ってきた斬撃を身を沈ませてやり過ごし、左の追撃が放たれる前に返す刀でセフィロスの胴を薙ぎ払う――

「……くっ!」

寸前で、猛る右腕を左腕で必死に押し留める。
同時に地を蹴り、後方へ跳ぶ。が、一瞬速く繰り出されたセフィロスの左の刀に肩口を浅く切り裂かれた。
出血は浅い。皮一枚を斬られただけだ。
だがロイドはその傷に頓着せず、凍える瞳を向けてくるセフィロスへと声を張り上げた。

「待ってくれ! 本当に、俺が先に刀を抜いたのか?」
「さっきから何を言っている。命乞いをするならもう少しまともな言い訳を考えろ」
「……じゃあ、やっぱり……そういうことなのか」

ロイドにはセフィロスを害する意志はなかった。だが現実、先に抜刀したのはロイドなのだ。
セフィロスの言葉は言外に失望を物語っている。
最初からその気だったなら、回りくどい真似をせずにかかって来れば良かったのだ、と。


ロイドが握り締めるこの刀。
腕を這い上がってくるこの悪寒の正体は、やはり呪いだったのだろう。

そして今も。
毒刀はロイドの内で囁く。

奴を斬れ、殺せ。
奴は敵だ、躊躇うな。

と。

精霊の加護は完全に断たれた訳ではなく、その囁きを弱めてくれていた。護りと毒は相克している。
だが一たびロイドの注意が刀から離れれば、刀を持つ右腕は勝手に動き出すのだ。

刀を抑えることに集中すれば意志を乗っ取られることはない。
だがそれでは襲い掛かってくるセフィロスに対処できるはずもなく――

(やるしか……ないのか!?)

逡巡の時間もなく状況は動く。
刀を手放せばいいのではないか。そう考えたのだが、柄は掌に貼り付いたように放れない。
刀が拒否している。あるいは、刀に毒されたロイド自身が無意識に拒んでいるのか。

(自分の意志で闘うかどうかも決められない――これじゃ俺はただの人殺しだ!)

双刀がでロイドの身を切り裂かんと迫ってくる。
刃の軌跡を認識していながらも、動けない。
囁きがロイドを攻め立てる。内奥で毒と自らの精神とが互いを制圧しようと激しく荒れ狂っていた。

『敵』は、自分の中にいる。
ロイドは目を見開いた。

「俺、は――ッ!」

渾身の力で刀を振り抜く。
直後に腹部に灼熱の痛みを感じ、意識は闇に落ちていった。


            ◆



1stソルジャー・セフィロスは、新たに手に入れた刀を品定めする。
愛刀である正宗に比べればかなり短いが、それでも干将・莫揶の二刀よりは使いやすそうだ。

手に取った瞬間、何かが体内に侵入してきた感覚があった。
物理的な刺激ではない。実体のない、霞のように身にまとわりつく何か。
鞘を拾って収めるとその何かも収まる。

「なるほど、精神に何らかの幻惑作用をもたらす刀か。中にマテリアでも仕込んであるのか?」

倒れているロイドを見やる。
様子がおかしかったのはこの刀のせいか、と何とはなしに見当をつけた。
記憶障害でも起こしているかのような発言、放った攻撃を自ら止める行為。
どちらも刀の効力に翻弄され、抗っていたのだと考えれば説明はつく。

では今現在毒刀を手にするセフィロスはどうか。
毒刀・鍍を手にしても、セフィロスの強靭な精神は小揺るぎもしていなかった。
それはセフィロス自身の意志力だけでなく、体内のジェノバ細胞が異物の進入を拒んだためでもあったが。

「フン……刀ごときに振り回されるとは、未熟な奴だ」

鼻を鳴らし、壁に刺さったままのレイピアを回収する。
ロイドに先手を打てたのは半ば偶然だった。
僅かな刃鳴りの音を、最強のソルジャーであるセフィロスは聞き逃さなかっただけ。
レイピアの投擲が一瞬でも遅れれば背中に一太刀もらっていたかもしれない。
腕だけに限定すれば、セフィロスはロイドへかなり高めの評価をつけていた。

ロイドの荷物を回収し、東の空へ顔を向けると僅かな曙光が射していた。
もうすぐ夜が明ける。
街を出るか、それとももうしばらく留まるか。
最初に仕掛けてきた女や黒い剣士のことを考えると、あまり長居するのは危険ではある。


「まあ……どうするかは、こいつが起きてから考えるか」

二つのデイバッグを左肩に、右肩にはもう一つの荷物を担ぐ。
腰から引っぺがしたベルトで後ろ手に腕を縛り、無力化したロイド・アーヴィングを。


ロイドは激突の瞬間、自ら刀を手放すことは不可能と判断しある賭けに出た。
自分でできないのならば他人にやらせればいい。すなわち、セフィロスに刀を弾き飛ばさせることだ。
ほぼ同時に迫ってきた短刀の片方を全力で弾き、体勢が崩れた状態でもう片方の刃を迎え撃つ。
反射的にセフィロスは刀を絡め、跳ね上げていた。ロイドの狙いにまんまと乗ってしまったことになる。

刀を手放したときのロイドの表情は安堵そのものだった。
運が悪ければそのままセフィロスの刃に切り裂かれ絶命していたかもしれないのに、だ。

そうと気付いたとき、セフィロスは手首を返し干将・莫揶の柄頭でロイドの腹部を打った。
あのままロイドを殺すのは、何となく――負けのような気がしたからだ。

ロイドを生かしたまま連れ歩くのは面倒ではあるが、さほどデメリットはなかった。
最初に言ったとおりセフィロス自身積極的に殺し合いに乗る気はなく、情報は欲しい。
問答無用で襲い掛かってきた女や黒い剣士と比べれば御しやすい相手であり、会話も通じる。
刀を取り上げてまだその効果があるかはわからないが、どちらにせよ無手の相手を恐れる必要もない。
いざとなれば盾にもできるし、好戦的ではない者と遭遇したときセフィロスのスタンスを証明する道具にもなる。
何より、ロイドが刀の支配から逃れることができれば――まあ、共に闘うこともできるかもしれない。

刀に抗うロイドの姿には、少なくとも闘う意志があった。
敵と、ではなく自分とだ。
そして彼は何とかその闘いに勝利を得て、結果的にセフィロスの『殺る気』を削いだ。
敵と断定するには早計。セフィロスにそう思わせたロイドの粘り勝ちだったのだ。

最強のソルジャー、英雄セフィロスはたとえ自らに及ばずとも共に闘う意志のある者を切り捨てない。

英雄は、英雄の目に適った。
彼らが次に言葉を交わすとき、そこに刃があるのかどうか――それはまだ、誰にもわからない。


【F-3/市街地/一日目/黎明】

【ロイド・アーヴィング@テイルズオブシンフォニア ラタトスクの騎士】
【状態】刀の『毒』に犯されている、気絶
【装備】なし
【道具】支給品一式
【思考】基本:殺し合いを打破する
 1:…………
【備考】
 ※『 ラタトスクの騎士』本編終了後より参戦
 ※毒刀の影響を受けていますが、刀を手放しても効果が持続するかは不明。


【セフィロス@ファイナルファンタジーⅦ】
【状態】健康
【装備】毒刀『鍍』@刀語、干将・莫揶@Fate/stay night
【道具】支給品、折れたレイピア
【思考】基本:専守防衛
 1:生き残る。
 2:ロイドが目覚めたら話をする。刀の影響が残っているなら……。
【備考】

 ※ソルジャー時代からの参加。
 ※今のところ毒刀の影響を受けていません。




BACK NEXT
033:隼の邂逅 投下順 035:流れの行方は
033:隼の邂逅 時系列順 035:流れの行方は

BACK 登場キャラ NEXT
004:漂う匂いを追いかけて セフィロス 045:仲間
013:夜に乱雲花々乱れ ロイド 045:仲間