その日、バッツ・クラウザーは草原を駆けていた。
相棒のチョコボ、ボコが大地を蹴るたびにぐんと加速し、全身に心地よい風を感じる。
戦いの日々が終わってしばらく経つ。
しかし長く旅の中で育ってきたバッツにとって平和な村の暮らしはいささか退屈であり。
きっかけなど何もなく、風の如く自由な男バッツは再び旅立つことを決めた。
故郷リックスの村を出発し、まずは二人の仲間がいるはずのタイクーン城へ。
レナとファリスに会うのは久しぶりだ。
いっそのこと二人も誘ってクルルに会いに行こう――そんなことを考えていたら、突然視界が揺れた。
ボコが何かに躓いたのか、なんて思う間も一瞬。
バッツの意識は一瞬で闇に落ちた。
そして今、目覚めたバッツの前に広がるのはどこまでも続く大草原ではなく、陽光射さぬ暗い大ホールだった。
慌てて目をこするも、眼前の光景は夢のように泡と消えることはない。
「ファファファ。久しぶりだな、バッツ・クラウザー。クリスタルの光に導かれし戦士よ」
「その声は……まさか、エクスデスか!?」
カッ、と闇に光が投げ込まれる。
その中心に立つのはバッツと因縁深き暗黒魔道士、エクスデス。
かつてバッツをはじめとする光の四戦士によって討ち滅ぼされたはずの。
「な、なんでお前が!? お前はあのとき無の力といっしょに消えたはず……!」
「ファファファ! 夢とは砕け散るもの……平和というつかの間の夢は楽しかったか?」
狼狽するバッツとは対照的に、エクスデスは悠然と光の下を進み出でて来る。
その姿はバッツの記憶にある最後の姿――大樹、そして無の獣――では、ない。
魔道士とは思えないほどに逞しい巨体を白い鎧に押し込めた、最初に出会ったころのカタチ。
「たしかに私はお前たちに一度滅ぼされた。だが、私を完全に滅することができるのは無の力のみ!
少々時間はかかってしまったが、私はついに無の力をすべて解明した! そして無の力をもって甦ったのだ!」
最後の戦いのとき、エクスデスは無の力に呑み込まれ外見のみならず記憶や人格までも変質し、無そのものとなっていた。
だが今のエクスデスは違う。その瞳には確固たる意志の輝きがあった。
「だったら、もう一度倒すだけだ!」
「おっと、大人しくしていてもらおうか! 貴様以外にも挨拶せねばならない者は大勢いるのでな」
バッツが腰の剣に手を伸ばす――が、空を切った。
彼は気づいていなかったが、愛剣はすでにエクスデスによって没収されていたのだ。
満足げにその様子を見ていたエクスデスが手を一振りすると、大ホールの照明が点火した。
夜から朝へ、闇から光へ。
急激な視界の変化に目を押さえながら慌てて周りを見回すと、気づかなかったがあちこちに人がいた。
(ここにいるのは俺とエクスデスだけじゃない?)
反射的に仲間の姿を捜し求めたが、レナやファリス、クルルの姿はなかった。
バッツはほっと息をついた。
「おい、貴様! これは一体どういうことだ!」
そのバッツの代わりにエクスデスに食ってかかったのは、青い髪を逆立てた15歳ほどの少年だった。
エクスデスを睨みつける瞳が示すのはこの異常な状況への戸惑いと怒りだ。
バッツと同じく武器を奪われたのだろうが、彼は怯むことなくエクスデスへと足を進めていく。
「どうやって僕をこんなところに連れてきたかは知らないが、ただで済むと思ってはいないだろうな!?」
「待ってよノヴァ! 迂闊に近づいちゃ危ない!」
「ダイか? ふん、君もいるとはな。ちょうどいい、そこで見ているがいい! この『北の勇者』の実力をな!」
ノヴァと呼ばれた少年は、呼びかけてきた少年――ダイというらしい――に構うことなく、エクスデスの真正面に立った。
「ふむ、自ら名乗り出てきてくれるとは。説明する手間が省けるな。ちょうどいい……」
「何をゴチャゴチャと――くらえ! マヒャド!」
魔法力が高まる。一流の魔道士でもあるバッツの目にはそれが氷属性の、それも相当強力な魔法であると知れた。
ノヴァが掲げた右手から氷塊が生まれ、エクスデスへと殺到する――が。
「な、何ッ!?」
氷の大河はエクスデスへと到達する前に次から次へと溶解していく。
かろうじて目標へと辿り着いた氷の刃はしかし、暗黒魔道士が何気なく振った杖に砕かれた。
「ま、魔法が弱まっている……? くそっ、だったらこいつだ!」
「馬鹿、止せッ!」
なおもノヴァは諦めることなくエクスデスへと挑む気らしい。察したバッツが止めようと走る。
だが遅い――バッツの視線の先、ノヴァの向こうのエクスデスの貌ははっきりと笑みの形を刻んでいた。
「武器を奪おうと関係ない! 闘気を剣にする僕のこの力なら……!」
ノヴァの何も握らない手に輝きが集う。
光は剣の形に伸びていき、神々しささえ漂わせる。
(魔法剣……違う! チャクラを剣にしたのか!)
バッツの知るどのジョブにもその技はない。強いて言うなら体内の気を活性化させるモンクのアビリティ、チャクラが近い。
だが体内に気を巡らせるのと、体外に形を固定するのとでは技の難度は段違いだ。少なくとも今のバッツにそんな芸当は出来ない。
驚愕するバッツをよそに、ノヴァは跳躍した。
「ノーザン・グラン・ブレードッ! くらえェェ――――ッ!」
天より降り注ぐ極十字の闘気剣。
一瞬の閃光のようにノヴァの闘気が膨れ上がり、飛竜すら両断できそうなほどの巨大な刃となる。
両手持ちのフレア剣にすら匹敵するかと思わせるほどの一撃が、エクスデスを強襲した。
「やったか!?」
思わず拳を握り締める。
歴戦の戦士バッツをして、今の一撃はそれほどに見事なものだった。
だが。
「……遅いな」
届かない。
どうしようもなく、エクスデスには届かない。
パチン、と指を弾く一刹那。
ノヴァの全霊を振り絞った闘気剣がエクスデスを断ち斬るより先に、その軽い音が鳴り響いた。
そしてパンと何かが爆ぜる音が続く。
「ファファファ……!」
ノヴァの必殺技はエクスデスの真横の地面を深く貫いていた。
バッツの見立てどおりその威力は大したものだ。まるで地割れでも起きたかのような破壊痕。
しかし、ではそれほどの腕を持つノヴァがなぜ狙いを外したか――疑問に顔を上げたバッツの目に、すぐさま答えが飛び込んできた。
「ノヴァ――――――――ッ!!」
ダイという少年の悲痛な叫びが響き渡る。
『北の勇者』ノヴァの、幼さを残した顔が、首から上が、きれいになくなっていた。
代わりにそこにあるのは真紅の噴水。
ノヴァの頚部から噴出する血のシャワーが、エクスデスの白い鎧とノヴァ自身とを真っ赤に染める。
その光景は、ノヴァに続いて我もとエクスデスに詰め寄ろうとしていた者たちの足を止めるには十分だった。
「さて……この場で私に逆らうことの愚かしさはわかってもらえたと思う。
諸君、首元を見たまえ。それは特別製の首輪でな……私の意志一つで自由に起爆させられるという訳だ」
バッツだけでなくそこにいたすべての人間が己が首に手をやり絶句する。
冷たい金属質の首輪がそこにある。
まるで、そう、狗の首輪だ。
逆らうことを許さない絶対のくびき。人の尊厳を奪い奴隷へと貶めるもの。
「今から貴様らには殺し合いをしてもらう。
最後に生き残ったただ一人の勇者には望むものを与えよう……我が無の力は万能であるがゆえに!」
暗黒魔道士は大きく手を広げ、その腕にすべてを包み込むように叫ぶ。
「さあ行くがいい、兵どもよ! 貴様らのあがきを、特等席で見物するとしよう!!」
そして、指を立て切り裂くように振り抜く。
その瞬間、バッツだけでなくすべての人間の足元に次元の渦が発生し、その体を呑み込んでいく。
「これは……デジョンか!」
「安心したまえ、害はない。戦場へと移動してもらうだけだ。ただ殺し合わせるだけではつまらんのでな。
友と離れ、命を狙う敵を前にして貴様らはどうするのか。フフフ……ファファファ――――――!!」
転送魔法が、50数名の人間をそれぞれどこか違う場所へと転移させていく。
すでに腰まで沈んでいたバッツは脱出は不可能と判断し、最後にこれだけはと声の限りに叫んだ。
「エクスデス! 俺が必ずお前を止める!
お前が甦るのなら何度でも、何度でも――絶対にだッ!」
肩が沈み、声が出せなくなっても指を突きつける。
エクスデスの喉元へと必ず喰らいつく――その決意を込めて。
とぷっ、と水面に落ちたようにバッツ・クラウザーの姿が消える。
その叫びを受けたエクスデスは――
「……ならば戦い、最後の一人となるまで勝ち残るがいい、クリスタルの戦士よ。それならば私が相手になろう。
だがな。この場に集った剣者たちは、たとえ貴様といえども容易い相手ではないぞ……」
ファファファ、と哄笑を残し、ホールの灯りが落ちる。
静寂の帳が落ち、絶望の宴の幕が開く――
【ノヴァ@ダイの大冒険 死亡】
【バトルロワイアル 開始】
- 転移した先に武器とデイパックがあり、名簿・基本支給品・個別支給品が入っています。
- 名簿にルールが記されています。
最終更新:2010年07月29日 13:10