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雷速剣舞/隻眼邂逅 ◆WoLFzcfcE


「Hey,そこのおっさん。ちっと聞きたいことがあるんだが、いいかい?」
「不躾だな。何だね?」
「Sorry,あいにく俺の口の悪さは生まれつきでね。いや、大したことじゃないんだが……あんた、刀は持ってないかい?」
「刀か。いや、あいにく私に与えられたのはこれだ」

ヒュン。

「ちっ、おっさんのも南蛮モノか……刀はねえのかよ刀は」
「ふむ、シンの刀剣か。あれも悪くはないが、やはり私は反りのないこのような剣が好みだな」
「An,シンだぁ? おっさん、あんた変わった着物だな。それも南蛮モノか?」
「ナンバンというのが何を指しているか理解できんが、国軍の軍服くらいどこでも見られるだろう」
「国……軍? あんた、豊臣の人間か?」
「やれやれ、名も名乗らずに質問攻めかね。最近の若い者は礼儀を知らん」
「……Ha,こいつぁ失敬。俺の顔も存外売れちゃいないらしい」

スラッ。

「じゃあ改めて名乗らせてもらうぜ。俺は奥州筆頭・伊達政宗。いずれ天下を獲る男だ――You see?」
「……ハッハッハッ! これは驚いた……今どき珍しいほどに向こう見ずなことよ。若さゆえの蛮勇か、真に次代を担う力か――」

ジャリッ。

「――だが、私の前でその言葉を吐く勇気は認めよう。蛮勇でなければよいが」
「Hey,stop.俺にだけ名乗らせる気かい? あんたの名前も聞かせなよ」
「おっと、これはこれは。私も人のことは言えんな」

ジャキッ。

「私の名はキング・ブラッドレイ。小僧、天下を獲ると言ったな。私の国を獲りたいのなら、私を倒して力づくで奪い取るがいい!」
「OK, Are you Ready? ――癖になるなよ!」

               ◆


「――MAGNUMッ!」

雷光纏う必殺の突きが虚空を裂く。
踏み込みは迅速、走る剣はまさに神速。

竜が振るうは名剣の誉れ高き稲妻の剣。
握る武将もその躯から蒼い雷を迸らせ、剣の放つ暴風とともに踊る。
一太刀ごとに空気を焦がし、煉瓦造りの家々を掠っただけで吹き飛ばす。

暴れ回る一匹の竜。
だがその顎は小癪な獲物を捕らえられない。

「Shit! チョコマカとウザってえなッ!」

三日月細工を拵えた兜に蒼い装束、右目に眼帯を着けた一人の男。
日の本は奥州摺上原を手中に収める若き武家の棟梁、奥州筆頭・伊達政宗。
隻眼の風貌から『独眼竜』と渾名され、天下にその人ありと謳われる勇将である。

「あいにく私には君のようなデタラメな力はなくてね……さしずめ雷鳴の錬金術師というところか。大した破壊力だが、当たらなければどうということはない」

その独眼竜の荒ぶる暴虐を一手に凌ぐ――否、かすりもしない一人の男が、刃を片手に高速で迫る。
政宗が砕いた建造物の、その舞い散る瓦礫の中を悠々と、まるで散歩するようにすり抜けて。

「King――へっ、大将を名乗るだけのことはあらぁな! だがッ!」

本来の獲物ではない、加えて本来のスタイルでもない。
伊達政宗が得意とするのは六本の刀を指先に挟み持ち同時に振るう人外の荒業、六爪流。
だが今手元にあるのは使い辛いことこの上ない西洋の長剣がただ一振り。
並みの相手ならそれでも十分だったろう。
奥州筆頭の武勇は少々の不利など物ともしない、そのはずだった。

「らぁっ!」

奥州筆頭の一刀を、対する敵手――キング・ブラッドレイは刃の上を滑らせて受け流す。
政宗と同じく眼帯を着けた壮年の男。手にするのは言葉通り反りのがなく装飾も控えめのシンプルな剣。
甲斐の虎よりもかなり上、あるいはもう孫などいてもおかしくなさそうな風貌のくせに、足捌きはやたらと速い。
身体能力は若い自分が上だという確信はあった。
だが、攻撃が当たらない。
何十何百と振るう剣の軌跡に、この隻眼の男の影すら浮かび上がらないのだ。

「そこだ」
「うおっ!?」

そして、時折り放たれる反撃がやたらと鋭い。
袈裟に来たと思えば次の瞬間には首を突かれる。
頭を振って避ければ跳ね上がってきた足刀を受け、自慢の兜が吹っ飛ばされた。
後方に宙返りし、崩れた瓦礫の上に着地した。

(どうなってやがる……俺の技がちいとも当たりゃしねえ。読まれてるのか?)

動きの速さで勝っているのになぜ追いつけないのか。
そして一の太刀を放った後の返し刃がでたらめなほどに速いのも不可解だ。
あんな動きをすれば剣の重量に振り回されるはずなのに、ブラッドレイは筋力で押さえつけているのかまったく揺れ動かず隙もない。

(しかしやり辛え。片眼がねえって条件は同じだが、野郎……とてつもなく戦い慣れてやがる)

政宗は右目が、ブラッドレイは左目が欠落している。ゆえにお互いの死角が重なり合い、正面からの衝突を余儀なくされていた。
政宗が目にも止まらぬ連続攻撃を放っても、ブラッドレイはあらかじめその軌跡を知っていたかのように軽々と剣閃の下を潜り抜ける。
手数の多さで圧倒して近寄らせないようにしているものの、これでは千日手も同然だ。

「Ha,まどろっこしいねぇ! こういうのは好みじゃない――Go for broke! 一気に決めさせてもらうぜ」
「ほう、まだ切り札を残しているか。よろしい、受けて立とう」
「いいねぇ、楽しくなってきたぜ……奥州筆頭・伊達政宗、推して参る!」

だから政宗は勝負に出る。
己にあって敵にないもの――政宗自身から溢れ出る雷をフルパワーで放つ、最高にハイな一撃。
回避などする場もない必殺の一撃で仕留める。

「行くぜ、HELL DRAGON!」

咆哮とともに全身の闘気がスパークし、剣先から雷の竜となって放たれた。
雷竜は一直線にブラッドレイへと向かっていき、炸裂の瞬間夜の闇を白く染め上げる。
拡散し放電する閃光の刃。
どこに隠れようとこの暴虐の怒りから逃れることなど不可能だ。
家屋を藁のように薙ぎ倒し、まるで嵐が直撃したかのような様相を呈する。

「……Ya-Ha.これで決まったな」

ブラッドレイの姿はない。
それどころか村の一区画そのものが完全に焼き払われていた。
奥州筆頭の全力の一撃は、もはや人の身で成せる破壊を遥かに超えていた。

「ハッ……フゥ。やれやれ、しょっぱなからHeavyな相手だったぜ」

手近な瓦礫に腰を下ろす政宗。
つい理由もなくたまたま見かけただけのブラッドレイに戦いを吹っかけた理由は自分のことながらわからない。
ただブラッドレイの姿を眼にした瞬間、前触れもなく。

“こいつは敵だ”

と、思ったのだ。
口うるさいが背を預けられる無二の友――『竜の右目』片倉小十郎がいれば咎めたかもしれない。
だがこれだけは口では説明できない、本能的なものだった。
そう、かつて『魔王』織田信長と相対したときに感じたような、心底からの畏怖。

「っと、んなことより俺のTrademarkを忘れちゃいけねえな」

たとえ一瞬でも怯えを認めたことを忘れたいのか、政宗は軽く頭を振って勢いよく立ち上がる――その行動が、彼の命を救った。
瓦礫の影から放たれた一筋の流星、硬く尖ったガラスの刃が一瞬前まで政宗の左目があった位置、つまり左脇腹へと突き刺さった。
血飛沫、だが政宗が痛みに呻く暇などない。
ガラス片が投じられたのとほとんど同時に、目前に白刃が滑り込んできたからだ。

「……What!? なんで生きていやがる!」
「ああ、素晴らしい威力だったよ。惜しむらくは精度が今ひとつということだ」

ギリギリと刃を合わせる政宗と――怪我一つないブラッドレイ。
外見だけが、青い軍服の上着は燃え尽きたか黒のインナーに変わっていたが。

「雷鳴の錬金術師よ、君にその雷火の牙があるように」

超至近距離で交わる二人の視線。
政宗は気付く。ブラッドレイの顔に、先ほどまであった眼帯がないことを。
大きな傷が走ってはいるが、ゆっくりと目蓋が開いていく。そこには確かな瞳があった――隻眼ではない。
若き武将は知る由もない、魔法陣を抱く竜の刻印。
ウロボロスの紋章を瞳に刻んだ、人でなきモノ、ホムンクルスの証。

「私にも最強の眼があるのだよ」

色のない瞳が若き武将を睥睨する。
音速を超える銃弾すらも視認できるほどの動体視力、それが“憤怒”のホムンクルス・ラースの能力。
乱れ狂う雷刃の軌跡を一つ一つ知覚し回避しきることすらも容易いことだ。
ブラッドレイの膝が政宗の腹部を抉り、強引に膠着を崩した。
延髄に振り下ろされた剣を勘だけで受け止め、政宗はこちらは正真正銘の隻眼でブラッドレイを睨め上げる。

「調子に……乗ってんじゃねえッ!」

渾身の技を苦もなく凌がれた屈辱が怒りとなって沸騰し、その激情とともに振るった稲妻の剣が風を生んでブラッドレイの自由を奪った。
政宗はその機を逃さず走り込み、両手に握った剣を縦横無尽に振るう。

「CRAZY STORM!」

本来六爪で使う技を一刀で放った。
威力も規模も落ちているが、そこは意地と矜持で押し上げる。
左右どちらからも襲い来る鋭刃の軌跡。

「おおっ、おおああアアアアアアアアッッ!」

いかに優れた眼を持っていようと、百を超える連撃のすべてを防げるはずがない。
たとえ眼で追えても体が、剣がついてこれるわけがない。

「――なッ!?」

その政宗の目論見を、キング・ブラッドレイは覆す。
刃鳴りの音が絶え間なく響く。
威力で勝る政宗の剣を、ブラッドレイは一瞬間に剣を何度も叩きつけて威力を分散させていく。
自在に走り回る剣をさらに追尾し打ちのめす、神速を越えた音速の剣。
トータルのスピードでは劣っても、ごく限定的な速さ――攻撃速度の一点において、キング・ブラッドレイは伊達政宗の上を行く。
それは奥州筆頭が遅いわけでも大総統が速いからでもない。
ブラッドレイが振るう一振りの剣。
それこそは銘をはやぶさの剣、剣にあるまじき羽のごとき軽さにて一瞬間に二度の攻撃を可能とする刃。
それほどの業物を、生まれ落ちて六十余年一日たりとも弛まずすべてを闘争に費やしてきたブラッドレイが振るうのだ。
人外の強者ひしめく戦国時代に名を上げた勇将と相対し、互角以上に争えることとて決して不思議ではない。

そしてここで、先ほど全力の攻勢を仕掛けたツケが回って来る。
政宗の動きが途端に精彩を欠く。
握る剣がまるで巨大な鉄塊のように感じられ、電光の速さが見る影もなく。
絶え間なく刀身に走る衝撃も無関係ではない。ブラッドレイはこの数十秒で二百はくだらない斬撃を繰り出していた。
疲労しているのはお互い様だ。だが全力の一撃を放った分、政宗のほうがその度合いは大きかった。
そして今、均衡が崩れる。

「ガッ……!」

ブラッドレイがいつの間にか片手に隠し持っていた鞘で政宗の鳩尾を突いた。
全身が弛緩した一瞬を逃さず、ブラッドレイの剣が政宗のそれに絡み合い、跳ね上げる。
天高く稲妻の剣が舞う。
視線を追わせた政宗の視界に映ったのは、夜空の星ではなく拠って立つ大地。
瞬間的に懐にもぐりこんだブラッドレイに腕を取られ投げ飛ばされていた。
瓦礫に背中から落ち、激痛に一瞬息が止まる。
続いて腹を踏み抜く固いブーツの感触。
次いで視界に飛び込んだのは、美しく煌く白刃の輝き。

(やべぇ……!)

偽りなく、政宗は死を覚悟した。
戦場に身を置く者としてその覚悟はいつだってできている。
だがあまりにもそれは唐突で、政宗を以てして、

――ああ、こんなもんなのか。くたばる前の気持ちってやつは、こんなにも静かな……Un?

そう思わせるものだった。
瞬間で脳裏に浮かぶ奥州の光景。
この手で殺した父の顔、無二の朋友、己を慕う部下ども。
それらすべてが一瞬に政宗の脳裏に踊り、同じく一瞬で掻き消える。
最後に映った男の顔は――忘れもしない赤いヤツだ。


――政宗殿、某との決着をつけずに往生なされるおつもりか? 独眼竜とはその程度の器でござったか!

――Holy Shit! 言ってくれるじゃねえか真田の! 上等だ、俺はこんなところじゃ終わらねえぞ!


同時、胸に沸き起こる烈火の感情が再び政宗を突き動かした。
ブラッドレイが剣を振り下ろすに合わせて両の拳を打ち合わせる。

「ほう、芸が達者だな」
「こういうのが得意な野郎と散々やり合ってるんでな……!」

拳の甲を交差させた白羽取り。瞬間の判断で行ったにしては会心の一手だった。
腕から拳から剣へと伝う電撃を嫌い、ブラッドレイが後方へと飛び退った。
身を起こす。だがその動作はぞっとするほど緩慢で、まるで自分の体ではないように思えた。
脇腹の傷は深くはないが出血が止まらない。その上二度に渡って全力の攻撃を仕掛けたせいで一気に疲労が増してきた。
それでも、屈することだけはしない。
ギラギラと戦意燃ゆる瞳で独眼竜は敵を睨む。


「やれやれ、まだ諦めんか。私もそろそろ疲れてきたので終わりにしたいのだがね」
「Ha,つれないこと言うなよ。最高のPartyじゃねえか……楽しもうぜ」

と、減らず口を叩くものの。戦況は明らかに政宗の劣勢だった。
脇腹の裂傷は深く、鳩尾の痺れは未だ取れず、瓦礫に叩きつけられた衝撃がまだ全身に残っている。
加えて剣を手放してしまった。
その剣がどこにあるかと言えば、最悪なことにたった今ブラッドレイが拾ってしまった。
どうやら礼儀正しく剣を返してくれるつもりなどないようで、左右両手に握った剣を二度三度振るい感触を確かめている。
しかもその様がなんというか――やたらと堂に入っている。
おそらくは二刀流こそがやつの得意とするStyleだ、と政宗は推測した。

(こいつはやべえ……野郎に風が吹いてやがる。クソッ、六爪がありゃあな)

現実は六爪どころか素手だ。鋼鉄の鞘は頑丈ではあるものの、あの業物二振りを相手取れるはずもない。
刀が欲しい、と奥州筆頭は切に願った。

「君は若いな。私などもう六十にもなる、あまり無理をさせんでくれ」
「おいおい、笑えねえJokeだぜ。俺の三倍も歳喰っててその動きかよ?」
「引退したらどうかとよく言われるよ」

ブラッドレイは稲妻の剣の剣先を転がっていた政宗の兜に引っ掛け、こちらへと振り上げる。
くるくると回転し放られた兜を受け取り、礼も言わずにかぶり直す。
おそらくは末期の情け――逝くときは晴れ姿で、とでも言いたいのだろう。
鳥が翼を開くようにブラッドレイが双刃を広げ、疾走の気配を見せる。
ただでさえ苛烈な剣撃が単純に倍になって襲い来る。
さすがに今度ばかりは命運尽き果てたか、とどこか納得しながらも体は迎撃の構えを取っていた。

「では、行くぞ。できるのならば凌いで見せろ」
「All Right,来やがれ……!」

鋼鉄の鞘を砕けよとばかりに固く握り締める。
一瞬後には両断され、役目を終えるのだとしても。

(どこまで追い詰められても絶対に諦めねぇ! それが俺の――ッ!)

意地で一撃くらいは叩き込んでやる、と突き進んでくるブラッドレイを視線で射る。
と――自身とブラッドレイの間に割り込んできたものがあった。
細長い、見覚えのある形。
そう、これは紛れもなく――

「そいつを使え!」

どこからか響いてきた声に後押しされるまでもなく、その物体が何であるかを看破した瞬間政宗は走り出していた。
宙にあって強く存在を主張するそれは、まさしく今このとき政宗が求めていたもの。
嬉しいことに、それは、その天からのPresentは政宗が良く知っているものでもあった。

「借りるぜ、小十郎……お前の刀をよ!」

銘を、黒竜。
奥州でも指折りの刀工が鍛えた大業物。
相棒が、『竜の右目』がいつも腰に佩いていた名刀を抜刀し、

「――おおらあああああッッ!!」

無理を押しての、渾身の逆袈裟斬り――月煌。
これは捌けないと見たか、ブラッドレイが二刀を合わせて防御の構えを取る。
だが、止まらない。
『独眼竜』と『竜の右目』の合作と言えるその一刀は、人外のホムンクルスをして予想以上の威力を叩き出す。
瓦礫の山へとブラッドレイが叩きつけられ、土砂に埋まっていく。
それを見届けた政宗は今度こそ膝をついた。

「へっ……見たか、奥州魂ってやつをよ……」

力を出し尽くした政宗は、それでも笑いながら勝利を誇る。
次いで顔を巡らせた先には、激突の刹那政宗に刀を放り投げた男が歩み寄ってきていた。
長い蓬髪を風が弄ぶに任せた、背の高い痩せた男。
面白いことにそいつも右目が潰れているようで、目蓋の上に大きな傷が走っていた。

「Thanks,Brother.おかげで助かったぜ」
「余計な手出しではなかったか?」
「んなこたあない。正直、ヤバかった」

男が差し出した手を政宗は躊躇なく取った。
こいつが敵であるか味方であるかはっきりしないものの、こいつの介入がなければ政宗は間違いなく死んでいた。
政宗の命はこいつに救われた、つまりは借りができたということである。
騙まし討ちするならそれもいい、一度だけなら受けてやる――そんな気持ちでいたのだが、事実こいつは敵意などないようだった。
引き起こされ、改めて男と向かい合う。

「俺は奥州筆頭・伊達政宗。あんたはなんてんだ?」
「……名は捨てた。どうしても呼びたいなら、そうだな。イナズマとでも呼んでくれ」
「イナズマ? Lightningか。へっ、そいつはいい! あんたは俺とよく似てるよ!」

隻眼と隻眼、蒼雷と稲妻、そして言葉にしなかったが互いに十九歳。確かに二人は良く似ていた。
そのイナズマと名乗った男――本名・高代亨は、偶然見かけた伊達政宗とキング・ブラッドレイの闘いに介入すべきかどうか迷っていた。
『最強』との闘いから数ヶ月。
逃亡生活を続けていた亨が突如招かれた、この世のものとは思えぬ死の遊戯。
統和機構からの刺客を退けることにも疲れを覚えたころ、亨はふと目覚めればこんなところに連れて来られていた。
そして考えた、ロワと名乗った女の言うとおり殺し合いに乗るかどうか。
もし最強の剣とやらを手にすれば、もう逃げ回ることもなくもしかしたら統和機構そのものを叩き潰せるかもしれない。
だがそのためにはまったく関係のない五十人以上の人間を殺し尽くさねばならず――。

「一つ聞きたい。あんた、あの女の口車を信じるのか?」
「Un? ああ、殺し合って最後の一人になれってあれか。――そうだな、信じるって言ったらどうする?」
「悪いが、ここで倒れてもらう。闘うのも殺し合うのも、その覚悟があるやつだけがすればいい。だが、それを他人に強要することは許さない」

そう、乗るわけがない。
いかに強力な力を持っていようと、追手の屍をうず高く積み上げるほどこの手が血に塗れているとしても。
最後に残ったちっぽけなプライド――あの『炎の魔女』や親友に顔向けできなくなることだけは、絶対にしたくない。
だからこそ亨は『イナズマ』として闘う覚悟を決めていた。無駄な血が流されぬように、もう二度と大事なものを取りこぼさないために。

「OK,そんな怖い顔するなよ。俺も誰かの狗になる気はない。竜ってのは誰にも従わないから竜なんだ。
 無論、先に向こうに襲われちゃあさっきみたいに応戦するが、俺から誰彼構わず喧嘩を吹っかけるってことはしねえよ」
「……そうか」

亨は全身を強張らせていた力を抜いた。
亨自身、自らの力に自信はあったがこの伊達政宗や先のキング・ブラッドレイと相対して確実に勝てる自身はなかったのだ。


「しかし、あんたがこの刀を持っているとはな。これも運命ってヤツか……」
「そいつを知ってるのか?」
「ああ、まあ俺の相棒の獲物なのさ。どうだい、あんたさえ良けりゃこいつを譲っちゃくれねえか? 代わりに俺の使ってた剣をやるからよ」
「構わんが、その剣はどこだ?」
「Um,さっきのブラッドレイっておっさんに」
「すまんが返せと言われても拒否させてもらおう」

割り込んだ声は紛れもなく。
政宗と亨は一瞬で戦闘体勢へと移行する。
視線の先には瓦礫を風で跳ね除けて立つ王の姿。

「Fantastic! まだ生きてやがるのかよ!」
「君の剣のおかげだ。錬金術とも思えぬが便利なものだな」

ブラッドレイは何事もなかったかのように嘯いた。
稲妻の剣が持つ風の能力が、今度は本来の持ち主ではなく敵を救ってしまったのだ。

「チッ、なら今度こそあの世に蹴り落としてやるぜ……!」
「できるかね? その疲労困憊といった体で」
「So easy!  独眼竜を舐めんじゃねえ!」

黒竜を構え、再びブラッドレイと切り結ぼうとする政宗。
しかしその眼前に亨が立つ。

「その体では無理だ。ここは退くぞ」
「Huhn? 尻尾巻いて逃げろってのか!」
「負けるとわかっていて挑むのは愚か者だ。本当に勝ちたいなら、勝つために退くということも手の一つだ」
「……チッ、小十郎みてえなこと言いやがる。だが、やっこさんだって黙って俺らを見逃してくれるほど甘かないぜ?」
「大丈夫だ、任せろ」

政宗が捨てていた稲妻の剣の鞘を構え、亨はブラッドレイと向かい合った。
鞘を持つ手をだらんと下げたその構えは、控えめに言っても隙だらけ。

「イナズマ……と言ったか。二人同時にかかってきても私は構わんよ」
「あいにくだが、この場は退かせてもらおう。今はあんたに勝てる気がしないんでな」
「逃がすと思うか?」
「できる、と俺は踏んでいる。あんたの眼――おそらく俺と似たような能力だ。直接的な攻撃力はないだろう、だから」

異名の由縁、物体の隙を見出す『イナズマ』能力を発動させ、手にした鞘を一際大きな瓦礫の一点に突き立てる。
後ろから見ていた政宗は、鋼鉄の鞘が硬い瓦礫に抵抗もなく突き込まれたのを見て取った。
一瞬で、瓦礫が粉のように分解される。
即席の煙幕が戦場に拡がった。

「……めくらましか。この程度で私の眼から逃れることはできんぞ」
「だが、あんたの行動は一手遅れる!」

そう、その初動の遅れさえあれば十分なのだ。
稼いだ瞬間の間で、亨はデイバックから己に支給された切り札を引っ張り出す。
一見してキックボードのような形状の長い板。
後部に風を噴射する貝を取り付けた、とある世界の空島という場所で用いられるウェイバーという乗り物だ。
しかもこれは通常モデルではなく、さらに強力な噴風貝(ジェットダイアル)をセットした特別製。
煙幕を吹き飛ばすほどの猛烈な風が噴風貝から噴射される。
手綱を操るのは高代亨。
その腕が伸ばされ、伊達政宗へと差し伸べられる。


「――ッ!」

走っても届かぬと見たブラッドレイが隼の剣を投擲した。
まっすぐ伊達政宗の心臓を抉る軌道を飛んだ剣は、肉を裂く手応えなく地に突き立つ。
そして瞬きの間に二人の青年は飛び去って行った。

「――ふむ、逃がしたか。人間も中々やるものよ」

さして残念でもなさそうに呟き、ブラッドレイは隼の剣を回収・納刀した。
もう片方の稲妻の剣は政宗から奪ったために鞘がないので、抜き身で持ち歩くしかない。
嘆息し、眼帯を着け直す。
さて、これからどうするか。



【C-5 村 一日目 深夜】

【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
【状態】疲労(小)
【装備】隼の剣@DQ2、稲妻の剣(鞘なし)@DQ2
【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、内容ともに不明)
【思考】基本:『お父様』の元に帰還するため、勝ち残る。
 1:とりあえず人を探す。
【備考】
 ※『最強の眼』を使用している間は徐々に疲労が増加。

 ※村の一区画が完全に破壊されています。


               ◆


「イヤッハァッ! こいつはゴキゲンなvehicleだ!」
「おい、あまり暴れるな。操縦が難しいんだ」

見たこともない乗り物に気勢を上げる政宗と対照的に、亨の顔は真剣だった。
風を噴射して移動する特性上、ウェイバー本体はとても軽く作られていて小さな波でも簡単に舵を取られてしまうのだ。
亨はイナズマ能力を駆使して波の動きを読み取れるので操縦できるものの、かなり神経を使う作業だった。
やがてウェイバーは河を越え対岸に辿り着く。さすがにここまで来ればブラッドレイも追ってはこなかった。
二人は陸地へと降り立ち、ようやっと落ち着くことができた。

「助かったぜ、イナズマ。お前さんにゃあ借りを作ってばかりだな」
「いいさ、気にするな」

ともに死線を潜ったためか、政宗は亨を信頼し始めていた。
亨はといえば、逆に政宗やブラッドレイをあまりの戦闘力のために統和機構の合成人間ではないかと疑っていた。
そもそも名前が伊達政宗ときた。三日月を模した兜といい隻眼といい、史実どおりの独眼竜が現実に出てきたようだ。
そして懸念はもう一つ。
亨自身は大した戦闘行動をしていないのに、ずっしりとその身に疲労が残っていた。
イナズマ能力を使ったせいだろう。だが普段ならここまで重い疲れを感じることはないはずだった。
政宗の雷を生み出す力も気になる。詳しく情報を交換する必要があった。

(厄介なことになった、な)

夜空を見上げため息をつく。
皮肉なことに、輝く月はちょうど三日月の形だった。




【D-5 岸辺 一日目 深夜】

【伊達政宗@戦国BASARA】
【状態】疲労(中)、左脇腹に裂傷
【装備】黒竜@戦国BASARA
【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、内容ともに不明)
【思考】基本:主催者の首を獲る。誰だろうと挑まれれば受けて立つ。
 1:ブラッドレイを倒す。
 2:イナズマにいずれ借りを返す。


【高代亨@ブギーポップシリーズ】
【状態】疲労(小)、能力の不調に違和感あり
【装備】稲妻の剣の鞘
【道具】基本支給品、ウェイバー@ONE PIECE
【思考】基本:戦う力のない者を守る。
 1:伊達政宗の手当てをしつつ情報を交換する。
 2:町や村を捜索し、殺し合いに乗らない参加者を探す(対象が強ければ別行動、弱ければ同行して守る)。
 3:ブラッドレイを警戒。
【備考】
 ※『イナズマ』能力を使用している間は徐々に疲労が増加。
 ※今のところ本名を名乗るつもりはない。

『イナズマ』能力について
 生物・物体の気配が線として見える能力。物体の線を突けば破壊し、人体においては弱点となる。
 その他、自身に向けられる攻撃のラインを知覚する・離れた場所にいる敵の気配を察知する、など応用範囲は幅広い。
 高代亨は隻眼だがこの能力を使用するのに視覚は必要ないらしく、閉じた右目には向かい合う相手の急所のラインだけが見える。



  • 隼の剣@DQ2
 非常に軽く、一動作で二度の攻撃が出来る剣。
  • 稲妻の剣@DQ2
 道具として使えばバギの効果が得られる剣。
  • 黒竜@戦国BASARA
 「竜の右目」片倉小十郎の刀。特殊な能力は無い。


  • ウェイバー@ONE PIECE
 噴風貝(ジェットダイアル)をセットした、宙に浮くスケートボードのようなもの。
 機能は制限され浮かび上がる高さはせいぜい民家一件分。



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