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夢追う鷹は刃を隠す」(2011/07/23 (土) 06:43:05) の最新版変更点

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**夢追う鷹は刃を隠す◆k7QIZZkXNs  永く戦場にいると、色々な奴と出会う。  すばしっこい奴、力自慢な奴、剣よりナイフが得意な奴、馬術が上手い奴。  鷹の団という一団を率いるグリフィスも当然、数多くの部下や敵と対面してきた。  その中でもグリフィスの中へ特に強く焼き付いている人間と言えば、それは間違いなくガッツだろう。  初めてグリフィスが本気で手に入れたいと思った個人、それがガッツだ。  グリフィスが剣で手に入れ、そして剣で自分をもぎ取っていった男。  ガッツとはグリフィスに取り、実に多様な意味を持つ無二の存在である。  親愛、友誼、信頼、共感、そして憎悪。  愛憎入り混じった複雑な感情を、グリフィスはガッツに抱いている。  が、ガッツ以外にももう一人、忘れられない男がいる。  その男の名はゾッド。『不死のゾッド』――戦場の生ける伝説である。  一体いつ頃から戦場にいたのか定かではなく。死んだと噂される度にまた次の戦場へと現れる。  鷹の団もまたこの伝説と交差し、それが偽りでないことを思い知らされた。  鋭き爪牙、大木の如き四肢、強靭な翼を持つ異形の巨獣。『使徒』と呼称される人外の魔物、それがゾッド。  後にグリフィス自身がその『使徒』の上位存在であるゴッド・ハンドへと転生することとなるが、現時点のグリフィスにはその因果の糸は結ばれていない。  故に、いまグリフィスが知る魔的な存在といえば、それはゾッドを置いて他にいない。  そして今日、グリフィスの記憶にまた一つ、ゾッドに続く化け物の項目が追加された。  一人、無人の野を進んでいたグリフィスの前にふらりと現れたその人影は――骸骨であった。  気配も無く視界から骸骨が消える。  視線を上に向ければ、骸骨は今まさに抜刀しグリフィスめがけて落ちて来る。  多少の驚きはあったものの、ゾッドという前例があったためグリフィスはさほど動揺する事無く状況を把握した。  こちらも抜刀しその剣を弾く。腕に走る衝撃が、夢や幻覚の類ではないことを示している。  初撃を防がれ、骸骨は着地と共に後退した。その一歩が、異常なまでに遠い。  まるで宙を滑るように飛び、あっという間に間合いを離される。  機を逃さず反撃に移ろうとしたグリフィスの剣が虚しく空を斬った。 (膂力はオレと大差ない。が、異常なまでに身が軽い……)  この骸骨は、まるでそこに階段があるかのように天高く舞い、剣を振り下ろしてくる。  一度骸骨の剣を受けてわかった。自分の剣はなまくらではないにしろ、この戦場では下から数えた方が早い出来の物なのだろう。  セシリーという女の剣、そしてこの骸骨の剣と比べれば、この長剣は明らかに見劣りするものだった。  刀身に入った僅かな亀裂が、これ以上打ち合えばグリフィス自身の命運が尽きる事を意味している。  土に塗れる事も厭わず、グリフィスは身を投げ出して二撃目を回避した。  二転三転し、起き上がると同時に骸骨から来るであろう斬撃を警戒して剣を構える。  が、予想に反して骸骨はじっとグリフィスを見詰めてくるだけだった。 「ヨホホホ。やはり私には沈黙は似合いませんね。  いえ、あなたが動じなかったのもあるのでしょうが。まさか凌がれるとは思いませんでしたよ」  骸骨は快活に笑う。よくよく観察してみるとその骸骨は奇妙な風体をしていた。  楽士のような黒いスーツにハット、帽子に収まりきらぬ放埓な髪。  白骨が浮き出ていること、肉が無いことさえ考えなければ人のように見えなくもない。  ゾッドとの遭遇が無ければ、グリフィスとて一撃をもらうほどには戸惑っただろう。 「化生の者か。オレに何の用だ?」 「何の用と申しましても、この場では一つしかないでしょう。  まあ、運が悪かったと諦めて下さい。あ、私ブルックと申します。これがホントの冥土の土産、なんちゃって」 「黄泉路から迷い出た亡者が、生者の命を欲するか」 「ヨホホホ。遠目にもあなたの白銀の御髪が眩しかったものですからな。  ほら、私の髪は真っ黒でしょう? 私の顔とは合わないんですよ、白骨だけに」  口調はふざけてはいるが、骸骨――ブルックの眼光はグリフィスの僅かな動きを油断無く捉え離さない。  舌打ちしたい衝動を堪える。うまくない事態だ。  まだ負けると確信するほど劣勢ではないが、この剣の状態では遠からずそうなる事は目に見えている。  視線は自然とブルックの腰に差されたもう一振りの剣へと吸い寄せられた。  その剣の拵えには見覚えがあった。たしかセシリーとか言ったか、最初に出会った女との戦いに割り込んできた少年が携えていた剣だ。  ブルックが構える剣には微かに赤い汚れがあった。つまりはそういう事なのだろう。 「髪が欲しいなら、くれてやる。代わりにその剣を寄こせ」 「おや、この刀をご所望ですか。しかし、それはできませんな……これは私の友人の刀ですので。  あなたには代わりにこちらの剣を差し上げましょう」  と、ブルックは剣を下げゆっくりとこちらへ向かって歩いて来る。  構えも何もない、散歩でもするかのような力の抜けた歩み。  グリフィスはそこに、自らを刈り取ろうとする死神の鎌を幻視した。 「鼻唄三丁……」  ブルックは身が軽い。という事はすなわち、速度にも秀でているという事だ。  あの脚力を突進に回せばどれだけの速度を叩き出すのか、想像もできない。  故にグリフィスは骸骨の動きを目で追う事を諦め、戦場で培ってきた自分の勘と嗅覚に身を預けた。  予想されるブルックの剣の軌跡へ、本能が命じるタイミングで長剣を繰り出す。 「……矢筈斬り!」  結果として、その判断は正解だったようだ。  チン、と鍔鳴りの音がした。  ブルックはグリフィスの傍らを歩いて通過しただけだ。その一瞬の間に、超高速の斬撃をグリフィスへと放ちながら。  ロングソードは中ほどからばっさりと断ち割られた。亀裂の位置に正確に剣をぶつけられたらしい。  それでも骸骨の剣を受け切る事はできず、咄嗟に引き上げた鞘が代わりに砕かれることでグリフィスは生を拾った。  随分と軽くなったロングソードを一瞥し、今度は抑えられず舌打ちを漏らした。 「ヨホホホ、これも避けますか。いやはや恐ろしい。  あなたの剣が業物であったなら、まともに相対するのは肝が冷えますね。ま、私に内臓なんて無いんですが」  すたすたとブルックは間合いを空けていく。  短くなったグリフィスの剣が届く範囲の外へ。これでは踏み込んでも先にこちらが斬られる事となる。  苦境に追い込まれた屈辱がグリフィスの表情を険しくさせた。 「チィッ……!」 「おやおや、落ち着いて下さい。きれいな顔が台無しですよ。  私と違って表情があるんですから。ヨホホホ」  軽口に付き合ってもいられない。これで状況は決定的となったに等しい。  脳裏に撤退の方策をいくつも紡ぎ出すが、どれ一つとして成功する見込みは無いと言っていいだろう。  骸骨から放たれる殺気は、それほどに死を身近に感じさせる物だった。 「とは言え、あなたほどの使い手を生かしておけば厄介な事は明白」  スウ、とブルックが抜刀し、先ほどと同じ構えを取る。  一度凌いだ技とはいえ、防げたのは半分以上が運によるものだ。  短くなった剣では今度こそ受け止めきれない。 「こうして絶対的に不利な状況に追い込まれても、あなたは未だ諦めてはいない。  そういう輩が一番怖いんですよ。だから、確実に……ここで、お命頂戴します」  ゆらり、と骸骨が動く。  技が放たれてからではもう止められない。そうと察したグリフィスは、逆に自分からブルックへ駆け出した。  グリフィスは折れた剣を振り、地に突き立っていたロングソードの刃先を弾いた。  刃は狙い通り骸骨の鼻先へと飛んでいく。 「甘いですよ」  ブルックの剣が一閃し、刃はあえなく弾かれる。  しかしそれはグリフィスの予想の内。  出鼻を挫いた一瞬を逃さず骸骨の懐へと飛び込む。  狙いはブルックの腰にある、もう一振りの剣。 「させません!」  伸ばした手が柄にかかる寸前、スッとグリフィスの視界に影が落ちる。  ブルックは刀を奪われまいと高く宙に舞っていた。  人間にはとても不可能な、まるで鳥のような跳躍。 「この刀は渡さないと言ったでしょう! 飛燕(スワロー)……!」  グリフィスの直上を取ったブルックが反転し、身体ごと剣を突き下ろす体勢を取った。  落下の勢いを利用し、グリフィスを脳天から串刺しにする構えだ。  しかし技の名前を最後まで叫ぶ事はできなかった。  グリフィスを視界に収めたブルックは、同時に自身に迫る白刃の切っ先も目にしていたからだ。 「……くっ!」  ブルックは技を中断し、ぎりぎりのところで頭蓋を貫通するはずだった壊れたロングソードを弾く。  体勢は乱れ、飛燕ボンナバンは不発に終わった。 「追撃を警戒しあらかじめ剣を投げておくとは。やはり油断できない人だ、あなたは。  しかし、これであなたは丸腰! もはや逃がしませ……え?」  立ち上がったブルックが見たものは、敵に背を向け一心不乱に逃走するグリフィスの姿だった。  無心に、無防備に、駆けていく。とはいえ、グリフィスは技量こそ優れていても肉体そのものは人間の範疇を出ない。  稼いだ時間は、ブルックの脚力なら容易く追いつける距離しかもたらしてはくれなかった。 「あらら……見誤りましたか? もうちょっと骨のある方だと思っていましたが……骨しかない私が言うのもなんですが」  というブルックの呟きが聞こえた訳ではないが、グリフィスにとってもこれは賭けだった。  グリフィスが逃げ切るのが先か、ブルックが追い付くのが先か、あるいは―― (お前だったら、どうする……ガッツ)  心中で、追い求める男へと疑問を投げかける。  まあ、答えなど聞かずともわかってはいたが。 (お前なら、敵から逃げるという道を選ぶ事はないんだろう……が、オレはそこまで剣での決着には拘らないんでな)  お前以外は、とはあえて考えない。  後方から凄まじい圧力が吹き付けてきた。予想通りブルックが追ってきたらしい。  折れたロングソードも投擲に使ったため、グリフィスは本当の意味での丸腰だ。  鞄にも武器と呼べる物は入っていない。  絶体絶命の状況。しかし、それでもグリフィスは笑っていた。 (それでも、オレが負けることはない)  今度こそ自身の命を絶つであろう骸骨の鼻唄を背中に受けて――グリフィスは、その身を大地に投げ出した。 (お前以外に負ける事など……いや、お前にもだ。もう負けるつもりは無い。どんな手を使おうともな)  そのグリフィスの頭上を、猛烈な勢いで通過する物があった。  次いで、衝突音。 「なんですとっ!?」  首尾よくブルックに激突し、吹き飛ばしてくれたらしい。  やや余裕を持って身を起こすと、グリフィスとブルックの間に新たな人影が現れていた。  蓬髪を背中でくくった長身の男。そして、ガッツと同じ隻眼。  しかし、無いはずの右目をブルックへ向け、グリフィスを左目で捉えている。  手にするのは頼りない事に鋼鉄の鞘だったが、この男が持つとどうしてかそれは刃に勝るとも劣らない圧迫感があった。 「勢いで介入したが……さて、これはどうしたものかな。まさか動く骸骨に襲われているとは思わなかった」  身に纏う雰囲気と同じ鋭い声で、男はグリフィスとブルック双方へと語りかけてきた。  と言ってもやはり動いて喋る骸骨は警戒に値するのだろう。握った鞘は突き付けるようにブルックへと向けられていた。  ブルックは剣を落としたようで、握っているのは腰に差していたもう一方の剣だった。  とは言え落ちた剣はブルックの後ろにあり、とても奪えはしないだろうが。 「ヨホホホ。これはこれは、まさか新手が来るとは思いませんでしたな」 「と、いう事は……あんたが襲ってる側で、間違いないんだな? まあ、丸腰の奴を追いかけ回している時点で聞くまでもないが」  視線で問われ、グリフィスは首肯する。  自分一人で勝てないのなら他人を巻き込めばいい。  支給された鉄の鏡――周囲にある首輪を映し出すレーダーを用いて、早い段階でグリフィスはこの男の存在を察知していた。  ちなみにブルックが潜んでいる事も事前に分かっていたため、奇襲を受けても平然と対応できたのだ。  そしてブルックに勝利する事が困難と判断した時点で、この男を戦場に引きずり込むべく無様な逃走を演じて見せた。 「さて、二対一、多勢に無勢……と言いたい所ですが、どうしてどうしてあなた方は二人揃ってまともな剣をお持ちでない。  剣のない剣士など、まさに骨抜きですな。あっ、骨が無いのは私ですが!」  そう、問題はそこだ。  鳴り物入りで加勢した男の武器は鞘である。  放り出された見た事もない馬は武器になりそうには見えない。  依然戦況は不利なままだった。 (しかし、それでも……オレの生きる目は出た。オレが奴なら、まず戦える力のある方を倒す)  そうすれば残った者をゆっくりと料理できる。  ブルックもそう考えたようで、刀はグリフィスではなく隻眼の男へと向けられていた。  そろそろと足下の重心を移動させ、いつでも疾走できる体勢を取る。  ブルックが隻眼の男と闘っている間、より遠くへ遁走するために。 (あの馬を奪うか……?)  もちろんの事、グリフィスには男に対する仲間意識など無い。  巻き込んだ事を詫びる気は無いし、共に闘うつもりも無い。  まともな剣を持っていれば話は別だったが、斬られるとわかっている者と運命を共にする愚を犯す気は無かった。 「忠告しておく。命が惜しければ立ち去る事だ」  が、既に戦況に見切りをつけたグリフィスとは真逆に。隻眼の男はブルックへ鋭い言葉を投げつけていた。  そこには自身が斬られる事への恐怖など微塵も感じ取れはしない。 「あれ? あなた、もしかして私に勝てる気でいらっしゃいますか?  さすがにそれは少し見込みが甘いと言わざるを得ませんが……」 「そりゃあ、俺では勝てないだろうさ。だが、こう考えてみるといい。  俺がここに来たのはお前を倒すためじゃない。こうしてお前を足止めする事が目的だ、とな」  隻眼の男が、口に指を当て鋭く息を吐く。  指笛。ピュイッと、高く澄んだ音が駆け抜ける。 「……!」  その音が消える刹那に、変化は起こった。  男がやってきた方角から、目も眩むような輝きが照りつけてきたのだ。  それは決して、夜が明け顔を出した太陽の輝きではない。北から照らす陽光の日差しなど有り得ない。  光はまるで波のように大地を走り、中途にある物を吹き飛ばしていく。  思わず顔を庇ったグリフィスは、まるで大砲でも打ち込まれたかのようにめくり上がった大地の溝を目撃した。 「もうすぐ、あれを放った俺の仲間が到着する。さて、お前はそんな奴相手に勝てる気でいるのかな?」  その言葉に、ブルックは数瞬思案する様子を見せ―― 「……止めておきましょう。ここであなた方を斬るのは簡単ですが、そうすれば同時に私も果てる事になる。  骨折り損の草臥れ儲け、というやつですな。折れるのは骨ではなく私の命では、割に合わない」  刀を納めないまま、ブルックはゆるゆると後退していく。  言葉通り、ブルックがグリフィスと隻眼の男を斬るのは容易な事だろう。  しかし当然、二人は無抵抗ではない。数秒、あるいは数十秒か、時間を浪費する事になる。  そしてその数十秒で、あの光を放った人物はここに到着する。  それはすなわち、ブルックの敗北を意味している。  撤退を決めて下がるブルックが後ろ手に落ちた刀を回収しようとしたとき、隻眼の男は動いた。 「……ふっ!」  動いた、と言ってもグリフィスにその動きを捉える事は出来なかった。  男は視界から一瞬消えて、同じく一瞬でブルックへと攻撃を叩き込もうとしていたのだ。 「何っ!」 「そいつは置いていってもらおう!」  男は、ブルックが刀を拾うほんの僅かな隙を見逃さず、鞘で打ちかかった。  ブルックもさすがの反応を見せ、すんでのところでかわす。  だが、刀は拾えなかった。 「このっ……!」 「もたもたしている時間があるか!? ほら、来たぞ……『雷神』がな!」  男が指し示すは、彼方から来たる一人の剣士。  ブルックのみを貫く視線の、なんと苛烈なことか。  その眼光を横から垣間見ただけのグリフィスでさえ、直感する。 (……強いッ!!)  かつてこれほどに脅威を感じたのは、まさにあの不死者ゾッドと闘って以来――それも、巨獣となったあのゾッドの方と、だ。  比べればみすぼらしいとさえ言えるほどに小さな影に、あるいは不死者をも凌駕しかねないほどの圧倒的な力を感じた。 「……っ、どうやらしてやられたようですね。いいでしょう、ここは退きましょう!  ですが私は諦めませんよ。骨が舎利になってもきっと、生き残ってみせる……!」  刀を回収する事を諦め、ブルックは身を翻し駆け去っていく。  隻眼の男は追わず、ブルックの残した刀を回収して自らが携えていた鞘へと納刀した。 「ふう……何とか、なったな」 「礼を言う。おかげで助かった」  お前を見捨てるつもりだったなどとはおくびにも漏らさず、グリフィスは隻眼の男へと近寄っていく。  危険を冒して介入してきたという事は、あの少年と同じく闘いを止めるために動いているのだろう。  この男自身も相当の手練であるし、未だにグリフィスは丸腰である。  何より鬼気を収め歩み寄って来る剣士――老人に、今はまだ勝てる気がしない。  故にグリフィスは牙を隠し、殺戮者に襲われた一被害者としての仮面を被る。 「オレはグリフィスと言う。君は?」 「俺はイナズマ。そしてあのご老人はシド、シドルファス・オルランドゥというそうだ。  俺も会ったばかりだが……闘いの気配を感じたんでな。話もそこそこに、協力してもらった」  イナズマは老人に手を振る。  老人もまた軽く手を上げ、応えた。 (どうやらこの戦場は、一人で生き抜けるほど容易いものでは無いようだ。ならば)  ガッツと再び出会うためにも、死ぬ訳にはいかない。  たとえ偽りの自分を演じる事となっても――  グリフィスが差し出した手を、イナズマが強く握り返してくる。  シドと呼ばれた老人が間近に来て、グリフィスとイナズマを心配する素振りを見せた。  老人はやはり無闇に敵対する意識を見せない。  これでいい。  駒は手に入った。後はうまく手綱を握るのみだ。 (利用して見せるさ、どんな存在であろうとな……!)  奥底に眠る熱い情念を押し殺し、グリフィスは微笑む。  決意は、新しい朝の訪れと共に。 【E-4 草原/一日目/黎明】 【グリフィス@ベルセルク】 【状態】疲労(中) 【装備】なし 【道具】支給品、首輪探知レーダー 【思考】基本:ガッツを俺の物にする。  1:当面は他者を利用し、安全を確保する。剣が欲しい。  2:ガッツを見つける。  3:ガッツと闘い、倒して俺の物にする。 [備考]  ※登場時期は12巻~13巻辺りでガッツに敗北~拷問される直前のどこか。  ※レーダーの有効範囲は自分のいるエリアのみ、三時間ごとに一度だけ使用可能(厳密な時間経過ではなく、深夜・黎明などの時間区分け)。  ※ロングソード@FF5 は破壊され、E-4エリアに落ちています。 【高代亨@ブギーポップシリーズ】 【状態】疲労(小)、能力の不調に違和感あり 【装備】ドラゴントゥース@テイルズ オブ ファンタジア、稲妻の剣の鞘@DQ2 【道具】基本支給品、ウェイバー@ONE PIECE 【思考】基本:戦う力のない者を守る。  1:グリフィス、シドと話す。  2:島の南側を探索して殺し合いに乗らない参加者や首輪を解除できる者を探す。(対象が強ければ別行動、弱ければ同行して守る)  3:次回放送時に伊達政宗とD-4で合流する。(合流できなければ次の放送時に改めて合流する)  4:ブラッドレイを警戒。  5:死ぬなよ…政宗。 【備考】  ※『イナズマ』能力を使用している間は徐々に疲労が増加。  ※今のところ本名を名乗るつもりはない。 【シドルファス・オルランドゥ@ファイナルファンタジータクティクス】 【状態】疲労(小) 【装備】ヴォーパルソード@テイルズ オブ ファンタジア 【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、詳細不明) 【思考】基本:できるだけ犠牲を出さずに戦いを終わらせる。  1:イナズマ、グリフィスと接触する  2:ルカヴィに準ずるような、人間でない者を倒す。  3:人間の仲間を集める。 【F-5/草原/一日目/黎明】 【ブルック@ONE PIECE】 【状態】 健康、疲労(大)  【装備】和道一文字 【道具】支給品×2、謎の鍵 携帯電話  首輪 平賀才人の衣服 【思考】基本:生き延びて約束を果たす   1:優勝して元の世界に帰る   2:休む [備考]  ※参戦時期はスリラーバークで影を取り戻した直後です ---- |BACK||NEXT| |043:[[刃の亀裂]]|投下順|000:[[]]| |043:[[刃の亀裂]]|時系列順|000:[[]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |002:[[最後の悪あがき/愛情か友情か憎しみか/騎士の誇りを胸に/とある魔眼の殺人鬼]]|グリフィス|000:[[]]| |032:[[人間だもの]]|ブルック|000:[[]]| |028:[[サムライ]]|イナズマ|000:[[]]| |015:[[砂漠の決斗! 雷神vs烈火の将]]|シド|000:[[]]| ----
**夢追う鷹は刃を隠す◆k7QIZZkXNs  永く戦場にいると、色々な奴と出会う。  すばしっこい奴、力自慢な奴、剣よりナイフが得意な奴、馬術が上手い奴。  鷹の団という一団を率いるグリフィスも当然、数多くの部下や敵と対面してきた。  その中でもグリフィスの中へ特に強く焼き付いている人間と言えば、それは間違いなくガッツだろう。  初めてグリフィスが本気で手に入れたいと思った個人、それがガッツだ。  グリフィスが剣で手に入れ、そして剣で自分をもぎ取っていった男。  ガッツとはグリフィスに取り、実に多様な意味を持つ無二の存在である。  親愛、友誼、信頼、共感、そして憎悪。  愛憎入り混じった複雑な感情を、グリフィスはガッツに抱いている。  が、ガッツ以外にももう一人、忘れられない男がいる。  その男の名はゾッド。『不死のゾッド』――戦場の生ける伝説である。  一体いつ頃から戦場にいたのか定かではなく。死んだと噂される度にまた次の戦場へと現れる。  鷹の団もまたこの伝説と交差し、それが偽りでないことを思い知らされた。  鋭き爪牙、大木の如き四肢、強靭な翼を持つ異形の巨獣。『使徒』と呼称される人外の魔物、それがゾッド。  後にグリフィス自身がその『使徒』の上位存在であるゴッド・ハンドへと転生することとなるが、現時点のグリフィスにはその因果の糸は結ばれていない。  故に、いまグリフィスが知る魔的な存在といえば、それはゾッドを置いて他にいない。  そして今日、グリフィスの記憶にまた一つ、ゾッドに続く化け物の項目が追加された。  一人、無人の野を進んでいたグリフィスの前にふらりと現れたその人影は――骸骨であった。  気配も無く視界から骸骨が消える。  視線を上に向ければ、骸骨は今まさに抜刀しグリフィスめがけて落ちて来る。  多少の驚きはあったものの、ゾッドという前例があったためグリフィスはさほど動揺する事無く状況を把握した。  こちらも抜刀しその剣を弾く。腕に走る衝撃が、夢や幻覚の類ではないことを示している。  初撃を防がれ、骸骨は着地と共に後退した。その一歩が、異常なまでに遠い。  まるで宙を滑るように飛び、あっという間に間合いを離される。  機を逃さず反撃に移ろうとしたグリフィスの剣が虚しく空を斬った。 (膂力はオレと大差ない。が、異常なまでに身が軽い……)  この骸骨は、まるでそこに階段があるかのように天高く舞い、剣を振り下ろしてくる。  一度骸骨の剣を受けてわかった。自分の剣はなまくらではないにしろ、この戦場では下から数えた方が早い出来の物なのだろう。  セシリーという女の剣、そしてこの骸骨の剣と比べれば、この長剣は明らかに見劣りするものだった。  刀身に入った僅かな亀裂が、これ以上打ち合えばグリフィス自身の命運が尽きる事を意味している。  土に塗れる事も厭わず、グリフィスは身を投げ出して二撃目を回避した。  二転三転し、起き上がると同時に骸骨から来るであろう斬撃を警戒して剣を構える。  が、予想に反して骸骨はじっとグリフィスを見詰めてくるだけだった。 「ヨホホホ。やはり私には沈黙は似合いませんね。  いえ、あなたが動じなかったのもあるのでしょうが。まさか凌がれるとは思いませんでしたよ」  骸骨は快活に笑う。よくよく観察してみるとその骸骨は奇妙な風体をしていた。  楽士のような黒いスーツにハット、帽子に収まりきらぬ放埓な髪。  白骨が浮き出ていること、肉が無いことさえ考えなければ人のように見えなくもない。  ゾッドとの遭遇が無ければ、グリフィスとて一撃をもらうほどには戸惑っただろう。 「化生の者か。オレに何の用だ?」 「何の用と申しましても、この場では一つしかないでしょう。  まあ、運が悪かったと諦めて下さい。あ、私ブルックと申します。これがホントの冥土の土産、なんちゃって」 「黄泉路から迷い出た亡者が、生者の命を欲するか」 「ヨホホホ。遠目にもあなたの白銀の御髪が眩しかったものですからな。  ほら、私の髪は真っ黒でしょう? 私の顔とは合わないんですよ、白骨だけに」  口調はふざけてはいるが、骸骨――ブルックの眼光はグリフィスの僅かな動きを油断無く捉え離さない。  舌打ちしたい衝動を堪える。うまくない事態だ。  まだ負けると確信するほど劣勢ではないが、この剣の状態では遠からずそうなる事は目に見えている。  視線は自然とブルックの腰に差されたもう一振りの剣へと吸い寄せられた。  その剣の拵えには見覚えがあった。たしかセシリーとか言ったか、最初に出会った女との戦いに割り込んできた少年が携えていた剣だ。  ブルックが構える剣には微かに赤い汚れがあった。つまりはそういう事なのだろう。 「髪が欲しいなら、くれてやる。代わりにその剣を寄こせ」 「おや、この刀をご所望ですか。しかし、それはできませんな……これは私の友人の刀ですので。  あなたには代わりにこちらの剣を差し上げましょう」  と、ブルックは剣を下げゆっくりとこちらへ向かって歩いて来る。  構えも何もない、散歩でもするかのような力の抜けた歩み。  グリフィスはそこに、自らを刈り取ろうとする死神の鎌を幻視した。 「鼻唄三丁……」  ブルックは身が軽い。という事はすなわち、速度にも秀でているという事だ。  あの脚力を突進に回せばどれだけの速度を叩き出すのか、想像もできない。  故にグリフィスは骸骨の動きを目で追う事を諦め、戦場で培ってきた自分の勘と嗅覚に身を預けた。  予想されるブルックの剣の軌跡へ、本能が命じるタイミングで長剣を繰り出す。 「……矢筈斬り!」  結果として、その判断は正解だったようだ。  チン、と鍔鳴りの音がした。  ブルックはグリフィスの傍らを歩いて通過しただけだ。その一瞬の間に、超高速の斬撃をグリフィスへと放ちながら。  ロングソードは中ほどからばっさりと断ち割られた。亀裂の位置に正確に剣をぶつけられたらしい。  それでも骸骨の剣を受け切る事はできず、咄嗟に引き上げた鞘が代わりに砕かれることでグリフィスは生を拾った。  随分と軽くなったロングソードを一瞥し、今度は抑えられず舌打ちを漏らした。 「ヨホホホ、これも避けますか。いやはや恐ろしい。  あなたの剣が業物であったなら、まともに相対するのは肝が冷えますね。ま、私に内臓なんて無いんですが」  すたすたとブルックは間合いを空けていく。  短くなったグリフィスの剣が届く範囲の外へ。これでは踏み込んでも先にこちらが斬られる事となる。  苦境に追い込まれた屈辱がグリフィスの表情を険しくさせた。 「チィッ……!」 「おやおや、落ち着いて下さい。きれいな顔が台無しですよ。  私と違って表情があるんですから。ヨホホホ」  軽口に付き合ってもいられない。これで状況は決定的となったに等しい。  脳裏に撤退の方策をいくつも紡ぎ出すが、どれ一つとして成功する見込みは無いと言っていいだろう。  骸骨から放たれる殺気は、それほどに死を身近に感じさせる物だった。 「とは言え、あなたほどの使い手を生かしておけば厄介な事は明白」  スウ、とブルックが抜刀し、先ほどと同じ構えを取る。  一度凌いだ技とはいえ、防げたのは半分以上が運によるものだ。  短くなった剣では今度こそ受け止めきれない。 「こうして絶対的に不利な状況に追い込まれても、あなたは未だ諦めてはいない。  そういう輩が一番怖いんですよ。だから、確実に……ここで、お命頂戴します」  ゆらり、と骸骨が動く。  技が放たれてからではもう止められない。そうと察したグリフィスは、逆に自分からブルックへ駆け出した。  グリフィスは折れた剣を振り、地に突き立っていたロングソードの刃先を弾いた。  刃は狙い通り骸骨の鼻先へと飛んでいく。 「甘いですよ」  ブルックの剣が一閃し、刃はあえなく弾かれる。  しかしそれはグリフィスの予想の内。  出鼻を挫いた一瞬を逃さず骸骨の懐へと飛び込む。  狙いはブルックの腰にある、もう一振りの剣。 「させません!」  伸ばした手が柄にかかる寸前、スッとグリフィスの視界に影が落ちる。  ブルックは刀を奪われまいと高く宙に舞っていた。  人間にはとても不可能な、まるで鳥のような跳躍。 「この刀は渡さないと言ったでしょう! 飛燕(スワロー)……!」  グリフィスの直上を取ったブルックが反転し、身体ごと剣を突き下ろす体勢を取った。  落下の勢いを利用し、グリフィスを脳天から串刺しにする構えだ。  しかし技の名前を最後まで叫ぶ事はできなかった。  グリフィスを視界に収めたブルックは、同時に自身に迫る白刃の切っ先も目にしていたからだ。 「……くっ!」  ブルックは技を中断し、ぎりぎりのところで頭蓋を貫通するはずだった壊れたロングソードを弾く。  体勢は乱れ、飛燕ボンナバンは不発に終わった。 「追撃を警戒しあらかじめ剣を投げておくとは。やはり油断できない人だ、あなたは。  しかし、これであなたは丸腰! もはや逃がしませ……え?」  立ち上がったブルックが見たものは、敵に背を向け一心不乱に逃走するグリフィスの姿だった。  無心に、無防備に、駆けていく。とはいえ、グリフィスは技量こそ優れていても肉体そのものは人間の範疇を出ない。  稼いだ時間は、ブルックの脚力なら容易く追いつける距離しかもたらしてはくれなかった。 「あらら……見誤りましたか? もうちょっと骨のある方だと思っていましたが……骨しかない私が言うのもなんですが」  というブルックの呟きが聞こえた訳ではないが、グリフィスにとってもこれは賭けだった。  グリフィスが逃げ切るのが先か、ブルックが追い付くのが先か、あるいは―― (お前だったら、どうする……ガッツ)  心中で、追い求める男へと疑問を投げかける。  まあ、答えなど聞かずともわかってはいたが。 (お前なら、敵から逃げるという道を選ぶ事はないんだろう……が、オレはそこまで剣での決着には拘らないんでな)  お前以外は、とはあえて考えない。  後方から凄まじい圧力が吹き付けてきた。予想通りブルックが追ってきたらしい。  折れたロングソードも投擲に使ったため、グリフィスは本当の意味での丸腰だ。  鞄にも武器と呼べる物は入っていない。  絶体絶命の状況。しかし、それでもグリフィスは笑っていた。 (それでも、オレが負けることはない)  今度こそ自身の命を絶つであろう骸骨の鼻唄を背中に受けて――グリフィスは、その身を大地に投げ出した。 (お前以外に負ける事など……いや、お前にもだ。もう負けるつもりは無い。どんな手を使おうともな)  そのグリフィスの頭上を、猛烈な勢いで通過する物があった。  次いで、衝突音。 「なんですとっ!?」  首尾よくブルックに激突し、吹き飛ばしてくれたらしい。  やや余裕を持って身を起こすと、グリフィスとブルックの間に新たな人影が現れていた。  蓬髪を背中でくくった長身の男。そして、ガッツと同じ隻眼。  しかし、無いはずの右目をブルックへ向け、グリフィスを左目で捉えている。  手にするのは頼りない事に鋼鉄の鞘だったが、この男が持つとどうしてかそれは刃に勝るとも劣らない圧迫感があった。 「勢いで介入したが……さて、これはどうしたものかな。まさか動く骸骨に襲われているとは思わなかった」  身に纏う雰囲気と同じ鋭い声で、男はグリフィスとブルック双方へと語りかけてきた。  と言ってもやはり動いて喋る骸骨は警戒に値するのだろう。握った鞘は突き付けるようにブルックへと向けられていた。  ブルックは剣を落としたようで、握っているのは腰に差していたもう一方の剣だった。  とは言え落ちた剣はブルックの後ろにあり、とても奪えはしないだろうが。 「ヨホホホ。これはこれは、まさか新手が来るとは思いませんでしたな」 「と、いう事は……あんたが襲ってる側で、間違いないんだな? まあ、丸腰の奴を追いかけ回している時点で聞くまでもないが」  視線で問われ、グリフィスは首肯する。  自分一人で勝てないのなら他人を巻き込めばいい。  支給された鉄の鏡――周囲にある首輪を映し出すレーダーを用いて、早い段階でグリフィスはこの男の存在を察知していた。  ちなみにブルックが潜んでいる事も事前に分かっていたため、奇襲を受けても平然と対応できたのだ。  そしてブルックに勝利する事が困難と判断した時点で、この男を戦場に引きずり込むべく無様な逃走を演じて見せた。 「さて、二対一、多勢に無勢……と言いたい所ですが、どうしてどうしてあなた方は二人揃ってまともな剣をお持ちでない。  剣のない剣士など、まさに骨抜きですな。あっ、骨が無いのは私ですが!」  そう、問題はそこだ。  鳴り物入りで加勢した男の武器は鞘である。  放り出された見た事もない馬は武器になりそうには見えない。  依然戦況は不利なままだった。 (しかし、それでも……オレの生きる目は出た。オレが奴なら、まず戦える力のある方を倒す)  そうすれば残った者をゆっくりと料理できる。  ブルックもそう考えたようで、刀はグリフィスではなく隻眼の男へと向けられていた。  そろそろと足下の重心を移動させ、いつでも疾走できる体勢を取る。  ブルックが隻眼の男と闘っている間、より遠くへ遁走するために。 (あの馬を奪うか……?)  もちろんの事、グリフィスには男に対する仲間意識など無い。  巻き込んだ事を詫びる気は無いし、共に闘うつもりも無い。  まともな剣を持っていれば話は別だったが、斬られるとわかっている者と運命を共にする愚を犯す気は無かった。 「忠告しておく。命が惜しければ立ち去る事だ」  が、既に戦況に見切りをつけたグリフィスとは真逆に。隻眼の男はブルックへ鋭い言葉を投げつけていた。  そこには自身が斬られる事への恐怖など微塵も感じ取れはしない。 「あれ? あなた、もしかして私に勝てる気でいらっしゃいますか?  さすがにそれは少し見込みが甘いと言わざるを得ませんが……」 「そりゃあ、俺では勝てないだろうさ。だが、こう考えてみるといい。  俺がここに来たのはお前を倒すためじゃない。こうしてお前を足止めする事が目的だ、とな」  隻眼の男が、口に指を当て鋭く息を吐く。  指笛。ピュイッと、高く澄んだ音が駆け抜ける。 「……!」  その音が消える刹那に、変化は起こった。  男がやってきた方角から、目も眩むような輝きが照りつけてきたのだ。  それは決して、夜が明け顔を出した太陽の輝きではない。北から照らす陽光の日差しなど有り得ない。  光はまるで波のように大地を走り、中途にある物を吹き飛ばしていく。  思わず顔を庇ったグリフィスは、まるで大砲でも打ち込まれたかのようにめくり上がった大地の溝を目撃した。 「もうすぐ、あれを放った俺の仲間が到着する。さて、お前はそんな奴相手に勝てる気でいるのかな?」  その言葉に、ブルックは数瞬思案する様子を見せ―― 「……止めておきましょう。ここであなた方を斬るのは簡単ですが、そうすれば同時に私も果てる事になる。  骨折り損の草臥れ儲け、というやつですな。折れるのは骨ではなく私の命では、割に合わない」  刀を納めないまま、ブルックはゆるゆると後退していく。  言葉通り、ブルックがグリフィスと隻眼の男を斬るのは容易な事だろう。  しかし当然、二人は無抵抗ではない。数秒、あるいは数十秒か、時間を浪費する事になる。  そしてその数十秒で、あの光を放った人物はここに到着する。  それはすなわち、ブルックの敗北を意味している。  撤退を決めて下がるブルックが後ろ手に落ちた刀を回収しようとしたとき、隻眼の男は動いた。 「……ふっ!」  動いた、と言ってもグリフィスにその動きを捉える事は出来なかった。  男は視界から一瞬消えて、同じく一瞬でブルックへと攻撃を叩き込もうとしていたのだ。 「何っ!」 「そいつは置いていってもらおう!」  男は、ブルックが刀を拾うほんの僅かな隙を見逃さず、鞘で打ちかかった。  ブルックもさすがの反応を見せ、すんでのところでかわす。  だが、刀は拾えなかった。 「このっ……!」 「もたもたしている時間があるか!? ほら、来たぞ……『雷神』がな!」  男が指し示すは、彼方から来たる一人の剣士。  ブルックのみを貫く視線の、なんと苛烈なことか。  その眼光を横から垣間見ただけのグリフィスでさえ、直感する。 (……強いッ!!)  かつてこれほどに脅威を感じたのは、まさにあの不死者ゾッドと闘って以来――それも、巨獣となったあのゾッドの方と、だ。  比べればみすぼらしいとさえ言えるほどに小さな影に、あるいは不死者をも凌駕しかねないほどの圧倒的な力を感じた。 「……っ、どうやらしてやられたようですね。いいでしょう、ここは退きましょう!  ですが私は諦めませんよ。骨が舎利になってもきっと、生き残ってみせる……!」  刀を回収する事を諦め、ブルックは身を翻し駆け去っていく。  隻眼の男は追わず、ブルックの残した刀を回収して自らが携えていた鞘へと納刀した。 「ふう……何とか、なったな」 「礼を言う。おかげで助かった」  お前を見捨てるつもりだったなどとはおくびにも漏らさず、グリフィスは隻眼の男へと近寄っていく。  危険を冒して介入してきたという事は、あの少年と同じく闘いを止めるために動いているのだろう。  この男自身も相当の手練であるし、未だにグリフィスは丸腰である。  何より鬼気を収め歩み寄って来る剣士――老人に、今はまだ勝てる気がしない。  故にグリフィスは牙を隠し、殺戮者に襲われた一被害者としての仮面を被る。 「オレはグリフィスと言う。君は?」 「俺はイナズマ。そしてあのご老人はシド、シドルファス・オルランドゥというそうだ。  俺も会ったばかりだが……闘いの気配を感じたんでな。話もそこそこに、協力してもらった」  イナズマは老人に手を振る。  老人もまた軽く手を上げ、応えた。 (どうやらこの戦場は、一人で生き抜けるほど容易いものでは無いようだ。ならば)  ガッツと再び出会うためにも、死ぬ訳にはいかない。  たとえ偽りの自分を演じる事となっても――  グリフィスが差し出した手を、イナズマが強く握り返してくる。  シドと呼ばれた老人が間近に来て、グリフィスとイナズマを心配する素振りを見せた。  老人はやはり無闇に敵対する意識を見せない。  これでいい。  駒は手に入った。後はうまく手綱を握るのみだ。 (利用して見せるさ、どんな存在であろうとな……!)  奥底に眠る熱い情念を押し殺し、グリフィスは微笑む。  決意は、新しい朝の訪れと共に。 【E-4 草原/一日目/黎明】 【グリフィス@ベルセルク】 【状態】疲労(中) 【装備】なし 【道具】支給品、首輪探知レーダー 【思考】基本:ガッツを俺の物にする。  1:当面は他者を利用し、安全を確保する。剣が欲しい。  2:ガッツを見つける。  3:ガッツと闘い、倒して俺の物にする。 [備考]  ※登場時期は12巻~13巻辺りでガッツに敗北~拷問される直前のどこか。  ※レーダーの有効範囲は自分のいるエリアのみ、三時間ごとに一度だけ使用可能(厳密な時間経過ではなく、深夜・黎明などの時間区分け)。  ※ロングソード@FF5 は破壊され、E-4エリアに落ちています。 【高代亨@ブギーポップシリーズ】 【状態】疲労(小)、能力の不調に違和感あり 【装備】ドラゴントゥース@テイルズ オブ ファンタジア、稲妻の剣の鞘@DQ2 【道具】基本支給品、ウェイバー@ONE PIECE 【思考】基本:戦う力のない者を守る。  1:グリフィス、シドと話す。  2:島の南側を探索して殺し合いに乗らない参加者や首輪を解除できる者を探す。(対象が強ければ別行動、弱ければ同行して守る)  3:次回放送時に伊達政宗とD-4で合流する。(合流できなければ次の放送時に改めて合流する)  4:ブラッドレイを警戒。  5:死ぬなよ…政宗。 【備考】  ※『イナズマ』能力を使用している間は徐々に疲労が増加。  ※今のところ本名を名乗るつもりはない。 【シドルファス・オルランドゥ@ファイナルファンタジータクティクス】 【状態】疲労(小) 【装備】ヴォーパルソード@テイルズ オブ ファンタジア 【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、詳細不明) 【思考】基本:できるだけ犠牲を出さずに戦いを終わらせる。  1:イナズマ、グリフィスと接触する  2:ルカヴィに準ずるような、人間でない者を倒す。  3:人間の仲間を集める。 【F-5/草原/一日目/黎明】 【ブルック@ONE PIECE】 【状態】 健康、疲労(大)  【装備】和道一文字 【道具】支給品×2、謎の鍵 携帯電話  首輪 平賀才人の衣服 【思考】基本:生き延びて約束を果たす   1:優勝して元の世界に帰る   2:休む [備考]  ※参戦時期はスリラーバークで影を取り戻した直後です ---- |BACK||NEXT| |043:[[刃の亀裂]]|投下順|045:[[仲間]]| |043:[[刃の亀裂]]|時系列順|045:[[仲間]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |002:[[最後の悪あがき/愛情か友情か憎しみか/騎士の誇りを胸に/とある魔眼の殺人鬼]]|グリフィス|000:[[]]| |032:[[人間だもの]]|ブルック|000:[[]]| |028:[[サムライ]]|イナズマ|000:[[]]| |015:[[砂漠の決斗! 雷神vs烈火の将]]|シド|000:[[]]| ----

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