「哀しき鼻唄」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

哀しき鼻唄」(2010/08/10 (火) 12:14:21) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

**哀しき鼻唄◆oOOla1DQxY 市街地と城を取り囲むようにそびえ立つ外壁のそばで、少女が一人うずくまっていた。 年の頃は十代前半といったところだろうか。その表情は硬く、ひどく青ざめている。 「う、……っ」 この場所に飛ばされる直前の惨劇を思い出し、少女──鳳凰寺風は思わず口元を右の手で押さえた。 人が、死んだ。それもあっけなく、残酷に。 あの時少女は不幸にも集団の前方におり、事の一部始終を鮮明に見てしまっていたのだ。 「光さん……海、さん……」 初めにいた場所からここに転移させられる直前のこと。ほんの一瞬ではあったが、風は異世界セフィーロで心を通わせあった親友2人の姿を確認している。 それなのに、ロワと名乗った女性はあろうことか最後の一人になるまで殺しあえと言い放ったのである。 人を殺す事なんてできない。まして………… ──ん~んん~~、ん~んん~ん~ ♪ 不意に聞こえた何者かの声にはっとし、風は身を固くした。 (もしもあの声の持ち主が殺し合いに乗っているような方だったら……) 深夜で視認がしづらいとはいえ、見通しがいい道路沿いにいるのだ。さらに声は市街地の方から聞こえており、建物の影に隠れようにもそこへ移動するまでに気付かれてしまう可能性が高い。 どうすれば、と半ばパニックを起こしかけそうになる心を奮い起こし、己のすぐ傍に置かれていたデイパックを探りだす。 あの女性によって『説明』されたルールによれば、最低でも一つは武器──剣が入っているはず。何が起こるか分からない以上、警戒するべきだと判断したのだ。 こうしている間にも謎の声……もとい鼻唄は近づいてきている。少女の緊張は否応なしに高まっていった。 (剣は魔法騎士としての私のものしか扱ったことがないけれど……) そして取り出したのは、両手でも片手でも使用できることから片手半剣とも呼ばれる全長120センチほどの西洋剣、バスタード・ソード。 (っ、重たい……) その平均的な重さは約2,2キログラム。大の大人ならともかく年頃の少女が扱うには少々荷が過ぎる代物である。 (でも、やるしかない) しかし短い間ながらも慣れ親しんだ形状の剣でよかった、と頭の片隅で風は思った。 剣先を地面につけるようにして構え──長時間持ち上げて構えることは少女の細腕には厳しかった──、ぼんやりとだがこちらへと歩いてきているらしい人影をその視界に収める。 (光さん、海さん……私に、力を貸して!) 逃げる事も隠れる事もできないのなら、迎え撃つのみ。先手必勝、と風は声を張り上げた。 「そこにいるのはどなたですか!!」 ──ん~んん~~、ん~んん~……ん? どうやら鼻唄の主はこちらが声を張り上げるまで気付いていなかったようだ。人影は歩みを止めると、その頭を少女のいる方向へと向ける。 その影が黒ずくめの格好をしているからだろうか、それとも月明かりのいたずらか。やけに白い顔の人物もいたものだ、と風はぼんやりと考えた。 ──確かこっちから声が聞こえたような…… (……え、) 事実は小説よりも奇なり。人影がだんだん近づいてくるにくれ、風は昔の格言を思い知る事となった。 背格好からして男なのだろう。それはいい。黒いスーツにアフロヘア、シルクハットが意外と似合っている。これも問題ない。 「……おお! 貴女のようなお嬢さんと出会えるなんて、私はなんと幸せなのだろう!! ……おっと失礼、自己紹介がまだでした。“死んで骨だけ”ブルックです!!」 (導師クレフ、こんなことって……こんなことってあるのでしょうか?) 剣を取り落として取り乱すなどという失態を犯さなかった事に少女は自分を誉めたくなった。とはいえ、その胸中は異世界での恩師に思わず問い掛けてしまう程度には混乱していたのだが。 「あ、そうだ。一つお願いしたいことがあるのですが……」 セフィーロというファンタジー世界での経験をもってしても、はたしてこのような事が起こりうるなど想像できただろうか。 「パンツ見せて貰ってもよろしいですか?」 (開口一番にセクハラ発言をする、アフロを生やした動くガイコツが存在するなんて……っ!!!) 直後、風は剣を置いて己のデイパックをむんずと掴むと、手にしたそれを緊張の反動やら羞恥その他諸々の感情の赴くままにブルックの顔へ叩き付けるという、普段の彼女からはとても考えられない行動を取ったことを付け加えておく。 「それでは、この場所にブルックさんのお知り合いはいらっしゃらないのですね」 「ええ。この場に連れて来られてもおかしくない者には一名ほど心当たりがありますが、少なくともあの場所で見かける事はありませんでした。って私、目ないんですけどー!」 「は、はぁ……」 あれから数分後、そこには仲良く情報交換をしあっている二人の姿が!(某番組ナレーション風) 「ところでフウさん、貴女はこれからどうするおつもりなんです?」 「私は……。先程申し上げた通り、私は殺し合いなどしたくありません。光さんや海さんと一緒に、無事に東京へ帰りたい。今思い浮かぶのはそれだけです。  ……ただ、もう二度とあんな悲しい出来事が起きてはいけない。それだけは確かですわ」 「……あの騎士のような、ですか」 「……はい」 始まりの場所で無惨にも命を奪われた、フレンと呼ばれた騎士らしき青年。しかし風の脳裏に浮かんでいたのは何も彼だけではなかった。 (エメロード姫……) ザガートを倒したことで無事東京へ帰れる。そう思っていた魔法騎士たちを待ち受けていたのは、その称号を持つ者の真の使命であった。 世界の平穏のみを願わなければならない身でありながら一人の男を愛する事を知ってしまった『柱』を殺さなければ、風たち三人は東京へ帰る事が叶わなかったのである。 誰かの願いや幸せのために他の誰かが犠牲になるということ。それは魔法騎士たちの心に深い傷を残し、よって風にはどうしても受け入れる事が出来なかったのだ。 「そうですか……。出来ることなら私もご一緒してヒカルさんやウミさんを捜してさしあげたい! ですが、あいにくと私にはせねばならない事がありまして。……申し訳ありません」 「いいえ、そんな! そのお心遣いだけでとても嬉しいですわ」 「そう言っていただけると助かります。では、私はこの辺で。……あ、そうだ。ここで会ったのも何かの縁! これを貴女にお贈りしましょう!!」 そういって立ち上がったブルックは、自身のデイパックから手のひら大の何かを取り出すと風に手渡した。 「これは……ぬいぐるみ?」 「ヨホホホ、私が持っていても不気味なだけでしょう? その人形だって貴女のようなお嬢さんに持ってもらう方が嬉しいでしょうし、ね」 可愛らしくデフォルメされた、赤いマントとバンダナを身につけた少年の姿をしたそれはどうやら誰かの手作りのようだった。 「それじゃあ、ありがたく頂戴いたしますね。……そうですわ! 私だけが頂くのも何なので、少しだけ待って頂けますか?」 そう言うと、風はブルックに背を向け己のデイパックを漁り始めた。 (暗くてよく見えませんね……) 微かな月明かりではよく見えず、目当ての物を取り出すのに苦労している時だった。 ──そこの女の子、危ない!! (え?) 後ろにいるブルックのものでも、まして自分のものでもない声が少し離れた場所から聞こえたかと思うと、 ──鳳凰っ 突然、周囲がかがり火を焚いたかのように明るくなる。 「天駆!!」 どこからか現れた火の鳥はそれまで暗闇に慣れていた少女の目をくらませるには充分過ぎた。 (いったい何が?!) 直視はしていなかった分、ものの数秒で視界が戻ってきたのは幸いだった。そしてそこに映った己を守るように刀を構える何者かの後ろ姿に、風は驚きを隠せなかった。 それもその筈。デフォルメとリアルの差こそあれ、その人物はつい先程ブルックから貰った人形と全く同じ姿形だったのだから。 その光景をクレス・アルベインが見たのは偶然だった。 しゃがみ込んで何かをしているらしき少女の後ろに黒ずくめの人物──恐らくは男だろう──が立っている。 (何かイヤな予感がする) 宿敵ダオスを倒すための旅で培われた戦士としての勘だったのか、あるいは俗に言う『虫の知らせ』だったのか。それを見た時、胸の内に何か引っかかるものを感じ取った。 そして何かを握りしめている男の左手が血の通った人間のそれではない事に気付くと、クレスは二人目掛けて走り出した。 その間にも男の腕は動き、手にしている何かを胸元で水平に構えている。それに少女が気付いている様子はない。 このままだと少女が危ないが、少年と二人の間にはまだ距離がある。時間がなかった。 魔神剣で牽制? 剣圧が向こうへ届く頃には手遅れになっているだろう。 空間翔転移で直接叩くか? 発動までには一呼吸以上の時間が必要、論外だ。 (どうか間に合ってくれ……っ!) 「そこの女の子、危ない!!」 ならば向こうの意識をこちらに向けさせることで時間を稼ぐ、これしかない。それにあの技を使えば移動しつつ攻撃も行える。 「鳳凰っ」 予め身につけていた刀を鞘から抜いて大地を蹴り、跳び上がる。少女を助けるという想いを剣気に変え、さらに炎に変えて全身に纏う。 「天駆!!」 そして刀を突き出し、そのまま滑空しながら急降下。名に冠する火の鳥の如き一撃はしかし男を捕らえる事はなかった。男が少年の想像していた以上に身軽な動きで後ろへ跳び退いたからである。 しかし少女から引き離すことには成功している。ひとまずはそれで良しとし、クレスは相対する者を注意深く観察した。 (服を身につけたスケルトン、あるいはドラゴントゥース……どうしてここにモンスターが?) しかしその疑問はすぐに解消する。首もとを覆っているスカーフの影から、自分達のそれより小振りな首輪が頸骨にはめられているのが見えたからだ。 (つまり、こいつも僕らと同じ参加者。それも、ロワの説明が確かなら剣士ってことになる……) 考えてみれば不可解な点があった。もしモンスターならば問答無用で襲いかかって来るはず、いかな少女とて無防備に背中をさらしたりはしないだろう、と。 現に目の前の骸骨はそんなそぶりを見せもせず鞘に収まったままの得物を左手に持ち、静かにこちらの様子をうかがっているのみ。 「……一つだけ答えて欲しい。お前は『ゲームに乗って』いるのか?」 だからこそクレスは口を開いた。目の前に立つ人にあらざる者が取った行動の真意を問うために。 「待って下さい、その方は……ブルックさんは危険な方ではありません!」 風は声を荒げた。 確かにブルックは魔物と間違われてもおかしくない外見をしている。目の前の少年はきっと、自分が襲われていたと勘違いをしているのだろうと考えた故の言動である。 「でも僕は確かに見たんだ。しゃがみ込んで何かをしている君の背に、手にしている剣を突き立てようとしていたところを」 「え……?」 思わずブルックを見上げる風。まだ名も知らぬ少年剣士が警戒の構えをゆるめる様子はなく、当のブルック本人は沈黙を貫いていた。 「……お答えする前に、貴方の名前をお聞かせ願えませんか」 「……クレス。クレス・アルベイン」 そのまま数秒は経っただろうか。沈黙を破ったのは問い掛けられた骸骨剣士。 「クレスさん、ですか……。貴方の仰る通りです。確かに私はそちらのお嬢さん……フウさんの命を奪うため、この剣を構えていました」 「そんな、ブルックさん……っ」 「っ……。それが、お前の答えなんだな? ブルック」 (どうして) 頭が思うように働かない、声を出す事が出来ない。足の力が抜け、そのまま舗装道路に座り込む。この時、風の心は衝撃と悲しみで白く塗りつぶされていた。 「フウさん。貴女を騙していた私が言うのもおこがましいですが、私を恨んでくださって構いません。……まことに申し訳ありませんが、あなた方には死んでいただきます」 ブルックが剣を抜いて構えるのにあわせ、クレスと名乗った少年も刀を正眼に構え直す。 「……どう、して」 そして少女の呟きを皮切りに、相対する剣士は同時に地を蹴った。    ギィン!! 「どうして殺し合いに乗るんだ! ロワと名乗ったあの女の言う事を信じているとでも!?」 「私には何としてでも果たさねばならない『約束』がある! そのためには生きてここを出なければならないのです!!」 ぶつかり合うこと、一合。ブルックが持つ竜牙兵の名を持つ直剣とクレスが持つニバンボシという銘の刀がぎりぎりと鍔競りあう。 「ならッ、どうして立ち向かおうと思わない!? みんなが助かる道を考えようとしないんだ!?」 膠着状態が続く中、クレスはあることに気が付いていた。剣士の魂ともいえる剣同士が触れあっている今、その違和感をはっきりと感じ取る事ができたのだ。 (口では殺すと言っていた割に殺気があまり感じられない……? いや、これは殺気というよりもむしろ……) 「死合いの最中だというのに考え事とは、とんだ余裕の持ち主ですね……ッ!!」 (ッ! しまった!!)    キイィッ!! それは剣士として致命的な隙。想像以上の力で刀を押し払われてバランスを崩し、クレスは二、三歩たたらを踏む。 (くッ、ここまでなのか……っ!) だが、死を覚悟した少年にとどめの一撃が来る事はなかった。間合いを広げたブルックが攻撃の手を止めていたからである。 「……若いというのは素晴らしい。あなた方のように夢を持ち、それを力に羽ばたく事ができるのですから」 ブルックは話を続ける。 「私は、そのような夢を持つには年老い過ぎてしまいました……。  皆が助かる道? そのようなものがあるのなら……およそ50年前、私は独りこの姿になってでも生き延びようと考えたりはしなかった!!」 「?!」 クレスの身体は金縛りに遭ったかのように動かなくなった。いや、魂の慟哭を前にして動けなくなったのだ。 「……おしゃべりが過ぎてしまいましたね。  これで終わりです」 竜の牙がクレスに襲いかかる。 「『戒めの風』!!」 しかしその身体に届く事はなかった。 質量のある風がブルックの身体にまとわりつき、捕らえていたのである。 「フウ、さん……」 「ブルックさん。どうか、ここは退いて頂けないでしょうか?」 ブルックの顔を見つめ、静かに涙しながら風は語る。 「もう、嫌なんです。誰かの為に誰かが傷つけたり、傷ついたりするのは……っ」 そして、静かにくずおれた。『魔法』の行使者が気を失い、ほどなくブルックを戒めていた風もかき消える。 その様を、クレスはただ見ていることしかできなかった。 【鳳凰寺 風@魔法騎士レイアース】 【状態】 健康、精神疲労(極大) 気絶中 【装備】 バスタード・ソード@現実 【道具】支給品、 マスコット(@テイルズオブファンタジア)、ランダムアイテム×1 【思考】基本:光、海と共に生きて東京に帰る。   1: 誰かの為に誰かが傷つけたり、傷ついたりするのは嫌だ   2: ブルックには殺し合いに乗らないでいて欲しい  [備考]   ※参戦時期はエメロードを撃破して東京に帰った後(第一章終了後)です 【クレス・アルベイン@テイルズオブファンタジア】 【状態】 健康、疲労(少)  【装備】 ニバンボシ@テイルズオブヴェスペリア 【道具】支給品、 ランダムアイテム×1 【思考】基本:仲間を募り、会場から脱出する   1: いったい何が起こったのかを知りたい  [備考]   ※参戦時期は本編終了後です 【ブルック@ONE PIECE】 【状態】 健康、疲労(小)  【装備】 ドラゴントゥース@テイルズオブファンタジア 【道具】支給品 【思考】基本:生き延びて約束を果たす   1: 優勝して元の世界に帰る   2: フウの言葉を受け入れるか考える  [備考]   ※参戦時期はスリラーバークで影を取り戻した直後です ---- |BACK||NEXT| |017:[[最強の聖剣]]|投下順|019:[[ロッキー]]| |017:[[最強の聖剣]]|時系列順|020:[[闇に輝く光]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |&color(blue){GAME START}|鳳凰寺 風|:[[]]| |&color(blue){GAME START}|クレス・アルベイン|:[[]]| |&color(blue){GAME START}|ブルック|:[[]]| ----
**哀しき鼻唄◆oOOla1DQxY 市街地と城を取り囲むようにそびえ立つ外壁のそばで、少女が一人うずくまっていた。 年の頃は十代前半といったところだろうか。その表情は硬く、ひどく青ざめている。 「う、……っ」 この場所に飛ばされる直前の惨劇を思い出し、少女──鳳凰寺風は思わず口元を右の手で押さえた。 人が、死んだ。それもあっけなく、残酷に。 あの時少女は不幸にも集団の前方におり、事の一部始終を鮮明に見てしまっていたのだ。 「光さん……海、さん……」 初めにいた場所からここに転移させられる直前のこと。ほんの一瞬ではあったが、風は異世界セフィーロで心を通わせあった親友2人の姿を確認している。 それなのに、ロワと名乗った女性はあろうことか最後の一人になるまで殺しあえと言い放ったのである。 人を殺す事なんてできない。まして………… ──ん~んん~~、ん~んん~ん~ ♪ 不意に聞こえた何者かの声にはっとし、風は身を固くした。 (もしもあの声の持ち主が殺し合いに乗っているような方だったら……) 深夜で視認がしづらいとはいえ、見通しがいい道路沿いにいるのだ。さらに声は市街地の方から聞こえており、建物の影に隠れようにもそこへ移動するまでに気付かれてしまう可能性が高い。 どうすれば、と半ばパニックを起こしかけそうになる心を奮い起こし、己のすぐ傍に置かれていたデイパックを探りだす。 あの女性によって『説明』されたルールによれば、最低でも一つは武器──剣が入っているはず。何が起こるか分からない以上、警戒するべきだと判断したのだ。 こうしている間にも謎の声……もとい鼻唄は近づいてきている。少女の緊張は否応なしに高まっていった。 (剣は魔法騎士としての私のものしか扱ったことがないけれど……) そして取り出したのは、両手でも片手でも使用できることから片手半剣とも呼ばれる全長120センチほどの西洋剣、バスタード・ソード。 (っ、重たい……) その平均的な重さは約2,2キログラム。大の大人ならともかく年頃の少女が扱うには少々荷が過ぎる代物である。 (でも、やるしかない) しかし短い間ながらも慣れ親しんだ形状の剣でよかった、と頭の片隅で風は思った。 剣先を地面につけるようにして構え──長時間持ち上げて構えることは少女の細腕には厳しかった──、ぼんやりとだがこちらへと歩いてきているらしい人影をその視界に収める。 (光さん、海さん……私に、力を貸して!) 逃げる事も隠れる事もできないのなら、迎え撃つのみ。先手必勝、と風は声を張り上げた。 「そこにいるのはどなたですか!!」 ──ん~んん~~、ん~んん~……ん? どうやら鼻唄の主はこちらが声を張り上げるまで気付いていなかったようだ。人影は歩みを止めると、その頭を少女のいる方向へと向ける。 その影が黒ずくめの格好をしているからだろうか、それとも月明かりのいたずらか。やけに白い顔の人物もいたものだ、と風はぼんやりと考えた。 ──確かこっちから声が聞こえたような…… (……え、) 事実は小説よりも奇なり。人影がだんだん近づいてくるにくれ、風は昔の格言を思い知る事となった。 背格好からして男なのだろう。それはいい。黒いスーツにアフロヘア、シルクハットが意外と似合っている。これも問題ない。 「……おお! 貴女のようなお嬢さんと出会えるなんて、私はなんと幸せなのだろう!! ……おっと失礼、自己紹介がまだでした。“死んで骨だけ”ブルックです!!」 (導師クレフ、こんなことって……こんなことってあるのでしょうか?) 剣を取り落として取り乱すなどという失態を犯さなかった事に少女は自分を誉めたくなった。とはいえ、その胸中は異世界での恩師に思わず問い掛けてしまう程度には混乱していたのだが。 「あ、そうだ。一つお願いしたいことがあるのですが……」 セフィーロというファンタジー世界での経験をもってしても、はたしてこのような事が起こりうるなど想像できただろうか。 「パンツ見せて貰ってもよろしいですか?」 (開口一番にセクハラ発言をする、アフロを生やした動くガイコツが存在するなんて……っ!!!) 直後、風は剣を置いて己のデイパックをむんずと掴むと、手にしたそれを緊張の反動やら羞恥その他諸々の感情の赴くままにブルックの顔へ叩き付けるという、普段の彼女からはとても考えられない行動を取ったことを付け加えておく。 「それでは、この場所にブルックさんのお知り合いはいらっしゃらないのですね」 「ええ。この場に連れて来られてもおかしくない者には一名ほど心当たりがありますが、少なくともあの場所で見かける事はありませんでした。って私、目ないんですけどー!」 「は、はぁ……」 あれから数分後、そこには仲良く情報交換をしあっている二人の姿が!(某番組ナレーション風) 「ところでフウさん、貴女はこれからどうするおつもりなんです?」 「私は……。先程申し上げた通り、私は殺し合いなどしたくありません。光さんや海さんと一緒に、無事に東京へ帰りたい。今思い浮かぶのはそれだけです。  ……ただ、もう二度とあんな悲しい出来事が起きてはいけない。それだけは確かですわ」 「……あの騎士のような、ですか」 「……はい」 始まりの場所で無惨にも命を奪われた、フレンと呼ばれた騎士らしき青年。しかし風の脳裏に浮かんでいたのは何も彼だけではなかった。 (エメロード姫……) ザガートを倒したことで無事東京へ帰れる。そう思っていた魔法騎士たちを待ち受けていたのは、その称号を持つ者の真の使命であった。 世界の平穏のみを願わなければならない身でありながら一人の男を愛する事を知ってしまった『柱』を殺さなければ、風たち三人は東京へ帰る事が叶わなかったのである。 誰かの願いや幸せのために他の誰かが犠牲になるということ。それは魔法騎士たちの心に深い傷を残し、よって風にはどうしても受け入れる事が出来なかったのだ。 「そうですか……。出来ることなら私もご一緒してヒカルさんやウミさんを捜してさしあげたい! ですが、あいにくと私にはせねばならない事がありまして。……申し訳ありません」 「いいえ、そんな! そのお心遣いだけでとても嬉しいですわ」 「そう言っていただけると助かります。では、私はこの辺で。……あ、そうだ。ここで会ったのも何かの縁! これを貴女にお贈りしましょう!!」 そういって立ち上がったブルックは、自身のデイパックから手のひら大の何かを取り出すと風に手渡した。 「これは……ぬいぐるみ?」 「ヨホホホ、私が持っていても不気味なだけでしょう? その人形だって貴女のようなお嬢さんに持ってもらう方が嬉しいでしょうし、ね」 可愛らしくデフォルメされた、赤いマントとバンダナを身につけた少年の姿をしたそれはどうやら誰かの手作りのようだった。 「それじゃあ、ありがたく頂戴いたしますね。……そうですわ! 私だけが頂くのも何なので、少しだけ待って頂けますか?」 そう言うと、風はブルックに背を向け己のデイパックを漁り始めた。 (暗くてよく見えませんね……) 微かな月明かりではよく見えず、目当ての物を取り出すのに苦労している時だった。 ──そこの女の子、危ない!! (え?) 後ろにいるブルックのものでも、まして自分のものでもない声が少し離れた場所から聞こえたかと思うと、 ──鳳凰っ 突然、周囲がかがり火を焚いたかのように明るくなる。 「天駆!!」 どこからか現れた火の鳥はそれまで暗闇に慣れていた少女の目をくらませるには充分過ぎた。 (いったい何が?!) 直視はしていなかった分、ものの数秒で視界が戻ってきたのは幸いだった。そしてそこに映った己を守るように刀を構える何者かの後ろ姿に、風は驚きを隠せなかった。 それもその筈。デフォルメとリアルの差こそあれ、その人物はつい先程ブルックから貰った人形と全く同じ姿形だったのだから。 その光景をクレス・アルベインが見たのは偶然だった。 しゃがみ込んで何かをしているらしき少女の後ろに黒ずくめの人物──恐らくは男だろう──が立っている。 (何かイヤな予感がする) 宿敵ダオスを倒すための旅で培われた戦士としての勘だったのか、あるいは俗に言う『虫の知らせ』だったのか。それを見た時、胸の内に何か引っかかるものを感じ取った。 そして何かを握りしめている男の左手が血の通った人間のそれではない事に気付くと、クレスは二人目掛けて走り出した。 その間にも男の腕は動き、手にしている何かを胸元で水平に構えている。それに少女が気付いている様子はない。 このままだと少女が危ないが、少年と二人の間にはまだ距離がある。時間がなかった。 魔神剣で牽制? 剣圧が向こうへ届く頃には手遅れになっているだろう。 空間翔転移で直接叩くか? 発動までには一呼吸以上の時間が必要、論外だ。 (どうか間に合ってくれ……っ!) 「そこの女の子、危ない!!」 ならば向こうの意識をこちらに向けさせることで時間を稼ぐ、これしかない。それにあの技を使えば移動しつつ攻撃も行える。 「鳳凰っ」 予め身につけていた刀を鞘から抜いて大地を蹴り、跳び上がる。少女を助けるという想いを剣気に変え、さらに炎に変えて全身に纏う。 「天駆!!」 そして刀を突き出し、そのまま滑空しながら急降下。名に冠する火の鳥の如き一撃はしかし男を捕らえる事はなかった。男が少年の想像していた以上に身軽な動きで後ろへ跳び退いたからである。 しかし少女から引き離すことには成功している。ひとまずはそれで良しとし、クレスは相対する者を注意深く観察した。 (服を身につけたスケルトン、あるいはドラゴントゥース……どうしてここにモンスターが?) しかしその疑問はすぐに解消する。首もとを覆っているスカーフの影から、自分達のそれより小振りな首輪が頸骨にはめられているのが見えたからだ。 (つまり、こいつも僕らと同じ参加者。それも、ロワの説明が確かなら剣士ってことになる……) 考えてみれば不可解な点があった。もしモンスターならば問答無用で襲いかかって来るはず、いかな少女とて無防備に背中をさらしたりはしないだろう、と。 現に目の前の骸骨はそんなそぶりを見せもせず鞘に収まったままの得物を左手に持ち、静かにこちらの様子をうかがっているのみ。 「……一つだけ答えて欲しい。お前は『ゲームに乗って』いるのか?」 だからこそクレスは口を開いた。目の前に立つ人にあらざる者が取った行動の真意を問うために。 「待って下さい、その方は……ブルックさんは危険な方ではありません!」 風は声を荒げた。 確かにブルックは魔物と間違われてもおかしくない外見をしている。目の前の少年はきっと、自分が襲われていたと勘違いをしているのだろうと考えた故の言動である。 「でも僕は確かに見たんだ。しゃがみ込んで何かをしている君の背に、手にしている剣を突き立てようとしていたところを」 「え……?」 思わずブルックを見上げる風。まだ名も知らぬ少年剣士が警戒の構えをゆるめる様子はなく、当のブルック本人は沈黙を貫いていた。 「……お答えする前に、貴方の名前をお聞かせ願えませんか」 「……クレス。クレス・アルベイン」 そのまま数秒は経っただろうか。沈黙を破ったのは問い掛けられた骸骨剣士。 「クレスさん、ですか……。貴方の仰る通りです。確かに私はそちらのお嬢さん……フウさんの命を奪うため、この剣を構えていました」 「そんな、ブルックさん……っ」 「っ……。それが、お前の答えなんだな? ブルック」 (どうして) 頭が思うように働かない、声を出す事が出来ない。足の力が抜け、そのまま舗装道路に座り込む。この時、風の心は衝撃と悲しみで白く塗りつぶされていた。 「フウさん。貴女を騙していた私が言うのもおこがましいですが、私を恨んでくださって構いません。……まことに申し訳ありませんが、あなた方には死んでいただきます」 ブルックが剣を抜いて構えるのにあわせ、クレスと名乗った少年も刀を正眼に構え直す。 「……どう、して」 そして少女の呟きを皮切りに、相対する剣士は同時に地を蹴った。    ギィン!! 「どうして殺し合いに乗るんだ! ロワと名乗ったあの女の言う事を信じているとでも!?」 「私には何としてでも果たさねばならない『約束』がある! そのためには生きてここを出なければならないのです!!」 ぶつかり合うこと、一合。ブルックが持つ竜牙兵の名を持つ直剣とクレスが持つニバンボシという銘の刀がぎりぎりと鍔競りあう。 「ならッ、どうして立ち向かおうと思わない!? みんなが助かる道を考えようとしないんだ!?」 膠着状態が続く中、クレスはあることに気が付いていた。剣士の魂ともいえる剣同士が触れあっている今、その違和感をはっきりと感じ取る事ができたのだ。 (口では殺すと言っていた割に殺気があまり感じられない……? いや、これは殺気というよりもむしろ……) 「死合いの最中だというのに考え事とは、とんだ余裕の持ち主ですね……ッ!!」 (ッ! しまった!!)    キイィッ!! それは剣士として致命的な隙。想像以上の力で刀を押し払われてバランスを崩し、クレスは二、三歩たたらを踏む。 (くッ、ここまでなのか……っ!) だが、死を覚悟した少年にとどめの一撃が来る事はなかった。間合いを広げたブルックが攻撃の手を止めていたからである。 「……若いというのは素晴らしい。あなた方のように夢を持ち、それを力に羽ばたく事ができるのですから」 ブルックは話を続ける。 「私は、そのような夢を持つには年老い過ぎてしまいました……。  皆が助かる道? そのようなものがあるのなら……およそ50年前、私は独りこの姿になってでも生き延びようと考えたりはしなかった!!」 「?!」 クレスの身体は金縛りに遭ったかのように動かなくなった。いや、魂の慟哭を前にして動けなくなったのだ。 「……おしゃべりが過ぎてしまいましたね。  これで終わりです」 竜の牙がクレスに襲いかかる。 「『戒めの風』!!」 しかしその身体に届く事はなかった。 質量のある風がブルックの身体にまとわりつき、捕らえていたのである。 「フウ、さん……」 「ブルックさん。どうか、ここは退いて頂けないでしょうか?」 ブルックの顔を見つめ、静かに涙しながら風は語る。 「もう、嫌なんです。誰かの為に誰かが傷つけたり、傷ついたりするのは……っ」 そして、静かにくずおれた。『魔法』の行使者が気を失い、ほどなくブルックを戒めていた風もかき消える。 その様を、クレスはただ見ていることしかできなかった。 【鳳凰寺 風@魔法騎士レイアース】 【状態】 健康、精神疲労(極大) 気絶中 【装備】 バスタード・ソード@現実 【道具】支給品、 マスコット(@テイルズオブファンタジア)、ランダムアイテム×1 【思考】基本:光、海と共に生きて東京に帰る。   1: 誰かの為に誰かが傷つけたり、傷ついたりするのは嫌だ   2: ブルックには殺し合いに乗らないでいて欲しい  [備考]   ※参戦時期はエメロードを撃破して東京に帰った後(第一章終了後)です 【クレス・アルベイン@テイルズオブファンタジア】 【状態】 健康、疲労(少)  【装備】 ニバンボシ@テイルズオブヴェスペリア 【道具】支給品、 ランダムアイテム×1 【思考】基本:仲間を募り、会場から脱出する   1: いったい何が起こったのかを知りたい  [備考]   ※参戦時期は本編終了後です 【ブルック@ONE PIECE】 【状態】 健康、疲労(小)  【装備】 ドラゴントゥース@テイルズオブファンタジア 【道具】支給品 【思考】基本:生き延びて約束を果たす   1: 優勝して元の世界に帰る   2: フウの言葉を受け入れるか考える  [備考]   ※参戦時期はスリラーバークで影を取り戻した直後です ---- |BACK||NEXT| |017:[[最強の聖剣]]|投下順|019:[[ロッキー]]| |017:[[最強の聖剣]]|時系列順|020:[[闇に輝く光]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |&color(blue){GAME START}|鳳凰寺 風|22:[[骸骨の踊り]]| |&color(blue){GAME START}|クレス・アルベイン|~| |&color(blue){GAME START}|ブルック|~| ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: