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砂漠の決斗! 雷神vs烈火の将」(2011/01/27 (木) 21:11:51) の最新版変更点

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**砂漠の決斗! 雷神vs烈火の将◆WoLFzcfcE. 「我に合見えし不幸を呪うがよい! 星よ降れ! 星天爆撃打!」 まさしく、天から降り注ぐ流星のように――彼女の頭上に光が満ちた。 猛烈な衝撃とともに頭蓋が揺れ、瞬間意識が途切れる。 しかし鍛え抜いた五体は状況が見えなくとも半自動で最適な行動を取った。 横転し地に落ちた剣を回収し、転がりつつも寸前まで無人と思われた方向へ、降って沸いたように現れた殺気の源へと向き直る。 そこにいたのは剣執る悪魔。 眼光に必滅の意志を宿した剣鬼が、今まさに第二撃を放とうと―― .               ◆ イヴァリース国を二分した戦乱において、戦の中核となった二つの騎士団がある。 一つ、ベストラルダ・ラーグ公が有する北天騎士団。 一つ、ダクスマルダ・ゴルターナ公有する南天騎士団。 前者が白獅子の紋章を、後者が黒獅子の紋章をそれぞれ旗頭としていたため、この戦いは獅子戦争と呼ばれた。 その屈強な騎士が集う南天騎士団を、家柄や爵位ではなく武を以て統率した男がいる。 南天騎士団団長にして、畏国最強の騎士。 名を、シドルファス・オルランドゥ。人は彼を『雷神シド』と呼ぶ。 剣聖と謳われる無双の剣腕、高潔なる人格をして、年老いてなお若き騎士たちの憧れを一身に受ける存在。 だが輝かしい武暦に反し、その最期は杳として知られていない。 いわく、謀反の疑いで投獄されたベスラ要塞で獄死した―― いわく、異端者に合流し教会の追手に討ち果たされた―― いわく、遥か神話の時代から続く人とルカヴィの戦いに身を投じた―― いわく、とある平原で赤チョコボの群れを単独で薙ぎ倒していた――な、何を言ってるか(ry などなど、しょせん不確かな噂に尾ひれがついたようなものばかり。 一端に正鵠を射ているものもあったが、正しく全体像を把握している者は現れず。 真実が明かされるのは、後世の『デュライ白書』を待たなければならなかった。 閑話休題。 霞のように歴史の表舞台から姿を消した剣聖は、現在何の因果か剣持つ者の殺し合いという異常な事態に巻き込まれていた。 剣を振るうが日常の武芸者であっても、大儀もなくただ闘え、殺せと言われて頷けはしない。 剣聖が今生の敵と定めたは畏国の戦乱を陰で操る魔性――ルカヴィと、それに毒された人間である。 人の世を護るために剣を執る己が、無辜なる民を傷つけられるはずがなし。 思い出す、未来ある若者から無常にも命を奪った女の貌を。 あれなるは紛れもない邪悪。斬って捨てるが必定。 速やかにロワなる女を誅し、この狂った遊戯を破壊せんと雷神シドが動き出す。 あてがわれた剣を一振り、調子を確かめる。 刃渡り、硬度は十分。握った感触から魔道の特性をも感じられる。 剣聖の技を振るうに申し分ない。 愛剣エクスカリバーはその手になく、ともに戦場を駆けた若者たちもいない。 だが、剣聖の胸に滾るは不撓の戦意。南天騎士団として職務に就いていたときは持ち得なかった感情。 権威の衣を捨て、ただ一人の剣士として己の信ずる正義のために剣を振るうこと。 正しき『白』の中にいる、その確信のみが剣聖の足を前に進ませる。 目深にかぶったマントが夜の漆黒に身を溶かし、砂の大地をさながら影のように進んでいく。 そして、剣聖は一人の女を発見した。 迂闊な接触はしない。砂山に身を隠し、入念に気配を殺して観察を開始する。 桃色の髪を後背でまとめた長身の女だ。 携える剣は仰々しい鞘に包まれていて視認できない。 こちらに気付いた気配もなく、先ほどの己と同じように剣に慣れるべく演舞を始めた。 流麗な足捌き。 恐れを知らぬ果断な踏み込み。 虚空を裂いた烈火のような打ち込み。 隙のない手並みを見て取り、ただならぬ腕と認識する。 やがて女は得心を得たか剣を地に突き刺し、今度はなにやら瞳を閉じて瞑想を開始した。 待つこと数秒、剣聖は眼を疑う。 褐色の衣服が一瞬にして弾け、勇壮な騎士の出で立ちへと変化したのだ。 剣聖が凝視する中、女はこちらも納得がいったか軽く頷いて手を振る。 すると一瞬で甲冑は溶け消え元の衣服に戻っていた。 驚くのも束の間、女は続いてまたも剣聖の理解を超える。 翼なく、フェザーブーツなどの装備もなく、高く天に舞い上がったのである。 そのまま左右上下と縦横無尽に動き回る女。桃色の髪が夜空に映える。 数分飛び続けたところで女は降下し、地に降り立った。 すべて見届けた剣聖の胸中には冷えた決意が芽生えつつあった。 剣聖の知るどのようなジョブにもあのような技はない。 自身の背丈ほどの高さを浮遊する具足や魔法技術ならば知っている。 だが、あれはそんなものではない。そんな子供騙しに留まる範疇にない。 強いて言うなら飛行族のモンスターか、さもなければあの忌まわしきルカヴィくらいのものだ。 つまり、あの女は人間ではない。 剣聖が討ち果たすべき、人に仇なす化生である。 戦略を定め動き出すまで寸毫の遅滞もない。 砂山を蹴立て女へとへと踊りかかる剣聖。 一撃にて仕留めんと、必殺の剛剣を解き放つ。 「我に合見えし不幸を呪うがよい! 星よ降れ! 星天爆撃打!」 .               ◆ 「――鎧化<アムド>ッ!」 背後から迫る殺気を感じ取った瞬間、ヴォルケンリッターが烈火の将、剣の騎士シグナムは何よりも先にまず叫んだ。 剣に生きる者の本能が警告した。背後を取られ先手を打たれた以上もはや回避は間に合わない、と。 どこに動いたところで、体勢が整わないままでは追撃の二の太刀で沈む。 ならば剣で受け止めるしかない――いや、今手にしている剣は何だ? 電光の勢いで思考が巡り、半信半疑ながらも剣の騎士は己が剣に命運を託した。 剣を何重にも覆う鋼鉄が弾けた。 シグナムの身を幾条もの鉄線が取り巻き締め付ける。 魔力で編む騎士甲冑とは違う、確かな重さを感じる本物の甲冑だ。 魔界一の刀工ロン・ベルクが大魔王に献上した渾身の一振りがここにある。 銘を、鎧の魔剣。かつて不死身の男の愛剣として幾度も戦場を馳せた、紛うことなき名剣である。 鎧の魔剣の鞘――キーワードとともに展開し鎧となるそれは、間一髪で主を死の淵から救い出す。 頭蓋を叩き割るはずの剣戟は、丸みを帯びた兜を真っ二つにするに留まった。 その中身、シグナム本人は兜が断ち割られた際の一瞬の機を逃さず身を投げ出して、放り出していた剣を拾い上げた。 魔界の金属で造られた兜を容易く両断するあの威力。一瞬でも回避が遅ければシグナムの首から上はなくなっていただろう。 立ち上がったシグナムの眼に映る、剣振りかぶる老人の姿。 誰何の声を発するまもなくシグナムは再び跳躍。ただし、今度はやられたままで終わらない。 手元の剣を返す。 長剣は一瞬にして節を増やし、重力に従って地に落ちた。 シグナムは慣れた手つきで剣を引き、老人へと突き出す。 本来の刃渡りの十数倍に伸びた蛇腹剣が老人へと疾駆。 放ちかけていた技を中断し、老人が迫る刃を打ち払った。 剣を戻し、距離を置いて対峙する。 「ご老体、何のつもりだ。よもやあの女の戯言を信じたか?」 「……」 「私は時空管理局機動六課、シグナム! 狼藉者、名を名乗れ!」 無言のままに間合いを詰めてくる老人を、シグナムは明確な脅威と判断した。 シグナム自身状況は掴めておらず、主である八神はやてや時空管理局との連絡もつかぬまま。 レヴァンティンすらも取り上げられ、せめてもと現有戦力を確かめていたのが功を奏した。 剣を手にした瞬間脳裏に流れ込んだイメージ。あれに従ったことでシグナムは生き延びた。 なし崩しに戦闘に入ることを愚と認識しつつも、敵はこちらの事情など考慮してくれない。 状況はわからずとも、ベルカの騎士として敗北は許されない。 鍔迫り合って老人の瞳を直視する。 そこにあるのは、煮え滾る義憤と凍れる殺意――シグナムに対する明確な敵意だった。 シグナムには当然老人との面識はない。 不可解な敵意をぶつけてくる老人に、怒りよりも先に戸惑いを覚えた。 「待て、私に闘う意志はない!」 「人の言の葉を解するか、魔性の者よ。どこまでも忌々しい……!」 恐るべき膂力で剣を打ち払われる。 対話の余地などないと宣言するかのように猛然と打ちかかってくる老人を見据え、シグナムは思考する。 デバイスのない今の状態でどこまでやれるか。 魔力を炎に変換すれば問題なく紫電一閃を放つことはできる。 だがレヴァンティンのサポート無しでは負担が大きい。できれば温存しておきたいところであるが…… そんな葛藤に構うことなく、老人は剣を天に翳す。 「死ぬも生きるも剣持つ定め……地獄で悟れ! 暗の剣!」 老人の剣を暗黒が包み込む。 刀身に黒を纏わせたままの打ち込みがシグナムを襲う。 「強化魔法か!」 現在の部下にその類の魔法を使う者がいる。 まともに受けてはいられないと、大きく後方に跳び退がる。 だが暗黒は振り切られる勢いのままに剣を離れ、そのシグナムへと迫ってきた。 魔剣にて迎撃する。が、剣撃ではその暗黒は止められなかった。 ならば炎を使えば焼き尽くせるか――と思った瞬間、暗黒に触れた腕から一気に魔力が解放される。 「がああああっ……!」 運が悪かったのだろう。そしてそれ以上に相性が悪かった。 老人が放った技は、暗黒剣が奥義・暗の剣。 受けた者の魔力を奪い取る、いわば魔法殺しの剣。 シグナムは人間ではない。 魔道器『夜天の魔道書』が生んだ守護プログラム、魔道生命とでも言うべきものだ。 その身体は魔力で構成されている。枯渇すれば存在そのものが消滅するといっていい。 構成要素である魔力をごっそりと奪われ、シグナムの身体は一瞬にして重い疲労に包まれる。 老人はしかし一気呵成に攻め込んでは来ず、冷静にこちらの変化を見定めている。 (魔力をっ……強制的に霧散させる技、だと……!) 並みの人間なら手痛い一撃ではあるがあくまで魔力だ。命には直結しない。 だが魔道生命体であるシグナムにとってこの技は猛毒、この老人は天敵と言っていい。 もし二度三度とあれを喰らえば存在を消し飛ばされる。迎撃しようにも物理攻撃では止められない。 魔法を用いれば別なのだろうが、魔力消費を避けるべく魔力を消費して迎撃する、というのはあまりに本末転倒だ。 「身の盾なるは心の盾とならざるなり! 油断大敵! 強甲破点突き!」 逡巡している間も老人の攻勢は続く。 心臓の位置へと一直線に向かってくる突き。 シグナムは後方へ下がりながら剣で受けた。 逸らされた切っ先が甲冑に触れる。その瞬間、剣を奔り伝わってきたエネルギーが甲冑の表面で爆発した。 「ぐああっ……!」 甲冑の胸部分が跡形もなく弾け飛んだ。豊かな胸が夜気に晒される。 最初の一撃もそうだった、と遅まきながら悟る。老人の狙いは最初からシグナムの身を護る鎧だったのだ。 無謀に仕掛けることなく、確実に戦力を削ぐ戦い方。 老人の強さが問題なのではない、そうまでしてシグナムただ一人を滅するという意志の固さが、この場では最たる脅威なのだ。 (いかん……このままでは……!) 敗色濃厚、と剣士の理性が警鐘を鳴らす。 さきほど飛行したときに周囲の地形は把握していた。背後は川だ。 ならば、この状況で打つ一手は。 「くっ……この屈辱、忘れんぞ!」 撤退だ。 騎士として恥ずべき行為に歯噛みするも、ここで倒れるわけにはいかない。 飛行魔法を展開し、空へと退避したシグナム。 このまま川を越えれば追っては来れまいと老人へ視線を振り向け、三度驚愕した。 老人は追ってきてはいない。代わりに剣を振り上げている。 その剣先に、強大な気が収束していくのを感じる。 「まさか、この距離で撃つのか……!?」 このままではまずいと、速度を上げて逃げようとするが、その様は明らかに通常の飛行速度よりも遅く。 老人の頭上に生まれた太陽のごとき気の塊が、一瞬間で凝縮され、解き放たれる。 「天の願いを胸に刻んで……心頭滅却! 聖光爆裂破!」 振り注ぐ極光の刃が、老人とシグナムの間に存在した砂地を根こそぎ吹き飛ばす。 シグナム自身もその光に呑まれ、彼女のシルエットは一瞬にして消滅した。               ◆ 剣聖は勝利を確信し剣を収めた。 全剣技を駆使した怒涛の攻勢に化生の女は成す術はなく、跡形もなく消し飛んだ。 深く、安堵する。 たとえ相手が人外の化け物であろうと、この剣は通じる。 ルカヴィだろうと討ち果たすことができる。 それを確認した剣聖――オルランドゥ伯は、疲労を押して歩き出す。 幸先良く魔を仕留めたものの、あれ一人ということはあるまい。 この地にはもっと多くの化生が、そしてそれ以上の護るべき民がいる。 急がねばならない。 『雷神シド』の力を求めている者がいる……! その一念を胸にオルランドゥは砂を蹴立てて駆け出した。 手にかけた相手が、たとえ人間でなくとも正しき騎士の魂を持つ者であったなどと、知る由もなく。 【D-4/砂漠/一日目/深夜】 【シドルファス・オルランドゥ@ファイナルファンタジータクティクス】 【状態】疲労(小) 【装備】ヴォーパルソード@テイルズ オブ ファンタジア 【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、詳細不明) 【思考】基本:できるだけ犠牲を出さずに戦いを終わらせる。  1:ルカヴィに準ずるような、人間でない者を倒す。  2:人間の仲間を集める。               ◆ 黒の大河を流れる影が一つ。 剣の騎士シグナムは生きていた。生きてはいたが、その意識はいまだ闇の中。 極光の刃に呑まれる刹那。 甲冑の外側に全力で展開した魔法陣の障壁を自ら破裂させることで、衝撃で自分を弾き飛ばしていたのだ。 盟友・高町なのはが緊急時に用いるバリアバーストを見よう見真似で再現したのだが、それが彼女の命を救った。 間一髪で聖光爆裂破の直撃から逃れることは成功したが、衝撃の余波で川面に叩き落され、意識を失ってしまったのは誤算だっただろう。 魔剣が主の溺死を防ぐべく鎧化を解いた。 質量を減らした魔剣を握り締め、剣の騎士は瞳を閉じたままどこまでも流れゆく。 目覚めのときは何時か……。 【D-4/川/一日目/深夜】 【シグナム@魔法少女リリカルなのはStrikers】 【状態】疲労(中)、魔力消費(中)、気絶 【装備】鎧の魔剣@ダイの大冒険 【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、詳細不明) 【思考】基本:主の下に帰還する。  1:………… 【備考】  ※鎧の魔剣の兜、胸当ては破壊されました。  ※騎士甲冑はデバイスなしでも展開できますが魔力を消費します。 ・ヴォーパルソード@テイルズ オブ ファンタジア  時の魔剣『エターナルソード』の媒介となる氷の魔剣。 ・鎧の魔剣@ダイの大冒険  大魔王バーンより下賜されたロン・ベルク製の剣。鎧化(アムド)の言葉により鞘の部分が鎧に変化する。  鎧の全身には武器が仕込まれており、刀身さえ無事なら破損しても時間経過で再生する。  剣は通常の長剣以外に連節剣にも変形させられる。 ---- |BACK||NEXT| |014:[[この闇の先には――]]|投下順|016:[[勇者、たつ!]]| |014:[[この闇の先には――]]|時系列順|016:[[勇者、たつ!]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |&color(blue){GAME START}|シドルファス・オルランドゥ|:[[]]| |&color(blue){GAME START}|シグナム|035:[[流れの行方は]]| ----
**砂漠の決斗! 雷神vs烈火の将◆WoLFzcfcE. 「我に合見えし不幸を呪うがよい! 星よ降れ! 星天爆撃打!」 まさしく、天から降り注ぐ流星のように――彼女の頭上に光が満ちた。 猛烈な衝撃とともに頭蓋が揺れ、瞬間意識が途切れる。 しかし鍛え抜いた五体は状況が見えなくとも半自動で最適な行動を取った。 横転し地に落ちた剣を回収し、転がりつつも寸前まで無人と思われた方向へ、降って沸いたように現れた殺気の源へと向き直る。 そこにいたのは剣執る悪魔。 眼光に必滅の意志を宿した剣鬼が、今まさに第二撃を放とうと―― .               ◆ イヴァリース国を二分した戦乱において、戦の中核となった二つの騎士団がある。 一つ、ベストラルダ・ラーグ公が有する北天騎士団。 一つ、ダクスマルダ・ゴルターナ公有する南天騎士団。 前者が白獅子の紋章を、後者が黒獅子の紋章をそれぞれ旗頭としていたため、この戦いは獅子戦争と呼ばれた。 その屈強な騎士が集う南天騎士団を、家柄や爵位ではなく武を以て統率した男がいる。 南天騎士団団長にして、畏国最強の騎士。 名を、シドルファス・オルランドゥ。人は彼を『雷神シド』と呼ぶ。 剣聖と謳われる無双の剣腕、高潔なる人格をして、年老いてなお若き騎士たちの憧れを一身に受ける存在。 だが輝かしい武暦に反し、その最期は杳として知られていない。 いわく、謀反の疑いで投獄されたベスラ要塞で獄死した―― いわく、異端者に合流し教会の追手に討ち果たされた―― いわく、遥か神話の時代から続く人とルカヴィの戦いに身を投じた―― いわく、とある平原で赤チョコボの群れを単独で薙ぎ倒していた――な、何を言ってるか(ry などなど、しょせん不確かな噂に尾ひれがついたようなものばかり。 一端に正鵠を射ているものもあったが、正しく全体像を把握している者は現れず。 真実が明かされるのは、後世の『デュライ白書』を待たなければならなかった。 閑話休題。 霞のように歴史の表舞台から姿を消した剣聖は、現在何の因果か剣持つ者の殺し合いという異常な事態に巻き込まれていた。 剣を振るうが日常の武芸者であっても、大儀もなくただ闘え、殺せと言われて頷けはしない。 剣聖が今生の敵と定めたは畏国の戦乱を陰で操る魔性――ルカヴィと、それに毒された人間である。 人の世を護るために剣を執る己が、無辜なる民を傷つけられるはずがなし。 思い出す、未来ある若者から無常にも命を奪った女の貌を。 あれなるは紛れもない邪悪。斬って捨てるが必定。 速やかにロワなる女を誅し、この狂った遊戯を破壊せんと雷神シドが動き出す。 あてがわれた剣を一振り、調子を確かめる。 刃渡り、硬度は十分。握った感触から魔道の特性をも感じられる。 剣聖の技を振るうに申し分ない。 愛剣エクスカリバーはその手になく、ともに戦場を駆けた若者たちもいない。 だが、剣聖の胸に滾るは不撓の戦意。南天騎士団として職務に就いていたときは持ち得なかった感情。 権威の衣を捨て、ただ一人の剣士として己の信ずる正義のために剣を振るうこと。 正しき『白』の中にいる、その確信のみが剣聖の足を前に進ませる。 目深にかぶったマントが夜の漆黒に身を溶かし、砂の大地をさながら影のように進んでいく。 そして、剣聖は一人の女を発見した。 迂闊な接触はしない。砂山に身を隠し、入念に気配を殺して観察を開始する。 桃色の髪を後背でまとめた長身の女だ。 携える剣は仰々しい鞘に包まれていて視認できない。 こちらに気付いた気配もなく、先ほどの己と同じように剣に慣れるべく演舞を始めた。 流麗な足捌き。 恐れを知らぬ果断な踏み込み。 虚空を裂いた烈火のような打ち込み。 隙のない手並みを見て取り、ただならぬ腕と認識する。 やがて女は得心を得たか剣を地に突き刺し、今度はなにやら瞳を閉じて瞑想を開始した。 待つこと数秒、剣聖は眼を疑う。 褐色の衣服が一瞬にして弾け、勇壮な騎士の出で立ちへと変化したのだ。 剣聖が凝視する中、女はこちらも納得がいったか軽く頷いて手を振る。 すると一瞬で甲冑は溶け消え元の衣服に戻っていた。 驚くのも束の間、女は続いてまたも剣聖の理解を超える。 翼なく、フェザーブーツなどの装備もなく、高く天に舞い上がったのである。 そのまま左右上下と縦横無尽に動き回る女。桃色の髪が夜空に映える。 数分飛び続けたところで女は降下し、地に降り立った。 すべて見届けた剣聖の胸中には冷えた決意が芽生えつつあった。 剣聖の知るどのようなジョブにもあのような技はない。 自身の背丈ほどの高さを浮遊する具足や魔法技術ならば知っている。 だが、あれはそんなものではない。そんな子供騙しに留まる範疇にない。 強いて言うなら飛行族のモンスターか、さもなければあの忌まわしきルカヴィくらいのものだ。 つまり、あの女は人間ではない。 剣聖が討ち果たすべき、人に仇なす化生である。 戦略を定め動き出すまで寸毫の遅滞もない。 砂山を蹴立て女へとへと踊りかかる剣聖。 一撃にて仕留めんと、必殺の剛剣を解き放つ。 「我に合見えし不幸を呪うがよい! 星よ降れ! 星天爆撃打!」 .               ◆ 「――鎧化<アムド>ッ!」 背後から迫る殺気を感じ取った瞬間、ヴォルケンリッターが烈火の将、剣の騎士シグナムは何よりも先にまず叫んだ。 剣に生きる者の本能が警告した。背後を取られ先手を打たれた以上もはや回避は間に合わない、と。 どこに動いたところで、体勢が整わないままでは追撃の二の太刀で沈む。 ならば剣で受け止めるしかない――いや、今手にしている剣は何だ? 電光の勢いで思考が巡り、半信半疑ながらも剣の騎士は己が剣に命運を託した。 剣を何重にも覆う鋼鉄が弾けた。 シグナムの身を幾条もの鉄線が取り巻き締め付ける。 魔力で編む騎士甲冑とは違う、確かな重さを感じる本物の甲冑だ。 魔界一の刀工ロン・ベルクが大魔王に献上した渾身の一振りがここにある。 銘を、鎧の魔剣。かつて不死身の男の愛剣として幾度も戦場を馳せた、紛うことなき名剣である。 鎧の魔剣の鞘――キーワードとともに展開し鎧となるそれは、間一髪で主を死の淵から救い出す。 頭蓋を叩き割るはずの剣戟は、丸みを帯びた兜を真っ二つにするに留まった。 その中身、シグナム本人は兜が断ち割られた際の一瞬の機を逃さず身を投げ出して、放り出していた剣を拾い上げた。 魔界の金属で造られた兜を容易く両断するあの威力。一瞬でも回避が遅ければシグナムの首から上はなくなっていただろう。 立ち上がったシグナムの眼に映る、剣振りかぶる老人の姿。 誰何の声を発するまもなくシグナムは再び跳躍。ただし、今度はやられたままで終わらない。 手元の剣を返す。 長剣は一瞬にして節を増やし、重力に従って地に落ちた。 シグナムは慣れた手つきで剣を引き、老人へと突き出す。 本来の刃渡りの十数倍に伸びた蛇腹剣が老人へと疾駆。 放ちかけていた技を中断し、老人が迫る刃を打ち払った。 剣を戻し、距離を置いて対峙する。 「ご老体、何のつもりだ。よもやあの女の戯言を信じたか?」 「……」 「私は時空管理局機動六課、シグナム! 狼藉者、名を名乗れ!」 無言のままに間合いを詰めてくる老人を、シグナムは明確な脅威と判断した。 シグナム自身状況は掴めておらず、主である八神はやてや時空管理局との連絡もつかぬまま。 レヴァンティンすらも取り上げられ、せめてもと現有戦力を確かめていたのが功を奏した。 剣を手にした瞬間脳裏に流れ込んだイメージ。あれに従ったことでシグナムは生き延びた。 なし崩しに戦闘に入ることを愚と認識しつつも、敵はこちらの事情など考慮してくれない。 状況はわからずとも、ベルカの騎士として敗北は許されない。 鍔迫り合って老人の瞳を直視する。 そこにあるのは、煮え滾る義憤と凍れる殺意――シグナムに対する明確な敵意だった。 シグナムには当然老人との面識はない。 不可解な敵意をぶつけてくる老人に、怒りよりも先に戸惑いを覚えた。 「待て、私に闘う意志はない!」 「人の言の葉を解するか、魔性の者よ。どこまでも忌々しい……!」 恐るべき膂力で剣を打ち払われる。 対話の余地などないと宣言するかのように猛然と打ちかかってくる老人を見据え、シグナムは思考する。 デバイスのない今の状態でどこまでやれるか。 魔力を炎に変換すれば問題なく紫電一閃を放つことはできる。 だがレヴァンティンのサポート無しでは負担が大きい。できれば温存しておきたいところであるが…… そんな葛藤に構うことなく、老人は剣を天に翳す。 「死ぬも生きるも剣持つ定め……地獄で悟れ! 暗の剣!」 老人の剣を暗黒が包み込む。 刀身に黒を纏わせたままの打ち込みがシグナムを襲う。 「強化魔法か!」 現在の部下にその類の魔法を使う者がいる。 まともに受けてはいられないと、大きく後方に跳び退がる。 だが暗黒は振り切られる勢いのままに剣を離れ、そのシグナムへと迫ってきた。 魔剣にて迎撃する。が、剣撃ではその暗黒は止められなかった。 ならば炎を使えば焼き尽くせるか――と思った瞬間、暗黒に触れた腕から一気に魔力が解放される。 「がああああっ……!」 運が悪かったのだろう。そしてそれ以上に相性が悪かった。 老人が放った技は、暗黒剣が奥義・暗の剣。 受けた者の魔力を奪い取る、いわば魔法殺しの剣。 シグナムは人間ではない。 魔道器『夜天の魔道書』が生んだ守護プログラム、魔道生命とでも言うべきものだ。 その身体は魔力で構成されている。枯渇すれば存在そのものが消滅するといっていい。 構成要素である魔力をごっそりと奪われ、シグナムの身体は一瞬にして重い疲労に包まれる。 老人はしかし一気呵成に攻め込んでは来ず、冷静にこちらの変化を見定めている。 (魔力をっ……強制的に霧散させる技、だと……!) 並みの人間なら手痛い一撃ではあるがあくまで魔力だ。命には直結しない。 だが魔道生命体であるシグナムにとってこの技は猛毒、この老人は天敵と言っていい。 もし二度三度とあれを喰らえば存在を消し飛ばされる。迎撃しようにも物理攻撃では止められない。 魔法を用いれば別なのだろうが、魔力消費を避けるべく魔力を消費して迎撃する、というのはあまりに本末転倒だ。 「身の盾なるは心の盾とならざるなり! 油断大敵! 強甲破点突き!」 逡巡している間も老人の攻勢は続く。 心臓の位置へと一直線に向かってくる突き。 シグナムは後方へ下がりながら剣で受けた。 逸らされた切っ先が甲冑に触れる。その瞬間、剣を奔り伝わってきたエネルギーが甲冑の表面で爆発した。 「ぐああっ……!」 甲冑の胸部分が跡形もなく弾け飛んだ。豊かな胸が夜気に晒される。 最初の一撃もそうだった、と遅まきながら悟る。老人の狙いは最初からシグナムの身を護る鎧だったのだ。 無謀に仕掛けることなく、確実に戦力を削ぐ戦い方。 老人の強さが問題なのではない、そうまでしてシグナムただ一人を滅するという意志の固さが、この場では最たる脅威なのだ。 (いかん……このままでは……!) 敗色濃厚、と剣士の理性が警鐘を鳴らす。 さきほど飛行したときに周囲の地形は把握していた。背後は川だ。 ならば、この状況で打つ一手は。 「くっ……この屈辱、忘れんぞ!」 撤退だ。 騎士として恥ずべき行為に歯噛みするも、ここで倒れるわけにはいかない。 飛行魔法を展開し、空へと退避したシグナム。 このまま川を越えれば追っては来れまいと老人へ視線を振り向け、三度驚愕した。 老人は追ってきてはいない。代わりに剣を振り上げている。 その剣先に、強大な気が収束していくのを感じる。 「まさか、この距離で撃つのか……!?」 このままではまずいと、速度を上げて逃げようとするが、その様は明らかに通常の飛行速度よりも遅く。 老人の頭上に生まれた太陽のごとき気の塊が、一瞬間で凝縮され、解き放たれる。 「天の願いを胸に刻んで……心頭滅却! 聖光爆裂破!」 振り注ぐ極光の刃が、老人とシグナムの間に存在した砂地を根こそぎ吹き飛ばす。 シグナム自身もその光に呑まれ、彼女のシルエットは一瞬にして消滅した。               ◆ 剣聖は勝利を確信し剣を収めた。 全剣技を駆使した怒涛の攻勢に化生の女は成す術はなく、跡形もなく消し飛んだ。 深く、安堵する。 たとえ相手が人外の化け物であろうと、この剣は通じる。 ルカヴィだろうと討ち果たすことができる。 それを確認した剣聖――オルランドゥ伯は、疲労を押して歩き出す。 幸先良く魔を仕留めたものの、あれ一人ということはあるまい。 この地にはもっと多くの化生が、そしてそれ以上の護るべき民がいる。 急がねばならない。 『雷神シド』の力を求めている者がいる……! その一念を胸にオルランドゥは砂を蹴立てて駆け出した。 手にかけた相手が、たとえ人間でなくとも正しき騎士の魂を持つ者であったなどと、知る由もなく。 【D-4/砂漠/一日目/深夜】 【シドルファス・オルランドゥ@ファイナルファンタジータクティクス】 【状態】疲労(小) 【装備】ヴォーパルソード@テイルズ オブ ファンタジア 【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、詳細不明) 【思考】基本:できるだけ犠牲を出さずに戦いを終わらせる。  1:ルカヴィに準ずるような、人間でない者を倒す。  2:人間の仲間を集める。               ◆ 黒の大河を流れる影が一つ。 剣の騎士シグナムは生きていた。生きてはいたが、その意識はいまだ闇の中。 極光の刃に呑まれる刹那。 甲冑の外側に全力で展開した魔法陣の障壁を自ら破裂させることで、衝撃で自分を弾き飛ばしていたのだ。 盟友・高町なのはが緊急時に用いるバリアバーストを見よう見真似で再現したのだが、それが彼女の命を救った。 間一髪で聖光爆裂破の直撃から逃れることは成功したが、衝撃の余波で川面に叩き落され、意識を失ってしまったのは誤算だっただろう。 魔剣が主の溺死を防ぐべく鎧化を解いた。 質量を減らした魔剣を握り締め、剣の騎士は瞳を閉じたままどこまでも流れゆく。 目覚めのときは何時か……。 【D-4/川/一日目/深夜】 【シグナム@魔法少女リリカルなのはStrikers】 【状態】疲労(中)、魔力消費(中)、気絶 【装備】鎧の魔剣@ダイの大冒険 【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、詳細不明) 【思考】基本:主の下に帰還する。  1:………… 【備考】  ※鎧の魔剣の兜、胸当ては破壊されました。  ※騎士甲冑はデバイスなしでも展開できますが魔力を消費します。 ・ヴォーパルソード@テイルズ オブ ファンタジア  時の魔剣『エターナルソード』の媒介となる氷の魔剣。 ・鎧の魔剣@ダイの大冒険  大魔王バーンより下賜されたロン・ベルク製の剣。鎧化(アムド)の言葉により鞘の部分が鎧に変化する。  鎧の全身には武器が仕込まれており、刀身さえ無事なら破損しても時間経過で再生する。  剣は通常の長剣以外に連節剣にも変形させられる。 ---- |BACK||NEXT| |014:[[この闇の先には――]]|投下順|016:[[勇者、たつ!]]| |014:[[この闇の先には――]]|時系列順|016:[[勇者、たつ!]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |&color(blue){GAME START}|シドルファス・オルランドゥ|044:[[夢追う鷹は刃を隠す]]| |&color(blue){GAME START}|シグナム|035:[[流れの行方は]]| ----

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