琉夏「〇〇ちゃん。何してんの?」
〇〇「琉夏くん!? あれ……ここで働いてるの?」
琉夏「そうだよ?」
〇〇「そっか……あ、わたしも今日からここでバイトだよ?」
琉夏「へぇ、じゃあ、よろしく。」
〇〇「うん、よろしくね!」
琉夏「先輩。”よろしくお願いします、先輩”。」
〇〇「厳しいんだね……」
琉夏「やった、初めての後輩。」
〇〇「あ、琉夏くん。あれ? バイト、ここだっけ?」
琉夏「そうだよ?」
〇〇「良かった! 楽しくなりそう!」
琉夏「俺はね。オマエはどうかな……」
〇〇「……どうして?」
琉夏「やり直し。”どうしてですか? 先輩”。……ほら、言って。」
〇〇「……琉夏くん、けっこうスパルタ?」
琉夏「〇〇。」
〇〇「あれ、琉夏くん……琉夏くんも、ここでバイト?」
琉夏「うん、言ってなかったっけ?」
〇〇「たぶん……ちょっと、意外かも。」
琉夏「そう? まあ、よろしく。」
〇〇「こちらこそ、よろしくね?」
琉夏「ちょっと待って……そうじゃない。」
〇〇「?」
琉夏「よろしくね、”先輩”だ。……はいどうぞ」
〇〇「うん……よろしくね、先輩?」
琉夏「もう一回……語尾にハートマークで。」
〇〇「よろしくね、先輩♡」
琉夏「いい……楽しくなりそう♡」
〇〇(大丈夫かな……)
〇〇「あっ! やっちゃった……」
琉夏「あ~あ……ケガしてない?」
〇〇「うん、大丈夫。ゴメン……」
琉夏「”先輩、ゴメンなさい”。はい、やり直し。」
〇〇「先輩、ゴメンなさい……」
琉夏「よし……片付けだ。」
〇〇(もっと気をつけないと……)
琉夏「ん? 今のお客さんお釣りいくら渡した?」
〇〇「えっと……あっ!! 間違っちゃったかも……」
琉夏「お客さまっ!」
:
〇〇「ゴメンね……」
琉夏「”先輩、ゴメンなさい”。」
〇〇「先輩、ゴメンなさい……」
琉夏「いいよ。切り替えて、仕事に集中。オッケー?」
〇〇(琉夏くんにフォローしてもらっちゃった……次から気をつけないと!!)
〇〇「ねぇ、琉夏くん。この鉢植えの葉っぱ、少し他より白くない?」
琉夏「……ん? あ、ウドン粉病だ。」
琉夏「早く処理しないと他にうつるんだ。よく見つけたな。」
琉夏「〇〇ちゃん、エライ。」
〇〇(やったね! 琉夏くんにほめられちゃった!)
〇〇「ねぇ、琉夏くん。花束のディスプレイ、これでいいかな?」
琉夏「んー……こういうのはさ、もっとこう立体的に……例えば……」
:
〇〇「わぁ、よくなったね! 琉夏くんはやっぱり、すごいな……」
琉夏「エライでしょ? でもさ、これは2人の合作だから、2人ともエライ!」
〇〇(琉夏くんにほめられちゃった! うれしいな!)
琉夏「ん~ダメだ、こりゃ……」
〇〇「どうしたの、琉夏くん?」
琉夏「バースデーの花束作ったんだけど、どう思う? 女の人用。」
〇〇「うーん……赤いバラとスプレーだけじゃなくてほら、桃色とか紫もあると、柔らかい感じに……」
琉夏「うん……いいかも、それ。さすが女の子。」
〇〇(やったね! ほめられちゃった!)
琉夏「さっきのお客さんに作った花束、良くできてたな。」
〇〇「本当に?」
琉夏「ああ。正直、初心者とは思えない出来だった。」
〇〇「あのお客さまも気に入ってくれたかな……?」
琉夏「大丈夫。帰るとき、すごくいい顔してたから。」
〇〇「よかったぁ……」
琉夏「オマエも今、すごくいい顔してる。惚れ直しちゃいそう。」
〇〇(琉夏くんにほめられちゃった! 嬉しいな!!)
〇〇「えーっと……ねぇ、琉夏くん。このお花、なんだっけ?」
琉夏「デンファレ。」
〇〇「そっか、デンファレね。」
琉夏「そんなんじゃダメだ。お客さんから見たらみんなプロなんだ。」
〇〇「ゴメンなさい……」
〇〇(もっと勉強しなきゃ……)
琉夏「さっきから何してんの?」
〇〇「あ……うん。ミニブーケのアレンジ頼まれたんだけど……キレイにまとまらなくて。」
琉夏「オマエ、不器用すぎ。ちょっと貸してみ。」
琉夏「……奥を長めに、手前を短めに。色のバランスも考えないと。見ばえ、良くなるだろ?」
〇〇「そっか、そうすると本数が少なくても、一本一本がきれいに見えるね?」
琉夏「そう。なるべくきれいにしてやらないと。花が可哀想だ。」
〇〇(もっと練習しないと……)
〇〇「ねぇ、琉夏くん。日差しが結構強いし、胡蝶蘭はスクリーンしたほうがよくないかな?」
琉夏「ああ、確かに。葉ヤケしちゃったら台無しだな。」
〇〇「じゃあ、カーテン閉めとくね?」
琉夏「最近、よく気がつくね。」
〇〇「そうかな?」
琉夏「頼もしくなってきた。ようやく俺の後輩らしくなった。」
〇〇(琉夏くんにほめられちゃった。やったね!)
〇〇(うぅ、ナメクジが……)
琉夏「〇〇。どした? スゴイ顔してるよ?」
〇〇「あ、琉夏くん……お花についてたナメクジ取ってるんだけど……」
琉夏「葉っぱか根っこに卵がついてたんだな……ナメクジ苦手?」
〇〇「ううん、仕事だもん。」
琉夏「貸して。」
〇〇「大丈夫……」
琉夏「エライから代わってやる。あと、ちょっと可愛かったし。」
〇〇(ほめられちゃった! でも、やっぱり気持ち悪い……)
〇〇「相手の方もきっと喜ばれると思いますよ? がんばってくださいね!」
男性客「そうかな! ありがとう!」
琉夏「へぇ……」
〇〇「あ、琉夏くん。」
琉夏「いい感じ。」
〇〇「本当? 若い男のお客様って、お花渡すの慣れてないことも多いと思って。」
琉夏「うん。店員が自信ないと、渡すときに不安になるしね。100点だ。」
〇〇(やったね! 琉夏くんにほめられちゃった!!)
〇〇「こちらはブルースターです。今は青色ですけど、時間が経つとピンクに変わるので二度楽しめるお花ですね。」
女性客「そうなんだ……得しちゃった! ありがとう!」
〇〇「こちらこそ! 最後まで大事にしてあげてくださいね?」
:
琉夏「花のこと、ずいぶん勉強した?」
〇〇「そんな……まだまだだよ。」
琉夏「花ってさ、あっという間に枯れちゃうけど……だから、最後まできれいにしてやらないと。」
〇〇「そうだね……花もお客様も幸せがいいよね?」
琉夏「優しいな。」
〇〇(琉夏くんにほめられちゃった。やったね!!)
琉夏「〇〇ちゃん。なんか切り花、元気なくない?」
〇〇「本当だ……どうしたんだろ?」
琉夏「あれ、バケツの水だいぶ少ない。オマエ、ちゃんと水切りし直した?」
〇〇「あっ……今日、わたしの番だった!」
琉夏「生き物扱ってんだから気、抜くなよ。」
〇〇(失敗しちゃった……)
琉夏「あれ……さっきの花束、アネモネ入れた?」
〇〇「うん、入れたけど?」
琉夏「あのお客さん、デート用の花束だろ? 花言葉、知ってる?」
〇〇「えーと……なんだっけ?」
琉夏「”はかない恋”。」
〇〇「ゴメン……」
琉夏「俺に謝ってもしょうがない。もっと勉強しよう。な?」
〇〇「うん。本当にゴメンなさい……」
〇〇(失敗しちゃった……もっと気をつけないと……)
琉夏「〇〇ちゃん。この鉢植えって、いつ液肥あげたっけ?」
〇〇「二週間前だね。そろそろ追肥しないとかな。」
琉夏「こっちは?」
〇〇「そっちは先週の土曜日」
〇〇「まだ大丈夫だと思う。あげすぎもよくないし。」
琉夏「もしかして自分の担当以外も全部暗記してる?」
〇〇「うん、念のために人の分も記録してるから。」
琉夏「エライ。もう、後輩は卒業だ。な?」
〇〇(やったね! がんばってきた甲斐があった!)
〇〇「琉夏くん。ちょっと相談なんだけど……」
琉夏「どした?」
〇〇「苗木コーナーにコンパニオンプランツの相性表を張ったらもっと売れないかな?」
琉夏「コンパニオンプランツって、一緒に植えるとよく育つヤツ?」
〇〇「そう。苗木って、売れないうちにダメになること多いから……可哀想で。」
琉夏「そっか。優しいから、好きなんだな……」
〇〇「なに?」
琉夏「なんでも?」
琉夏「もう俺の後輩は卒業って、そう言ったんだ。」
〇〇(やったね! がんばってきた 甲斐があった!)
琉夏「悪い、遅くなった。今日の予定は?」
〇〇「はばたき物産さんの受付花の交換と、レンタル観葉植物のメンテナンスお願いします!」
琉夏「了解。替えの受付花と納品書は?」
〇〇「準備できてるよ! はい、納品書。鉢植えはあそこね。」
琉夏「サンキュ。さすが、最近手際良いな。店長みたいだ。」
〇〇「ありがと! ほら、早く行かないと、お客様、お待たせしちゃう!」
琉夏「了解。じゃ、行ってくる。店の方しばらく頼む。」
〇〇(よし! 今日もバッチリだね)
琉夏「こないだのブライダルの仕事、大成功だったな。」
〇〇「準備が大変だったけど花嫁さんが喜んでくれたのが嬉しかったな。」
琉夏「オマエのお手柄だな?」
〇〇「そんなこと……幸せになれるといいね。」
琉夏「きっとなれる。オマエの優しい気持ちは周りを優しくするから……」
〇〇「琉夏くん?」
琉夏「なんでもない。花って、いいよな。」
琉夏「形には残らないけど、思い出がずっと残る。」
琉夏「2人でこうしてる時間も、花といっしょにずっと心に残るのかな……」
〇〇「琉夏くん……」
〇〇(琉夏くんと一緒にバイトできて本当によかった……)
〇〇「いらっしゃいませー! ……あっ!」
〇〇「琉夏くん!」
琉夏「よっ、やってるね。」
〇〇「うん、なんとかね。ガソリン?」
琉夏「ハイオク満タン。お友達料金で。」
〇〇「そういうサービスは御座いません。」
:
〇〇「……はい、こちらお釣りになります。運転、気をつけてね?」
琉夏「あ、今キュンとした……また来よう。」
〇〇「ありがとうございました~!」
〇〇「あ、琉夏くん。いらっしゃいませ~っ!! レギュラー、満タンで?」
琉夏「ハイオク満タン。コウのツケで。」
〇〇「当店は現金かカードでお願いしております。」
琉夏「じゃ、出世払いで。」
〇〇「ダメ。」
:
〇〇「……はい、ちょうどお預かりします。ありがとうございました!」
琉夏「うん。……それから?」
〇〇「運転、気をつけてね?」
琉夏「それだ……そんじゃ。」
〇〇「ありがとうございました~!」
琉夏「がんばってんね?」
〇〇「いらっしゃい。ハイオク満タン?」
琉夏「それはついで。ホントは、急に寂しくなっちゃったから。」
〇〇「もう……」
:
〇〇「……はい、こちらお釣りになります。」
琉夏「サンキュ。」
〇〇「運転、気をつけてね?」
琉夏「もう一回言って? ハート付きで。」
〇〇「もう……気をつけてね♡」
琉夏「気をつける……スゲェ、気をつける。じゃあね。」
琉夏「〇〇ちゃん。」
〇〇「あ、琉夏くん。泳ぎに来たの?」
琉夏「いや、冷やかし。」
〇〇「ちゃんと仕事してるよ?」
琉夏「みたいだな。……ちょっとサボる?」
〇〇「サボらないよ!」
琉夏「〇〇。がんばってる?」
〇〇「琉夏くん!? 泳ぎに来たの?」
琉夏「そう。一緒に泳ぐ?」
〇〇「ダメ、仕事中だもん。」
琉夏「なんだ。じゃあ、オマエの水着見てよ。」
〇〇「もう!」
〇〇「あれ……あそこの人、さっきから潜ったまま……ちょっと見て来よう。」
琉夏「やっぱ5分が限界か。」
〇〇「琉夏くん……なにしてんの!?」
琉夏「どれだけ息止めてられるか試してた。めざせ世界記録。」
〇〇「危ないでしょ? 溺れたらどうするの?」
琉夏「そん時はオマエに人工呼吸してもらう。」
〇〇「…………」
琉夏「あれ? してくんないの?」
〇〇「必要なら、するけど……」
琉夏「じゃあ、安心。」
〇〇「ダメ! もう……」
琉夏「よぉ。」
〇〇「あ、琉夏くん! いらっしゃい。」
琉夏「お構いなく。立ち読みしに来ただけだから。」
〇〇(そんなこと、堂々と言われても……)
〇〇「次の方どうぞー!」
琉夏「お願いします。」
〇〇「あ、琉夏くん。わっ、全部お菓子だ……」
琉夏「コーラもあるよ。」
〇〇「同じだよ。大丈夫? ちゃんとご飯、食べてる?」
琉夏「これ、夕ご飯だよ。」
〇〇「えっ!? ……ホントに?」
琉夏「え? あぁ……ウソウソ。いくら?」
〇〇(ウソじゃない気がする……)
琉夏「これ、よろしく。」
〇〇「はい――あ、琉夏くん。……またお菓子ばっかりだ。」
琉夏「まあね。あのフライドチキン、オマエが揚げた?」
〇〇「うん、そうだよ?」
琉夏「じゃ、2つちょうだい。」
〇〇「フライドチキン2つね? ……”じゃあ”って?」
琉夏「だってさ、オマエの手料理じゃん。」
〇〇「こういうのは手料理って言わないの。」
琉夏「言うの。手料理に飢えてるヤツは。オマエの顔、思い出しながら寂しく食べよう。」
〇〇(嬉しいような悲しいような……複雑な気分……)
〇〇「あ、琉夏くん! いらっしゃいませ。」
琉夏「どうもどうも。えぇと……ホットケーキある?」
〇〇「ホットケーキは置いてないよ……マドレーヌじゃダメ?」
琉夏「マドレーヌ? あ、4つ入りの……ウソ!? 高いじゃん!」
〇〇「そんなことないよ?」
琉夏「でもさ、これ買えるならホットケーキミックス買えるよ?」
〇〇「それはそうだけど……」
琉夏「なんだよ、それ……」
〇〇(……営業妨害?)
〇〇「あ、琉夏くん。いらっしゃいませ!!」
琉夏「どうもどうも。今日はお金持ってるよ?」
〇〇「それはそれは。何になさいますか?」
琉夏「ちょっと待って……よし、その”洋なしのタルト”だ。」
〇〇「ホールでいい? 3リッチになります。」
琉夏「を、半分だ。」
〇〇(切り詰めてるんだね……)
〇〇「いらっしゃいませ! あ、琉夏くん。」
琉夏「どうもどうも。今日もかわいいね? その制服似合ってる。」
〇〇「そう? ありがとう……ご注文は?」
琉夏「無いよ? もうすぐ閉店だろ?」
〇〇「えっ?」
琉夏「余ったケーキってさ、もしかして……山分け?」
〇〇「えぇと……そういうことはヒミツです……」
琉夏「ウソつけないとこが好き♡」
〇〇「いらっしゃいませ~! あ、琉夏くん。」
琉夏「〇〇ちゃん。あれ、バイト?」
〇〇「そうだよ? 琉夏くんはお買いもの?」
琉夏「いや考え事してたら、なんとなく……」
琉夏「女ばっかりだ。」
〇〇「うん、女性向けのお店だから。」
琉夏「女向けの雑貨ね。へぇ……」
琉夏「見ちゃいけないもんがありそうだから、帰る……」
〇〇「ありがとうございました!」
琉夏「どういたしまして。」
〇〇「ん? あ、琉夏くん!」
琉夏「儲かってる?」
〇〇「まあまあかな。お買いもの?」
琉夏「俺? あっちの陰で、オマエの営業スマイル見てた。」
〇〇「趣味悪いなぁ……」
琉夏「もう一回やって。ありがとうございました♡ って。」
〇〇「なんか買ってくれたらいくらでも。」
琉夏「あれ、スマイルただじゃないの?」
〇〇「もう! お客じゃないなら帰った帰った!」
琉夏「うーん……」
〇〇「あ、琉夏くん。なにか探し物?」
琉夏「色々ありすぎて迷う。……女子ってさ、なにもらうとうれしいの?」
〇〇「わたしだったら、例えば……」
琉夏「なるほどね。参考になった。」
〇〇「あれ? 買わないの?」
琉夏「買うよ? 誕生日前になったら。」
〇〇「あ、プレゼント? ……誰の?」
琉夏「ナイショ。じゃあな。」
〇〇「琉夏くん?」
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