???「〇〇。」
〇〇「ん? あっ、不二山くん。お買い物?」
不二山「うん。いいとこで会った。参考書とマンガ。おまえならどっち買う?」
〇〇「ず、ずいぶん極端な選択だね……」
不二山「数学でわかんねーとこあったから参考書買いに来て、中見たらもっとわかんなくなった。役にたたないグループ。」
〇〇「う、うん。」
不二山「困ったなーと思ってすぐ横見たら、面白そうなマンガ。柔道の。役に立つグループ。」
不二山「自分のためになるのは役に立つグループ。だよな?」
〇〇「う、う~ん……そう……かな?」
不二山「よし、決まった。」
〇〇「え?」
不二山「おまえの意見、参考になった。お礼言う。」
〇〇「え、あの……」
不二山「数学で悪い点取ったらおまえのせい。」
〇〇「え!」
不二山「……にはしねーから安心しろ。じゃな。」
〇〇「あ、不二山くん!」
〇〇(あの感じ……きっとマンガ買うよね? うーん……)
〇〇(あっ、不二山くんだ)
〇〇「不二山くん!」
不二山「あー……押忍。」
〇〇「お、押忍。どうしたの? ずいぶん眠そうだけど……」
不二山「勉強してた。」
〇〇「不二山くんが……勉強?」
不二山「悪ぃか。」
〇〇「う、ううん、悪くないけど、ちょっと。」
不二山「……赤点取ると、親に連絡行くらしい。」
〇〇「えっ、そうなの?」
不二山「取ったことねーから本当かどうかはわかんねーけど。」
不二山「もし、ホントに連絡が行ったりして学校のこと調べられるとマズイから、赤点ラインよりギリギリ上んとこにいられるようにしてる。」
〇〇「そ、そのほうが大変なような……」
不二山「慣れると楽。あ、そうだ。 おまえ、大迫先生が言ってた出題範囲、覚えてる?」
〇〇「うん、たしか秋目漱介の――」
不二山「…………」
〇〇「不二山くん?」
不二山「……ん? なに?」
〇〇「だから、国語の範囲は教科書の真ん中らへんにある漱介の――」
不二山「…………」
〇〇「…………不二山くんってば!」
不二山「……あ。悪い。俺、昔っからなんかしらねーけど勉強の話すると眠気が……」
不二山「…………おー! やべー。ダメだ、このままだと寝る。」
不二山「走ってくる。テスト範囲はいいや。なんとかする。どうもな。んじゃ。」
〇〇(あれで定位置をキープできるんだから、不二山くんってすごい……よね?)
〇〇(そろそろ帰ろう……)」
???「フッ!」
〇〇「!! 今の音は……」
???「……痛ぅ。今のは効いた」
???「だろ? でも今のは呼吸と腰の回転だけ」
〇〇(あの二人は……まさか、ケンカ!?)
不二山「マジかよ? よし……次は本気で来い」
琉夏「大丈夫? ……痛いよ?」
〇〇「待って!!」
不二山「ん? ああ、おまえか」
琉夏「〇〇ちゃん。どしたの?」
〇〇「どうしたのって……今、ケンカしてなかった? バシッてすごい音がしたし!」
琉夏「ケンカ?」
不二山「あー、今のか。違う」
不二山「こいつ昔、空手やってたっていうから、正拳突きってのをもらってたんだ」
〇〇「せいけん?」
琉夏「パンチのこと」
不二山「柔道に打撃技はねーから、掌で技を受けてた。で、あの音」
〇〇「そうだったんだ。びっくりした……」
不二山「うん、やっぱもったいねぇ。無駄なケンカなんかしてねーで柔道部に来い。大歓迎だ」
琉夏「いいよ、俺が柔道部主将ならね?」
不二山「かまわねーよ。実力のあるやつが上に行くのは当然のことだ」
琉夏「やっぱ、ゴメン。俺、汗かくの苦手。コウがさ、柔道好きって言ってなかったっけ?」
不二山「桜井琥一が? そうか……」
不二山「伝えとけ。腕試しさせろって」
琉夏「腕試しね? オッケー。そんじゃ」
不二山「ホント、もったいねぇ。柔道じゃなくても、兄弟でなんかやりゃあいいのに」
〇〇「柔道じゃなくても? でもさっき、スカウトするって……」
不二山「来る気があるんだったら即答すんだろ。わかんねーけど」
不二山「少しでもやる気見せたらムリにでも入れるけどな。そんときは容赦しねーよ」
〇〇(この表情……不二山くん、本気だ……)
〇〇「そろそろ帰ろうかな。あ、あそこにいるのは……不二山くん!」
不二山「〇〇。チョリソー。」
〇〇「えっ!?」
???「ククッ……」
不二山「買い物、か? ガッチリ楽しんじゃった? ……みたいな?」
〇〇「う、うん。」
???「プッ……」
不二山「駅前に美味いドーナツ屋があんだけど、そこの新作が、ガチ、パレード。」
〇〇「え???」
???「ブハッ!!」
新名「ギャハハ! ハッ、ハラがッ……!」
バ「新名くん! もしかして、新名くんのしわざ?」
新名「オレのしわざっていうか、嵐さんのアクロバティックな覚え間違いっていうかっ……!」
新名「てか、どうすりゃチョリソとかパレード……鮮やかすぎ! あー……参った。嵐さんマジパネェわ……」
不二山「…………」
新名「……あ。イデッ!」
新名「すんません……笑いすぎました……」
不二山「おう。それより……どこが間違ってたか、教えろ。」
新名「え?」
不二山「間違ったまま覚えてたってしょうがねーだろ。今日の一連の流れ、マスターするまで解散はなし。」
新名「お、押忍。」
不二山「よし。ドーナツ屋でガチパレードな新作食いながら、やるぞ。おまえも行くか?」
〇〇「う、ううん。遠慮しとこうかな……」
不二山「そっか。じゃあな。行くぞ、新名。」
新名「お、押忍!」
〇〇(どんなことにも手を抜かない……さすが、不二山くん……)
〇〇(でも本当はなんて言ってるつもりだったんだろ? 気になる……)
〇〇(そろそろ帰ろうかな。……ん? あそこにいるのって……)
不二山「だから……おい、聞いてんのか?」
新名「いらっしゃいませ~……あ。いらさい。」
〇〇「……疲れてるね?」
新名「ははは~……」
不二山「店の改善要求をしてたところだ。」
〇〇「改善要求!? なにがあったの?」
不二山「ここに置いてあった本、買ったら中身が全然、違ってた。」
〇〇「違ってた?」
不二山「柔道特集だと思って買ったんだ。なのに……」
〇〇「柔道特集?」
不二山「うん。“一撃必殺! 華麗なる締め技!”ってピンクのでかい文字が書い――」
新名「嵐さんストップ!! 言わなくていいから!」
不二山「なんでだよ。本当のことじゃねーか。」
新名「いや、そうなんスけど! ハァ……てか、どうして、きゃる~ん☆ みたいなウインクした女の子が表紙の本見て、柔道の特集だと思うかな……」
不二山「柔道着着てた。すげー着崩れてたけど。」
新名「でしょ? ブ……あーあーあー、アンダーウェアが見えてる感じで。おかしいっしょ?」
不二山「あれくらいのこと、よくある。」
新名「ですよねー……って、ねーよ!」
〇〇「ねぇ、不二山くんは何の本を買ったの?」
新名「それはホラ……なんつーの? 男の子の秘密的な?」
〇〇「?」
新名「まあとにかく! 雑誌コーナーの陳列に関しては今、オレの独断じゃ変更はできねぇんで、今日のトコはカンベンしてください。」
新名「今日のことはちゃんと店長に進言しとくんで! この通り!」
不二山「結果は必ず聞かせろよ?」
新名「押忍。」
不二山「よし。悪かった、時間とらせて。じゃあな。」
新名「ありがとうございました~……」
〇〇(お疲れさまでした……)
〇〇(ん? あそこにいるのは……)
宇賀神「そう。おすすめ。」
不二山「そっか。じゃあ、このまま見に行ってみる。いつもどうもな。んじゃ。」
:
〇〇「宇賀神さん!」
宇賀神「バンビ。チャオ。」
〇〇「ふふっ、チャオ!どうしたの? こんなところで。」
宇賀神「不二山と情報交換してた。近ごろのおいしいもの情報。」
〇〇「なるほど。不二山くんも詳しそうだもんね。それで、なにを勧められたの?」
宇賀神「ハロゲンでしか売ってない、もちもちタラコスパ。」
〇〇「あ、それすごく評判いいみたいだね。すぐ売り切れちゃうとか。」
宇賀神「うん。食べてみたいな……もちもち……」
〇〇「うんうん。宇賀神さんは何をオススメしたの?」
宇賀神「アナスタシアで最近出た、もちもちロールケーキ。」
宇賀神「それから、雪景色かまくら大福っていうアイス。」
〇〇「わあ、気になるかも!」
宇賀神「美味しいよ? どっちも、ふわふわ、もちもちで……」
宇賀神「食べたいな……かまくら大福……」
〇〇「じゃあ、お付き合いしちゃおうかな?」
宇賀神「! いいの?」
〇〇「もちろん!」
宇賀神「ありがとう。2つ入ってるから、半分こしよう? 行こ。」
〇〇(宇賀神さんはモチモチな食感のものが好きなのかな?)
宇賀神「バンビ、早く。」
〇〇「ふふっ、はーい!」
〇〇(あっ、不二山くんだ。ん? あの男の人は……)
不二山「……そうっすね。できるだけ言うことをきくようには……目に見える範囲で」
???「そうか。フム、もちろんそういう形もありだろう」
不二山「でも、騙してるのと同じなんかなって一度考え出したら、止まんなくなって――」
不二山「体の真ん中らへんを、黒い、モヤモヤしたもんが渦巻いてるんす。はば学入ってから、ずっと」
???「…………」
不二山「このままでいたらどっちつかずで全部ダメになりそうだったから、何度か本当のことを言おうと思ったけど……どうしても一歩踏み出せなかった」
不二山「俺のやってることは、どう考えたって親が喜ぶことじゃねーから」
不二山「だから……」
???「君がそう思うなら、このままご両親の期待に沿っていけばいい」
???「ただし、君が心から幸せであること」
???「ご両親が望んでいるのはね、本当はそれだけなんだ。感謝の気持ちがあるなら、君は素直に話してみるべきだ」
不二山「……!」
???「大いに悩みたまえ。若い頃はそのためにあるんだ」
不二山「……押忍」
???「押忍。応援しているよ。じゃあね」
不二山「ありがとうございました!」
不二山「…………ん? 〇〇」
〇〇「あっ……あの……」
不二山「? 買い物か?」
〇〇「う、うん。もう帰るところ」
不二山「そっか。気ぃつけて帰れよ? じゃあな」
〇〇(不二山くん……)
〇〇(ん? あそこにいるのって……)
〇〇「不二山くん! 新名くん!」
不二山「〇〇。」
新名「ちょりっす。」
〇〇「ふふ、ちょりっす。どうしたの? こんなところで。」
新名「風呂上りに飲むもんの話、してたんだけどさ。ドビタミンCのがウマいのに嵐さんは水だってさ。」
新名「汗かいたあとは炭酸! 喉越しサイコー! ビタミンCも補給できて一石二鳥! 美肌! な!」
〇〇「う、うん……」
新名「ほら~。水にそんな効能ないっしょ?」
不二山「ある。さすがにビタミンCはねぇけど。」
新名「ほら~……って、マジで!?」
不二山「ミネラルウォーターにはカリウムとかカルシウム、ナトリウム――あとはマグネシウム、サルフェート。こんなんが含まれてる。」
不二山「特にサルフェート。代謝も上がって便秘にも効く。女はそういうほうがいいんじゃねぇ?」
〇〇「うんうん、そうかも。」
新名「!」
不二山「硬水か軟水かでも違う。硬水はダイエット、軟水は肌にいいとか聞くな。」
〇〇「へぇ……そんなに効果が違うんだ。」
不二山「らしい。こんど試してみ。」
新名「…………」
〇〇「……ん? どうしたの? 新名くん。」
新名「ズリィ。嵐さんの話にばっか乗り気で。」
〇〇「えっ?」
新名「だってそうじゃん。アンタ今、すっげ食いついてたじゃん。ドビタミンCだっていろんな成分入ってんのに。……たぶん。」
〇〇「えぇと……あの、そんなつもりじゃ……」
不二山「新名。」
新名「……なんスか。」
不二山「ドビタミンC売ってるとこに連れてけ。」
新名「え?」
不二山「うまいんだろ? 風呂上りに飲むと。今日試してみる。」
新名「嵐さん……」
不二山「おまえも行くよな?」
〇〇「……あ! う、うん。そうしようかな!」
新名「!!! あっちの……や、向こうのドラッグストアが安いんスよ! 行こ行こ!」
不二山「行くから落ち着けって。」
新名「押忍!」
〇〇(新名くんの機嫌が一瞬で直っちゃった。さすが不二山くん……)
???「カッコ悪ぃ。嫌だ」
???「馬鹿だね、この子は。カッコいいって!」
〇〇(ん? あの声は……)
〇〇「不二山くん! 花椿さん!」
不二山「あ」
花椿「あっ! バンビ~♡」
不二山「バンビ……?」
〇〇「う、うん……えぇと、どうしたの?」
花椿「ねぇ、どう思う? カレさ、動物的には何だと思う?」
〇〇「……動物的?」
不二山「ほら見ろ。意味わかんねぇンだよ。なんで動物なんだよ? なぁ?」
〇〇「う~ん……花椿さんなら?」
花椿「くま」
〇〇「ああ!」
不二山「ああ、じゃねぇよ……どうせつけんならよ、もっと、ねぇのかよ。タイガーとかウルフとかよ」
花椿「なんで? いいじゃん、くま。強いよ、くまは?」
不二山「そうだけどよ、なんだかこう……なあ、おまえが何かいい案出せ」
〇〇「わたし!?」
不二山「そうすりゃこいつも納得すんだろ。早く」
〇〇「う~ん……じゃあ、ヤマアラシ!」
不二山「…………まんまか」
〇〇「うっ……だって!」
不二山「まあ、クマよりはいい。じゃあ、それな。ヤマアラシだ」
花椿「ダメ、くま。アンタはくまちゃんでいきな?」
不二山「……ちゃん?」
花椿「おっと、時間切れ。今日のところは諦めるわ。じゃあね、くまちゃん、バンビ。チャオッ!」
不二山「クマにバンビ……森かよ、ここは」
〇〇(不二山くんがくまなら、他の人はどう見えてるんだろう……)
琥一「ちょっと待て……話が見えねぇ。」
不二山「何度でも答えてやる。単純な話だ。」
〇〇(……? 琥一くんと不二山くん?)
〇〇「ねぇ、2人とも、どうしたの?」
琥一「〇〇。」
不二山「〇〇。悪ぃ。今、取り込み中だ。」
琥一「もう一度聞く。……俺が勝ったら?」
不二山「柔道部主将を譲る。」
琥一「で、負けたら?」
不二山「お前を柔道部で鍛え直す。」
琥一「じゃ、どっちみち柔道部じゃねーかコラ!」
不二山「柔道やらないでどうすんだ、そんな身体で。」
琥一「どうもしねぇよ、悪ぃのかよ?」
不二山「そうだ、悪い。」
琥一「メンドくせーな、おい……」
不二山「いま答えを出せとは言わない。考えとけ……じゃあな。」
〇〇「うん、じゃあね不二山くん。よし……琥一くん、考えてみよっか?」
琥一「考えねーよっ! 爽やかにしめてんじゃねぇよ!」
〇〇(……だよね、やっぱり)
???「なんなんだよ、あれ! あー……クソッ!」
???「落ち着け。」
〇〇(ん? 今の声は……)
〇〇「新名くん! 不二山くん!」
不二山「〇〇。」
新名「……ちっす。」
〇〇「二人でどこか行って来たの?」
不二山「総合格闘技、観てきた。柔道で、割と有名だった選手が出てたから。」
〇〇「そうなんだ。新名くん、ずいぶん怒ってるみたいだけど……」
新名「…………」
不二山「その選手の負け方が気に入らなくって喚いてんだ、こいつは。」
〇〇「負け方?」
不二山「キックで倒されて、パンチ打ち込まれて。柔道の技を一つも出せずにレフェリーストップ。」
〇〇「あ~……」
新名「わかってるよ、オレだって。総合格闘技に出てる以上、そういうのもアリってことは。でもさ……」
不二山「…………おまえがあそこに立ったら、どういう戦い方をする? ボクサーの立場だったら。」
新名「オレだったら? そりゃ……寝技に持ち込まれたらヤバイんで、さっさと――」
新名「!」
不二山「そういうことだよな? 負けたくなけりゃ、相手より上に行かなきゃダメだ。体力も技も。それが、あの選手は出来てなかった。それだけだ。」
新名「……押忍。」
不二山「おまえは格闘のセンスがある。ただ、精神が追いついてない。今みたいに、いつでも物事を客観的に見られるようになれ。」
不二山「それが出来るようになるだけで、今よりもっと研ぎ澄まされた、いい選手になれるはずだ。」
新名「オレが?」
不二山「うん。強制はしねぇけどな。」
新名「……押忍。」
〇〇(不二山くんにあんなこと言われたら燃えちゃうね? 新名くん)
〇〇(あ、不二山くんと紺野先輩だ。珍しい組み合わせだな……)
不二山「行ってないんすか? ふーん……紺野さん、うきうきで通ってるって思ってた。」
紺野「どういうイメージなんだ、それは……」
〇〇「こんにちは。」
紺野「あ、〇〇さん。」
不二山「押忍。」
〇〇「ふふっ、押忍。何の話ですか?」
紺野「ああ、人体解剖標本だよ。」
不二山「そう。骨も血管も、内蔵とかもむき出しですげーの。」
〇〇「えっ!? ほ、ホラー映画の話とか?」
不二山「違う。人体の神秘展の話。人間の体ん中まるごと大公開ってやつ。」
紺野「そのへんにポスターが貼ってあるんじゃないかな。イベントホールの小展示場で開催中なんだ。」
〇〇「へぇ……」
不二山「筋肉と、それにつながる神経、張り巡らされた毛細血管――」
不二山「あんなんが俺らの中にあって、しかもそれを視覚で認識できるってだけですげーよ。」
不二山「だから、紺野さん絶対俺より回数行ってると思ってたんすけど。」
紺野「ハハ……まぁ、僕も機会があれば行ってみるよ。そのうち。」
不二山「押忍。そろそろ時間なんで行くっす。そんじゃ。」
〇〇「……行っちゃった。」
紺野「不二山君は人体の神秘展、今日で3回目なんだって。」
〇〇「えっ、3回目!?」
紺野「彼によると、僕はそれに嬉々として通うイメージらしいんだ。それっていいのかな、悪いのかな。どっちなんだろう?」
〇〇(どっちなんだろう……)
???「平気っすよ。目立つところじゃねーし。」
???「平気じゃない。」
〇〇(ん?あそこの2人……)
〇〇「不二山くん、設楽先輩!」
不二山「〇〇。」
設楽「…………」
〇〇「えっと、その顔は……ご機嫌斜め、ですか?」
設楽「こういう顔なんだ、俺は。悪かったな。」
不二山「あ。」
〇〇「ん?」
不二山「おまえ、裁縫道具持ってるか?」
〇〇「今? うん、一応あるけど。」
不二山「設楽さん、助かったじゃないすか。こいつに頼んで――」
設楽「バカ! そんなこと、できるワケないだろ!?」
〇〇「設楽先輩、どうかしたんですか?」
設楽「どうもしない、気にするな。不二山、余計なこと言うなよ? ついでに忘れろ。じゃあな。」
不二山「んー。やっぱヘンだ。歩き方。」
〇〇「え? 本当になにがあったの?」
不二山「破けてんだよ、ケツんとこ。設楽さん。」
〇〇「えぇっ!?」
不二山「転びかけてビリッと。上着でうまく隠してるけど。」
〇〇「そ、そうだったんだ。でも、どっちにしてもズボンじゃ、ここでは繕ってあげられないよ。」
不二山「それもそうか。…………」
〇〇「どうかした?」
不二山「転びかけたときに設楽さんが咄嗟に取った体勢、ビリッと来たんだよな……」
〇〇「ビリッ?」
不二山「うん。柔道に活かせそうな……よし、もう一度やってくれって頼んでくる。」
不二山「じゃあな。」
〇〇(忘れるどころか、追い討ちをかけに行ってるような……)
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