「リリーフ井戸について分かりやすく説明して下さい。横から掘ってピンポイントで噴出箇所にたどり着くのでしょうか?GPSもなくどうやって?

 (6.17 kichanさんからの質問)リリーフ井戸について。

 リリーフ井戸とは、井戸の暴噴を止めるために掘られる井戸の総称です。今現在、根本的な流出対策はこの方法のみである為、皆さん興味があるところではないでしょうか。


英語が得意な方はこちらをご覧ください。幾つかの実例を引用した、とてもわかりやすい説明があります。以下の私の説明も、主にこのページから引用させて頂こうかと思います。
http://www.jwco.com/technical-litterature/p11.htm

 リリーフ井戸の目的は、とにかく暴噴中の井戸から出てくる油とガスを止めることです。その方法は、1930年から70年代くらいまでは、別の井戸を、なるべく暴噴中の井戸に油が流れ込んでいる箇所の近くまで堀り込み、その井戸の周辺の油を代わりにくみ上げる、または流体を送り込む、というものでした。これは、当時はピンポイントで暴噴中の井戸にヒットさせる事が難しかった為に取られた手法で、大深度、高圧、かつ高いガス含有量の油層などでは失敗例もあったようです。

(余談:実は私はこの過去の例を知りませんでした。そうとは知らず、「そうだ、もしも今のメキシコのリリーフ井戸がうまく暴噴中の井戸にヒットさせられなかった場合は、リリーフ井戸から水を送り込んで、油の代わりに海水を循環させて時間を稼いだらいい!こういう時はよりシンプルな方法が必要だ!」などと閃いた気になっていました。70年前に先人が通った場所だったことを知り、赤面しております。更にそれをホワイトハウスチャンネルに書き込んだりしていたのだから、いや、本当に恥ずかしい)

 さて、1970年以降、石油開発技術は進み、暴噴中の井戸を検知する技術、狙った場所に井戸を掘り込む技術が確立されてきました。電磁探査センサーを用いた井戸の検知技術は、75年の時点で最大12m以内の有効範囲を持っていたということですから、今では20mくらいは行けるのではないでしょうか。掘る技術に関しても、ステアリングビット(先端にモーターが付いていて、方向転換が出来るドリル)が一般的な技術となりフレキシブルなドリルが可能、さらにジャイロを使った方向確認で、位置の誤差は0.1%以下です。一般的な感覚では、「狙った地点の半径2m以内には掘り込める」という精度です。

 無事に井戸の根元に掘り込めるのであれば、直接井戸の根元に特殊な液体を注入して、井戸をKillする(止める)事が可能です。通常、比重が重め(地層の高圧に負けない)かつ粘々とした粘性の高い流体を循環させ、地層から油やガスが流出しずらくしてから、セメントで埋めてしまいます。

先日公表された米国の調査委員会の資料によると、油層の圧力は13000から14000psi(ポンド/平方インチ)、という事は1000気圧以下ということなので、この深さの油田にしては、圧力は大したことはありません。むしろ問題は、油層の直上、または上部の岩が比較的割れ易い岩なようで、圧入した流体が岩を割って、意図していない方向に流れ込んでしまう事かと思います。しかし、事前情報でそのような地層の特性は判っていますので、割れた部分を埋める為の「ピル(Kill Pill)」という物質を混ぜ込んだ流体を用いて対応が可能でしょう。

 総評しますと、決して簡単なリリーフ井戸ではありませんが、現代の、それも過去に試した技術を用いて十分対応可能な範囲であると推測します。但し、慎重な作業が求められますので、作業完了は報道の通り8月中、もしもトラブルがあれば追加で1ヶ月が必要なのでは、と見ています。一本目のリリーフ井戸で失敗した場合は、2本目。それでも失敗した場合には、その2本から油をくみ上げる事で、暴噴中の井戸の流出量を減らす、または海水を圧入して、油の代わりに海水が噴出するように仕向ける(まだ持論を大事にしていると笑われそうですが)、という手法が試されると推測します。














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最終更新:2010年07月01日 18:35
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