真砂子編

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ギシッ  ギシッ   ギシッ  ギシッ
ズチュ、ニチュッ、ズニュ、ジュブブブ・・・・

天井の付いた染みが、大勢の人の顔に見える。
でも、そんなものは目の錯覚にすぎない。
恐怖と言う名の感情が作り出した、ただの妄想の産物の産物であることは
高い霊能力を持つ彼女には解りきったことだった。
その筋では名の通った霊媒師・原真砂子。
今彼女は、薄汚れて埃の積もったベッドの上で
着物の胸元と裾をはだけられ、人形のように犯されていた。


街外れにある、崩れかけの一軒の家屋。
今にも倒壊しそうなのは木造建築のその外見だけではなく、屋内も同様の酷い有様で
家人が訪れなくなって久しい部屋の中の床や家具の上には塵芥が堆く積もり
所々床板自体が腐っているのか、歩くと足が沈み込むような感触と耳障りな軋みを立てる。
そんな薄汚れた室内に散乱する、女性の衣類。
転がる手荷物。
片方だけ脱げた履き物。
横の部分を力任せに引き千切られたパンティーは、ベッドの下にポツンと落ちていて
ブラジャーは外されず、無造作にずり上げられて真砂子が付けたままだった。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・!」
仰向けで犯される真砂子の耳元で聞こえる、獣のような荒々しい息づかい。
もうどのぐらい犯され続けただろうか。
入れ替わり、立ち替わり。
複数の男が真砂子の中に出入りを繰り返す。
受け入れた相手の人数は、二桁を超えたあたりで数えるのをやめてしまった。
床の上、とうの昔に暖かさをを失ったむしり取られた下着だけが
この狂ったような光景を、覚めた目で客観的に見ているような気がする。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァ・・・・うっ!!」
真砂子に覆い被さっていた男の腰がビクン震え、また欲望の丈を吐き出した。
ブルブルと全身を射精の快感に震わせ、ひとしきり流し込むと
ゆっくりと腰を引き、ドロドロに汚れたペニスを真砂子の穴から引き抜く。
ブヂュリ、ゴプッ・・・
垂れ落ちる白濁の粘液。
抜かれた肉の裂け目は閉じることなく広がったまま。
今まで叩き付けられてきた獣欲の証を逆流させていた。

「ぅっ・・・が・・・・・は・・」
今まで犯していた男が呻きを漏らし、埃っぽい床の上に倒れ伏す。
板張りの上に、横たわった男。
その背中から白い何かが、音もなくスウッと出てくる。
まるで教育番組がなにかでよくやっている、蝶が蛹の殻を破って出てくるのを
数倍の速度で早送りにしたかのような光景が目の前で展開される。
もっとも真砂子には、もうそちらを向く気力も体力もなかったので見ることはできなかったが。

男の身体をすり抜けるように出てきたソレは、ユラユラと空中を進み行き
この部屋の入り口から列を作っている、虚ろな目をした別の男達の先頭へと近づくと
身体の輪郭を重ねる。
吸い込まれるよう消える、白い何か。
すると、虚ろな瞳でだらしなく突っ立っていた男がいきなり
興奮剤を投与された種馬のような形相になり、ついでに下半身の方も馬のようになった。
血走った目で、真砂子を見る。
四肢は投げ出されたまま。
着物は腰の帯の部分を起点に上下が乱暴にはだけられていて、抵抗する様子もない。
動かない。
股の間を見る。
ついぞ数時間前まで男を知らなかった汚れのない秘所は、すでにその面影を失いグチョグチョのドロドロ。
精液溢れる肉穴の入り口は開きっぱなしで、閉じる様子を見せなかった。
赤く捲れて外まではみ出した襞が痛々しい。
まるで、獰猛な肉食獣に食い散らかされた、野ウサギのよう。
だけどそんな光景に、興奮を覚える。
情欲をかき立てられる。
グズグスに食い荒らされた女性の部分。
糸の切れたマリオネットのように動かない真砂子に、男は猛り狂ったように躍りかかった。

痛いぐらいに脈打ち天を仰ぐ勃起を、垂れ流しの恥穴へ。
真砂子の膣へ。
ぬむり、と抵抗無く飲み込んだ。
「・・・っ・・・・・・」
僅かに真砂子が反応を見せる。
もう下半身の感覚は、ほとんどが麻痺していた。
心も方も麻痺していた。
けれども、また犯されることを感じ取った女の本能が、猛々しい男を感じ取った女の部分が
僅かな拒絶を示す。
だけど男は構わず性欲をぶつける。
猿のように腰を振り、叩き付ける。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・はうむっ」
男が、真砂子の唇を塞ぐ。
だらしなく開いたままのぷっくりとした可愛らしいそこを割り開き、舌を中へと押し入らせる。
唾液を纏った軟体。
口腔内を這いずり回る赤い舌はまるでナメクジのようで。
歯を、舌を、歯茎を、頬の内ら側を、我が物顔で蹂躙される。
ツバも流し込まれた。
顎をしっかりと手で固定され、唇を男自身のもので隙間無く鬱ぎ
己の舌を使って、真砂子の舌へと塗りつける。
「う・・ぶっ、・・・うぐ・・・っ」
だんだんと、真砂子の口内に涎が溜まってくる。
このままでは、窒息しかねない。
流し台の排水溝に溜まる汚泥のような味の唾液。
だけど真砂子は、しかたなく飲み込んだ。
「・・・・んく・・・んく、んぐ・・ごくっ、ごくり」
喉が鳴る。
細い喉元が上下に動く。
「ごく、ごく・・・・ぇはぁっ」
ようやっと、真砂子の唇が解放された。

真砂子の意識は、実はもう半分ほど飛んでいた。
ドロリと濁った目で天井を見つめたまま、何も考えない。
男の動きに合わせて、小柄な身体を揺らすだけ。
下半身を襲う鋭い痛みも、もう随分前にほとんど感じなくなっている。
今あるのは、鈍いわだかまりと違和感。
肉と肉のぶつかり合う音も、恥裂を掻き回されるグチュグチョという音も
どこか遠くから響いてくる喧騒のように聞こえる。
どうして、こんなことになってしまったのか。
考えても今更しかたのないことなのだが、他にすることもないので
こんな思考がグルグルと真砂子の頭の中を、回遊魚のように無為に回る。

この日、真砂子はとある霊体を、説得して成仏させようとした。
いわゆる『浄霊』というものである。
真砂子に除霊はできない。
だがしかし、霊体と話し合うことは可能だ。
聞くところによると、力は強いが相手はなかなか話の通じる霊だという。
なので、なんとか説得してみようと試みたのだが・・・・
結果はご覧の通りである。


「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・!」
耳の側で繰り返される、発情した犬のような短い呼吸。
突き入れられる肉の凶器。
それが、僅かに膨れ上がる。
男の射精が近い。
何度となく繰り返された行為。
だから、解ってしまうのだ。
そんなことが解ってしまう自分が情けなくなる。
嫌気が差す。
真砂子は瞳を閉じ、来るべき射精の瞬間へと備える。
力の抜けきった指先で、淫らな汗を吸い込んだシーツをキュッと握りしめた。
「はふっ、はぅっ・・・・ゥオ、オオッ!」
耳のすぐ側で上がる、短いオスの叫び。
交尾の果てに得られる、射精の快楽にのために上げられる、野生の雄叫び。
ボンヤリとした下腹部が、また重くなった気がした。
ブジュュッ!! ぶびゅびゅびゅびゅっっ!
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン・・・・・・
繰り返される脈動。
命の元を送り込む躍動。
その度に、真砂子の腹の中が重くなる。
子宮が、重くなる。

真砂子の意識に霞みが掛かり始める。
だけど彼女にとって、それはせめてもの救いなのかもしれない。
現実は変わりはしないが、気を失ってしまえば、このセックスと言う名の汚辱から
一時的にしろ、解放されるのだ。
吐き出し終えたのか、次の男に交代する。
白い靄のようなものが、取り憑く肉の器を乗り換える。
真砂子を犯し、射精の悦楽を貪るための道具を交換する。
まだまだ性の暴力は続くようだ。
真砂子はそっと、意識の綱から手を離す。
たけど記憶の途切れる寸前に、ふと誰かの声を聞いたような気がした。
『・・・・届いた』
そんな声。
彼女が覚えているのは、ここまでだった。

10年後

真砂子はあの後、さらに犯され続けた。
意識が戻ってからも、何度も、何度も。
操られていた男達が正気に戻ってからも、今度は彼ら自身の意志で犯された。
そして真砂子は、妊娠した。
誰のともしれない赤子を、その腹に宿したのである。

宿った子供は、男の子だった。
「おかあさ~んっ」
だけどそんな話も、今は昔。
あの時に孕んでしまった赤子を、真砂子はどうしても堕胎することができず
今日まで彼女は育ててきたのである。
女手一つ。
口寄せや浄霊を生業にして、一生懸命。
愛情を込めて育ててきた。
望んだ子ではなかった。
けれども、宿った新しい命に罪はない。
なにより、お腹が大きくなるにつれて、赤子が育つにつれて
真砂子の中の子に対しての愛情も、徐々に大きくなっていったのだ。
結局、彼女はその子供を産んだのである。
今では、やはり産んでよかったと思っている。
苦労した。
片親なので、子供にも苦労を掛けた。
でもやはりあの子がいて、笑顔を見ることができて、自分は幸せなのだと思う。
「えへへっ、おかあさん」
胸の中には、暖かな温もり。
小さな命。
その尊さを噛みしめ、真砂子は抱きしめた我が子の頭を、壊れ物を扱うかのようにそっとそっと撫でる。
母の優しい手の温もりが嬉しいのか、子供の方もギュッと和服の背中を抱きしめてくる。
名前は『奈留』と名付けた。
どこから、誰から名前を貰ったのかは、まあ言わなくても良い話である。

「ねえ、おかあさん」
その子が言った。
「なあに?」
真砂子も優しく問い返す。
「セックスしようよ」
………………は?
今、なんて・・・?
我が耳を疑った。
だから、問い返した。
「セックスだよ、セックス。 ボクを孕んだときに、散々したでしょ? 大勢の知らない人達と」
この子は、何を・・・・?
いったい、何を。
我が耳を疑い、我が頭を疑い。
真砂子は、抱きしめた胸の内にある奈留の顔をみようとした。
だが見えたのは、真砂子に似た艶のある黒い髪の毛だけ。
顔は、真砂子の胸に埋めたまま。
しゃべり続ける。
「今日ね、やっと精通が来たんだよ」
言って、腰をグッと押しつける。
「・・・!?」
そこには、小さいなからも確かな膨らみ。
ズボンの股間部が盛り上がり、あきらかに勃起しているということがわかる。
わかってしまう。
あの日に受けた陵辱。
そのおぞましい行為が、これがあの時自分を突き嬲ったモノなのだと、過去に受けた恐怖の記憶が教えてくれた。

「ぁ・・・・ぁ・・・・・・」
真砂子は、言葉を失っていた。
この子が何故、産まれる前のことを知っているのだろうか。
過去の心の傷と、今のこの子の言葉。
そして思い出す。
意識の途切れる寸前、頭の中に響いたあの言葉。
『・・・・届いた』
それを意味するところは、おそらく・・・・
真砂子の思考が、最悪の想像へと辿り着く。

「おかあさん、あれからずっと男とヤってなかったでしょ? えへへ、でももう心配いらないよ」
相変わらず顔は胸に埋めたまま。
今この子がどのような表情をしているのか、伺い知ることはできない。
真砂子は、子供から離れようとした。
そして今更ながらに気が付く。
全身が、動かなくなっているのだということに。
「・・・ぁ・・・・・そんな・・」
金縛り。
元々、あの霊は強い力を持っていた。
それに、母体となった真砂子の霊力。
この子はそれを受け継いでいるのである。
そんじょそこいらの霊力では歯が立たない。
圧倒的な力を持って、真砂子の動きを封じている。
逃げられないようにしているのだ。
「ボクが射精できるようになったんだから、これからは毎日のように可愛がってあげるからね」
ね、おかあさん。
そう言って上げられた顔は、真砂子がよく知っている我が子の笑顔。
邪気の欠片も感じられない。
屈託のない、真砂子の大好きな笑顔だった。

エンド


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最終更新:2007年06月14日 21:25