第六話後編

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「じゃ、来いよ」
床に身体を横たえて、滝川が麻衣を招く。
その声と浮かべる笑みの艶めかしさに誘われて、麻衣は滝川の横に這い、その身体を跨いだ。
「やり方は……覚えてるか?」
「……ん、夢とおんなじふうにやってみる……」
「おりこうさんだ。……夢でしたこと、ちゃんと覚えててもらえて嬉しいよ」
「……あたしも……うれしい………」
滝川の両手に腰を支えられながら、麻衣は彼のものを震える手でそっと入口にあてがい、
そのまま少しずつ力を抜いて腰を落とし、息を吐きながら自らの中にゆっくりと呑み込む。
「んく、う……」
太く滑らかな先端が入口の襞を押し分け、ぐちゅりと音を立てて泥濘の中に入り込む。
狭く締まる場所で一度軽く引っ掛かり、麻衣は微かな痛みを覚えたが、それを息を吐いて遣り過ごし
快感だけを追ってそのまま腰をゆっくりと沈めた。
「……ぅ、ん……ぁ、ああぁ……おっき、い………」
少しずつ体重を掛けると、じりじりと粘膜を捲るように押し広げながら、熱く太い滝川のものが奥の方へ
入ってくる。その焦れる感触に腰の奥から痺れるような快感が込み上げ、麻衣は思わず仰け反って
身体を揺らしながら甘い声を洩らした。
「……ぁ、あぁ……ぅ…ん……ふ、ぁ……あ…んぅ……」
「気持ち良さそうだな。………そのまま、自分で動いてみろよ」
滝川の声に従って軽く腰を揺らすと、その硬さと質量で中の粘膜が押し潰されて蕩けるように気持ちいい。
中でも特に強く快感を覚える場所が腹側と腰側にあるのに気付いて、麻衣は腰を前後に振ってその場所を
太く張り出した先端に押し付けた。
「……あぁ……きもちい……」
「………っ、……また、エロい顔してんな………俺も……それ、……結構…いい………」
敏感な先端にぐりぐりと内壁を押し付けられて、滝川もまた強い快感を覚えていた。
快感に肉棒が震えると、麻衣が甘やかに吐息を漏らしながら棹に熱くぬめった粘膜を絡めてくる。
その淫猥な蠕動がたまらなく気持ち良く、思わず下腹に力が込もる。
「……麻衣の中、すげえ……やらしいよ……堪んないから…俺も、動かして…いいか……?」
「…はぁ……う…ん、……いい…よ……ぼーさんも…して……っく、ああぁっ、や、いき、なり……ッ」
許した途端に下から強く突き上げられて、麻衣が堪らず声を上げる。
「……いきな、り…そんな…っ、しちゃ…、だ、め…ぇ……っ」
けれどもその批難の声は快楽に蕩けて甘く、全く制止の威力を持たなかった。
滝川が腰を打ち込む度に、その勢いに圧されて甘い喘ぎが唇から洩れ、興奮にうっすらと赤く染まった
白い胸がふるんふるんと弾んで揺れる。赤く充血した頂が、白い胸の先端で誘うように尖り震えていて、
滝川はその淫猥で美しい眺めに陶酔しながら、湧く加虐心のままに彼女を責めて意地悪く笑う。
「……ハッ、全…然…っ、ダメじゃ、ない…くせ、に……っ」
「…ひぅ…っ、だっ…て……ッ、…ん、……ゃ…あぁ…ッ」
自分で加減しながら得る緩やかな快感とは違い、滝川が与える快感は強烈で容赦がなかった。
深いストロークで何度も下から奥深くまで突き上げられて、身体が浮くようなその勢いに背中が撓り、
眼裏に火花が散る。先程よりは潤み緩んではいるものの、それでも滝川の剛直は麻衣の内奥をびっちりと
隙間無く埋めていて、激しい抽送の度に粘膜を幾度も擦られ、その強い快感に彼女の中が強くひくつく。

「…んあっ、あぅ、さっきと…ちがう…っ、あふ、うぅ、ん、きも、ちいい…っ」
正常位の時とは違う場所を違う角度で責められるのが、麻衣には堪らない刺激だった。
一気に身体の温度が上がり、汗が背中を伝い落ちる。どうしようもなく身体が熱くて、制服を脱いで裸に
なってしまいたい衝動に駆られるが、けれどもその脱ぐ間すらも惜しいほど彼と交わっていたくて、
麻衣は滝川の肉棒を美味しそうに咥え込んだまま、彼の動きに合わせてひたすら腰を揺すった。
「……腰……、勝手に…動いてんぞ………もっと、欲しい…の、か……?」
「んン…っ、うん…っ……もっと…ッ、…あ、はぁ…ぼぉ、さ……もっ…と…ほし…い…っ、中が……
 ……あつくって…っ、入口…も…、…奥…も……ぜんぶ、きもち、いいの……っ」
「…………やっぱ、おまえ…エロすぎ…だ……っ」
扇情的に蕩けた麻衣の声と潤む瞳に煽られて、滝川は彼女の最奥を抉るように突き上げた。
「……ああぁっ……奥、まで…っ、……ぜん、ぶ……ぼーさんで、いっ…ぱい……っ」
強すぎる快感に圧されて麻衣の瞳から涙が零れ、彼女の内奥が淫らに蠕動する。
その強い締め付けと込み上げる至福に、滝川の胸も蕩けて痺れた。
「………っ、……………本当に、夢みたい、だ……」
最愛の少女を手に入れ、彼女から己を切望されて、求められるままに快楽を与え──そして彼女からも
溢れんばかりに愛と快楽を与えられている。
「…………気持ち、良すぎて……まだ…夢の中に…いる、みたいで……少し、怖い…な………」
「……こわ、い……?」
「ああ……麻衣に…好きだって、言われたことも……今…おまえと……こうしてることも……幸せすぎて、
 ……これは…現実じゃなくて……俺が見てる夢の…続き……なんじゃ、ないかって…思えて…くるよ……」
餓えを満たすように激しく剛直を突き入れながら、眩しげに寂しげに自分を見上げる滝川の瞳の色がとても
切なく愛おしくて、麻衣は身体を前に倒して彼の胸に預け、そっと抱き締めた。
身体の中で滝川の角度が変わり、その新たな快感に思わず小さく呻くが、それを堪えて彼に微笑む。
「……だいじょうぶ、……ほら、夢じゃ…ないよ……あったかい、でしょ……?」
滝川の渇望する瞳を見つめたまま、そっと唇にキスを落とし、そのまま唇が触れ合う距離で囁く。
「ね…、あたし…ちゃんと…、ここに、いるよ……ずっと、……ぼーさんと、ずっと、いっしょにいるよ……」
「……ハハ、……そんな、優しくされ、ると……っ、余計…夢、みたいで……ちょっと心配…だな……」
「…ん、もぉ……あぅ…ぼー、さん……ホント…心配、性……だ……っ」
「そう、だな……だから、禿げる…前に……ちゃんと、夢じゃ…ないって……確かめ…させてくれ………」
「……う…ん……いい…よ……何度でも……あたしを…確かめて……いっぱい…もっと……」
滝川の不安を吸い取ってしまいたくて、麻衣は彼の唇に何度も強く吸い付き、彼の餓えを宥めるように
口内に舌を差し入れ、優しく舐めてやった。ひたすらに自分を求めてくれることがとても嬉しく、
ただただ彼が愛おしくて、夢中で彼を求めて愛す。

「……ふ……んぅ……あぁ……ぼーさん、好き…大好きなの……っ」
「俺も……死ぬほど、好きだ………ああ…麻衣………麻衣………俺の…、俺だけの麻衣……」
汗に塗れた身体を密着させて抱き合い、唇を吸い合いながら互いの唾液に塗れた舌をくちゅくちゅと絡め、
そして互いの愛液に塗れた性器をぐちゅぐちゅとぶつけ合い、弱い粘膜同士を何度も濡らし合いながら擦り合う。
合わせた唇の合間から唾液が零れて互いの顎を濡らし、繋がり合う結合部からは、剛直を抜き差しする度に
白く泡立ち混ざったふたりの体液がにちゃにちゃ、ぐちょぐちょと卑猥すぎる音を立てながら溢れる。
身体の全てが触れ合って、全ての熱が溶け合い、全ての体液が混ざり合い──そして意識さえも白く溶けて
混ざり合う、この上なく恥ずかしくて汚らわしくて淫らな、最愛の相手としか出来ない最高に幸せな行為。
ふたりはそれを確かめ合いながら、互いを求め奪い与え刻み、共に溺れた。
「あぁあ…っ、んく…っ……ぃ…ああぁっ、ひぅ…や、あぁっ…イク…だめ…イきそ…っ…んぅ……っ」
「………ああ、いいぞ……イケ…よ……っ」
「…んあっ、…だ…め…っ、…あぁ…よすぎ…て……も……おかしくっ…なっ、ちゃう……っ」
「………俺は…もう…、とっくに…おかしく…なっちまってるよ……だから、麻衣も…一緒に……」
「は…あぁ……い…っ、……しょ……に………」
「………うん……、俺と……、一緒…に……、………おかしく、……なろう?……な……」
一度ずるりとギリギリまで引き抜き、入口を浅く焦らすように責めて蕩かし、それから再びぐっと奥まで
沈めて、そのまま幾度も奥をずんずんと小刻みに突くと、麻衣の喘ぎが啼き声に変わった。
「ああぁぁ……いいの…っ……もっと…ぉ……あぁあ……もお、だめ…ぇ…っ……あ、あぁ…ぁん…っ」
「……ん……わかってる……いいよ……イッたら……また、いっぱい…すれば……いい……だから……
 今度は…ちゃんと俺の…名前……呼んで……イけよ……っ」
滝川は激しく腰を打ちつけ、奥深くを何度も穿ち、麻衣と自分を絶頂の際に追い詰める。
「…うんっ…ああぁ…法、生……法生……すき……法…生……す…き……だよ………っ」
「………そう……俺の、名前……呼んで……目、閉じないで……俺の目…見ながら…イッて……」
「…んぅ…っく、いく…ッ、法生……っ、イクの、イッちゃう…ッ、ああぁ…っ、法生…ッ!」
蕩けた瞳がぶわっと潤み、滝川の胸に縋り付いていた身体がピンと仰け反り大きく震える。
そのまま幾度も身体を震わせ、内奥を強く収縮させながら麻衣は達した。
「……っ、いい…締め付け、だ……やらしく、うねって……ああ…その顔…最高に…可愛いな……」
法悦を極めた麻衣の内部の蠕動と、その淫らな姿をじっくりと楽しみながら、滝川は己の快楽にも
ラストスパートをかけた。彼女が達した後も容赦せず、そのまま激しく腰を送り込み、充血して
潤みと熱を増した内奥の感触と絶頂の強い締め付けをたっぷり楽しむ。

「──ひうぅ…ッ、あぅ、あぁあっ、ダメッ、まだあたし…ッ、やぁ…っ、あぁっ…また…ッ」
「……っ、……イキながら責められんのも、……なかなか…、……いい、だろ…?……約束…守れた……
 ご褒美に…俺が、……もっとイイ…ところ、まで……連れてって…やるよ……」
「あはあぁ…ッ、こんっ、な…のっ、だ…め……ッ、おかし…ッ、あた、し、いやっ、こわれ…ッ!」
絶頂の途中でさらに強烈な快感を送り込まれ、麻衣は息も絶え絶えに悲鳴を上げた。
全身を震わせ、半開きの唇の端から涎を零しながら、激しく中を犯される度に甘やかな声で苦しげに
悶える彼女がとても愛おしくて、さらに啼かせたい加虐の衝動が抑えられなくなる。
「…ハァ…ッ……いいよ……壊れな……、……全部…見てて、やるから…っ」
「ひぁッ、やぁっ、だめぇッ、ああん、もぉ、ダメっ、まだ、またイクっ、やだぁ…ッ」
頂点だと思っていたそこよりも、さらに高い場所があることを知らされて、甘美すぎる恐怖と
恐ろしいほどの愉悦が麻衣を苛む。強引に高いところへ押し上げられる感覚は、深い場所へと
堕ちていくそれとあまりに似ていて、すでに脳裏に散る火花すらも見ることが出来ない。
麻衣はその眩暈するような混乱に喘ぎ、啼きながら、滝川に救いを求めた。
「ああぅッ…あふ…っんく…っ、いくッ、も…おね、が…っ、いぁ…っ、ゆるっして…ぇ…っ」
「……仕方…ねー、な……じゃあ、腰、少し浮かせて」
滝川の言うなりに、麻衣が震える腰に必死で力を込めて軽く腰を上げると、ふたりの身体の間に出来た
僅かな隙間に滝川が強引に手を差し入れた。そのままふたりが繋がり合う結合部に手を伸ばし、
麻衣の中から溢れた精液と愛液でドロドロに濡れている肉芽を指先でぬるりと撫で擦る。
「──ひゃうッ!」
「………ここ…触られると……前も、中も……気持ちいい、だろ……っ?」
「んひぅッ、んぅっく、あはぅっ、それっは…ッ…法ッ生ぉ、も、ぁくぅっ、またっダメ…ッ」
続けざまにに絶頂感を与えられて、その狂いそうなほど激しい快楽に麻衣の身体がビリビリと痺れる。
脳裏が赤く灼かれる程に幾度も煉獄に堕とされて、彼女の意識はすでに陥落寸前だった。
「…はぁっ、あふぅッ、ほぉ、しょお…っ、またッ、イッちゃう、のぉ…っ、あはああぁぁん…っ
 ね、もぉ、ダメ、だ、よぉ、あぁあん、も、ゆるし、てぇ、だめ、なのぉ…、あぁ……」
すでに蕩けきった彼女の瞳の焦点は合わず、何の像も結ばないまま、ただ与えられる悦楽だけを
追い求めるように空を彷徨っていた。
「……すげえ……可愛くて……ああ、………これ…俺も……堪ん、ないわ………」
彼女と己の限界を感じ、滝川は麻衣に最後のとどめを与えるために最奥を強く突き上げながら、
白濁の体液に塗れてぬめる肉芽を二本の指の間でキュッと挟み、ぐっと押し潰す。
「…………ほら、……これで…天国、イッちまいな……っ」
「───ああああああぁぁぁ…ッ!!」
強い突き上げに圧されるように、麻衣は一気にさらなる高みへ押し上げられ、昇りつめ、そして堕ちた。
身体を仰け反らせ、高く啼いて快感を叫びながら絶頂に達し、幾度か身体を震わせた後、ぐったりと
身体の力を抜いて滝川の胸に倒れ込んだ。
最愛の少女が果てたのを見届けてから、滝川は己の欲望を彼女の最奥に放った。
      ・ 
「……はぁ……ああぁ……もう…だめ…ゆる、して……」
「だーめ。まだまだ俺満足出来ないもーん」
滝川に片足を抱えられながら、ぐったりとベッドに横たわった麻衣は彼のものに深々と貫かれていた。
すでに日は落ち室内は暗く、照明も点けぬまま、薄暗がりの中でふたりは身体を交えていた。
「……どんだけ…やったら……満足、すんのよ……あたし、つかれたよぉ………それに、あたしまだ、
 今日が、初めて…なんだから…っ、あぅ…っ、んく…っ、…ちゃんと、加減、してよぉ…っ」
「あれ、手加減出来なくても、何度壊してもいいって言ってくれたのは誰だっけ?ん?」
「……う、うぅ……それ、は……っ、でも、…も、無理、だよぉ……明日、動けなく…なる……」
幾度も絶頂を強制されて麻衣が力尽きた後、滝川は彼女の着衣を全て脱がせてベッドに運び、
優しく介抱していたのだが、彼女をいたわり、甲斐甲斐しく世話をしたり撫でたりしているうちに
それが行き過ぎて再び劣情を催してしまい、結果彼は彼女の休息を奪い続けていた。
さすがに先程のように彼女が倒れ込んでしまう程の激しい行為を無理強いすることは控えていたが、
気怠い余韻に喘ぐ彼女の身体とその媚態が淫らすぎて、そしてか弱く抵抗の言葉を吐きながらも
自分を優しく受け入れてくれる彼女が愛しすぎて、滝川はどうしても麻衣を手放すことが出来ない。
「えー、いーじゃん、明日土曜日だし。学校休みだろ?」
「……でも……困るよぉ……おふろとか…ごはんとか……」
「別に一日中ベッドで寝てればいいさ。動く時は俺がお姫さま抱っこして運んでやるし、
 要るもんは全部俺がここまで持ってきてやるよ。……なー、ほら、全然困らないだろ?」
「……ん、もぉ……そういう、問題じゃ…ない、でしょ……」
にんまりと自信満々な様子の滝川に、麻衣も思わず笑ってしまう。
「……そんなに、甘やかして……あたし、わがまま放題…しちゃうからね…知らないよ…?」
「いーよ、麻衣は俺のお姫様だから、おまえの我が儘なら何でも聞いてやるぞー」
「…………何か、聞いてる…こっちの方が…恥ずかしくなってくる………」
「俺は全然恥ずかしくない。だって俺、麻衣ちゃんのことが大好きなんだもーん」
「…ぷ、あははは…っ、ん、あん……もー、ぼーさん、ホントにおバカだ……でも、あたしも…もう、
 おバカに…なっちゃったかも…しんないね……そーゆーぼーさんが、可愛くて仕方ないんだもん……」
ぼーさんの方がうんと大人なのにね、と笑いながら、麻衣は滝川の頬に手を伸ばし、そっと撫でた。
「あたし、もう…ぼーさんがいないと……何にも、出来なくなっちゃった……責任、取ってね……」
「……………俺に恥ずかしいことばっかり言うってゆーけどさ……絶対、おまえの方がすげえ殺し文句
 吐くと思うぞ俺は……………破壊力抜群すぎて、腰砕けるっつーの……」
溜息をついて滝川は項垂れ、けれどもすぐに破顔して抱えた麻衣の脚に口づける。

「……でもいいねー、それ。……あー最高、死んでもいい。今死んだら勿体ないから死なないけど、
 そんくらい嬉しいぞ。俺無しじゃ何も出来ないなんて言われたら、俺もう本当に何でもするからな。
 責任なんていっくらでも取っちゃる。とりあえず来週指輪買いに行くから予定空けとけよ。
 あ、給料3ヶ月分って俺の場合どーやって計算したらいいんだ?」
「…………ぼーさん……、………それはちょっと…気が早すぎ……」
「全然早くねえと思うけどなー。………まぁ、あんまりがっつきすぎて麻衣にどん引きされても
 困るから、将来の事は追々一緒に考えていきますか。……じゃあ今は、とりあえず今宵の
 このひと時だけを楽しむことにすっか、な? まだまだ夜は長いんだし」
「………ねぇ……本気でまだ……終わん、ないの……?」
「んーごめん、もうちょい付き合って。……そんな嫌そうな顔すんなよー、いっぱい気持ち良く
 しろっつったのおまえだろ?……今夜は麻衣が悪い夢見る暇ないくらい可愛がってやるから」
麻衣の瞳を見つめ、滝川は悪戯に笑む。
「それにこうしてれば、他の男の夢も見れないだろう?」
「────ッ、……どうして……それ………」
麻衣は驚きに息を呑み、これまでに彼と交わした会話の数々を思い出す。
自分は滝川に彼の人の夢の話をしたことがあっただろうか。───否、誰にも話したことなど無かった。
誰かに話すのは気恥ずかしかったし、何よりもこれは麻衣ひとりだけの、大切な秘密だったから。
「………ふーん、やっぱり、な。まあ、俺だって麻衣の夢見るくらいだから、麻衣も好きな男の夢くらい
 見るだろうとは思ってたけど。……それにしても、その様子じゃ、ずいぶんと特別な夢みたいだな」
「…………とく、べつ…………」
確かにその夢は麻衣にとって特別なものだった。
いつだって彼が出てくる夢は、良い夢の時も、悪い夢の時も──断然後者の方が多く、何度も麻衣は
夢の中で怖い思いをしたが──不思議なほど現実とリンクしていて、これまで何度も解決中の事件の
ヒントを沢山与えてくれた。
──そして夢の中の彼の人は、それはそれは優しく微笑んでくれたのだ。
「……すげえ、妬けるな。なあ、どんな夢見てたんだ?俺との夢みたいに、キスとかいろいろしたのか?」
「────ッ、してない…っ、そんなこと、するわけ、ないっ!」
「……本当?」
「ホントだよ…っ、そーゆー夢じゃ、なかったもんっ」
「でも、麻衣がそいつに恋してて、夢の中で逢って幸せだったことは間違いないんだよな」
「…………………、それ、は…………」
「ふーん、じゃあやっぱり、今夜はまだ麻衣を許してやるわけにはいかないなー。麻衣の中から
 そいつが全部消えるまで、俺を注ぎ込んでやらないと」
滝川は麻衣の瞳を強く見据えて、薄く笑う。

「俺、もう何も我慢しないからな。独占欲丸出しで悪いが、もう麻衣は全部俺のものだから。
 何一つ、他の男には渡さない。……もちろん、夢も」
淡かろうが儚かろうが、他の男に心を揺らすなど許さない。
恋心に別れを告げる間も、ましてやそれを惜しむ間など、与えない。
今宵、彼女の全てを手に入れ、自分の色に塗り替える。滝川は、そう決めたのだ。
「もう、俺以外の男の夢は、二度と見せない」
彼女の目を見つめたまま、横たわる彼女に覆い被さり、全てを奪い取り己を与えるキスをする。
そのまま唇を塞ぎながら、ゆるゆると腰を送って中を穿ち、麻衣の中に残る夢の気配を自分の情欲で蹂躙し、
全て残らず消していく。
「………麻衣は、もう…全部、俺のもの………だろ……?」
唇を塞がれて、下肢を奥深くまで杭で打たれて、その逃げ場の無さに麻衣は強く幸福を覚え、口吻の合間に
低く甘い声で囁かれる呪文のような支配の言葉に素直に頷く。
「……うん、あたしは全部……ぼーさんの、ものだよ……」
そう答えた時、ほんの一瞬だけ、ちらりと過去の淡い恋心が頭をよぎり、微かに胸を締め付けたような
気がしたが、それも滝川から強い愛と快楽を口移しに流し込まれて、瞬く間に霧散してしまった。
──惜別の涙すら流せぬまま、淡く儚い恋は麻衣の中で密やかに終焉を迎えた。
麻衣が夢で彼の人の名を呼ぶことはもう二度とない──それを麻衣も気付いていた。
「……だってあたし、ぼーさんのこと、もう大好きなんだもん……」
滝川の色に染まりきった自分自身が嬉しくて、麻衣は陶酔の笑みを浮かべる。
もう他の誰かを恋う夢を見る必要も、その余裕もないのだ。
「……あたしの中、全部、ぼーさんでいっぱいで……うれしくて、しあわせ……」
だからもっと、もっと。何度も。奥まで。
「……ねぇ、ぼーさん、だから、もっと……いっぱいぼーさんを、ちょうだい……」
「ああ、もちろんだ……まだ夜は長いし、時間も沢山あるから……」
「……うん、うれしい……いっぱい…愛して……あたしもいっぱい、愛してあげる……」
夜が明けて明日になれば、今よりもっと滝川に愛し愛された新しい自分に生まれ変わる。
けれども夜明けはまだ遠く、夜は長く、その間ずっと滝川と愛し合える。
麻衣はそれがこの上なく嬉しく幸せで、夜が惜しく、朝が待ち遠しく、胸が焦がれた。
「……ああ……朝まで……ずっと……」
麻衣が呟くと、滝川が同じ気持ちで彼女を抱き締め、やんわりとその唇を重ねた。
そのまま互いを甘く吸い合いながら、目を開け、瞳を合わせ、そっと笑い合う。
「…………ずっと………」
「………いっしょに………」
夜が明けてもこの幸福が夢のように覚めてしまわぬように共に祈りながら、ふたりは気怠く蕩けて
甘く疼く熱い身体を最愛の相手に絡めて委ね、まだ明けぬ夜に焦がれてうっとりと目を閉じた。

(end)


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最終更新:2007年06月14日 20:22