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第五話

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滝川を胸に強く抱いたまま、嫋やかな喉と背中を反らせて絶頂に達した麻衣は、そのまま暫しの間
息を止めていたが、滝川が張りつめた背中を優しく撫でてやると、忘れていた呼吸を思い出したように
大きく息を吐き、緊張した身体から僅かに力を抜いて、くたりと彼に寄り掛かり体重を預けた。

「大丈夫か?」
「………ん………だいじょ…ぶ……」
強い快感の名残で呼吸は乱れ、胸を喘がせたままだったが、麻衣は滝川の気遣う声に我を取り戻し、
掠れた声で吐息混じりに答えた。
「……なん、か……すご…い………」
うっとりと目を閉じて麻衣は呟く。
こんなにも、つらくて苦しくて気持ちいいなんて。
達く、ということの意味を生まれて初めてその身で知って、麻衣は自分の身体が、今までとは
まるで違うものに生まれ変わってしまったような気がしていた。
身体の隅々まで新しい血が巡り、全身の細胞が歓喜の歌を謳っている。鼓膜に自分の裡から伝わる
心臓の音だけが響いて、麻衣はその鼓動を陶然と聴きながら再び大きく息を吐いた。

「まだ気持ちよさそうだな」
恍惚とした麻衣の様子に、滝川は小さく笑う。
頂を極めた後も、麻衣の内奥は初めて体験した悦楽の余韻をじわりと味わうように、未だ緩く
ひくつき続けていて、その淫らな感触は滝川の指を心地よく愉しませていた。
「中がまだヒクヒクしてる」
「…ん、……からだ…だるいんだけど……まだ、中だけが…熱くて……」
達した後の気怠い余熱に麻衣が喘ぐ。最後まで満たされて、けれどももっと欲しくなりそうな
気配もしているその場所の貪欲さに麻衣は微かに震えた。
「……はぁ……なんか……きもちいい……」
「しっかり愉しんでいただけてるようで俺も嬉しいよ。ちゃんとイけたみたいだな」
「うん……いった……ぼーさん、ありがと……」
自分を犯している男に礼を言う少女の呆れるほどの素直さに、滝川は思わず笑う。
「いえいえ。素晴らしいお役目を授かって身に余る光栄、恐悦至極に存じます、ってな」
麻衣の胸の中でおどけて笑いながら彼女の細い腰を抱き締めてやると、彼女もくすくすと笑って
胸に抱いた滝川の髪にそっと触れて軽く撫でた。
「んー?頑張った俺をねぎらって頭ヨシヨシしてくれんのか?」
滝川が嬉しそうに麻衣の胸に頬擦りしながら顔を深く谷間に埋める。
その様子に懐いて擦り寄る大きな犬を連想し、麻衣はそれを愛玩する気分で滝川の頭を撫でた。
手のひらに、少し硬い髪の感触が心地よい。

「……ねぇ、ぼーさん……髪、解いてもいい?」
「どーぞー」
もっと髪に触れたくなって麻衣が尋ねると、滝川が胸の中からくぐもった声で軽く答えた。
けれども滝川の気安い返事とは裏腹に、それが麻衣には何故か特別な儀式のように思われて、
微かに胸を高鳴らせながら、滝川の後ろでひとつに括られた髪の結び目にそっと触れた。
それを震えそうな指先で解くと、少し不揃いで色の薄い滝川の髪が、彼の肩先にパラリと落ちる。
その艶めかしさと不思議な美しさに、麻衣の胸はきゅっと締め付けられるように疼いた。
不意に愛しさが込み上げて、麻衣は慈しむように髪に触れ、再び彼の頭をそっと抱き締める。
結った跡が微かに残るその髪を梳かすように撫でて、指の間をさらさらと髪が滑る感触を
愛でるように愉しんでいると、滝川がうっとりとした声で呟いた。
「あー俺、麻衣のペットになった気分」
その甘えた様子が何とも愛らしく感じて麻衣は笑う。
「……うん、ぼーさん、大きい犬みたい……ちょっとかわいい」
「犬?………何、麻衣は俺を“犬”にしたいわけ?意外と麻衣ってば女王様タイプ?」
「な…っ、ち、違…っ!」
麻衣を見上げ、明らかにわざと意味を取り違えて滝川はニヤニヤと笑う。
「うんうん、いいぞー俺は麻衣が望むなら犬だって何にだってなってやるぞー」
「違うってば…っ」
「俺本当はどっちかってーとSな方だと思うんだがなーでも麻衣の奴隷ならそれも悪くないかー」
「だから違うって…っ!」
「あーハイハイ、ごめんなー。……そうだよなー、だって麻衣は」
麻衣が本気で怒り出す前に笑って詫びながら、滝川は彼女の泥濘に沈めたままの二本の指を奥へと滑らせて
ざらりと内壁を撫で、上目遣いで悪戯に笑む。
「……いじめるより、いじめられる方が好きだもんな」
「ひぁ…っ」
達したばかりで敏感なままの粘膜にいきなり刺激を与えられて、思わず麻衣は声を上げた。
燻る残り火を煽るような滝川の指に、ようやく収まる気配を見せ始めていたその場所が瞬く間に再燃する。
「麻衣は俺にこうやっていっぱい気持ちいいことされて、あんあん言わされちゃうのがいいんだろ?」
「…や、だ……も………それ、も……違…う……っ」
「だから嘘ついても無駄だって……こっち、こんなによろこんでる」
「……や……っ、あぁ……」
滝川の言う通り、麻衣のはしたない唇は再び彼の指を嬉しそうに咥え込んで離そうとしない。
再び犯し始めた指に自分の身体の淫蕩さをまざまざと知覚させられて、麻衣は羞恥に身を捩った。
ほんの少し前までは、何も知らなかったのに。
淫らな夢に迷い込み、彼の想いに捕らえられ、快楽の鎖で繋がれて──無我夢中で溺れているうちに
気付けば自分は違うものへと生まれ変わっていた。
──否、もしかしたら生まれ変わったのではなく、本来の自分が“目覚めた”のかもしれないと
麻衣はちらりと思う。だがいずれにせよ、無邪気で無垢だった自分にはもう戻れない。
これから彼に全てを奪われ支配され、そして麻衣はもっと変わるのだ。
──もう、逃げられない。麻衣は今ようやくはっきりと悟った。

「……あたし……ぼーさんに……変えられちゃったんだ……」
「そう。俺が変えたんだ」
自分の変化をはっきり認めた麻衣を嬉しそうに見上げて滝川が囁く。
「俺だけの麻衣になるように」
「……ぼーさんだけの、あたし……」
その意味を確かめるように、指淫に喘ぎながら麻衣が呟く。
「………あたしは、……あぁ……ぼーさんのものに…なるんだ……」
自らの言葉の響きに耳と心を犯されながら、麻衣はうっとりと目を伏せる。
その胸に湧いたのは、不安や悲嘆ではなく、紛れもなく期待と愉悦だった。

「ああそうだ。……麻衣の全部が、俺専用になるんだ」
それを知らしめるように、滝川の二本の指が麻衣の内奥を広げる。
「ああぁ……っ」
狭隘な内部を広げられ、その違和感と強い快感に麻衣は思わず声を洩らした。
重力に従って、くぱりと開かれた淫らな口から彼女の蜜が指の間を伝って溢れ、滝川の手首と床を濡らす。
これからそこに滝川を受け入れるのだと思うと、彼の口から出た“専用”という言葉が何故かひどく淫猥に聞こえて
麻衣は震えた。広げた指を押し戻すように入口がきゅっと締まるのを感じて麻衣は思わず息を呑み、その時初めて
とても喉が渇いているのを自覚する。それとは裏腹に過剰なほど潤った場所は、満たされているのに飢えている。
気が狂いそうなほどの焦燥と愉悦に、胸がはち切れそうなほど早鐘を打ち、ドクドクと頭の中で脈打つ音がする。
その勢いに押し流されて、怯えも惑いも理性もモラルも、そして心秘かに想っていたはずの恋しい人のことさえも、
全ては麻衣の裡から湧く甘い水の中に呑み込まれて溶け、滝川の指を伝って流れ出てしまった。

──そうなりたい、と願う心を押し止めるものは、もう彼女の中に存在しなかった。

するり、と手を滑らせて、両の手のひらで滝川の頬に触れる。
指先に触れる彼の耳朶の柔らかさと小さなピアスの無機質な硬さを感じながら、麻衣は敬虔な殉教者の目で
背徳の願いを口にした。
「……あたしを…全部ぼーさんのものに、して……」
吐息が触れ合う距離で滝川の目を見つめたまま、神に祈るようにキスを捧げる。
「………あたし、ぼーさんと…………したい……」
やわらかく唇を重ね、麻衣は自分の全てを口移しで譲り渡した。

夢に惑い捕らわれて、憐れな小鳥はとうとう自ら自由を手放した。
麻衣を堕とした暗い悦びが、滝川の胸を満たす。ちらりとも痛まない良心に、我ながら最低だと滝川は心中で
己を嗤うが、唇に触れるやわらかな感触が、その嘲笑すら瞬く間に身を焦がす情動にすり替えてしまう。
供物のようにその身を捧げた麻衣と視線を甘く絡めながら交わすキスは、さながら隷従の契約のようで、
滝川の頭は至福と劣情に痺れた。乾いた唇を潤してやるように舌を這わせ、おずおずと捧げるように
差し出された赤い舌を舐め取ってやると、征服を乞う瞳と指に絡む粘膜がさらに扇情的に潤む。
餌を欲しがる雛のように、あどけなくも貪欲に自分を求める麻衣がとても本能的で愛おしい。
「……すげえ、やらしい顔…………俺のこと、誘ってんのか…?」
「ちが………、…………ううん、そう、………さそって、るの。……あたし…誘ってるんだよ……」
「…………なぁ、それ…ちゃんと意味解って言ってる?」
「わかってる、よ……ちゃんと、わかってる……」
初めは無意識だった。けれど、滝川に指摘されて麻衣は気付いてしまった。今はもう、わかっている。
「………あたし………いやらしいの………」
もう誤魔化すことも偽ることも出来ない。自分は、彼を欲しがっている。彼の支配を求めている。
それを伝えたくて、唇が触れ合う距離で吐息と視線を交わしながら麻衣は呟く。
「……ぼーさんが、欲しいの…………ぼーさんの、ものに……なりたいの……」
たとえ身体の快楽に流されているだけだったとしても構わなかった。
このどうにもならない欲望と衝動だけは紛れもなく本物だと、麻衣には解っていた。

ひとつゆっくりと瞬いて、麻衣は滝川の瞳の奥に灯る焔を深く見つめる。
──それはもう、麻衣にとって怖いものではなかった。
その熱に焦がれて、麻衣は甘やかに滝川を乞うた。
「……あたしを全部、あげるから………ぼーさんを、全部ちょうだい…?」

「…………………それ、すげえ殺し文句…………」
麻衣の声が耳から脳髄に響いた瞬間、滝川は自分の頭の中でふつりと理性の糸が焼き切れる音を聴いた気がした。
「……俺をそんなに煽っちまって、どうなるかわかってんのか………?」
戯けて苦く笑う声が、自分でも驚くほどに掠れている。
喉が──否、身体の全てが己の熱で干涸らびそうな程に渇いて飢えていた。
あどけない瞳に淫らな欲望の色を映して、惑わすように誘う目の前の少女を、ただただ餌のように貪り喰らって
今すぐそれを満たしてしまいたい──残酷な獣欲が滝川の胸を狂おしく焦がす。
少しでも気を抜けば本当にそうしてしまいそうで、滝川は乾いた声で笑い、その衝動を無理矢理に抑え込んだ。
彼女を怯えさせないよう、慎重にここまできたのだ。出来ることならば、彼女を傷付けぬよう穏やかに、緩やかに
少しずつその細くやわらかい身体と心を開かせていきたかった。
「……あんまり可愛いことばっかり言ってると、本気で今すぐ押し倒して襲っちまうぞ?」
けれどもその声に潜む暗い熱は隠しようもなく、麻衣の皮膚の上をちりちりと灼き焦がした。
そこに滝川の発情の匂いを感じ取って、麻衣は滝川を見つめて陶然と呟く。
「………いいよ、襲って、………今すぐ、ここで」
「……床、硬いぞ?」
「そんなの、かまわないよ」
軽い調子で笑みを浮かべる口元と裏腹な、滝川の射抜くような視線が鋭く麻衣を突き刺す。
「……ベッドに行かなくていいのか?」
「かまわないって、言ってるじゃん………ここで、いい。……あたしもう、待てない……」
その痛みと熱で、もっと灼かれてしまいたい──麻衣はその瞬間を強く願った。

「……………あーダメだ…………………もう、限界」
刹那、滝川は天井を仰いで大きく溜息をつき、そしてやわらかく触れていた麻衣の唇を噛み付くように奪って
低く呻いた。
「………待てないのは、こっちの方だ………」
歯止めが効かない激しい熱情を持て余して、滝川は喘ぐように呟く。
自分を縛めていた最後の枷が外れ、懸命に抑え込んだ残酷な情動が放たれて胸の裡を黒く塗りつぶしていくのを
自覚するが、麻衣の瞳に煽られて、もう滝川自身にもそれを押し止めることが出来ない。
「………イヤとか痛いとか言っても途中で止めてやらないからな…………後悔すんなよ?」
「しないよ…………あたし…ぼーさんになら、何されてもかまわない」
「………………あーもう、本当にどうなっても、知らないからな」
全身の血が逆流するような、怒りにも似た激情に揺さ振られ、滝川は片腕で麻衣の細い腰を強く抱き締める。
身体が軋んで折れそうなその腕の強さに、麻衣は痛みよりも幸福を覚えた。
「いいよ、ひどいことしても…………あたし絶対、後悔しない……」
「…………………わかった、もうお手上げ、降参だ」
前触れなく麻衣の泥濘に沈めていた指をいきなりぬるりと引き抜きながら、滝川は苦く笑った。
「お望み通り、おまえに俺を全部くれてやるよ」
「んぅ…っ」
突然の強い刺激に麻衣が小さく呻く。ぬめる指が敏感な粘膜を擦りながら抜け出るひどく淫らな感触は、
麻衣に微かな痛みと強烈な快感をもたらし、その強さに彼女は浅く気を遣った。
「ああぁ……」
ひとつ身体を大きく震わせ、それから脱力したようにぺたりと腰を落としてそのまま座り込む。
「あれ、たったこれだけでイっちまった?………そんなんで、この先本当に大丈夫なのか?」
「……はぁ、…はぁ……、………だいじょ…ぶ、だよ……っ」
「意地っ張り」
喉の奥で笑いながら、滝川は荒く息を吐きながらぐったりと座り込む麻衣の肩を掴んで、そのまま彼女を
床に押し倒した。ふたりでもつれ合うように床に倒れ込み、身体の奥底で燻る熱を移し合うように互いを
求めて口付ける。唇を重ね舌を絡めて吐息と唾液を与え合い、何度交わしても飽きることのないキスに
共に溺れながら、呼吸を乱して互いの身体を性急にまさぐり合う。
「もう手加減してやらねぇからな」
「……わかって、るよ……ねぇぼーさん、これ脱いで…?」
Tシャツの裾を捲り上げながら、裸の背中に触れて麻衣が強請ると、滝川は麻衣から身体を起こして
躊躇なく上半身の服を脱ぎ捨てた。
「ハイハイ、了解。…………どーよ俺の裸、結構いいカラダだろ……興奮する?」
「……ん、ドキドキする………ぼーさんって、男のひと、なんだね……」
自分を見下ろす滝川の引き締まった身体にそれを改めて実感し、逞しい腕や胸板にそっと手を伸ばして
麻衣は陶然と呟く。この身体がいつも自分を抱き締めていたのだと思うと、胸が切なく疼いた。
手のひらに直接伝わる肉の固さや脈打つ鼓動、そしてあたたかな体温が、滝川の存在を強く感じさせて
麻衣は焦げるような欲情と潤むような愛情を同時に抱いた。
「……なかなかいいお返事だ。……………で?……この下は脱がなくていいのか?」
ベルトのバックルに指を掛けて、滝川が艶然と誘うように笑う。
「麻衣が欲しいのは、こっちなんだろう?」
「……………………そう、…………そっち………」
僅かに残っていた羞恥と躊躇いは圧倒的な欲望に凌駕され、麻衣は恥ずかしい言葉を口にした。
「……………ぼーさんのが、………ほしい………」
頬や耳朶がさらに熱くなるのがわかったが、もうそれでも構わなかった。
きっと、今なら滝川が望めば自分はどんなことでも口にするだろうと麻衣は思った。
「…………………あ、あたしの中に……………入れて…ほしいの…………」
「………いいねー、それ。……すっげえ興奮する。正直で結構だ」
掠れた声で満足気に笑いながら、滝川は麻衣の手首を掴んで自らの昂ぶりの上に導き、布の上から
その手でそっと触れさせた。

「じゃあ、麻衣が脱がせてくれよ。……もうコレ窮屈で死にそう」
ジーンズの硬い布越しに手のひらに伝わる熱と律動に、麻衣は不思議な感動と疼きを覚える。
「………ぼーさん、ホントにあたしで興奮してるんだ……」
「するに決まってんだろ………もうずっと俺興奮しっぱなし。麻衣があんまり可愛いから、途中でいつ
 暴発するかとヒヤヒヤしてたよ」
「もー、何言ってんの……」
「なーだからー早く早く。狭いところで一生懸命頑張っていい子にしてたんだからさー」
滝川が、麻衣を急かすようにベルトを外して腰から引き抜く。
バックルが立てた乾いた金属音とベルトを引き抜くときの擦過音の卑猥さに促されて、麻衣はフロントの
ボタンを興奮に震える指先でおずおずと外した。ジーンズの厚い生地と固いボタンが思いのほか難儀で
いささか苦労し、麻衣は他人の服を脱がせる意外な難しさを実感する。けれども夢の中では裸だったので、
服を脱がせていく行為のもどかしさが現実の確かさを感じさせて、それがむしろ欲情を煽る気がした。
「………苦しそうだね……」
厚い布を押し上げるように蠢くものを解放してやるために、ボタンの下ではち切れそうになっている
固いジッパーを少し難儀しながら下ろすと、それは息苦しさに耐えられないと言うように、布の隙間から
勢いよく外に飛び出してきた。先端から僅かに雫を滲ませながら、束縛から解き放たれて自由を謳歌する
ようにビクビクと震えるそれを眺めていると、その圧倒的な質量は、滝川の言う通り狭い布の下では確かに
窮屈だっただろうと思われて、興奮よりも先に心配と憐憫の気持ちが麻衣の胸に湧いた。
「……ねぇ、狭くて痛かった?」
「んーまぁ、少しな。何せちょっぴりやんちゃなおませさんになってるもんで」
切羽詰まった情事の最中でも相変わらずな滝川の軽い調子に、麻衣は思わず笑ってしまう。
「……ぼーさん……もーホントにバカ………ていうか全然ちょっぴりじゃないよ……」
ジーンズどころか下着さえも押し退けて砲身を晒している筋張ったそれは、間違いなく自分を傷つけて犯す
凶器なのだと実感して、麻衣は微かに怯えを抱いたが、けれどもそれ以上に胸を占めて疼かせているのは
淫靡な期待と焦燥であることを、彼女はもう知っていた。
麻衣はその衝動に素直に従って滝川の屹立に指先でそっと触れ、征服を強請る。
「……ね、……………して……?」
「痛いって泣いても本当に止めないからな」
「うん、わかってる………痛くてもいい………だから、ちゃんと入れて………」
「………この強情め。………じゃあ麻衣も脱がすか……制服シワになるしな……」
「……ううん、いい、……もうこのまんまして……」
「なんだよ麻衣は着衣プレイの方がお好みか?」
滝川は笑いながら麻衣の両脚を抱え、半端に脱がしかけていた下着を一気に引き抜く。
「……ちがうってば…………ぼーさんこそ、あたしのセーラー服で…興奮してるんでしょ……」
「俺は全裸だろうが着衣だろうが、どっちでもおいしくイケるクチだけどな……でもまあ確かに制服の
 女子高生を犯してるってイケナイコトしてる気分にはなるがなー。このニーソックスがまたエロい…」
乱れたスカートと膝上の靴下の間から覗く太腿の白さは、確かにひどく禁断的な誘惑に満ちていて、
それに煽られるように滝川は抱えた脚にべろりと舌を這わせた。時折吸い付くように口付けながら、
熱い濡れた舌が皮膚の上をぬるりと滑っていく感触と、これから自分の裡を犯される期待に麻衣の脚は
ぴくりと震えた。内股に舌が這った跡が唾液でてらてらと鈍く光っているのが麻衣からも見えて、
そのあざといほどの淫猥さが身体の芯を焦がして疼かせる。堪えきれない熱に蕩けるように、中から
とろりと蜜が溢れて麻衣は喘いだ。
「……んン……っ、………それ……ぼーさん、変態っぽい、し……オジサンくさいよ……」
「あー何とでも言え。俺はロリコンだ文句あっか」
「……開き…直ってる……んぅ……」
「本当のことだからな。だって麻衣が訴えたら俺淫行罪で捕まんのよ?……それでも俺は十も年下の小娘に
 頭おかしくなりそうなくらいメロメロに惚れてんだよ」
「……ぼーさん、は……若い、子が好き…なの……?」
「バカ、おまえだけに決まってんだろーが。俺は麻衣にしか欲情しねぇの。俺は麻衣、おまえだけが好きなんだ。
 だから他はもう何もいらねぇし、これで犯罪者になろうが死んでから地獄に落ちようがもう全然構わねーよ」
もう、どうなっても構わない。だから。
「……おまえを、全部俺にくれ……」
激しい愛しさと衝動が堰を切って溢れ、滝川の全てをその熱で塗り潰した。

「あー、堪んね………、もう、我慢、……出来ねぇ……」
頭が沸騰しそうな情動に揺さ振られて、滝川は抑えていたものを全て解き放ち、それに身を委ねた。
抱きかかえていた両脚をそのまま左右に大きく割り開き、脚を高く上げさせたままその間に自身の身体を
割り込ませ、そして性急に暴れる凶器の先端を蜜に潤む入口にあてがって一気にめり込ませる。
「────ッ!!………あ、あああぁぁっ!!」
灼けるような激痛と共に身体の中心を貫かれて、目も眩むような突然の衝撃に麻衣が叫んだ。
「いた、あぁッ、い、痛…っ、ああぁっ」
潤みひくつく襞を割り開かれた淫らな感触を愉しむ間も与えられず、いきなり熱く太いものを呑み込まされて
麻衣の未熟な粘膜器官がその灼熱に痛ましく悲鳴を上げる。内股を濡らすほどに溢れた粘液のぬめりも、
滝川の圧倒的な質量の前では僅かな手助けにしかならず、視界が赤く染まるような熱と痛みに身体を強張らせた
麻衣の脚が突っ張り、その爪先が反り返った。
「……く…ッ、狭……っ、だから、何度も言っただろ、痛い、って……っ」
「ぅあ、あぁっ、わかってた、けどっ、やっ、痛…っ、裂け、ちゃう……ッ」
「……だから、もう少しゆっくり、慣らして…やる、つもり、だったんだよ……俺もこれ、キツ……」
焦燥に震えて待ち望んだ筈の蹂躙はあまりに苦しく残酷で、麻衣は自分の幼さと甘さ、そして滝川の辛抱強い
大人さと凶暴さを心底思い知らされた。激痛に圧されて生理的な涙が勝手に溢れ出る。
「…んぅ…っ、だって、指で…っ、もう、だいじょ、ぶだって…っ、思っ、て……ッ」
想像以上の痛みに息が上手く出来ず、麻衣は何度も浅い呼吸を繰り返す。
「もう、少し……、力、抜け……、じゃないと、痛いし…このまま、じゃ…奥まで…入んね…、だろ……、……っ」
最も太く張り出した場所が、最も狭い部分に引っ掛かり、互いが一番痛みを覚える敏感な弱点を責め合っていた。
「や、もぉ、無理……っ、こんなの、入ん、ない…よ……っ、ど…やって、いいか、わかんな……っ」
苦痛に満ちた征服を拒むように、麻衣の腕は無意識のうちに滝川の胸を押し返していた。
「………、じゃあ…もっと痛くても我慢、しろよ……っ」
苦痛ともどかしさに焦れて、滝川が麻衣に覆い被さり体重を掛けた。膝が曲がり胸に付くほど押しつけられて、
自然と麻衣の腰が浮いてふたりの結合が深くなる。やわらかな胸の膨らみを自分の膝と滝川の重みに押し潰されながら
さらにぐっと奥まで貫かれ、再び訪れた残酷な衝撃と激痛に、麻衣は目を見開いて息を呑んだ。
「──っく、ああぁぁッ、いたぁ…っ、や…ッ、ああぁ……っ」
狭い内奥の敏感な粘膜に怒張した灼熱の凶器をめりめりと押し込まれて、その躊躇も遠慮も容赦もない蹂躙の痛みに
麻衣は一瞬気が遠のきそうになった。けれどもその烈しさは気絶することすらも許さずひたすら麻衣を苛む。
その場所を通過する時、何かが切れるような鈍い音が脳裏に聴こえた気がしたが、それもすぐに痛みに紛れてしまった。
「……………っ、何とか、……入った、か……?」
どうにか収まりのつくところまで屹立を沈めて滝川がひとつ息をつき、麻衣もそれにつられるように息を大きく吐き出して
僅かに身体の力を抜いた。初めて男の欲望を体内に受け入れた苦痛と衝撃に、恐ろしさと同時にどうしようもないほどの
幸福感が胸に溢れ、その混乱に頭がおかしくなりそうで麻衣は泣いた。

「……はぁ、……はぁ……、………いたい…よぉ……ふえぇぇ……ぼぉさーん……」
「…………あーよしよし、……痛かったなごめんな。……あー俺も痛かった……」
子供のように泣き出してしまった麻衣を、滝川はあやすように優しく抱き締める。時間を掛けて快感を目覚めさせ、
指で異物の挿入に慣らしてはいたものの、麻衣の内部はまだ幼く、そして滝川のものを収めるにはまだ狭すぎた。
標準サイズの避妊具にいささか適合しない、少々困った己の下腹部の大きさを思って滝川は思わず苦笑する。
「だから何度もいいのかって訊いたんだよ……」
「……うぅ……ひっく……だってこんな…大きいと…思わなかった…だも……」
滝川の下でしゃくりあげながら麻衣が苦情を訴える。
最も辛い難関をどうにか遣り過ごして僅かに楽にはなったものの、熱く脈打つ太い杭はまだ体内に打ち込まれたままで、
無理矢理押し広げられて傷ついた粘膜はずきずきと鈍く痛みを訴えて続けていた。
「あ?夢でさんざん見ただろーが。しかも何度も手で握ってるし口にも咥えたし、中にも飽きるほど入れてるし」
「………だって、夢の時はこんなに…、……痛くなかった……っ」
「痛くてもいいからって欲しがったのはおまえだろーが…………でもまぁ…そうなるようにエッチにさせたのは俺だし、
 確かにちぃとばかりご立派すぎたかなー…………あーもー悪かった、俺が悪かったよ。ごめん。すまなかった。だから
 いい子だからもう泣くな。その代わりこれからこの大きさがクセになるくらい気持ち良くなるから許してくれよ、な?」
麻衣のいとけない泣き顔はそれは愛らしく、ひどく劣情をそそるものではあったが、苦痛で泣かせるのは彼の趣味嗜好や
主義とはいささか外れていたので、滝川は麻衣が泣き止むように頭を撫でて目一杯優しく笑ってみせた。
「………ほんと?………これ、ちゃんと気持ちよくなる?」
少しだけ泣き止んで、自分を見上げて不安気に尋ねる麻衣がまるで小動物のようで、その可愛らしさに思わず笑いながら
滝川は太鼓判を押すように答えてやる。
「あぁもちろんだとも。夢でも麻衣、コレがおっきくてイイって喜んでただろ? 慣れればヤミツキになってもうこれじゃ
 なきゃダメって言うようになるって。それに悪いけど俺麻衣をメロメロにする自信あるぞ? だって俺、上手いもん」
にんまりと余裕の笑みを浮かべる滝川に何故か胸やけのような気持ちを覚えて、麻衣は滝川を涙目で睨む。
「……上手いって…言われると…、なんか……ムカつくんだけど……、……………それってさぁ………」
「あーもーこの子はそーゆーこと想像しないの!だってこの歳まで何にもしたことない方がヘンでしょ!?そんなの普通に
 気持ち悪いでしょ!? これまでのは全部練習!麻衣とこーするためのお勉強だったの!!な!? 俺もうこの先絶ッ対
 他のオンナとヤッたりしないから!!」
「………ぼーさん…軽いし………遊び人っぽいもんねー………モテるでしょ……」
「モテるのは否定しないけど!でも俺すっげぇ真面目なんだよー!……なー頼むよ信じてくれよー俺本ッ当に麻衣じゃないと
 もう全然勃たないんだってばー」
「……………本当?……絶対?」
「本当。絶対。約束する。嘘付いたら針だろうが槍だろうが何千本でも飲んでやる。麻衣としかしない。ていうか出来ないし
 したくもない。麻衣しかいらない。麻衣だけいればいい。麻衣じゃなきゃダメなんだ。………愛してるんだ」
「……………ぼーさん…………」

その言葉は、驚くほど素直に麻衣の胸の中にすとんと落ちた。
(そうだ、ぼーさんは、あたしのことが、本当に好きなんだ)
だからこれは当たり前のことなのだと、ここに自分が居るのは自然なことだと麻衣は今ようやく知り──夢は、正夢になった。
捻くれた嫉妬の気持ちがすっと溶けるように消え、代わりに胸の中全部があたたかいものでいっぱいに満ちた。
「……わかった………許したげる………もうあたし以外とこーゆーことしたら絶対ダメだからね……」
「もちろん。……しっかし、麻衣からこんなこと言ってもらえる日がくるとは思ってもみなかったなー。絶対ありえないと
 思ってたのに麻衣は今俺の腕の中にいて、しかも俺にヤキモチ妬いてくれてんだぜ?………あーもー俺今すんげぇ幸せ」
「……ヤキモチ………、あたし、………、妬いてなんか……」
「なぁ麻衣、本当のこと言えよ。俺のこと、もう好きになっちゃったんだろ?」
「……わかん、ないよ……まだそんなに時間も経ってないし……」

でも、だったらこの感情は何だというのだろう。この胸のあたたかさは、痛みは。
この人に触れて、この人に触れられて、そのたびに込み上げるこの気持ちは。
こんな気持ちは生まれて初めてで、麻衣にはまだこの感情に名前をつけることが出来ない。
今まで胸に抱いていた“恋”とはあまりにも違いすぎて、これを恋情と呼んでいいのかどうかもわからない。
もしかしたら夢と同様に、彼の強い感情に同調しているだけなのかもしれないし、滝川の言う通り、彼に翻弄されて
操られるままに、彼のことを好きになったと思い込まされているだけなのかもしれない。

──けれど、それでもいいと麻衣は思った。
自分の心が滝川に強く惹かれていることに、麻衣ははっきりと気付いてしまった。
これまでとは違うかたちで、彼とずっと一緒にいたい。麻衣は今、心からそう願う。

「…………でも…………なっちゃったかも、しれない……」
「そんなんじゃダメ。もっとちゃんと。……なぁ、言ってよ………俺のこと、好き?」
「…………うん………すき…………」
「もーいっぺん」
「……ぼーさんのこと、……好き」
「もうひと声」
「…ぼーさん、好き。大好きだよ」
「…………、………あーもう嬉しすぎて頭おかしくなる………」
感極まったように自分を抱き締める滝川に、さらに愛おしさが募る。際限なく高まるこの気持ちは
底無しのようで、麻衣はそんな自分が不思議で可笑しくて、けれどもとても幸福だった。
「ぼーさん、キスしよう?もっといっぱいして?」
「………麻衣ーおまえ本当に可愛いなー……あーもーするする、キスする。でも俺続きもしたい」
「ん、……いいよ……しよう、続き……」
甘く擽ったい空気を共に味わうように舌先を伸ばして触れさせ合い、しばらく戯れて唾液を絡めてから
ふたりで唇を寄せ合ってそっと触れるように重ねた。
やわらかく押し付け、甘く吸って、時折悪戯に食み、舌で舐めて互いの唇を濡らし合い、
また舌を絡め──飽きることなく戯れているうちに、キスは接触から蹂躙へと変わっていった。

「なぁ、痛いけど頑張れんのか?本当に大丈夫か?」
「……うん、……だいじょうぶ、あたしタフだもん」
麻衣を気遣って心配そうに瞳を覗き込む滝川に、麻衣は笑ってみせる。
まだ痛みは消えてはいなかったが、滝川が辛抱強く動かずにいたおかげで、麻衣の身体は少しずつ
体内に挿入された太い異物を受け入れ始めていた。
「指といっしょで、またそのうち慣れるよきっと」
身体の力を抜けば蹂躙を受け入れるのが容易になることをすでに滝川の指から教わっていたので、
麻衣は意識して心と身体を緩めて緊張しないように努めた。
「だいじょうぶ、怖くない。だって、ぼーさんだもん」
本当は口で言うほど易くないことは麻衣にも解っていた。再び苦痛が襲うことも十分思い知らされている。
けれど、それでも耐えると決めたのだ。
「あたし、ぼーさんのこと好きだから。ちゃんと最後までしたいよ」
心も身体も、自分の全部が彼の全てを求めているのだ。やめられるわけがない。
──これが“本能”なのだと、麻衣は知った。

「……でも俺本気で手加減出来ないかもしんねーぞ?一応気をつけるけどヤるのに夢中で麻衣壊しちまいそう」
滝川の情熱は体内で脈打つその律動と熱さで十分わかっていた。だからこそ、本来の欲望と衝動を懸命に抑えて
行為の再開を渋ってくれる滝川の強い愛情を、麻衣は何よりも嬉しいと思った。思わず、笑みがこぼれる。
「だいじょうぶだよ…安心して、…………もー、ぼーさんの心配性。そんなだと早くハゲるよ?」
「なにおう?俺は人様よりフサフサだっちゅーに」
「だって泣いても止めないって言ったのに、やっぱり止めてくれてる。ぼーさん、優しすぎ」
「……麻衣には弱いんだよ俺は。なんせメロッメロですから。…………あーなんだよその顔、ニヤニヤしやがって」
「だって照れてるんだもん………ぼーさん、もう大人なのに、かわいい……」
「そーゆー生意気なこと言う口は塞いでやる」
「……ふふっ……いーよ、……ん………もっと……ね、もっとふさいで………」
「………………あーもー俺、完敗。負けっぱなし。もういーよ何でも俺は麻衣の言いなりだよ……」
「……ん……ぼーさんだって、したいくせに……んン…っ、痛…っ」
身じろぎした拍子に滝川の身体が動き、中のものがぐっと奥に入った。擦れる痛みに麻衣が小さく声を上げる。
「…あーごめん、………でもな、ほら、やっぱり痛いんだろ」
「いいの……痛くしていいよ。………ぼーさんが痛くするなら、あたしだいじょうぶなの。すごく、嬉しいの。
 ぼーさんが壊すならあたし何度でも壊れちゃっていい。だからして、……ちゃんと、最後まで」
自分を一途に乞い求める麻衣の双眸に、滝川は吸い寄せられるように見蕩れる。
その瞳の色は甘く、淫らで、けれどもどこまでも強く、透明だった。
恋い焦がれた少女が今自分の胸の中に居て、自分を求め、泣くほどの痛みと共に自分を懸命に受け入れてくれている。
こんな幸福なことがあっていいのだろうか。現実とは思えぬ程の僥倖に滝川は眩暈を覚えた。
このまま全部求めたい。与えたい。奪いたい。守りたい。壊したい。犯したい。愛したい。
ありとあらゆる感情と衝動が怒濤のように押し寄せて、滝川を押し流す。
心も身体も、己の全てが彼女の全てを求めているのだ。やめられるわけがない。
──これが“本能”なのだと、滝川も知った。

「ん、わかった。最後まで、な。お供しましょうどこまでも。………なぁ、続ける前に今ひとつだけ謝っていいか?」
「……ん……なに?」
「俺夢中すぎてゴム着けんの忘れちまった」
「……ぁ……そ、そか……そーだよねぇ………えーと……どーしよう……」
「うーん、本当はちゃんとしてやるつもりだったんだけどなー。もう全部吹っ飛んじまったよ………あ、もうひとつ
 謝りたいことがあった」
「…………もー、………今度は何よ?」
「……今度は事前承諾。このままヤラせて。んで中で出させて」
「え、ええぇぇ……、ちょ、ちょっと……ぼーさん……?」
「ちゃんと最後まで、全部俺をくれって言ったの麻衣おまえだろ。だから最後の一滴まで全部。麻衣の中に出したい」
「………んっと……あのー………その……ぼーさん、大人だから、それ、どーゆーイミか……」
「勿論わかんないワケねーだろ。当然。出来てもいいよ俺。ていうか大歓迎」
「………だい、かんげい?…………ぼーさんそれ本気で言ってんの?」
「うん、本気。大真面目。そしたら嫁に来て。ていうかそうじゃなくても嫁に来て」
「………いきなりプロポーズ……?………ねぇあたしたちまだ今日初めてこーゆーコトしてるんだよ……わかってる?」
「わかってるってば。麻衣がまだ学生なのも勿論わかってるよ。それでも。俺は、麻衣とずっと一緒に居たいです。
 死ぬまで離れたくないです。もう別々に生きるなんて考えられません。………なぁ麻衣、これ本気で大真面目だから。
 別に慌ててるワケでもねえし、いきなり今日の明日で籍入れるとかじゃなくていいから、麻衣も考えてくれないか」
「………ぼーさんって………すごい…情熱的っていうか、……いちずっていうか……」
「自分でも頭おかしいだろって思うんだけどな。だから自分でも結構抑えてたんだがなー。まだガキだって思いたいのに、
 おまえ毎日毎日どんどん可愛くなって綺麗になってってさー、……あーあ、おまえさんの魅力の前にはもう完全降伏っすよ。
 降参。俺は正真正銘の変態になりました。……箍が外れるって、こーゆーことを言うのな」

自分でも思わず苦笑してしまう程の熱情の暴走。けれどそれすらも幸福で、後悔など微塵もなかった。
どうなろうと何をしようと、彼女を我が手に出来るなら構わない。彼女に愛されるなら、分別も矜持も何もかも捨てる。
「麻衣の強くて元気なところも弱虫で泣き虫なところも、明るいところも寂しがり屋なところも全部、全部愛してる。
 麻衣が嬉しい時も悲しい時も楽しい時も辛い時もいつでもずっと傍にいたいんだ。ずっと傍にいて欲しいんだ。だから」
滝川は最愛の少女と同じ殉教者の瞳で彼女を敬虔に見つめ、神に祈るように愛を捧げた。
「俺と一生ずっと一緒に生きてくれますか?」

「……はい。」
逡巡も不安も全て消え失せ、麻衣は笑った。
自分の居場所は“ここ”だから、それが当たり前だと息をするように自然に思った。
「………あたし、ぼーさんと、ずっと一緒にいる。そばに、いるよ」
今まで誰も作ってくれなかった、自分だけが存在を許される特別な場所──それは滝川の中にあった。
そして彼が求める居場所は、スカスカでずっと寂しかった自分の胸の中にあった。
自分だけが彼に作ってあげられる特別な場所──それがとても誇らしく、そしてこの上なく幸福だと思った。
今、麻衣の胸の中全部をいっぱいにしているのは滝川だった。だからもう他には何にもいらないような気がした。
──きっとこれは、彼と同じ気持ちだと、麻衣は感じた。

唐突に、理由もなく、この人と手を繋ぎたいな、と思った。
目の前の滝川に手を差し出すと、そっと握ってくれたので麻衣もきゅっと握り返した。
手のひらや繋いだ指からあたたかさが伝わってきて、これが“幸せ”なんだと、はっきり実感する。
引力に惹かれるように、どちらからともなく唇を重ねた。優しく触れるだけの口づけを幾度か交わして、そっと離れる。
自分を抱き締めている彼の裸の胸から伝わる鼓動と温度に何故か泣きたくなって、麻衣は滝川を抱き締めた。

ふと、懐かしくなるような安らぐ匂いがして、それが夢の中で同じように抱き締められた時に感じていたものだと思い出す。
(………ぼーさんって……いい匂い………)
けれども現実で体験した全てのことは、何もかもが夢より何倍も生々しくて苦しくて、そして溺れてしまいそうに深くて甘いのだ。
ひたすら安らぎを覚えただけの夢の中の薫りには無かった、今自分を抱き締める体から感じる、微かな汗の匂い。
そして自分を奪い愛する男の、発情した体の匂い。
何故かそれがとても心安らいで、けれど心騒いで、とても、とても愛おしい。
じわりと沁みる幸福に胸を疼かせながら、麻衣はそれをもっと深く吸い込むために目を閉じて彼の肩先に顔を埋めた。



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