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*麻衣編 *[[目次へ>4枚切りの触パン]]   [[真砂子編>4枚切の触パン 真砂子編]] ---- 「たっ、たすけ・・ギャッ!!」 子供の腕ほどもある太さの触手が、しなる鞭のように振り下ろされる。 その先端は、見るも恐ろしい切っ先を持つナイフのような鍵爪。 それが、その男の見た最後の光景となった。 ブシャアアァァァッッ!!! ペンキの塗缶をぶちまけたように紅く染まる壁。 頭が斜めに半分だけ殺ぎ落とされた身体は、建物と建物の間から見える狭い空へと向かって 公園にある水飲み場の蛇口を押さえたままコックを捻り、パッと手を離したように 首の辺りから勢い良く血飛沫を吹き上げ、ゆっくりと膝を折ってコンクリートの地面の上に倒れ伏した。 「ひっ・・・・!」 腰を抜かした麻衣が息を飲む。 震える手で、自分の頬へと飛び散った生暖かい液体に触れる。 ぬるり、とした嫌な手触り。 血の感触。 だけどそんなことを気に掛けている余裕は、今の彼女にはこれっぽっちもなくて 今更ながらではあるが、こんな事件に首を突っ込んだことを死ぬほど後悔した。 先週の始め、麻衣は学校であるウワサを聞いた。 どこにでもよくある、一種の都市伝説。 やれ誰かが居なくなったとか、変な怪物や怪人物がどこそこに出没するだのといった ちょっぴり不思議で怖くて、他愛もない話。 学校の友人から昼休みの雑談ネタとして聞かされ、半分笑いながら聞いていた そんなごくごく有りふれた話だった。 曰く。 ここのところ行方不明者が多発している。 変なバケモノの姿を見た人がいる。 きっと行方不明になった人々は、そのバケモノが餌食になったに違いない。 そんな、陳腐で有りふれた、ぜんぜん詰まらない話だった。 麻衣自身も信じてはいなくて、なかばただのネタ振りとして、アルバイト先であるSPRの事務所で 客の来ないうららかな午後の日差しの入り込む応接間のソファに座って来客用の紅茶を啜りながら なんとはなしにナルに言ってみたのだ。 案の定、帰ってきた答えは冷静かつシビアなもの。 かいつまんで説明すると、以下の通り。     ウワサはただのウワサ。 依頼ではないから調査はしない。 いつものことで慣れっこだとは思うのだが、こんなやり取りばかりではさすがの麻衣でもカチンと来たのか 売り言葉に買い言葉。 事の真偽を自分で確かめる。 そう言って、麻衣は調査に乗り出したのだが・・・・ 結果、今現在死ぬほど後悔している最中なのである。 いきなりトマトソースの大洪水に出くわしたのは、話の出所を辿り、ようやっと現場に着いた矢先のことだった、 時刻は夕暮れ時。 建物の隙間に差し込む、茜色の斜光。 倒産したのか移転したのか、理由はわからないが今は使われなくなって久しい町はずれの廃工場。 野球ができるぐらいには広い敷地に建つ、いくつかの倉庫や建物の隙間。 そこには、折り重なるようにして山積みになった、血みどろの死体。 夕日を遮る、大きな影。 海に住むタコを逆さにしたような形をしたバケモノが、こちらをゆっくりと振り向く。 目が合った。 「ひ・・・ぃ・・・・・っ」 恐ろしさのあまり、声が喉に張り付いて出てこない。 悲鳴一つ上げられない。 もっとも金切り声を出せたとしても、こんな古びた猫の子一匹いない閑散とした場所では無意味かもしれないが。 ジャリ・・・・ 逆さの蛸のバケモノが一歩、こちらに歩み寄る。 ズザ・・・・ 相手の動きに合わせて、腰が抜けて地面に尻餅をついた状態のまま 麻衣も一歩、後ずさり。 スカートの汚れなど気にしている状況ではなかった。 蛸が2歩、3歩と近づく。 麻衣も2歩目を下がり、しかし3歩目は半分で止まることになった。 ・・・トン 背中に、冷たくて硬い感触。 コンクリートの感触。 驚き振り向く。 そこには、工場内の何かの施設の壁。 これ以上後ろへは下れそうになかった。 大急ぎで他に逃げ道を探す。 焦りながら左右をキョロキョロ。 だけど、どちらも壁。 いつのまにか、袋小路へと追い詰められていた。 バケモノが近づいて来た。 今し方、名も知らぬ男を切り裂いた鮮血滴る刺身包丁のような爪を持つ触手をゆらりと構え、ジリジリと。 麻衣は抜けてしまった腰でどうにか逃げようとするが、虚しく地面の上を足が空回りするだけ。 もっとも3方を壁に囲まれているので、これ以上逃げようもないのだが。 壁に背中を打ち付けまくる麻衣の頭上に影が落ちる。 いつのまにか、目の前まで迫っていた。 「・ぁ・・・・・ぁ・・・・・っ」 ビデオのコマ送り再生のように、振り下ろされる触手がやけにゆっくりと見えた。 このままいけば、左の肩口から右の脇腹へと一直線。 肩胛骨をブチ割り、肋骨を一本一本切断しながら 同時に柔らかい臓腑を杏仁豆腐にそっとヘラを入れるように、易々と切り裂かれるだろう。 殺される。 そう思った ―――こんなことなら、昨日の帰りにでも駅前パーラーのジャンボDXパフェを 胸焼け覚悟の太るの覚悟で食べておけばよかった。 そうだ、毎月買ってる月刊誌が昨日発売してるんだった。 十二国記を描いていた作者のマンガの続きが気になっていて、主人公の少女とナルシストな少年との ビミョーな関係にヤキモキしていたところなのだ。 部屋のカーペットもそろそろ変えようと思っていたし、ちょっぴりエッチな深夜ドラマの再放送の続きも気になっていたし こんなことで、こんなところで自分の人生に終止符が打たれてしまうなんて思いもよらなかった。 ああもう、これも全部アイツのせいだ。 いつものようにチョチョイのチョイで調べてくれればいいのに、うちは慈善事業じゃないって? だからEDの下半身益体無し呼ばわりされるんだ。 死んだら化けて出てやる―――! この一瞬で、随分と色々なことを考えた。 硬く目を瞑り、ガタガタと震えながら、麻衣は死の瞬間が訪れるのを待っていたのだが・・・ しかし先程振り上げられた触手の一刀は、目の前で男の首を切り落としたような鋭い爪の一撃は、いつまで立っても来ることはなかった。 ・・・あれ? まだ生きてる。 もうそろそろ、ザクッと来てもおかしくはないはずなのに。 いや、もう次の瞬間には殺られてるのかも。 なんて考えている間にも・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・まだか。 殺るなら早くしてほしい。 できることなら、ひと思いに。 あ、ひょっとして、わざと焦らして相手が怯えるのを楽しんでいるとか。 だとしたら、なんて嫌な奴なんだろう。 きっと性格も歪みに歪みまくっているに違いない。 親の顔が見てみたいものだ。 ・・・・・・・・。 ・・・・・・・・。 ・・・・・・・・。 おかしいな。 あれ、もしかして、実はもう死んでたりして。 死んだことを自覚していないだけだとか。 結構な確率で辺りに幽霊とかがウヨウヨしていたりするのだから もし自分がああなったとしても、少しも不思議じゃないじゃないか。 などというようなことを考えながら、うっすらと目を開けてみる。 自分がもし幽霊にでもなっているのだとしたら、半透明の霊体部分が風船のようにフワフワと浮いていて 眼下には無惨な少女の惨殺体が赤い水たまりの中に沈んでいるはずである。 しかし目に飛び込んできたのは、臭いたつような鉄分満点の粘っこい血の池でも 首と胴体がサヨウナラした自分の身体でもなく、欧米人がデビルフィッシュと呼ぶ吸盤付きの生き物が 逆立ちをしたような姿だった。 よかった、まだ死んでいない、という安堵の念と これから殺される、という恐怖の感情がごちゃ混ぜのミックス状態になり 目の前の現実をどうして良いものやら判らずに、地面にへたり込んだまま 呆然と相手を見上げていた。 振り上げられたままの、大の大人を易々と真っ二つにする切れ味バツグンの触手。 しかし代わりに麻衣へと向かって伸びたのは別の触手だった。
*麻衣編 *[[目次へ>4枚切りの触パン]]   [[真砂子編>4枚切の触パン 真砂子編]] ---- 「たっ、たすけ・・ギャッ!!」 子供の腕ほどもある太さの触手が、しなる鞭のように振り下ろされる。 その先端は、見るも恐ろしい切っ先を持つナイフのような鍵爪。 それが、その男の見た最後の光景となった。 ブシャアアァァァッッ!!! ペンキの塗缶をぶちまけたように紅く染まる壁。 頭が斜めに半分だけ殺ぎ落とされた身体は、建物と建物の間から見える狭い空へと向かって 公園にある水飲み場の蛇口を押さえたままコックを捻り、パッと手を離したように 首の辺りから勢い良く血飛沫を吹き上げ、ゆっくりと膝を折ってコンクリートの地面の上に倒れ伏した。 「ひっ・・・・!」 腰を抜かした麻衣が息を飲む。 震える手で、自分の頬へと飛び散った生暖かい液体に触れる。 ぬるり、とした嫌な手触り。 血の感触。 だけどそんなことを気に掛けている余裕は、今の彼女にはこれっぽっちもなくて 今更ながらではあるが、こんな事件に首を突っ込んだことを死ぬほど後悔した。 先週の始め、麻衣は学校であるウワサを聞いた。 どこにでもよくある、一種の都市伝説。 やれ誰かが居なくなったとか、変な怪物や怪人物がどこそこに出没するだのといった ちょっぴり不思議で怖くて、他愛もない話。 学校の友人から昼休みの雑談ネタとして聞かされ、半分笑いながら聞いていた そんなごくごく有りふれた話だった。 曰く。 ここのところ行方不明者が多発している。 変なバケモノの姿を見た人がいる。 きっと行方不明になった人々は、そのバケモノが餌食になったに違いない。 そんな、陳腐で有りふれた、ぜんぜん詰まらない話だった。 麻衣自身も信じてはいなくて、なかばただのネタ振りとして、アルバイト先であるSPRの事務所で 客の来ないうららかな午後の日差しの入り込む応接間のソファに座って来客用の紅茶を啜りながら なんとはなしにナルに言ってみたのだ。 案の定、帰ってきた答えは冷静かつシビアなもの。 かいつまんで説明すると、以下の通り。     ウワサはただのウワサ。 依頼ではないから調査はしない。 いつものことで慣れっこだとは思うのだが、こんなやり取りばかりではさすがの麻衣でもカチンと来たのか 売り言葉に買い言葉。 事の真偽を自分で確かめる。 そう言って、麻衣は調査に乗り出したのだが・・・・ 結果、今現在死ぬほど後悔している最中なのである。 いきなりトマトソースの大洪水に出くわしたのは、話の出所を辿り、ようやっと現場に着いた矢先のことだった、 時刻は夕暮れ時。 建物の隙間に差し込む、茜色の斜光。 倒産したのか移転したのか、理由はわからないが今は使われなくなって久しい町はずれの廃工場。 野球ができるぐらいには広い敷地に建つ、いくつかの倉庫や建物の隙間。 そこには、折り重なるようにして山積みになった、血みどろの死体。 夕日を遮る、大きな影。 海に住むタコを逆さにしたような形をしたバケモノが、こちらをゆっくりと振り向く。 目が合った。 「ひ・・・ぃ・・・・・っ」 恐ろしさのあまり、声が喉に張り付いて出てこない。 悲鳴一つ上げられない。 もっとも金切り声を出せたとしても、こんな古びた猫の子一匹いない閑散とした場所では無意味かもしれないが。 ジャリ・・・・ 逆さの蛸のバケモノが一歩、こちらに歩み寄る。 ズザ・・・・ 相手の動きに合わせて、腰が抜けて地面に尻餅をついた状態のまま 麻衣も一歩、後ずさり。 スカートの汚れなど気にしている状況ではなかった。 蛸が2歩、3歩と近づく。 麻衣も2歩目を下がり、しかし3歩目は半分で止まることになった。 …………トン 背中に、冷たくて硬い感触。 コンクリートの感触。 驚き振り向く。 そこには、工場内の何かの施設の壁。 これ以上後ろへは下れそうになかった。 大急ぎで他に逃げ道を探す。 焦りながら左右をキョロキョロ。 だけど、どちらも壁。 いつのまにか、袋小路へと追い詰められていた。 バケモノが近づいて来た。 今し方、名も知らぬ男を切り裂いた鮮血滴る刺身包丁のような爪を持つ触手をゆらりと構え、ジリジリと。 麻衣は抜けてしまった腰でどうにか逃げようとするが、虚しく地面の上を足が空回りするだけ。 もっとも3方を壁に囲まれているので、これ以上逃げようもないのだが。 壁に背中を打ち付けまくる麻衣の頭上に影が落ちる。 いつのまにか、目の前まで迫っていた。 「・ぁ・・・・・ぁ・・・・・っ」 ビデオのコマ送り再生のように、振り下ろされる触手がやけにゆっくりと見えた。 このままいけば、左の肩口から右の脇腹へと一直線。 肩胛骨をブチ割り、肋骨を一本一本切断しながら 同時に柔らかい臓腑を杏仁豆腐にそっとヘラを入れるように、易々と切り裂かれるだろう。 殺される。 そう思った ―――こんなことなら、昨日の帰りにでも駅前パーラーのジャンボDXパフェを 胸焼け覚悟の太るの覚悟で食べておけばよかった。 そうだ、毎月買ってる月刊誌が昨日発売してるんだった。 十二国記を描いていた作者のマンガの続きが気になっていて、主人公の少女とナルシストな少年との ビミョーな関係にヤキモキしていたところなのだ。 部屋のカーペットもそろそろ変えようと思っていたし、ちょっぴりエッチな深夜ドラマの再放送の続きも気になっていたし こんなことで、こんなところで自分の人生に終止符が打たれてしまうなんて思いもよらなかった。 ああもう、これも全部アイツのせいだ。 いつものようにチョチョイのチョイで調べてくれればいいのに、うちは慈善事業じゃないって? だからEDの下半身益体無し呼ばわりされるんだ。 死んだら化けて出てやる―――! この一瞬で、随分と色々なことを考えた。 硬く目を瞑り、ガタガタと震えながら、麻衣は死の瞬間が訪れるのを待っていたのだが・・・ しかし先程振り上げられた触手の一刀は、目の前で男の首を切り落としたような鋭い爪の一撃は、いつまで立っても来ることはなかった。 ……あれ? まだ生きてる。 もうそろそろ、ザクッと来てもおかしくはないはずなのに。 いや、もう次の瞬間には殺られてるのかも。 なんて考えている間にも・・・ ………… …………まだか。 殺るなら早くしてほしい。 できることなら、ひと思いに。 あ、ひょっとして、わざと焦らして相手が怯えるのを楽しんでいるとか。 だとしたら、なんて嫌な奴なんだろう。 きっと性格も歪みに歪みまくっているに違いない。 親の顔が見てみたいものだ。 …………。 …………。 …………。 おかしいな。 あれ、もしかして、実はもう死んでたりして。 死んだことを自覚していないだけだとか。 結構な確率で辺りに幽霊とかがウヨウヨしていたりするのだから もし自分がああなったとしても、少しも不思議じゃないじゃないか。 などというようなことを考えながら、うっすらと目を開けてみる。 自分がもし幽霊にでもなっているのだとしたら、半透明の霊体部分が風船のようにフワフワと浮いていて 眼下には無惨な少女の惨殺体が赤い水たまりの中に沈んでいるはずである。 しかし目に飛び込んできたのは、臭いたつような鉄分満点の粘っこい血の池でも 首と胴体がサヨウナラした自分の身体でもなく、欧米人がデビルフィッシュと呼ぶ吸盤付きの生き物が 逆立ちをしたような姿だった。 よかった、まだ死んでいない、という安堵の念と これから殺される、という恐怖の感情がごちゃ混ぜのミックス状態になり 目の前の現実をどうして良いものやら判らずに、地面にへたり込んだまま 呆然と相手を見上げていた。 振り上げられたままの、大の大人を易々と真っ二つにする切れ味バツグンの触手。 しかし代わりに麻衣へと向かって伸びたのは別の触手だった。 ---- *[[目次へ>4枚切りの触パン]]   [[真砂子編>4枚切の触パン 真砂子編]]

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