バトルフィールドin銭湯

Mobieむかしばなし

第6弾 手負いのケダモノ


<第2幕>Battlefield in 銭湯


前回までのあらすじ
闘いに餓える男、串田龍巳!
ある日彼は黒服組織から放たれた追っ手6人を、あっという間に返り討ちにした!
残る最後のひとりも、一瞬のスキを突き仕留めたかに見えた!
が、そこに何やら怪しい影が…!
一方、闘いに明け暮れる串田は意外にもある場所を目指す!

Shitaka Utoka「まず始めに、悲しい報せが入ってきました。
       人気歌手のマツコシ・ダブロフスキーさんが、自宅のスタジオで練習中
       ヘッドバンギングのやりすぎで脳味噌が飛び出し、死亡しました。享年36歳でした。
       ダブロフスキーさんは欧州を代表するメタルバンドのシンガーとして活躍し
       つい先日にニューアルバム『Tomb Stone』を発表したばかりでした。
       ご冥福をお祈りいたします。」
早朝未明のニュースでは、人気ロッカーの訃報が流れていた。
1日の始まりにこのニュースを聞いた者は、さぞ憂鬱な気分になることだろう。
そして悲しい報せは、同時に人に胸騒ぎをも覚えさせる。
まるで、この後起きるある出来事を暗示しているかのように。
マツコシ・ダブロフスキー(36) 死亡確認

夜明け前。始発電車も動き出さぬ、静かで寂しげな高架下。
そこにひとり、血の海を広げながら倒れ動かない男がいた。
黒服組織構成員、通称黒服L。
彼は仲間5人らとともに、裏切り者の串田龍巳抹殺の命を受け襲撃を敢行した。
が、相手が悪すぎた。
他の5人は彼の目の前で倒され、彼自身も一撃のもと致命傷を負わされた。
組織に助けを求めることすらできぬまま。
もはや彼の眼は焦点定まらぬ状態で、ピクリとも動かない。
ほんのわずかな呼吸をしている程度で、早急な治療が必要だ。
が、人の通りも皆無なこの高架下。誰かに気付かれる前に彼の命は尽きるだろう。
夜が明け、朝日が昇りはじめる中、もはや彼の命は風前の灯火かに見えた。
しかし…
ヘリコプター爆音(SE)
その頭上をけたたましい音が響く。
電車か?いや違う。空を見よ!なんと!ヘリコプターだ!
線路のすぐ脇という際どいところを、ヘリコプターが絶妙なテクで電線を回避しながらホバリングしている。
日が昇りかけとはいえまだ薄暗い中、ヘリからのサーチライトが周囲を昼間のように照らしつける。
そしてそのライトが、倒れたままの黒服Lを捉えた。
まばゆい光に照らされてもなお、反応のない黒服L。
と、そのヘリから声が。
?「おやおや~、見つけた見つけた。こんなところでノビてるとはね~」
スピーカーだろうか?声の主は操縦者なのだろうか?
朝日が昇る中、太陽を背にしているため操縦席の様子はわからない。
また、発言から察するに黒服Lを助けにきたようだが、かといって誰かが降りてくる様子もない。
一方の黒服Lは依然として危険な状態。意識もなく、助けがきたことにも気付いていない。
?「意識なーし。他の2人同様、運ばなきゃダメか…めんどくせえ」
スルスルと、何本ものワイヤーロープが自動的にヘリから下ろされていく。
途中、声の主は黒服Lの倒れ方に気付いた。
?「おやおやァ?ダメなりに本部に連絡とろうとしたのか…へぇ、こりゃあ立派な愛社精神だことで」
下ろされたワイヤーが自動的に絡み合い、危篤状態の黒服Lの身体に絡み付けられ
やがてヘリへと引き上げられていく。
?「結果はダメだったが…いい仕事、感謝しているぜ。お前らのおかげでいいデータが入ったからな」
賞賛の声も今は、黒服Lの耳には届かない。
そうこうしている内に、黒服Lの身体は誰かが助けるわけでもなく
自動的にヘリコプター機内へと回収された。
黒服Lの回収を終えたヘリコプターは、ゆっくりと高度を上げ帰路につこうとする。
最後にヘリコプターのコクピット部分が朝日に照らされ、あらわになった。
そこには…おお、なんという事か!
このヘリコプター、操縦席に誰ひとりとして乗ってはいない!
リモート操縦?いったい誰がどのようにして操縦しているのだろうか?先ほどの声の主は?
謎を残したまま、ヘリコプターは黒服Lを載せ、彼方へと去っていった。

一方、串田龍巳は。
コツーン、コツーン。
風呂が恋しくなるような、冬風吹きすさぶ寒空の夜。
コツーン、コツーン。
さびれた街の奥から、ふたたびあの杖の音が響いてくる。
先日の後だ。今回もまた闘いを求めて、血なまぐさい場所へと向かうのか…とお考えのみなさん。
違うんだなあ、これが。
彼とて人間である。住所不定、闘いに餓える人間であれど
たまには風呂にだって入りたいものである。
そう、今回彼が向かう先は…セントウ違いの、古めかしい銭湯である。

もっとも、いつ何時闘いに身を投じても構わぬよう、常に備えている串田。
黒服の連中がいつまた襲ってくるか分からない。
先日遭遇した、あのフルフェイス野郎も気になる。
まして風呂は、裸になる、つまり人間が無防備になる場所。
であるからに、警戒心は怠ってはならない。
下調べをした上で人気を避け、このさびれた銭湯を選んだのだった。

カラーン。銭湯に場違いな殺気が漂う。
串田は無言で小銭を番頭に置いた。
番頭の松越のじっちゃんは、起きているんだか起きていないだか分からない。
野球中継のTVを見ながら、杖をついた若者が入っていくのを細い目で見つめていた。

串田は周囲を見渡した。
わざと早い時間を選んだ為、自分以外に来店しているのは誰もいない。
女湯のほうにも人の気配はしていない。
好都合だ。
傷だらけの身体、そして杖。人がいると、いちいち声をかけてくるバカが沸く。面倒事が増えるだけだ。
どさっ。上着がカゴに載せられた。
上着は黒くて分かりづらいが、よく見ると歴戦の傷跡が刻まれている。
弾痕に切り傷。これらを刻んだ相手は皆、この世にはいない。
窓枠や壁を見る。思ったとおりだ。
この周辺の町内一角は、ひと昔前に外道が大暴れをした影響で
対外道用に強化改築を行っている。
たとえミサイルを打ち込まれても、建物はビクともしないハズだ。
どさっ。シャツがカゴに載せられた。
特殊繊維でできたこのシャツを作った科学者はもうこの世にはいない。
その科学者は、串田や、彼の友人…そして宿敵…であった…影山剣の
“装着重甲”システムに関わった科学者でもある。
傷つき、今ではその“装着重甲”も満足に出来なくなった串田が
このシャツを今なお愛用しているのは、科学者への恩義なのか。それとも。

ズボンが、靴下が、カゴに載せられていく。
次第に串田の、傷だらけの皮膚が露になっていく。
背中にはひときわ大きな傷跡が残っている。
あの時…そう、宿敵である影山剣に、バットで、イスで滅多撃ちにされた時ついたものだ。
この傷は串田にとって、屈辱の印であり、再起の証。
傷ついた今なお、闘いに臨む原動力にもなっている。

改めて周囲の様子を伺う串田。大丈夫だ。問題ない。
串田は最後の一枚をカゴに入れた。
紛うことなき、生まれたままの姿である。
傷だらけの裸の狼は、杖をカゴに立てかけると右足を引きずりながらゆっくりと扉へ向かった。
ガラガラッ。
当然、風呂には誰もいない。湯気が静かに昇っている。
壁にはテンプレートのように描かれた富士山が、悠然とそびえ立っている。
湯気たちのぼる富士山のふもとに立つ、傷だらけの男。
そのワビサビじみたアトモスフィアは、さながら江戸時代のウキヨエじみていた。

湯につかりながらも串田は、警戒心を解かない。
常に扉の方向、そしてその先・更衣室に立てかけた杖を見たままだ。
おそらく寝る間もいつ何時でも、警戒心を解くことはないのだろう。
彼は追われる身であり、血に餓えた狼。
むしろそれが日常の状態なのであろう。
カポーン、カポーン。
桶の音が、浴室にこだまする。
串田は黙々と、身体を洗い続ける。
彼とて人の子、身体の洗い方はさすがに普通の人間と同じだ。
と、ここまで来ると視聴者の一部の諸君は、彼のあの場所がどうなっているか気になる方も多いことだろう。
むろん彼は健康?な人間の男性。あの場所には立派なものがある。
さながら斜め上に放たれた特大気功波、とでも表現しておこうか。
それをどどん、と中心に添え、背中を洗う姿はさながらモンスター!
このジャック・ニコルソンめ!
カポーン…
久しぶりの風呂、串田は最後にもう一度、上がり湯に浸かることにした。

以前、立ち寄った風呂では黒服組織の奇襲があり、風呂につかる前に建物が倒壊してしまった。
…もっとも倒壊の致命打を与えたのは串田本人だったが。
緊張を解かないまま、湯船のありがたみをしばし吟味する串田であった。

と、その時であった。

E「ドスコイッ!」
どがしゃーん(SE)
突如としてその静寂は破られた。
トイレがあった場所から、猛烈な勢いでひとりの巨漢が飛び出してきたのだ。
地面と水平に飛び、頭から突っ込んでくる様はさながらゼロ・ファイター。
警戒していたとはいえ、湯船につかっていた為不意をつかれた串田。
湯船を出るタイミングがわずかながら、わずかながら一瞬遅れた。

威圧付きKO &怒り沸点(SE)
巨漢の一撃が、風呂桶もろとも串田に炸裂!
飛び散るタイル!崩壊する湯船!そして、投げ出される串田、とそのモンスター!
一方の巨漢は、コンクリの風呂に激突したにも関わらず平然と着地!
串田も、空中で姿勢を立て直すとスッと洗い場に着地!モンスターも無事である!
それにしても何者だ?この巨漢は?
黒服E「ガッハハッハ!我が名は黒服E、黒服組織からの刺客でごわす!」
ひじょうに分かりやすい自己紹介をする巨漢、もとい黒服E。
串田もこの一言で状況がほぼ把握できたようだ。
…待ち伏せ、されていたのだ。
ゆうに串田の倍近い体格を誇る黒服E。
だが、ここは風呂である。彼も腰に黒いまわしのようなタオルを巻いている以外、何も着ていない。
あくまで名前だけ黒服である。
タイヤのような二の腕、突き出た腹。その容姿はまるでスモー・レスラーのようだ。
そしてその肉体は、黒服組織が違法に販売し、暴利を得ている非合法エナジードリンク
『Black Men In』の常用摂取によってバキバキに引き締められている。
いわばドーピングされた巨大なカバ、とでもいうべきか!
黒服E「風呂ならば油断すると親分が読んだ通りじゃったわい!おぬしの気が緩んだところを狙っておったのよ!
   ガッハッハ!ちなみにわしはカナダのエドモントン出身でごわす!」
串田は先のダメージがなかったかのようにすっと立ち上がる。
ちらっ、と、黒服Eの奥を見た。
幸い衣類、そして杖は更衣室に置かれたままだ。
しかしそれらを取りに行くのは無理であろう。まずはこの目の前の巨漢を倒さねば。
串田は面倒そうに、しかし楽しそうに、ゆっくりと、首をひねった。
彼の合図。そう、闘いの始まりだ。
ROUND 1 FIGHT!!(SE)
黒服E「ドスコイッ!」
黒服Eは猛然と、串田へと詰め寄る。
ご想像通りの張り手の連打だ。だが、並のスモー・レスラーの張り手とはわけが違う。
ボクシングの軽量級選手のジャブよりも早い、まるでマシンガンのような張り手だ!
黒服E「フンフンフンフンフン!」
ガガガガガガガッ!(ガード音、SE)
串田はガードに徹する。
かつての串田ならばこの程度の攻撃、瞬時にかわすなどして難なく片付けただろう。
だが右足をはじめ、ボロボロになった今の身体では
受け止めるので精一杯のようだ。
グラッ。
ガードし終えた時、串田の身体がわずかにブレた。
身体の中心軸が傾いている為、杖のない状態で立っているとグラついてしまうのだ。
黒服E「チャンスでごわす!」
ガード音1&2(SE)
投げ掴みSE(FromストZero2)
黒服Eはグラついた隙を見逃さなかった。
その太い両腕で串田を挟み込むと、勢いよく彼を投げ飛ばした!
投げ(SE)
どがしゃーん(SE)
鏡が、タイルが、シャワーノズルが砕け散る!
長きに渡り人々に愛されてきた、風呂場が破壊されていく。
串田はタイルの破片にまみれながらもすぐに立ち上がる。が、黒服Eの反応のほうが早い。
投げ掴み(SE)
投げ(SE)
どがしゃーん(SE)
ふたたび投げ飛ばされる串田。
その身体が飛んだ先、積み上げられたケロヨンの風呂桶がけたたましく崩れ落ちていく。
黒服Eは、なおも串田の身体をひっ掴んだ。
投げ掴み(SE)
投げ(SE)
どがしゃーん(SE)
3度目の投げ。こんどの行き先はワビサビ・アトモスフィアを醸し出していたフジヤマ・マウンテンだ。
富士の斜面に人型のへこみが形作られた。
容赦なく、串田の髪を掴んでひきずり起こす黒服E。
そして今度は串田の背中に手を伸ばすとスモー・レスリングの禁じ手であるサバ・ウォーリーイー、
英語でいうところのベア・ハッグにいったのだ!
グギギギギギ(締め音SE)、しばしループ
締め付けられる串田の背骨!並みの人間であれば即、椎間板がオシャカになり
間を走る神経もズタズタにされてしまうことであろう!
だが串田は並みの人間ではない!痛みに耐えながら、ふりほどこうと抵抗する!
しかし、彼を包む黒服Eの太い腕はびくともしない!
黒服E「締め落としてやるでごわす!」
締め付けが強まる!痛みに耐えもがく串田!
全裸と半裸の男ふたりが風呂場で抱き合い、悶絶する光景。
おそらく一部視聴者の諸君は、その脳内でさぞ腐った妄想をしていることだろう。
だが、本人たちはいたって真面目なのだ!命の駆け引きをしているのである!
断じてそれどころではないッ!

締め付ける黒服E。なおも抵抗を試みる串田に頭突きを一発!
ドガッ(SE)
もんどり打つ串田。
ここが勝機、と睨んだ黒服E。とどめの姿勢に入る。
黒服E「とどめでごわすー!」
おお、何たることか!ゆうに24万ゲドン以上はあるであろう、黒服Eの巨体が
垂直飛びで5m以上頭上、天井近くまで飛び上がったのだ!
黒服E「ドスコイッ!」
そこから体勢を変えうつぶせの姿勢になり、腹からイッキに落下してきた!
そう、英語でいうフライングボディプレスである!
万有引力を味方につけ、一気に落ちてくる黒服E!
ただでさえ超重量級の人間、さらに重力が加わるのだ!
これを受ければ串田といえども無事では済むまい!
黒服E「勝ったでごわすー!」
(BGMストップ)
その時だった。
串田が、この闘いが始まって以来初めて、笑った。
笑った。
ごごーん(SE)
その意味を、黒服Eは理解できなかった。

串田はその場にしゃがみ込み、右足を…捻った。
カシャンッ。右足首から、金属音が鳴った。
オーマイガッ!おお、なんたることか!
足首部分が開き、その箇所には大量のクナイ型ナイフが隠されていたのだ!
串田の引きずっていた右足は、なんと義足だったのだ!
黒服E「ゲゲェーッ!」
黒服Eが落下するのと、彼の全身に無数のナイフが突き刺さるのはほぼ同時であった。
ドズシーン(SE)
黒服E「うわーぅゎーぅゎー」
巻き上がる砂煙のなか、串田はゆっくりと立ち上がった。
彼の背後では、人間ダーツ状態となった黒服Eが虫の息で倒れている。
張り手をガードしたのも。投げ飛ばされたのも。
サバ・ウォーリーイーで悶絶したふりをしたのも。頭突きでもんどり打ったのも。
すべて、黒服Eを油断させ、スキを突くための呼び水だったのだ。
闘いを楽しむ為に、あえてやられるフリをしたのだ。
この闘い、最初は湯船につかっていた、ほんのわずかな油断をつかれた事で始まった。
串田にとってそれが何よりもイライラさせていたのだ。
やられたらやり返す。串田の完全勝利であった。
黒服E「つ、つよすぎるでごわ…す…!(ガクッ)」
人生最悪の入浴を終えた串田。
扉を開け、更衣室へと戻ってきた。風呂の惨事がまるでなかったかのように。
身体についた砂埃をはらうと、そそくさと着替えた。
周囲を見渡す。風呂場以外、何も変わってはいない。TVの音だけが更衣室に響いている。
番頭の松越のじっちゃんは寝息を立てている。
TVでは危険球を当てられた打者の松越選手が、激怒のあまり頭の血管が切れて倒れ動かなくなっていた。
駆け寄る選手。スタッフ。
残酷なTVカメラは、その様子を嬉々として写し続けている。
ごごーん(SE)
松越大鳳選手(36)死亡確認
ブラウン管の向こうの惨状より、悲惨な現場から生還した男は
TVに視線すら向けず、杖を腕に巻きつけると、さっさと店を後にしようとした。
と、その時。
黒服BBA「あらお兄さん、コンバンワ~。もうおあがりで?」
串田の脱出を阻止するかのように、
身長2mはゆうに越すババァがのれんをくぐってきた。
先日の掲示板を見ていたババアとは明らかに違う。
黒服BBA「フェッヘッヘッヘッヘ…」
ただのババアじゃない。というか、どう努力して見たところで女性ではない。
まるで喪服のような黒い上下の服を、はちきれんばかりに着ている。
腕の太さもそこいらの女性3人分はあろうかという太さだ。
シャンプーセットが入った桶の中には、風呂に不釣合いなナタが一本。
よく見るとアゴヒゲが隠す気ゼロなのか、堂々と生えている。
黒服BBA「お兄さん、ここのお風呂はいいお湯だからね、ちゃんと浸からないとダメよ~ホホホ」
このうそ臭さ。火を見るより明らかである。
そう、先ほどの黒服Eの子分である。おそらく追撃に来たのであろう。
「お前のようなババァがいるか!」串田も内心、そう思ったに違いない。
串田はあきれ半分の表情を浮かべながら、杖を水平に構えた。
カチッ、という音がした。
ROUND 2 FIGHT!!(SE)
黒服BBA「けぇぇ~い!」
ナタを振り上げ、襲ってくる黒服BBA。
バババババッバッバババババ(マシンガンSE)
杖は、仕込みマシンガンであった。
刀打ち合い3(SE)
黒服BBA「げぇっ!」
あっけなく弾き飛ばされるナタ。動揺するババァ。
驚くのも無理はない。杖からマシンガンなんて普通は考えもしない。
それにその弾一発一発もライフルサイズ。串田のみが知る特別な改造方法により
対外道用に強化された壁をも貫通する力をもっている。
そんな弾丸の雨あられを正面から受けて、平気な人間などいるはずがない。
まして、ババアならなおの事。
バババババッバッバババババ(マシンガンSE)
黒服BBA「ウボァーッ!」
ババァは、蜂の巣になった。

ババァの脇を、勝ち残った男…串田がのれんをくぐり、去っていく。
仕込みマシンガンをぶっ放した影響で番台周囲の柱や壁は穴だらけだ。
しかし、番頭の松越のじっちゃんだけは無事だ。
周囲がメチャクチャだというのに、松越のじっちゃんはいっこうに起きる様子はない。
串田は店を出、夜風を浴びながら去っていった。

所変わって。ここは銭湯から遠く離れた、街を見下ろせる小高い丘の上。
無断駐車禁止の看板を無視するかのように、空き地に一台のクルマが停まっていた。
?「いいんじゃないの、いいんじゃないの~?いい感じじゃん。」
この声。あのヘリコプターの声の主と同じである。
?「黒服EもBBAも我が部下ながらよくやった方だねェ。こないだの6人とは大違いだ。」
どうやら一部始終、串田が銭湯を去るまでを監視していたようだ。
暗闇で誰がしゃべっているのかは依然として分からない。
だが会話の内容や態度から、これまで串田を襲った連中よりも格上だという事は分かる。
?「さて、いい感じで消耗させたことだし、次はいよいよ俺の出番だねェ…」
いまの「消耗させた」とはどういう意味なのだろうか?彼は一体何者なのか?
言葉に含みをもたせたまま、停まっていたクルマのエンジンがかかった。
フロントライトが周囲を照らす。あの早朝の高架下、ヘリコプターのサーチライトの時のように。

さてさて、再び場面変わりまして銭湯のほうはというと。
勝者が去った後。男湯も、番台付近もメチャクチャになったままの銭湯。
眠っていた松越のじっちゃんがようやく目を覚ました頃には、野球中継も終わっていた。
TVでは連続猟奇殺人事件の衝撃的な幕切れを伝えるニュースが流れている。
肝心の試合を見逃し悔しがっているじっちゃん。
そのすぐ足元ではババアモドキ、すなわち黒服BBAが虫の息で転がったままだ。
男湯のほうもガレキと化し、黒服Eが倒れたままになっている。
しかしじっちゃんは、周囲の惨状にはまったく気付いていない。
野球を見逃したことをただ悔しがっていた。
と、そんなじっちゃんの視線の先、銭湯の前に一台のクルマが止まった。
さびれた住宅街に似つかわしくない、アメ車が一台。
クルマを降り、ひとりの客が銭湯に入ってきた。
じっちゃん「はいー、いらっしゃーい」
これから風呂に入るというのに、フルフェイスヘルメットを被ったままだ。
その客は番台脇に倒れたままの黒服BBA、そして周辺の壁に散らばるおびただしい弾痕を見ると
??「ひどい銭湯だな。ひとり頼む。」
とボイスチェンジャー声でつぶやくと小銭を置き、さっさと中へと入っていった。
松越のじっちゃんはヘルメットとか路駐とか色々注意しようとしたが、面倒だったのでやめた。
新たな客が奥へと消えていくのを見送ると
じっちゃんはTVのチャンネルを変えようとした。
するとなぜだろう、チャンネルが変わらない。リモコンの電池も変えたばかりなのに。
じっちゃんはリモコンを何度も押した。変わらない。
何度も何度も押した。変わらない。
じっちゃんは苛立ち、TVに飛び蹴りを入れた。
何度も。何度も。何度も。
電力危険気味(SE)
するとTVはブッ壊れ、大爆発をおこした。
爆発4(SE)
松越明断末魔(Voice)
松越陸奥男(62) 死亡確認
みなさん、家電製品に蹴りを入れるのはやめましょう。

わずかな安らぎのひとときを邪魔された怒りが爆発!
相次ぐ黒服組織の追撃を見事蹴散らした串田であった…
しかし!銭湯を去る彼を、いま新たなる魔の手が、音もなく忍び寄りつつあった…
次回、舞台は銭湯から路地へ!さらなるスケールの強敵が串田を襲う!
第三幕、『常識外の脅威』、お楽しみに!

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最終更新:2014年02月13日 01:30