このロビンフッドは、数ある“ロビンフッド”たちの一人にすぎない。
もともとは村の厄介者、村はずれに住む天涯孤独の青年だった。
彼はひょんな事から領主の軍隊に関わり、成り行きでこれを撃退してしまう。
その後、正体を隠して戦う内に「緑の人」として扱われる事になった。
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もともとは放浪していたドルイド僧の子供で、幼くして父を亡くした孤児である。
森の知識はドルイド僧であった父譲りで、森でのサバイバルに長け、また、村人には見る事のできない森の妖精とも交友があった。
(その為、妖精付きとして村人に迫害を受けていたのだが)
村人は孤児である彼を受け入れず、彼も村人に歩み寄る事はなかった。
が、それでも、父の最後を看取ってもらった義理を感じていたらしい。
……彼は村人たちを愛してはいないが、捨て去るほど、嫌ってもいなかったのだ。
そんな中、激化していく領主の圧政に苦しむ村を見捨てられず、若さ故の勢いで弓を手に取った。
はじめは偶然に助けられて領主軍を撃退。
二度目からは、村人たちの願い、希望を背中に感じての奮戦となった。
……ただし、その顔と姿を緑の衣で隠したままで。
多少の知識はあれ、彼は一般人にすぎない。
偽りであれ英雄として機能する為には、何もかもを欺かなければならなかったのだ。
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村の部外者であった彼は、ロビンフッドになる事で村の英雄となるが、同時に日夜過酷な戦いを強いられる事になった。
森に罠を張り、生涯に渡りフードで素顔を隠し、村人にさえ素性は明かさない。
“正義である為に、人間としての個を殺す”
彼もまた、そういった無銘の英雄の一人だった。
村人たちは王に逆らいながらも、保身の為、王に弁明する。
“ロビンフッドは村の人間ではない”
“我々とは無関係に、森を通る人間を襲うのです”
“全ての責任は、あの狩人にある―――”
このように、ロビンフッドを村と領主、共通の害敵にすれば、村人たちは罪に問われない。
それでも、彼は村の為に戦い続けた。
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彼は村を守り続けたが、たった一人の青年に英雄の真似事ができようはずもなく、ロビンフッドとして活躍してから二年足らずで敵の凶弾に倒れた。
この青年は、その死をもってロビンフッドとして英霊化した姿である。
正体を隠し、徹底して奇襲・奇策に走った彼の生涯は、卑怯者とそしられるものだった。
なにしろ一人対軍隊の戦いである。
待ち伏せの罠、食事に毒など日常茶飯事。
殺した兵士たちの「せめて戦いの中で死にたい」といった願いすら踏みにじった。
彼は武器を隠し、誇りを隠し、自らの素顔さえ隠した。
そうでなければ勝ち続けられなかった。
そうでなければ、村人が望む“英雄”を維持できなかった。
彼は卑しい戦いを徹底した。
自身の誇りよりも村の平和をとり続けた。
その果てに無名のまま、酬われることなく土に還った。
……己の顔を隠し続けた一人の青年。
村人たちを愛しはしなかったが、村人たちの穏やかな生活を愛したもの。
ただの一度も英雄として戦えなかった彼が、死の淵で本当に望んだものは―――
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