1983年7月11日

 私の周りには秘密を打ち明ける事の出来るような人がいないので、夫のナタナエルの深刻な状況について書き留めることにします。私たちには正直で親切なメイドがいますが、もちろん彼らに全てを話すことは出来ません。
 
 結婚して最初の2年間はとても幸せでした。私たちはウェルスモスのダウンタウンにある小さなアパートで暮らしていましたが、しばらくして私は病気になってしまいました。いや、たいした病気ではなかったのですが、夫は医者の言うことを真に受けてこの家に越してくると言って聞きませんでした。

 私たちが越してくる以前は18年もの間この家は空き家になっていました。この家はナタナエルの先祖が建て代々受け継がれてきた家ですが、夫はここに住んだことが無くこの土地についても多くの事を知りませんでした。私たちは、ここから一番近い町であるアークハメンドの親切な住人の方達から、この土地の色々なことを教えてもらったのです。しかし中には私たちのようなよそ者を気嫌う人たちもいました。特に私よりも年配の人たちが敵意をむき出しにした態度をとるように思いました。彼らが私を見る目つきに鳥肌が立ちます。しかし、間もなく彼らの私に対する憎しみの理由がわかったのです。

 当時私たちには使用人はいませんでしたので、ナタナエルが書斎に籠もってしまうと私は孤独でした。私の唯一の楽しみは車でアークハメンドに行くことでした。その昔ながらの町がとても好きでした。長い間失われていたような妙な雰囲気があって、まるで中世の時代に行ったような懐かしさが魅力でした。しかし、町の人たちの態度が町自体と同じように古めかしい閉鎖的なものだと気づくのにそう長い時間はかかりませんでした。彼らのほとんどは非常に悲観的で迷信深かったのです。
 いくつかの店と宿の主人が彼の憎悪についての真相を話してくれました。彼らはナタタエル家を憎んでいたのです。そればかりか、血縁関係に無い私のことさえも憎いようです。彼らの話では、ロレイドの血筋がアークハメンドで常に侮蔑(ぶべつ)され、その事は彼らの新しい世代にまで代々伝えられたとのことです。私は何度かその家族についての恐ろしい話を耳にしました。稚拙で信じがたい話ですが、本当に恐ろしい話です。

 夫にこの話をしたとき彼は田舎の町にはこの手の伝説が多々あるものだと言い、ただ笑い飛ばすだけでした。彼の言うとおりなのでしょう。私は何とか気にとめないでおこうとしましたが、しかし何かが心の奥底にのしかかる思いを抑えされませんでした。しばらくして私の予感は現実的なものとなります。ナタナエルは変わりました。彼はジェダイア・ロレイドという名の誰かと夢の中で話し始めたのです。そして徐々に墓地で多くの時間を過ごしました。彼がそこで何をしていたのか全く見当もつきません。私は墓地を嫌いましたが、たった一度だけ中に入ったことがあります。死人の古い棺桶、奇妙な彫刻、湿った壁に描かれている恐ろしい絵、苔むした壁、私は気味が悪くて仕方がありませんでした。最初は単なる彼の先祖代々の遺品への関心が芽生え始めたのだと、自分に言い聞かせました。というのも、私は彼の先祖について何も聞かされていなかったのです。しかし彼は、いかにしてロレイドが謎のベールに包まれたままこの家に住んでいたのか、ということを話し始めました。例えば、どれほど多くの祖先がこの家を建てては修復し、いつ墓地を作り何故庭に墓を建てたのかということまでも説明し始めたのです。

 全く奇妙な話だと思うでしょう。私は彼の変化は単に自分の血統に関する新しい発見に興味を引かれた一時的なものであると思い続けることにしました。きっと彼の関心が薄らいだとき、本来の彼に戻ってくれることを望む他ありませんでした。しかし、その期待はすぐに裏切られることになるのです…。

 

1983年7月18日

 時間が経つにつれナタナエルはより一層自分の血統と闇に包まれた謎に取り付かれていきました。私は彼と書斎でしばしば会いましたが、彼は窓の外を見て思案に暮れていました。数ヶ月後、彼は夢遊病になり1人で会話をし始めました。また知らない人物と手紙のやり取りを始めました。手紙の内容は知りませんが、彼が郵便受けから受け取った時に私に見せた表情から察するに、明らかに彼に特別な何かが起こっているに違いないと思いました。

 私は彼に精神病院に行くように説得しましたが、彼は強く反対しました。彼は自分はただ自分の過去について調べているだけなので、どこも異常がないと言い張るのです。そして彼は言いました。自分はロレイドとして家の財産を引き継ぐのが遅かったが、今後は実際のロレイドとして生きるのだと…。

 そんな時息子のウィリアムズが生まれました。ナタナエルは正常な状態に戻りつつあるように見えました。彼が豹変して以来初めて私に微笑んでくれたのを覚えています。しかし、それもつかの間、再びあの悪夢は甦るのです。

 

1983年9月7日

 ナタナエルがこの家で私を不安にさせた行いは、彼の文通相手たちと行った奇妙な集会です。私はこの集会を最も嫌いました。出席者らは言葉に表せないほど私をうんざりさせました。彼らの外観、臭い、言葉遣い、すべてが全く不快でした。

 この集会はウィリアムズが5才の頃にするようになり、家族の者が出席することは許されませんでした。秘密裏に彼らは何時間でも話し続けます。ウィリアムズの5才の誕生日以降、ナタナエルはより一層変わりました。時々、彼は遠い異次元の世界へどうしたら彼らに会いに行けるか、などと語り始めます。このような稚拙な狂言は私を混乱させました。

 私が止めるように言っても、私の言うことなど聞きません。彼はもはや結婚当時の彼とは全く違う人物なのです。私はナタナエルの心と態度を豹変させたあの集会が憎い!出席者たちの愚かな考えと信念に彼は洗脳されたのです。

 

 1983年9月22日

 私はもうどうしたら良いかわからない!5日前、とても恐ろしい事が起きたのです。真夜中に、見知らぬ男が男の子を連れてここに来たのです。奇妙なことに彼はナタナエルのことを知っているようでした。彼らは3時間しゃべったあげく、男の子を置いて帰って行きました。男の子は私たちと一緒に暮らすために連れてこられたというのです!何という一方的な養子縁組でしょう!

 私は気を失い突然倒れて入院したので、その後の事は何も覚えていません。私は病院のベットの上で監視された状態で4日間過ごしました。私が家に戻ったとき男の子もメイドも、もういませんでした。最年長の使用人のチェットだけは家に残っていました。彼にメイドはどうしたのかと尋ねると、彼はメイドは皆辞めて出て行ったと言いました。彼は男の子の事は何も知りませんでした。私は何が起こったのか全くわかりません。本当に何か悪い事が起こったのでしょう。

 ナタナエルはもう私と何も話しません。彼も混乱しているようで、黙ったままです。しかし、私はその男の子がまだこの辺りの何処かにいるのではないかと思っています。何故なら、夜な夜な男の子の悲鳴が聞こえてくるのですから…。


1987年4月14日

 私は長い年月この日記に何も書きませんでした。この日記の事を思い出さなかったら日記を書いていたことさえも忘れていたでしょう。何もかも思い出せなくなってしまったのです。昨年、私は再び入院することになりました。思うにこれは非常に深刻な事態で3ヶ月も入院していました。昨日ウィリアムズが私たちを訪ねて来て、そしてこの日記を見つけたことは幸運で偶然の一致でした。

 彼が大学を出てから帰ってきたのはこれが初めてです。彼がこの家を出て行ってから、何年経ったのかさえ思い出せません。母として何て恥ずかしいことでしょう。彼は1人で帰って来たのではなく、奥さんと子供のハワードを連れてきました。何て可愛い男の子なのでしょう!孫に会えたことで本当に心が癒されました。

 彼は結婚した事を私たちに話していませんでしたが、もう結婚しているのではないかと内心思っていました。私は彼を若くしてウェルスモスの学校へ行かせざる得なかったのです。私はウィリアムズにこの家を去って欲しくなかった。しかし、このまま彼を家に置いてはウィリアムズがナタナエルとその友人達の影響を受けてしまうと思ったのです。

 昨日はとても幸せな一時でした。しかし私は今、昨日は気づかなかった私を動揺させる何かに気づいてしまったのです。おそらく馬鹿げた話でしょう。ええ、そうですとも、これは私の全く口から出任せの妄想なのでしょう。しかし、あの時のナタナエルのハワードを見る時の表情…。彼は時々奇妙な振る舞いをしますが、あの時の彼は今まで見たことがありません。彼の目の輝き…。彼は長い時間ハワードをジッと見つめて目をそらしませんでした。その時は単なる孫への愛情の眼差しだと、自分に言い聞かせました。もちろん、それは理にかなった事でしょう。しかし今、そうではなかったと確信しているのです。ハワードを見つめた時の彼のあの形相…。決して愛情のこもったものでは無く、邪悪な何かが実在していたのだと断言出来ます。その時の彼の勝ち誇ったような表情は悪魔のような、私の想像を絶するものだったのです。


1988年8月28日

 私はもう耐えられない!ナタナエルはもはや人間でありません。彼と忌々しい友人達はハワードの事で何か恐ろしい事を企んでいます。私はこの呪われた家から逃げなければならない。そもそも来るべきではなかったのです!この家を初めて見たときから嫌な予感がしていました。まるで、先祖代々、罪深い何かが未だに潜んでいるのではないかと。

 私は息子のアパートに逃げるつもりです。彼にも二度とこの家に来ないように言って聞かせないと。彼だけでなく、彼の家族も。彼らは四六時中ハワードについて話し合っています。時空を超えて彼を呼び出すのだと…全く馬鹿げた話です。この家には狂気しかありません。私はナタナエルが常に首にぶら下げている光る金属製のネックレスを奪って行きます。これが何だかわかりませんが、彼らにとって重要な物だということを知っています。彼らがこれを見つけられないようにするために…。彼らに私の息子とその家族をいかなる危害も加えさせません!!


Jul/11/1983
 
Since I don't have anyone around I can confide in,
I've decided to write down some of the things that have begun
to gravely concern me about about my husband, Nathanael. We have some honest and nice maids, but of course
I cannot talk with them about everything. 
 
The first two years of our marriage were great. We lived in a small apartment in downtown Wellsmoth.
But soon I fell ill. It was nothing serious, but Nathanael strongly insisted that we follow the advice of the
doctors and move to this house.
 
The house had been empty for a long time, about 18 years I think. It was built by Nathanael's ancestors and
his family line has always lived here, but he had never been here before and didn't know much about the place.
We learned most of what did know from some friendly locals of Arkhamend, the closest town to this isolated place.
But not everyone treated us in a friendly manner there. I always felt a strong hostility towards us,
especially from older people. When they looked at me, I felt goosebumps all over my body.
Soon I learned the reason for this bizarre animosity.
 
Back then, we didn't have any servants. When Nathanael went to his study,  I was all alone and
what I enjoyed most was going down to Arkhamend in our car. I loved that old town. It has a strange,
mesmerizing aura of long-lost ages, and always made me feel like I was in an old medieval village.
But the townspeople... not too long after we arrived, I noticed that their attitudes are as old as
the town itself. Most of them were highly pessimistic and superstitious. Some shop owners and the
innkeeper told me the truth behind their hatred: They hated Nathanael's family and even hated outsiders
like me who weren't part of the same bloodline. They told me the Loreid lineage had always been despised
in Arkhamend, and this contempt was handed down to each new generation.
I heard some tales told about that family; childishly unbelievable but genuinely frightening tales.
 
When I told Nathanael about these, he just laughed them off. He said that every uncivilized town has
this kind of folklore. He was right, and this should have quelled my concerns, but I still felt that
something was deeply wrong. And after a short time, my fears were confirmed.
Nathanael started to change. He started to speak in his dreams with someone named
Jediah Loreid, and gradually spent more time in the family tomb. I still don't have even the slightest
idea what was he doing in there. I always loathed that building. Just once I went inside,
but it creeped me out with all those old coffins of dead people, strange carvings and macabre
pictures on the wet, mossy walls. At first I rationalized Nathanael's new behaviour as simply a belated
interest in his heritage, because I'd never heard him say anything about his family until then.
But then he started to speak about how some Loreids lived in this house under the veil of a strange secrecy;
how various generations had built and restored the house, even explaining when and why they built that tomb
in the garden.
 
Maybe it sounds strange, but I continued to believe that the changes in him were nothing more than a
temporary result of his newfound interest in his family history. I had no choice but to hope that when
his interest faded, he would return to his normal self. But soon, the opposite proved true...
 
Jul/18/1983
 
As time passed, Nathanael became more obsessed with his lineage and its dark secrets.
I often saw him in his study, looking out of the window but lost deep in thought.
After a few months, he developed some strange habits like sleepwalking and speaking to himself.
He also started to correspond with strangers. I've never seen the content of the letters,
but judging from his reactions when he saw me getting a reply from the mail box, it's clear
there was something very special about them.
 
I tried to convince him to see a psychiatrist, but he strongly opposed.
He said there was nothing wrong with him; that he was just a man investigating in his own past.
As a Loreid, he said, he was late in taking over his family property, but from now on he would live
like a real Loreid.
 
Around that time, our son Williams was born. Despite my concerns,
it was the happiest time of my life. Nathanael even seemed to be going back to normal.
I remember he smiled at me for the first time since his sudden change.
But after that short period of joy, everything turned upside down again...
 
Sep/07/1983
 
Among the disturbing things Nathanael began doing in this house, and still does,
I hate the strange meetings with his fellow correspondents most. Those who attend are disgusting beyond words.
Their looks, their smells, their use of language, they are completely repulsive.
 
These meetings, which no one other than Nathanael is allowed to attend, started to be arranged when
Williams was five. In secrecy, sometimes they talk for hours. After Williams' 5th birthday,
Nathanael changed even more drastically. Sometimes he'd mention distant and unusual places
and how he wanted to visit them. It became too upsetting for me to even listen to such childish ravings anymore.
 
I know even if I told him to stop, he wouldn't listen to me, for he is not the same person I married anymore.
I curse the meetings for this drastic change in Nathanael's mood and behaviour; the visitors poisoned him
with their stupid thoughts and beliefs!
 
Sep/22/1983
 
I don't know what to do anymore. Five days ago, something awful happened: In the dead of night,
a stranger with a little boy showed up here. Strangely, he seemed to know Nathanael.
They spoke for about three hours, and then the man left without the child.
Then I learned that the boy was brought here to live with us; an unlawful adoption!
 
I don't remember anything after that, as I collapsed suddenly and needed to be hospitalized.
I stayed there under surveillance for four days. When I came back, neither the child nor the maids were here anymore.
Only Chet remained our eldest servant. When I asked him about the maids, he said they quit,
and he didn't know anything about the boy. But I could easily tell he was lying, and that he was obligated to do so.
I don't know what happened here, but it seems that something went terribly wrong.
 
Nathanael doesn't speak with me anymore. He is always silent and seems confused.
But I know that boy is still around here somewhere... I can hear him, his screams at nights...
 
Apr/14/1987
 
I haven't written anything in this diary for years. In fact, if it didn't abruptly catch my eye,
I wouldn't have even remembered it was here. I am not good with remembering anything anymore.
Last year, I needed to be hospitalized again. But this one was very serious, I think,
and I stayed at the hospital for three months. Anyway, finding this diary was a fortunate coincidence,
since yesterday Williams visited us. 
 
This is the first time he has come home after graduating from the college. I can't even remember
how many years it has been since he went away; how shameful for a mother. But he was not alone.
He brought his wife and child, Howard, with him. What a lovely boy he is!
It was heartwarming for me to see my grandson. 
 
Williams hadn't told us he even got married, but this is not unexpected.
I was forced to send him to a school in Wellsmoth at such a very young age.
I didn't want him to leave, but I couldn't let Nathanael and his friends affect him!
 
I was very happy yesterday, but now I've noticed something I didn't then and it shakes me:
Maybe this is stupid, maybe I am making this up, but I was annoyed by the way Nathanael looked at Howard.
As strange as he's acted at times, I've never seen him like that before. That glint in his eyes...
He didn't take his eyes off Howard for the longest time. At the time I dismissed it as simple love
for his grandchild. That is only logical, of course. But now I suspect it wasn't that at all.
That countenance he wore as he gazed on the child; I can tell it was not affectionate pride in Howard,
but something solely wicked in nature. That triumphant look actually was diabolical beyond imagination!
 
Aug/28/1988
 
I can't take this! Nathanael is no longer even human. He and his disgusting friends are planning something
terrible for Howard. I have got to get away from this cursed house, which I should never have come to in
the first place. From the first time I saw it, I felt this house was no good, like something ungodly from
the past still lives here. 
 
I'm going to escape and go to my son's apartment. I must warn him never to come here anymore;
neither he nor his family. They are speaking about Howard all the time... some nonsense about
summoning him beyond time! There is nothing but madness here. I will also take that shiny
metallic thing that Nathanael always wears hanging around his neck. I don't know what it is,
but I do know it's important to them, and I will take it with me so he can't find it. I won't let them
do any harm to my son and his family!