「ヨーロッパのメセナ」より


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「文化とは、世界の持つ高貴さである」──アンドレ・マルローの言葉です。
"La culture est la nobless du monde" disait Malraux.

 イタリアにある古くからの伝統、アメリカの豊かな伝統、フランス企業の将来性ある動き、ドイツでの実践などは、これからのメセナ活動にとっての発想の源であり、また多くの芸術経営における新しい実例の集大成でもあります。

 また、税法はより複雑な問題も提起しています。例えば、国によって税制は大きく異なりますが、いずれの場合も一般税制全体を考慮に入れながら、税制というのはしばしば改正されるのです。こうした改正の目的は、あるときは不正濫用を一掃するためだったり、あるいは逆に寄付や助成を増やす点にある場合もあります。フランスでは税制措置において物納が行われるようになっていますが、これはフランスの美術館を15年来、より豊かにしてきた主要な源泉となっています。なぜなら、芸術作品の所有者、芸術家自身、あるいは収集家の相続人に対して、相続税の一部を美術館への作品寄贈という形で支払うことが認められているからです。

①メセナ(文化・芸術支援)は企業にとって実にすばらしいものである。メセナを通じて企業は、企業の実像やイメージ、また、社会に奉仕しようという意志を、商品や商業活動を通じてよりもはるかにはっきり伝えることができる。そして、これは宣伝広告とは、全く何の関係もない。

②メセナは、自企業の管理職を優待したり、従業員を招くことができる。これは、企業のコミュニケーション戦略とうまく合致する。

③メセナは都市や地方を活性化させ、そこを新しい企業の揺藍の地とすることができる。

 企業財団が成功をおさめるための第2の条件は、いかに有能な人材を擁しているかということです、芸術界と支援企業の希望とをよく理解し、そのうえでその企業に適した独創的な企画を提案できる力が求められます。芸術への情熱をつちかいながらも人々との交流を好み、かといって俗悪に陥ることもなく、経営面では有能な実務家であるような人材を育成する必要があります。
 世界のいかなる国においても、企業によるメセナ活動は、中央行政や地方行政の文化政策にとってかわるものではありません。企業のメセナ活動が文化支援支出全体に占める割合は、アメリカにおいて20%、イギリスでは9%、フランスでは4%に満たないのです。現在までのところ、日本ではこのような割合の傾向は異なっており、そのために、日本の文化・芸術支援者は世界的に注目を浴びているわけです。しかしながら、公的な文化支援に対して、民間のメセナが本来持つ使命とは、最もリスクが大きく最も創造的で質的にも豊かなもの──すなわち行政の支援が及ばない部分を支援することにあるのです。

「芸術は死を超えてなお生き残る唯一のもの」マルロー
"l'art est cela seul qui survit a la mort"



ヨーロッパのいくつかの政府は自由主義を目指すが、こうした政府はアメリカや日本のように「企業のほうが国家より生活の現実をよく知っている」と考え、民間のメセナ活動が「機動性、リスクの予知、非順応主義」を促し、官僚主義の弊害を取り除くと評価している。


●メセナ企業が援助した文化事業を国家が後援する。
 例えばイタリアでは、メセナ企業が援助している文化事業の中から、政府が後援できるものを総理府が選ぶ。政府のお墨付きがあればマスコミの注目を集めるし、企業の宣伝にもなる。それを狙って、企業は政府の後援をとりつけやすいプロジェクトを選ぶようになる。これはゆるやかで間接的な行政監督のようなものだが、メセナの支援者からも援助を受ける側からも歓迎されている。


税制措置
1.見返りを伴うメセナ活動

一般に見返りを伴うメセナ活動には、税制優遇措置がとられている。
1.1. 対象になるのは企業だけで、個人ではない。
1.2. メセナ活動に支出は、たいてい商取引に関連したもの、と考えられている。
1.3. 付加価値税が課せられるが、助成を受ける側が非営利目的の組織の場合、控除がある。
1.4. 税務当局は一般にこの支出を事業費と見なし、課税収益から控除している。
1.5. メセナ活動に対する見返りの評価によって、課税の原則がどれだけ厳しいかは、国によって違う。

西ドイツでは、見返りはある程度の大きさが要求される。理論上は「支払った金額に相当する」べきで、例えば企業名が、他の寄贈者となんの区別もなしに寄贈者リストに掲載されるだけでは不十分であるとしている。オーストリアでも同様である。

イギリスでは、少なくとも原則では、政府の要求はもっと厳しいようである。「援助の唯一の動機」は宣伝という見返りであり、援助する側にとってもされる側にとっても、援助金は投資とみなされない。このため、芸術作品の購入や不動産(文化遺産)に対する企業援助金は、控除措置から除外される。

イタリアでは、メセナ活動費が「それと見合う」収入を伴うとき、初めて宣伝費と見なされる。そのため、かなり柔軟な解釈が可能である。また企業は、支払いを行った年度内に控除を受けるか、3年に分けて償却するか、自由に選択できる。



●アメリカのメセナ事情

1 概要
 アメリカの文化支援の構造はヨーロッパと根本的に異なる。
 ヨーロッパのほとんどの国において、文化は中央政府あるいは地方政府が財政的に支えており、企業メセナはあくまで付加的な部分に過ぎない。これに対して、アメリカはちょうど逆である。民間部分(個人、財団、企業など)が文化メセナの主体であり、政府の補助金は決して多くない。またヨーロッパのメセナは、企業イメージの向上を主な目的とし、コミュニケーション活動としてのメセナ活動が中心的であるのに対し、アメリカではフィランソラピー(篤志、博愛)が世界でも稀なほど根強い伝統をなっており、企業メセナも見返りを求めない寄付活動が基本である。

2 歴史的背景
 そもそもアメリカは王家など中央権力からの弾圧を逃れた人々が「新大陸」にたどりついて、自治を基本につくり上げた国であるだけに、中央権力・中央政府への不信感が根強くある。教育などの社会福祉一般については、ヨーロッパでは政府が責任の多くを持つが、アメリカでは政府の介入は極力抑えられている。こと文化についても、1965年に「全米芸術基金(N.E.A:National Endowment for the Arts)」が設立されるまでは政府による文化への方針、取り組みともゼロに等しかった。
 今日世界でも一流の交響楽団や美術館などは19世紀の終わりから20世紀にかけて事業を興し財産を築いた実業家達が、アメリカの人民の啓蒙のたえに設立したものであった(大学、病院、研究所なども同様である)。彼らはまた個人財団をつくり公益活動を助けていく基盤づくりをした。
 こうした伝統にたち第二次世界大戦後までは、アメリカの文化活動はごく少数の裕福な市民の篤志と財団が、ニューヨーク、ボストン、シカゴなどの都市部にある少数の文化財団に対してなすものに限られてた。

 1950、60年代にアメリカ経済は黄金期を迎え芸術鑑賞人口が増大した。一方、文化の側が市民の文化的欲求に応えられるだけの経済的基盤を持たないということが大きな社会問題となった。こうして1965年、長らく文化行政にはタッチしようとしなかった連邦政府による文化基金(前述の「NEA」)が生まれ、文化支援が始まった。この動きは地方にも伝わり、州、市における文化局の数や文化予算が増加していった。
 企業の文化支援が始まったのもこのころである。「チェース・マンハッタン銀行」の会長であったD.ロックフェラーは、「NEA」創設のきっかけをつくった「舞台芸術の経済基盤に関するレポート」内の提言を採用し、世界初の「企業芸術支援委員会(BCA):Business Committee for the Arts」を組織した。
 1960年代から70年代には企業の社会的責任への関心が高まり、消費者運動の先鋭化を背景に、多くの企業は慈善的寄付を拡大して社会貢献活動全般に力を入れるようになっていった。とくに70年代には、文化を楽しむ人口や国際文化交流の拡大に合わせて文化支援が発達した。「BCA」発足当初は定評あるオーケストラや美術館・オペラなどが支援対象の中心的存在だったが、次第にビデオ・アートやパフォーマンスなどさまざまなものへ、そしてメセナ実施企業も大企業だけではなく全国の中小企業にまで広がった。
 さらに80年代に入りアメリカの景気が全般的に後退してくると、慈善的寄付に限らず広報や広告活動と文化とを組ませて、企業、文化双方にとって利益あるパートナーシップの模索が始まった。
 現在では規模といいプロジェクトの多彩さといい、アメリカは世界で抜きんでたメセナ大国となっている。「BCA」の推定によれば、「BCA」は設立された1967年にはわずか2200万ドルが企業メセナ全体の金額でったのが、今日では6億ドルを上回る寄付金、及びそれと同額近くの一般営業経費がメセナ活動に使われている。

4 文化支出の内訳

4.1
 芸術に関して文化省のような中央政府の行政機関はない。1965年に設立された「NEA」が年間予算1億7500万ドルを持ち(1991年予定)、政府独立の機関としてアメリカの文化活動を助成する。
 アメリカでは、基本的には財団、企業そして企業による寄付が文化団体の運営費の大部分を形成している。したがって「NEA」は、金額の面から見るとアメリカ全体のごくわずかな部分でしかない。また基金とはいいながら、他の行政機関同様毎年の予算は議会承認を経て連邦政府から支出されるものだから、独立性、永続性が強いとは言えない。しかし精緻な助成対象選考過程を持つこと、及び実験的な活動、民俗芸能、個人の芸術家・文学者などの民間スポンサーがつきにくいものへの助成を他に先駆けて行うことでアメリカ芸術の発展に貢献してきた、との評価が高い。
 また「マッチング」という「NEA」の助成金を受け取るためには、民間部門から同額の寄付を集めることが必要条件となっている。このシステムにより、事実上「NEA」の予算は倍額に匹敵する力を持つ。またこの仕組みは「本来の文化パトロン」とアメリカでは考えられている非政府部門が資金を供給しているきっかけと判断基準の1つになるものとして、アメリカでは高い評価を受けている。なおヨーロッパのメセナも一部この考え方を取り入れ始めている。

6.企業メセナの関係者

 アメリカ企業はこの20年間社会貢献活動を発達させてきた過程で、従来社長室で決められがちであった寄付をまず専門部署として独立させた。大企業になると医療、教育、文化など各分野を担当するスタップ数人と部長が案件を審査し、役員他で構成される審査委員会に推薦していく。
 文化支援にとくに熱心な企業は、さらに文化部を持ち、寄付部やマーケティング部門と連携をとりながらメセナ・プロジェクトを進めていく。また美術品の購入と管理を担当する部署をおく企業もある。企業財団がある場合にあ財団との連携もとられる。

 寄付を受ける側の美術館等文化団体にもディベロップメントと呼ばれる資金集めの専門部署がある場合が多い。彼らは政府、財団、企業等の助成プログラムへの応募書類を書いたり、資産家など芸術のパトロンの動向を探りながら、民間非営利たる文化団体の運営資金を集めるのが仕事である。大きな団体になると企業専門の担当者が企業の文化部や寄付部にプロジェクトを持ち込み、企業のパートナーシップづくりを行っていく。
 またビジネスとアートとの間をつなぐコンサルティング会社も、数は少ないが存在する。

7.税制
 このような民間の文化支援活動が発達した背景には、連邦政府による税制上の優遇措置による間接的支援がある。
 内国歳入法501条(c)3にある福祉、宗教、科学、教育などの目的のためにつくられた団体は通常ノン・プロフィット・オーガニゼーション(民間非営利団体)と呼ばれる。文化関係の団体も、この501条(c)3の教育の目的のための団体に含まれる。これらの団体は、団体の収入が特定の個人に属さないこと、立法や選挙に関わる政治的な宣伝、キャンペーン、選挙候補者の宣伝活動に関与しないこと、という条件を満たせば内国歳入庁によって非課税の特典を認められる。1989年現在でこれらさまざまな目的を持つ団体数は、合衆国全体で46万4138にのぼる。

 さらに、これら非営利団体への寄付金は次のように、税制上の優遇措置を受ける。これらの団体への企業及び個人の寄付金を優遇することで、税の再配分の民主化を政策的に進めているのである。

●個人の寄付金
 現金による寄付金は調整総所得の50%、キャピタル・ゲイン資産による寄付は調整総所得の30%までの範囲で控除が認められる。
 なお、控除限度超過額は5年間の繰り返しができ、次年度以降の調整所得より、その年度の限度額の範囲で控除が認められる。

●法人が現金を寄付した場合
 法人の慈善的寄付の控除限度額は、寄付金控除及び利子、配当の特別控除前の課税所得の10%である。なお、欠損金の繰戻控除はこの限度額を修正せず、また、控除限度超過額は5年間の繰り返しが認められる。

●法人が物品を寄付した場合
 自社の商品は製造原価で、高価な美術品は市場価格で、有価証券類は市場価格で所得控除の対象となる。

●法人がその他の経費(広告費など)から文化活動に資金供与した場合
 必要経費の条件を満たす場合には全額損金算入が可能である。

また、個人の芸術活動の税制上の優遇措置には次のようなものがある。
●個人芸術家が賞や奨学金をもらった場合には、
①福祉、科学、教育、文化に関するものであること
②応募するものではなく自然に選ばれる仕組みのものであること
③賞をもらったことに対して役務の提供をしなくてよいこと
④非営利団体を通してもらったものであること
という条件を全て満たせば収入として申告しなくてよい(すなわち非課税となる)。

●パトロンが芸術家などに無条件で金銭を与える場合にも、受領者たる個人芸術家の収入としなくてよい。ただし寄贈者の方で芸術家1人あたり1万ドルを超える部分については、贈与税をはらわなければならない。

(河島伸子(電通総研))