飛躍するブラジル経済_The Economist


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(英エコノミスト誌 2009年11月14日号)

中南米の成功物語となったブラジルが今抱えるリスクは、その過剰な自信だ。

 2003年にゴールドマン・サックスのエコノミストらが、将来世界を圧倒する経済大国の候補として、ブラジル、ロシア、インド、中国をひとまとめにした時、その頭文字から成るBRICsの「B」については中傷の声が上がった。

 ブラジルだって? 経済成長率はブラジル人が着る水着のように申し訳程度で、金融危機が起きれば必ず犠牲になり、政治は慢性的に不安定な国だ。大きな経済力を秘めているのは明らかなのに、それを浪費する無限大の才能もまた、サッカーやカーニバルの才能と同じくらい伝説的である。そんな国が、勃興しつつある巨人たちと同格だとは考えられなかった。

 しかし今、そうした懐疑論は見当違いだったように思える。世界経済を不況から脱出させる先導役は中国かもしれないが、ブラジルも勢いに乗っている。景気の下降は避けられなかったが、ブラジルは他国に遅れて景気後退入りし、他国に先んじてそこから抜け出した。

 同国の経済は再び成長に転じており、成長率は年率換算で5%に達している。2~3年後には新たな大型深海油田が稼働を始め、アジア諸国が広大で資源に富むブラジルから食料や鉱物を引き続き輸入するために、経済成長はさらに加速するはずだ。

 予測には幅があるが、2014~2023年のいずれかの時点で(ゴールドマン・サックスの予想より早く)、ブラジルは英国とフランスを抜いて世界第5位の経済大国になる可能性が高い。コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(PwC)によると、サンパウロは2025年までに世界で 5番目に裕福な都市になるという。

 さらに、ブラジルはいくつかの点で、他のBRICs諸国に勝る。ブラジルは中国と違って民主的である。インドと違って反政府勢力がなく、民族・宗教対立もなければ、隣国との敵対関係もない。ロシアと違って、石油と武器以外にも輸出品目を持ち、外国の投資家を尊重する。

 貧困から身を起こし、労働組合のリーダーを務めた経験を持つルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領の指導の下、政府は同国を長年苦しめてきた過酷な不平等の是正に乗り出している。実際、優れた社会政策と内需刺激策については、世界の発展途上国は中国よりもブラジルからずっと多くのことを学べるはずである。

 端的に言えば、ブラジルは突如、国際舞台に躍り出たように見えるのだ。その登場を象徴するのが、先月、2016年の夏季オリンピック開催地がリオデジャネイロに決まったことだった。それに先立つ2014年には、サッカーのワールドカップがブラジルで開催される。

 実際は、ブラジルは着実に前進してきたのであって、急に舞台に上がったのではない。最初の歩みが始まったのは1990年代だった。当時ブラジルは、ほかの選択肢を使い果たした挙句に、ようやく理にかなった一連の経済政策に行き着いた。インフレが抑制され、金遣いの荒かった地方政府と連邦政府には、法律によって債務抑制が義務化された。

ようやく始まった適切な経済政策

 中央銀行は自律的な権利を与えられ、インフレを抑制する役目と、米英に打撃を与えたような投機的取引に自国の銀行が手を染めないよう監視する役目を負った。ブラジル経済は国際的な貿易と投資に門戸を開き、国営企業の多くが民営化された。

 これらすべてが追い風になり、ブラジルには意欲的な多国籍企業が大量に生まれた。その一部は旧国営企業で、政府から一定の距離を置いて事業を進めることを認められたおかげで発展を遂げている。国営石油会社ペトロブラス、鉱業大手のヴァーレ、航空機メーカーのエンブラエルなどがこれに当てはまる。

 一方で、民間の多国籍企業としては、鉄鋼メーカーのゲルダウや、食肉加工で間もなく世界最大手となるJBSなどがある。その下には、過去の暗い時代に鍛えられた機敏な起業家たちが新勢力を形成している。

 貧困の減退と低中間層の膨張が呼び水となり、国外からの投資が流れ込んでいる。また、強力な政府機関もいくつか設立された。自由で活発な報道機関が、汚職を暴いている(もっとも、汚職はいまだに蔓延り、多くの場合罰せられていないが)。

 新たなブラジルを過小評価するのは間違いだが、その短所を言い繕うこともやはり間違っている。その一部は、残念ながらお馴染みの欠点だ。政府支出は経済全体の成長よりも急速に伸びているものの、民間・公共部門ともに投資額がまだ少なすぎ、バラ色の成長予測に疑問を投げかけている。

 適切でない場所に流れる公的資金も多すぎる。連邦政府の人件費は2008年9月以降13%増えている。また、人口が比較的若いにもかかわらず、同じ期間に社会保障と年金の支出は7%増加した。

 最近は改善されたとはいえ、教育とインフラは今も中国や韓国に後れを取っている(ブラジル国民は先日の大停電でそれを痛感させられた)。一部の地域では、今なお凶悪犯罪が蔓延っている。

 そして新たな問題が、海上石油プラットフォームのすぐ先の水平線上に浮上しつつある。ブラジルの通貨レアルは昨年12月初旬からドルに対して 50%も値上がりした。これによって輸入商品が安くなるため、ブラジル人の生活水準は上がる。しかし、レアル高は輸出企業を苦しめる。

 政府は先月、短期資本の流入を抑制するために税率引き上げを決めた。だが、これがレアル高傾向に歯止めをかける見込みは薄い。新油田が操業を開始すれば、なおのことである。

国家的な有力企業と国家的な障害

 このジレンマに対するルラ大統領の本能的な反応は、産業政策に訴えることだった。ブラジル政府は石油産業のサプライ――パイプラインから船舶まで――を国内製品に限定することを義務づける。政府はまたヴァーレに対して、大規模な製鉄所を新設するよう要請している。

 確かに、公共政策がブラジルの産業基盤を作るのに役立ったことは事実だ。だが、その基盤の上に産業が育ったのは、民営化と開放があったからだ。一方で政府は、ビジネスの障害となるもの――特に、税制から人材採用まで広範に及ぶ古く複雑な法律――の多くを解体せずに放置している。

 来年10月の大統領選の候補者で、現職ルラ氏が支持するジルマ・ロウセフ氏は、古い労働法の改正は必要ないと主張する。

 そして恐らく、ブラジルにとって最大の危険は、こうした過剰な自信なのだろう。ルラ大統領が、自身に寄せられた多くの賛辞に値するのと同じように、ブラジルは尊敬に値する国だと主張することは正しい。しかし、ルラ大統領は幸運な大統領でもあった。コモディティー(商品)ブームの実りを収穫し、フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ前大統領が立ち上げた強固な成長基盤の上で国を運営できたからだ。

 不況に苦しむ世界でブラジルの高成長を維持するために、次期大統領は、ルラ氏が無視できると考えた問題のいくつかに取り組む必要があるだろう。従って、来年の大統領選の結果が、ルラ政権後のブラジルの成長の速度を左右することになるのかもしれない。

 それでも、この国の方向性はしっかり定まったように思われる。そして、ブラジルの飛躍がさらに賞賛に値するのは、それが改革と民主的合意形成によって実現されたことである。中国も同じことが言えたらよいのだが・・・。