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  • 1

機体の中にロックオンアラートが鳴り響く。
俺は機体を急旋回させ、後ろに付いた敵機──Su-35を振り切ろうとした。
しかしSu-35は完璧な速度調整や空戦機動の元、俺のF-15SEの後ろから一瞬足りとも離れなかったのだ。

そしてミサイルが発射された時の警告が鳴り、俺は一息着いた。
『新任隊長さんよ、これが実戦じゃなくてよかったなぁ?』
「ご最もだ、カリスト」

ベルカ戦争が終わったのは、つい最近の事だった。
5年も経ったはずなのに、自分にとってはまだ数週間前の出来事にも思える。
オーシア連邦とベルカ公国の国境に位置していたシルム山は、ベルカ戦争において「円卓の鬼神」が暴れまわった場所の1つだ。
戦後はその戦略的な需要からここにベルカ基地が建造され、少数ながらもしっかりした航空隊が配備された。

その俺はベルカ山飛行隊の1つ、スカイフィッシュ隊に新しく配属されることとなった。
配属されて1周間、部隊の大まかな特徴は掴んだものの──

あまり、隊員達からは歓迎されていないようだった。
唯一の女性パイロットであるヘックからは優しく受け入れてもらえたものの、結局はそれだけだ。
彼女に俺が配属される前の隊長の話を聞いた。
その時の話によると、前の隊長は領空侵犯のためにスクランブル発進した。しかし隊長が帰還する時、ベルカ山は猛吹雪。
更に猛吹雪の中、着陸しようとした隊長を襲ったのは突風だったのだ。そこから先はパイロットとして、身が竦むような結末。
厚い信頼関係を構築していた亡き隊長と隊員の仲では悔しみの感情のみが漂い、俺があまり歓迎されないのもそれが理由なのだろう。

『こちら管制塔。カリストの勝利です、直ちに帰還してください。天候が怪しいです』
ヘッドセットから流れる管制塔のオペレータの声を聞きながら深呼吸を付き、操縦桿を握り直す。
距離の関係から先にカリストが着陸するだろう。カリストのSu-35に続きながら、滑走路を目指していく。
そして前方のSu-35が着陸した後、管制塔からの誘導が始まった時の事だった。

『スカイフィッシュ1、アウターマーカー通過時に報告───ちょっとまってください、レーダーに反応が』
「ん?何だ?」

こちらのレーダーも確認する。国籍不明のシーカーが表示されており、高速で滑走路への侵入ルートへと向かっている。
『アンノウン発見。速度400ノット、西南西より侵入して来ます。IFF反応あり、スカイフィッシュ1は着陸を一度中止してください』
管制機の音声に従って高度を引き上げ、アンノウンが向かってくる方向を見やった。
『こちらオーシア連邦空軍シルム基地、所属不明機へ次ぐ。貴官の意図と、所属を述べよ』
『アルテミス1、こちらオーシア連邦空軍ノースポイント防空軍所属のXF-103だ』
『了解しました。フライトプラン未提出ですが、着陸を許可します。先行しているスカイフィッシュ1に続いて着陸を行なってください』

なんだなんだ、とツッコミを入れたいところだが、今は管制塔の指示に従って着陸した。

  • 2
俺が着陸した後にこの基地へと羽を下ろした戦闘機は、異様なフォルムだった。
格納庫に入ったその灰色の戦闘機にはシルム基地のスタッフやパイロット全員が群がっており、自分もその一人である。
アルフレッド・フェーレンシルト、通称AFが「これは珍しいものだな。オーシアの新型か?」と呟いている。
「どっかの無能ちゃんのお陰でフライトプラン未提出だとか。とんだ人騒がせですよね」
ヘックもやってきて、こちらへ話しかけてきた。
「ええ、そうですね。全く焦りましたよ」と答えたが、先ほどの模擬戦の相手であるカリストは「隊長ならそれぐらいで動じるもんじゃねえぞ」と言ってくる。
冷たいカリストの対応に対して彼女は「まぁそう言わないで、仲良くしなきゃ」と言うもののあまり良い空気ではない。
これがしばらく続くようでは、こちらの心が持たないだろう。

軽くため息をついて見せた俺は、再び目をXF-103と書かれた機体に向けた。
形状から推測するには、ステルス性も考慮しながらも高い空戦能力を手に入れるのがコンセプトだろうか。
武装も恐らくウェポンベイに収納されており、そのウェポンベイらしき物は5箇所見れる。
禍々しさすら感じられるXF-103。そのパイロットはどこなのだろうか。
フライトプラン未提出とわかっていながら飛んだのだろうが、その度胸は認めざるをえない。

カリストとヘックが楽しげに会話しているのを横目に、ふと格納庫の入り口に目を向けてみた。
そこには、ヘッドマウントディスプレイを内蔵していると思わしきヘルメットを腰の位置に持った一人の男が居た。
パイロットスーツそのものは通常通りだが、「Artemis」という文字の入ったパッチを胸につけている。
無論俺は、彼がこのXF-103のパイロットなのだろうと考えついた。
パイロットと思わしき人物は何も言わずに、小雪の振る格納庫の外へまた消えていく。


時間は経って午後7時。この基地へ配備されて、1週間経つ自分にとってはやっと馴染み始めたものだ。
基地中のあらゆるスタッフ(レーダーと睨めっこする人は別)が食堂へと集い、とある儀式を始める。
それは──

食堂に集まった自分達に、館内放送が入る。
『今週のターゲットはぁ...。スカイフィッシュ隊のアイザック・シナムだァッ!!』
テンションのやたら高い声に合わせて俺の名前が呼び上げられた。
残念、今回の犠牲者は俺になってしまったようだ。

自主的に食堂のカウンターの前へ行く。

料理師が『シナム君はなんと、撃墜1の被撃墜9となっているぞォ!?これはどういうことだぁっ!!』と叫んでいる。
ああなんということだ。悔しい、非常に悔しい上に恥ずかしい。
だがこんなことが許容されるのは、どこか和やかな雰囲気の漂うシルム基地だからなのだろう。

足を止めた俺に、この場にいる全員の視線が刺さる。恥ずかしい。

深呼吸を一度し、それに合わせて周りもこちらを更に凝視する。

──行くぞ!

まずはその場で高くジャンプ、離陸をするように飛んでやった!

「「俺は今地球の重力に逆らっているぞーッ!!」」


  • 3

当然あのような寒い事を言えばシルム基地の食堂は吹雪よりも寒い空気が漂うだろう。
誰も笑ってはくれず、唯一自分の部隊のアルフレッドがコーヒーを吹き出した程度。
赤面と同時に自殺願望すら湧き出てくるものだが、空腹には耐え切れなかった。

カウンターの右端に並び、トレイを手にとった俺はあたりを見回す。
すると丁度カリストとヘックがやってきた。相変わらず、楽しげな会話を繰り広げている。

「そうだ」と思いついたシナムは、カリストに「先どうぞ」と言ってその後ろに並んだ。
考えはこうだ。仲を良くするためには、やはり同じ物を食べて話題を作ろう、という事。
ヘックが「何か思いついたんで?」と囁いてきたが、人差し指を立てて静かにした。
カリストが自分のトレイに乗った皿に盛り付けているものは──。
今の寒い季節では体を温めたくなるのだろう。カレーを盛りつけている。
ここの食堂のカレーは初めて食べる。どんな味なのだろうか?
カレー以外にはただのサラダだ。ドレッシングは無い、珍しいタイプか。
後ろでヘックの「あぁね」と勘付いた声が聞こえつつも、そのままカウンターをカリストと共に離れた。
「新任隊長さんもカレーが好きなのか?ここのカレーは特別だぞ」
「大丈夫、僕もカレー好きだ」

席についた自分達は、何の前置きもなく「頂きます」とだけ言って"食糧"を口に突っ込み始めた。
特別らしいカレーを食べる前にヘックのトレイの上を見ると、魚を中心としたもので構成されている。
見るからにヘルシーで、女性らしさを感じさせるものだ。

──では、食べよう。
隣でカレーをモリモリ食べるカリストは嬉しそうだ。きっとこれを食べて、同じ話題を作れば・・・。




数分後、そこにはカレーを半分残して作業服の上を脱いだシナムの姿があった。

「ほーら、カレーの敵は水だって」
彼女の言う事によく納得した。彼はこれだけ辛いものを、しかも汗の1粒も垂らさずに食べているのだ。
カリストは「ほう、お前・・・面白い」と、よく解らない興味も持たれてしまったらしい。
汗だくの俺に無言で、彼は皿に残った俺のカレーをかっさらっていった。
結局その後はヘックからお腹に溜まるよ、と個人所有物のクラッカーを貰って夕食を済ませた。


───12月1日に、何かが起こる事も知らずに。


あとがき

ちょっと文がおかしい所があるかもですが、追々修正予定。