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 父が死んだ。

 その事実を受け止めるのに、二年かかった。

 私は地球連邦の軍人の一人息子だった。成績優秀の父の子だけあって、周囲からは常に期待され、私自身も才能があるようで、腕にもそこそこの自信があった。

 しかし、軍に触れる機会があった私はモビルスーツに興味を持ち、機械弄りが趣味だったのだ。その思いは日に日に強まってゆく。

 成年するよりも前に父は死んだ。自堕落になって、二年の間何もかもを捨てた。しかし、母が病気にかかると同時に、私のところに声がかかった。

 おまえが来なければ、母親は死ぬ。

 そういう意味の文書が届いたのだ。それから私は、父親の親友であった当時も現役であったモビルスーツパイロットの男に弟子入りし、1年猛修行をした。師の推薦と、連邦軍上層部の意向もあり、私はティターンズに入隊した。

 といっても、入って数ヶ月。ティターンズはグリプス2のコロニーレーザー照射によって艦隊を失い、敗北、解散となった。

 私はかろうじて生存し、私は別の部隊に異動した。なんでも、連邦の保有する特殊連合部隊だそうだ。その隊の副リーダーを任され、二年間戦った。

 その後、母を預ける地球の病院から連絡があった。もう限界が来ていたそうだ。私は休暇を取り、地球に降りて母を看取った。

 そこから、異変があった。

 最初の違和感は、とある任務のブリーフィング。他の特殊部隊と合同だが、うちの部隊はほぼ全員が出撃だった。参加する部隊は7ほどあったのだが、1/4は我々の部隊から選出されていた。当時は他の部隊は別の依頼もあるのだろうと考えていたが、その考えは違っていた。

 出撃から作戦開始。我々の部隊だけ、どう考えても行き先が違う。そして、ブリーフィングの指定とも違うルートだ。

 しかし、特殊部隊にとって、勝手な行動は厳禁だ。我々は隊長の指示に従いながら進軍し、そうして罠にかかった。



 目の前に突然、多数の赤い光が出現した。モノアイタイプ。ジオン製のモビルスーツの、カメラの眼光だ。

 直後、私たちは無数の鋼鉄の雨に晒された。



 それから数ヵ月が経ったころ。大打撃を受けた我々は味方部隊と合流し撤退。他の部隊と合流した際、彼らも攻撃を受け、我々は事実上失敗した。

 我々はファントムの煽動に乗じ、同部隊のメンバーへ連邦脱出の話を投げかけた。不特定多数の情報源が生まれれば、いつ本部に気付かれるかわからない。即答返事したメンバーへ、彼が作った作戦ファイルを送信し、我々は急いで出撃する。

 私は別働隊として、アールトネン准尉とジーン軍曹を連れ、先回りして中継地点で待機。ファントムたち本隊は、モビルスーツなどの機材、メカニックマンを積んだ大型コンテナを、実際にMS数機がかりで運送及び護衛を担当している。

 しかし、途中でレイル中尉が妨害に現れた。軽い挑発に乗ったジーン軍曹は静止を振り切って突貫し機体を大破させてしまう。

 私はどうにか場を収めようとしたが、増援として、恐らく連邦の正規追撃隊が到着したのだ。どうやら、レイル中尉もハメられたらしい。

「アールトネン准尉、迎撃するぞ」

『りょ、了解』

 私は乗機《ジェガン》のブーストペダルを踏み込む。背面の巨大なスラスターが炎と咆哮を上げ、莫大な推進力で前進した。

『2番機はネモの回収に迎え』

『ああ』

「チッ!」

 即効で数を減らそうと思ったが、敵の動きの方が早かった。一直線にジムⅢ二機に向かって突進した私は、突如機動を変更した機に対処できない。

「ジーン軍曹!脱出しろ!」

『え?』

 ほぼ手遅れだ。分断されたネモの上半身を、ジムⅢのビームライフルは正確に捉えている。

 姿勢制御、急速旋回。ビームライフルを追撃隊のジムⅢに構え最速でトリガー。ぎりぎりのところで、ジムⅢの胴体を貫いた。

 しかし、一歩遅かった。敵ジムⅢは既にビームライフルの発射コマンドを入力しており、今まさにビームライフルの銃口から、蛍光色のピンクが覗いていた。

「ジーン!」

 一瞬あとに、ネモの装甲に大穴が開けられた。ビームライフルから放たれた光の槍は、ネモを正確に貫いたのだ。

『ジーン軍曹!!』

 アールトネン准尉も叫ぶが、煙を吹いて破片を撒き散らすそれは、既にモビルスーツではなかった。

『やられたか……だが、一人殺した。次は貴様の番だぞ』

「き、さま……ッ!」

 ビームライフルを構え直すが、直後にはブーストペダルを踏み込んでいた。もう一機のジムⅢが既にミサイルを放っていたのだ。肩から射出された四基の弾頭。私は即座に頭部バルカンを発射した。

 直進するミサイルを迎撃。爆破。山なりに射出された残り三基は、その中央をすり抜ける事で回避する。

『あ、あ……』

 通信機からかすかに届く、呻くような声。見ると、ミサイルの一基が別の熱源を発見して再誘導を開始していた。その先に居るのは───。

「避けろアールトネン准尉、死ぬぞ!」

『し、ぬ……?』

 注意を呼び掛けるが動じない。それどころか、何やら様子がおかしい。彼女のジムⅢは回避運動もせず、ぽつんと漆黒の宇宙を彷徨っていたのだ。

『う、うわぁぁあああ!』

「チィッ!」

 脚を前方に振り脚部のブースタをフルスロットルでアンバック機動。両肩のスラスターを最大展開して急旋回し、白い尾を引いて遠回りに飛翔しているミサイルに向け、ビームライフルを放つ。

 一基の後部に直撃させるが、慣性の法則に従ったミサイルの残骸は、容赦なくジムⅢへ襲いかかった。

 爆音が響いた。回収が先か、撃破が先か。

 しかし、敵は待ってくれない。

 接近警報。ドガガガガ、とバルカンを乱射しながら、敵機は既にクロスレンジまでに迫っていた。

 頭部バルカンの弾頭がジェガンの腰のグレネードに直撃し、コクピット周辺にまで爆発が及ぶ。

「ぐッ、……!」

 敵はビームサーベルを振り上げていた。加速と同時に振りおろせば両断できる距離。私は咄嗟にビームライフルを捨て、右側の腰に装着しているグレネードを引っ掴み、それを前に突き出す。

 直後、蛍光色の刃が、手のひらサイズの爆弾を裂いた。

 ドゴォ!! と爆発が広がる。自機敵機共にマニュピレータやサーベルの柄が吹き飛び、前腕周辺を抉った。さらに敵のコクピット部分にまで大ダメージを及ぼしている。

『なん、クソ!!』

「嘗めるなよ新兵!」

 頭部バルカンのトリガーを引く。狙いはコクピットの周辺装甲。本来はバルカン程度では破れない設計のそれはしかし、距離と痛んだ装甲の効果も相まって、簡単に貫かれた。

 コクピットは潰した。私は左手でビームサーベルを引き抜き、素早く腰を両断し完全に無力化。

「ッ……ふう、終わった、か」

 ひとつ息を吐いて周囲を確認する。レーダーに敵影なし。

『しなむ、中尉……』

「アールトネン准尉、無事か」

『はい……』

 着弾したミサイルは、辛うじてコクピットにまでは至っていないようだった。しかし、両肩部、胸部は破損状態で、稼働は怪しい。

「レイル中尉に連絡する。ファントムと合流しよう。動けるか?」

『いえ……』

「分かった。合流まで残り時間はおおよそ3分だが……。見当たらないな」

 まさか、あちらも何かトラブルがあったのだろうか。

「准尉、さっきのアレはなんだ?」

 私は彼女の先ほどの機動を問うた。既に作戦はいくつもこなしているはずだ。

『…………』

「私には、何かに怯え、錯乱しているように見えたが」

『帰ったら、お話しします……』

「……そうか」


『シナム中尉、こちらレイル・ナルドだ。状況はどうだ』

「今、敵機を撃退した。……ジーン軍曹は……」

『すまない。……本隊が居るはずだな?合流しよう』

「ああ、私は准尉ともう少しここにいる。彼女の機体は動けそうにないからな。すまないが、……このポイントまで向かって欲しい」

『了解した』

 蒼い光の閃光が遠ざかるのを眺めながら、私は准尉の機体に近づく。

 こうして近距離で見ると酷い有様だった。ミサイルの直撃で、よくもまぁ無事だったものである。表面装甲は焼けただれており、コクピットブロックの外壁が露出していた。

 私は再びレーダーに目を通し索敵するが、

 そこで異変があった。

「!」

『これ……増援!?』

 生きているレーダーを確認したのか、彼女も驚愕の声を上げた。

 非常にまずい。敵機は二機。同数だが戦力が圧倒的に違った。彼女のジムⅢは動けないし、私のジェガンも右手のマニュピレーター周辺はグレネードの爆発によって吹き飛んでいるのだ。

「灰色のハイザック・カスタムが二機……特殊部隊か?」

 最大望遠で敵機を眺めつつ、私は生きているシステムを経由して武装を起動する。

 残る武装は、頭部バルカン49発、そしてビームサーベルのみだ。

「隕石に隠れていろ。私が時間を稼ぐ」

『な、やめてください! 逃げるべきです!もしくは援軍を!』

「幸いハイザックはまだこちらに気づいていない。だが、長距離回線を利用すれば必ず位置を特定される。なら、先手を打って有利な状況にした方がいい。どのみち、この機体状況ではジムを抱えて逃げるのも不可能だしな」

 私は軽く機体状況を再確認し、ふっと息を吐く。今の一瞬で呼吸を整えたのだ。操縦桿を握り直し、力強くペダルを踏み込んだ。

 加速。万全状態より幾分か軽いジェガンは、やはりいつもより早かった。距離は一瞬で1400から300まで縮んだ。急速接近に気づき銃口をこちらに向けるハイザックだが、もう遅い。

 黄色い光が収束され、ハイザック・カスタムの握る狙撃用ビームランチャーはその莫大なエネルギーを吐き出した。しかし、それがジェガンを貫くことはない。

 肩部のスラスターを最大展開。私は銃口の光と同時にその射線から逃れた。バルカンを9発放つと、ハイザックもブーストを吹かして簡単に回避する。

 敵機の角度を計算。囲むつもりか!

 背面の大型スラスターを最大点火。二機から大げさに遠ざかる。三機でV字になるような位置まで逃れると、反転して再び加速。一機のハイザックへ向け襲いかかった。

 メガ粒子で構築された桃色蛍光色の刃を振り下ろす。ハイザックは身体をひねり、右肩のシールドを突きだしてきた。ビームサーベルは深緑の盾に阻害され、胴体を両断することはかなわない。

『無駄だぜ。俺らの機体は特別製でな。そんな一般品のサーベルじゃこの盾は切れない』

「チィ……、」

 敵のシールドはどうやら対ビームコーティングが施されているらしく、ビームサーベルで貫くことはできなかった。

(こちらの最大火力を上回る盾、か)

 当然、バルカンを叩き込んだところでそれを貫くことは、やはりできないだろう。

『散開して一気に叩く』

「ク!」

 全速力で後退。同時に、先ほどジェガンが居た座標に向け頭上から黄色いビームが降り注いだ。一歩遅ければやられていた。

 私はひとまず前方の機体に標的を定める。頭上から降り注ぐ二射目を回避すると、正面からハイザックを捉えてトリガーを引く。

 ドガガガ!! と頭部バルカンが唸り、予想通りハイザックは盾を突き出して防御した。

 カチ、と弾切れを知らせる空発砲音が鳴る。「ふう、」と息を吐き、ひとつビームを回避。リロード後を狙って、一気に加速、接近する。

 左手にはビームサーベルを最大展開。わざわざシールドを狙って、その先端を突きいれた。

 ズバァ、と深緑の鎧が抉れた。

『な、に……!?』

「過信しすぎだ、バカ者」

 突き刺さった刃は、そのまま機体を横から貫いた。刺さったままのビームサーベルを捨て、動かなくなったハイザックのビームランチャーを奪う。

『クソ、むざむざやられるか!』

 黄色い閃光。ハイザックを盾にそれを防ぎ、爆発を目くらましに真下からハイザックを捉える。

「……狙える」

 トリガーを引く。

 が。

「ッ……、エネルギー切れ! クソッ」

 ランチャーを捨て、ペダルを踏み込むが、

 スコン、とスラスターが空吹きした。

「こっちもか……!」

『チッ、真下か!』

 万事休すか。

 バルカンは残弾なし。攻撃手段はないし、推進剤も切れた。コクピット開閉ボタンに手が伸びそうになる。

「ク……」

 敵機の銃口は既に黄色い光を放出しており、エネルギーの出力を今か今かと待ち抱えていた。

『終わりだ!』

 直後。


 黄色いビームが放出され、

 機体が爆発した。








 ただし。

 爆発した機体はハイザックで、

 撃った機体は───。


『間に合ったか』

 よく知っている男の声だった。

 我らを扇動し、組織として巻き上げた男──



「ファントムか!」

 ガブスレイのフェダー・イン・ライフルが黄色い粒子を点々と放出しながら、こちらを捉えていた。

 後部には、巨大なコンテナを運ぶ数機のモビルスーツが居る。どうやら脱出は成功したようだった。

『損害は聞いている。准尉の機体は第二コンテナ内へ』

「私の機体も、もう推進剤がない」

『了解した。おい、誰か手が空いている者はいないか。ジェガンを移送してくれ』

『私が行こう。他の機体よりも出力はある』

 フライルーを駆るレイルの声。合流も無事にできたか。

『目指すはコロニー・インダストリアル4だ。索敵を怠らず、移動するぞ』

『了解』



  2


 『宝探し』という名の任務が開始されて、アイザック=シナムはトレーラーの一つの中で地図を凝視していた。

 やがて地図と合致する建物を見つけ、シナムは隣の運転手に声をかける。

「そこの家からだな。車を止めてくれ」

「我々はどうすれば?」

「待機だ。荷物があるやもしれん。呼べば2,3人来てくれ」

「了解しました」

 トレーラーから降り、彼はやや緊張した面持ちで家の敷地に入る。古びた様子はなくむしろ小奇麗ささえあった。恐らく、今も人が住んでいる家だ。

「……こほん」

 ひとつ咳払いして、彼はインターフォンを押した。

 ぴん、ぽーんと気の抜けた古いタイプのチャイムが外にまで響き、「はーい」という女性の声が響く。シナムは「ごくん」と生唾を飲み込み、身だしなみをチェックしながらその時を待つ。


 数秒経って、がちゃり、と扉が開く。まだ20代前半であろう若い女性が柔和な笑みを浮かべながら出迎えた。

 そして彼は開口一番。


「ほ、」





「欲しいのだが」

「え?」


 彼のために付け加えておくと。

 この『欲しい』とは『(家電が)欲しい』という意味である。

 しかし。

 見知らぬ一般人の家を訪ねるというシチュエーションに緊張した彼は、その過程もろもろをすべて吹き飛ばし、動詞だけを叩きつけてしまった。


「あ、あの……」

 顔を赤くしながら、玄関先でもじもじしだす女性。

「?」

 『言い切った』という満足感から、彼は自分が今何を発言したのかは覚えていない。無論、初めて会った異性から、顔を合わせて開口一番に『欲しい』などと言われれば、勘違いされてもおかしくはない。

「あ、あの、私、告白されたのは初めてで、どうしたらいいか──」


「……は?」

「え?」

「待ってくれ。何を言っている?」

「え、あの、欲しいんですよね」

「ああ、欲しい」

「でもその、いきなり、あの、言われましても……」

(なるほど、段階を踏んで交渉するべきだったか。しかしここまで来れば退くことはできん!)

「ああ、すまない。だが、今どうしても必要なんだ」

 ぼん、と。再び女性の顔がリンゴのように赤くなっていく。

 20代半ばに差しかかる彼は、割と顔受けがいい。所謂『イケメン』と言っても差し控えはない。

 そんな男にいきなり言われれば──という話である。

 互いに論点が合っていないまま、会話は続く。

「え、えっと、私でよければ……」

「は?」

「え?」

 おかしい。とシナムはようやく気付いた。

「……君は何を言っている。私は家電が欲しいのだが」

「え?」



 結局、そこで家電は手に入らなかった。



  3


 再び車内。

「どうしたんですか、シナム中尉」

「なぁ、私はどこかおかしいだろうか」

「顔がおかしなことになってますね。どうしたんですか、その頬のもみじは」

 指摘され、彼は鏡を見ながら自分の左頬をさする。

「私も解らん。交渉をしていたら、いきなり女性にぶたれてしまってな。どこで間違ったものか……」

「なんてことだ……ひどいことをする女性もいるのですね」

「まったくだ」

 あの場において酷かったのは彼だが、この男は最後までそれに気付かなかった。

「次は誰もいない家に向かおう。またぶたれるようでは、私がもたん」

「了解しました」

 こうして前途多難な宝探しは続いてゆく。