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 連邦軍の追撃部隊を撃破し、別働隊として活動していた元特殊部隊の友軍と合流した一行は、コロニー・インダストリアル4へと訪れていた。

 ここはどうやらアナハイムの管理する(厳密には“していた”だが)コロニーで、巨大なゴミ処理施設を利用し、再利用の難しいモビルスーツの残骸や、武器などを廃棄する役割を担っていたらしい。つまるところ、企業の社会活動の一環として建造されたコロニーだ。

 人の気配は少なく、ゴミ処理場の近くは、様々なMSの部品や家電製品などが無造作に積まれていた。処理場は稼働すらしていないようで、廃棄予定であろうの金属たちが山を作っている。中にはぎりぎり使えそうなモビルスーツの部位や、古ぼけているだけで使えそうな家電も見え隠れしている。

 そうしてどうにか落ち着ける場所を確保した。開けっ放しにされた廃工場やガレージにそれぞれのモビルスーツを待機させる。共に連れてきた数名の下部組織(非パイロットの人間たち)に見張りをさせ、我々はひとまず、コロニーの偵察を行い、後日、これまた放置されている事務所らしき建物の二階にて、落ち着いて話ができる環境を作っていた。

『MSパイロットは、これだけか』

 呟いたのは、リーダー格の、長身の男だった。

 彼はどうしてか、これからモビルスーツに乗るわけでもないのに、フルフェイスのヘルメットを被っていた。内部と外部をほぼ完璧に隔離するそれのせいで、声はくぐもっている。スモークの施されたマスクで表情も伺うことすらできない。そして部隊内で、彼の素顔を見た者はいないという、謎の多い男だ。

 MSパイロット以外、即ちメカニックマンたちは、下で見張りを行っている。人通りはほとんどないようだが。

『サカキ、アナハイムのほうはどうだ?』

「首尾は上々。このコロニーは好きなように使えばいいし、金さえ払えば、MSの整備から補給まで、ある程度は請け負ってくれる。それから、例のブツも。数日で作って郵送してくれるそうだ」

 あんなもの何に使うんだ?と事務机の上に座り首を傾げる男、サカキの返答に、リーダーのファントムは満足げに頷いた。

『流石、大企業は仕事が早いな。自腹で大金を出しただけはある』

 ただし、とサカキは前置きして、

「条件は、モビルスーツの戦闘データの提供。そして、アナハイムからの依頼は優先的に受託すること、だと」

 軽い調子で言う彼だが、安い条件とは言い難い。否、事実上コロニーが一つ手に入ると考えれば破格の条件だが、彼らの状況が状況だ。元特殊部隊出身であることもあり、名前が表に出ればまずい機体も存在する。たとえば、ソファにどかりと座っているレイル・ナルドの愛機《フライルー》だ。

 壊滅したT3部隊で扱われていた試験機がどうしてここにあるのか。それを聞く者は、いない。興味はあるかもしれないが、馴れ合いができる部隊ではなかったからだ。基本的に彼らは外面で付き合っていた。

『いいか、レイル?』

「《フライルー》のデータがアナハイムに渡ってもいいのか、ということか?」

 帰ってきたのは無言だ。しかし肯定ということだろう。

「私は構わんよ。それよりも大事なのは、行動の基盤となる軍資金の調達だ」

 折角付いてきて、金がないので何もできませんでは意味がない。

「ンなのも考えずに出てきたのか?……バカ組織が」

 口を挟んだのは、ファントムに並ぶ高身長の男コール・F・アビアティック。階級は少尉。表面上は、ここにいるメンバーと同じく、連邦の策略を契機に見切りをつけ、こうして離脱した一人だ。

「口を慎め。アビアティック少尉」

 アイザック=シナム中尉が彼を窘める。「ふん」と鼻を鳴らし黙りこくるアビアティックを訝しげに見てから、ファントムに「続けろ」と無言で促す。ファントムは首肯すると、レイルの問いに答えた。

『金は、当面のほうは問題は無い。ゴミの再利用(・・・・・・)をすれば、MSの整備費から食糧まで、なんとかなる算段になっている』

 彼の提案に、一同は意味がわからないとばかりな反応をする。

「……結局、私たちはどこへ向かっているんですか?」

 いまいち要領を得ない彼の説明に、レイルとは反対側のソファに腰掛けているアールトネン・ヘカートが問うた。ヘルメットの外側からでもわかる、「その言葉を待っていた」という雰囲気のファントム。彼は一つ頷き、静かに言い放つ。

『我々は、「民間軍事会社(PMC)」として起業する』


 その経緯を語るには、一日前まで遡らなければならない。





 レイルたちと合流し、そのままこのコロニーへやってきたファントムは、偵察任務がてら、昼休憩として、珍しく営業しているカフェに入店した。

「───いらっしゃい」

 彼はフルフェイスのヘルメットを外した。整った顔立ちで、髪も瞳孔も黒い。それでいて肌は健康的だ。

「珍しいな。見ねえ顔だ」

 店員はマスター一人のようだった。廃れた街に似合う、といえば失礼だが、古風な店だった。木製のカウンター席に座ると、ぎぃ、と軋む。流石にまずいんじゃなかろうかとも思うが、マスターは「仕様だよ」とだけ答えていた。

「やはり、ここ一帯は人が少ないのか」

「少ないなんてもんじゃあない。あんたもみただろう?あの処理場を」

 50代に入るのだろうか。コーヒーを差し出しながら、マスターは話す。

「……、まだ注文していないが」

「久しぶりの客だ。こんなもてなししかできねえがな」

 一口。苦い。

 だが、嫌いではなかった。

 マスターは換気扇を回し、煙草で一服しながら、ラミネート加工が施された、これまた古ぼけたメニュー表を突き出してきた。

「話てぇことがあるんだろう?聞いてやるさ」

 代わりに何か頼め、ということらしい。彼は肩を竦め、「おすすめを」とだけ言った。トンデモな値段でも、まぁいいだろう。

「あなたは、どちらだ?」

 即ち、連邦か、ジオンか。

「わしかぁ、わしは、どちらかと言えば、ジオンを応援したくなる立場だ。死んじまった両親は連邦の家系らしいが、スペースノイドの独立のために立ち上がったジオンは、少なくとも初期の移民政策で移らされた人間にとっては、希望の光だったんだろう」

 それは恐らく、的を射ていたのだろう。

 「そういうあんたは」、という問いに、彼は正直に話すことにした。

「俺は……連邦だ。いや、連邦だった。俺は軍の特殊部隊に居たんだ」

「ほお、軍人かい」

 料理に手をつけながら、マスターは感嘆の声をあげる。

「ある日、突然のことだった。いつものように作戦を展開していたら、事前情報と全然違うんだ。それも、俺たちの部隊だけだった。その結果、不意をつかれてこちらの損害も肥大化した。それを契機に、俺たちは連邦から脱出した」

「ふうむ、若いのに行動力があるな」

 マスターはやけに感慨深げに言った。

「近頃の若造は、お主らのような行動力はない。ここのコロニーの廃棄場然りな」

「どうしてあれは、稼働していないんだ?」

 ファントムは、気になっていた疑問をぶつけた。「ふむ」とマスターは作業を止め、ゆっくりと語り始める。

「わしも、親父から聞いた話だがな。このコロニーも、昔はずいぶん栄えていたらしい。……11ほど前、このサイドで起きた戦争は覚えておるか?」

「ルウム戦役、か」

「かの一年戦争の初期のほうだ。このへんのコロニーは、ジオンによる毒ガスに晒されてしまったそうだ。それからずっと、人が離れてしまった。4年か5年経って、アナハイムが買収し、ガスを押しのけて、巨大なゴミ処理場を作った。モビルスーツクラスのものでも、再利用できる部分はアナハイムの本社に送り、どうしても無理なものだけを廃棄する。そういう工場さね」

「なるほど、な」

 ファントムは納得した表情を浮かべ、コーヒーを啜った。相変わらず苦いが、頭は冴える。

「俺は、俺たちは、連邦に一矢報いたい」

「……」

 隣の椅子に置いたヘルメットの頭頂部に触れ、とんとん、と指先で軽く叩く。考えを巡らせるときの、彼の癖だ。

「ちょっとした知り合いに、軍事会社を纏めてるヤツがいてな」

 マスターは唐突に言った。

「軍事会社?」

「厳密には、民間の軍事会社。いわゆる《PMC》というやつだ」

「表面上は、しっかり依頼を受けて、遂行するエキスパート。だが噂では、連邦軍の裏から指示を受けて、汚れ仕事、つまるところの《私兵》という扱いもされているらしい」

「……」

「これはわしの願望でもあるが、そいつらと連邦の関係を摘発すれば、双方が痛手を被る」

「でもそんな人が、知り合いに?」

 彼の問いにマスターは「ばれたか」という顔をしたが、すぐに自嘲の笑みを浮かべて答えた。

「仇さね。わしの両親も特殊部隊の人間だった。最も、わしを生んでから、母親は主婦に専念してたがな。ある日突然、連邦に殺された。そのPMCに依頼して、今や無関係であるはずの母親も含めてな」

「……」

「すまんな。こんな話をされても、困るだけだった」

「いいや」

 ファントムは確信する。彼の中にあった連邦への不信感が、より一層強固なものになった。

「俺たちが、そのPMCと連邦の関係を公にしてやる……。だが、肝心の方法は……」

「PMCを立ち上げればいい。同業者の情報も入るし、依頼を受けて資金を調達するのも必要なことだろう?」

 ファントムは顎に手を当て思案する。彼らはいわゆる、着の身着のままで出てきたのだ。あるのはモビルスーツと個人の資産だが、事実上の部隊解散からすでにかなりの月日が経っている。個人の金を集計した程度では、最初の資産にはなり得ないだろう。

「簡単に言うがな、マスター」

「わかっているさ。わしにはできなかったことだからな」

「……、」

「要するに、アナハイムと同じことをすればいいのさ」

 マスターの言葉は遠回しで、何をいいたいのかさっぱりわからない。頭上にハテナマークを浮かべるファントムの表情に満足したのか、マスターは再び口を開ける。

「二年前、アナハイムはこのコロニーから姿を消した。その理由は、廃棄場の不利益にある」

「赤字が続いたのか?……そもそも、どういう金の動きだったんだ」

「やることは単純だ。たとえばMSのパーツなら、いくらぐしゃぐしゃになっていようが、装甲の金属は溶かして再利用できるだろう?切り裂かれた胴体の中にある核融合炉は、再利用もできるし、莫大な利益につながる。そうしてアナハイムは、事業を展開していったのだが……」

「……ルウム戦役でコロニーに流れ着いたパーツ、宇宙を漂流するパーツ。それにも限りというものは必ずある」

「その通りだ。アナハイムはやむなく、周辺の家電を安く処理すると言って、それらを集めた。二年前のことだ。ちょうどそのころに、第一次ネオ・ジオン戦争も集結し、モビルスーツのおこぼれは消え失せたからな。だが、家電から得られるのは、せいぜい基盤にあるレアメタルと、細かなパーツに紛れる純金だ。回収は難しく、ついに赤字を迎えた」

「だから、コロニーから逃げたわけか」

「ああ。廃れた街だ。一応、アナハイムから一定量の食料が送られることになっているが、その契約ももうすぐ終わる」

「つまり、どうすればいい?」

 いい加減長いが、それでも彼は聞いた。

「アナハイムには、家電から効率よくそれらを回収する機械の基礎理論がある」

「そんなものまで作ろうとしていたのか……」

 呆れかえるファントムだが、今はそれが頼もしい。

「『スプーンから宇宙戦艦まで』。それがアナハイムのキャッチフレーズだからな。それを実際に発注して貰えばいい。人はいないが、《ゴミ箱》と呼ばれるコロニーだ。誰もいない民家に家電が溢れているし、処理場の近くには金属が大量にある。それに、少量だがモビルスーツのパーツもあるはずだ。それをアナハイムに売り払えば、大きな金になるだろう。もともとあちらは、それが欲しくてこのコロニーを作ったのだからな。慈善だとか環境とか、社会活動でもない。捨てられた土地を耕して、金のなる木を立てただけだ」

「つまり君たちが行うことは……」



「宝探し、さ」





『と、言うわけだ』

 ドヤ顔(ヘルメットで表情は伺えないが、声や仕草のそれはまさしくそうだ)で説明を終えたファントムは、黒い缶の苦そうなコーヒーを飲んでいた。よほど気に入ったのか。

 一同が呆然としてる中で、ある男は笑った。

「ハハハ! 傑作だァ、アナハイムはやっぱ金しか考えてねえってことかよ!」

 アビアティックは愉快そうに笑った。

「……データスティック越しに伝えたが……、『リサイクル品の取引も応じよう』と言っていたのはそれか」

 合点がいった、とサカキは納得の表情で言う。

「しかし、どうする?その回収用の機械が来るまでは?」

 シナムは計画の穴を指摘する。

「そうですね。一朝一夕でできるものでもないでしょうし」

 控え気味な声でアールトネンが続いた。

「その間は下部組織の人間も連れて、家電の回収運動を行う。民家に立ち入ってな。明らかに人が住んでいない場所は無断でやるしかないが、人がいる場合は要らないものだけを。くれぐれも、強要や脅迫はするなよ」

「俺はパスする。ンな馬鹿な話があるか」

 しかしアビアティックはそう言って出て行ってしまった。

「少尉……」

 アールトネンは残念そうに扉を見るが、

「放っておけ。あの厳つい顔立ちで、強盗とでも勘違いされてもかなわん」

 シナムはきっぱりと言う。「では、」とファントムが切り替え、

「これから回収運動を始める。モビルスーツは出すなよ。下部組織の人間が、そろそろトラックを調達してくるはずだ。一人ずつ乗り込んで、この配置へ向かってくれ」

 彼はテーブルにコロニーの図を出し、周囲のメンバーもそれを見に集まる。現在時刻は13時07分。昼時だから、だいたいの住民は家にいるだろう。

「担当する地域が終わり次第、俺に連絡をくれ。以上だ」

 宣言と同時に、サカキとレイルはそそくさと退室する。シナムは「ふむ」と顎に手を当て地図を見たまま固まっており、アールトネンはおろおろしているだけだ。



 こうして、初任務である「宝探し」が始まった。