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 あの、気が狂いそうになるほど紅い、血のような空と炎。そして、その紅蓮の炎を纏い、蒼い光を放つ、AC。

 右手にはパルス、左手にはレーザーブレード、背中に、ミサイルと、グレネード。

 俺の、敵だ。









 気温の暑さに、目が覚めた。

 炎が並ぶ中で、足元に違和感を感じた。

 下半身を、トマトを潰したようなヒト。

 父さんだった。

 声が出ない。

 左手側には、地面に血だまりができていた。その先を見ると、女の首だけが転がっていた。ああ、母さんだ。

「おと……ん、……かあ、さん、…きて、よう」

 声を出せ。

 蒼い光が、こちらを向く。

 絶対的な恐怖を醸し出したような九の字のACが、こちらを見ていた。

 こわい。

 たすけて。

 たすけてたすけてたすけてたすけてたすけて──────







「おい、サカキ。おい」

「あ、あぁ」

「どうした坊主。眠いのか」

「ん…、大丈夫」

 古びた会議室。大きな暑苦しいテントの中で、今しがた作戦のブリーフィングが執り行われていた。どうやら寝ていたようだ。いやな夢を見たような気がするが、わざわざ考えて思い出したくもない。

「今回の作戦だがな、後方の補給基地が下位ランカーに荒らされてる。ちょっと2,3日ばかり一部の部隊をあっちに移住させて、目ぇつけてる野郎共に解らせてやりたいんだ」

 40は過ぎたであろうか。力強い印象を与えられるが、老け顔に白髪と白い髭という、いかにも60代を思すような部隊の≪リーダー≫は、「そういうことで」と続けつつ、移住するパイロットを選んでいく。最後に、俺の名前も呼ばれた。

「お前が居りゃあっちはなんとかなる。頼むぞ、サカキ」

「…うん」





『伝令。後方基地、予想以上の速度で攻撃を受けてる!』

『チィッ…。急ぐぞみな』

『了解…ッ』

「……」

 オーバード・ブーストで、4機のACが砂漠を駆ける。見えてきた基地はいくつか煙が上がっており、見張りと思われるACを一機見つけた。

「アイツが」

 ブーストペダルをさらに踏み込んだ。歯を食いしばりながらGを耐え抜き、出力を上げたOBでほかの3機のさらに前を行く。右腕のライフルを起動。射程外だ。ノーロック。発射。

 風を裂きながら飛翔した弾頭は、かろうじて敵ACに着弾した。距離減衰が激しい。大したダメージはないようだ。

『出すぎるなよサカキ。奴らは≪ランカー≫だ』

 ランカー。レイヴンズ・ネストによって管轄される傭兵、≪レイヴン≫たちを1から50までランク付けしたものである。無論レイヴンは世界中に五万といる。その中でランクに入るというのは、相応の実力があるということだ。

「…わかってる」

 有効距離。奴もこちらに気づき、攻撃を仕掛けてくる。

≪メインシステム、戦闘モード、起動します≫

 FCS起動。各関節にエネルギーが行き渡り、OB航行モードとは打って変わって、コンデンサのエネルギーが大幅に減り始める。OB停止、通常ブーストで進みながら、右手のライフルと、左手のマシンガンを起動し、攻撃を開始。

『オイ、敵だ!4機居るぞ!援護を!』

 敵の回線を拾った。増援が来る前に、片づける!

 右背のマイクロミサイルを起動し、一気に畳みかけた。後続の3機も同じく攻撃し、一瞬で敵ACは鉄屑と化した。

『チッ……ネストのAC?いや、違うな、ボロ基地の一般ピーポーか』

 チャラい口調で言葉を垂らしながら、一機のACが出てきた。中両二脚、右腕マシンガン、左腕ブレード、左背にグレネードを積んでいる。強化人間か!

「チィッ」

 前進。マイクロミサイルを放ち、左腕のマシンガンをばらまく。敵もマシンガンでミサイルをいくつか撃墜し、グレネードをミサイルの一機に打ち当て、近くのミサイルごとすべて起爆させた。

「くそっ」

 こちらの放ったマシンガンは有効打とはならず、装甲に弾かれるばかりだ。

『出すぎるなサカキ。焦っても仕様がない』

 この作戦のリーダーからの通信。同時にレーザーライフルを撃ちながら、自機の近くまで寄ってきた。

『ザコが集まろうが、この俺にゃ勝てねぇよ!』

 敵機のブレード!本能が反応し、マシンガンをパージ。格納していた短距離型ブレードを展開し、敵機のレーザーを叩くように弾いた。

『がっ、コイツ!』

 よろけた敵機を蹴り飛ばし、ライフルを連射する。その隙に味方機も一斉攻撃。全身穴だらけの敵機は、しまいに撤退していった。

『……ザ、…こえるか』

『東方補給基地、聞こえるか。私だ』

『ああ…ザイード。私たちはもう駄目だ…』

『おい、中で何があった』

『真っ赤なACに襲われ…そこまでは大丈夫だったのだが、壊滅寸前の基地を、さっきの二人がこれでもかと木っ端微塵に…生存者はもう……ザ……頼…ぞ』

『おい、まて、おい!』

『真っ赤なAC……どんなヤツなんでしょうね』

『…さぁな。ここは残念ながらダメみたいだ。撤収するぞ、リーダーに報告する』

『了解』『了解』

「…了解」


 歪めた顔をしながら、リーダーとザイードが話し込んでいる。

「サカキ」

 呼ばれて、振り返る。名前も覚えていない(かなりの人見知りだったという)男。

「ほらよ、食券だ。好きなモン食ってこい」

「え?」

「どうせ暇だろ?昼までにゃちぃと早ぇが、食えるときに食ってねえとな。お前はここのトップ戦力なんだから」

「ああ…」


 当時、11歳前後の子供がトップ戦力などと、何のお笑い種だろう。




 夜。就寝時間が迫るころ、基地全体に大きな声が響き渡った。

『伝令!』

 見張りのACの男だ。

『第3基地が襲われた!』



 災厄の、始まりだ。





 基地付近は大騒ぎだった。この一帯は、もともと提携関係にあった複数の傭兵集団が固まることで、その防衛能力を高めていた基地だ。すべての基地を合わせたACの戦力は40をゆうに超えるし、腕の立つ者も大勢いた。俺たちが居るエリアが第7基地である。最初に襲われた第3基地はここから一番遠く、近くには国防軍の大規模基地、グローバル・コーテックスの支部もあり、いざとなれば互いに助け荒れるような状況にもなっていた。

『国防がネストに潰されたって!』

『だめだ、抑えきれん!』

『コーテックスはどうした!ネストはコーテックスを裏切ったのか!』

『いいからさっさと74式でも69式でもいいからよこせ!やばいんだって!』

 しかし、そのほとんどは一機のACにやられてしまった、という。

『ネストは何やってんだ!』

『アークの傭兵に支援を求めろ!』

「全員聞こえるな!正体不明機を最大望遠で視認した。今はまだほかの基地で暴れまわってるみてぇだが、こっちにも来る。それ以前に、味方のピンチを助けるのが俺たちだ。…レイヴンはACに。ほかは避難の準備だ!急げ!」




「まずいな、これは」

 ACに乗り込んで、ガレージから出た。眼前には巨大な煙と炎が広がっており、たびたび閃光と爆音が続いている。 

「どうなってるんですか…ッ」

「サカキ、お前も逃げる準備をしておけ」

「どうして!なんで俺だけ」

 声変わりも終わっていない高い声を張り上げるが、それを遮るようにザイードが早口で言った。

「国防とコーテックスの軍をたった一機でやったような奴だ。そんなところに子供のお前を生かせるわけにはいかん」

「でも、どうしろって…」

「お前、日本生まれなんだってな。近くにあるレオーネに知り合いがいる。そこに行って俺の名前をだしゃ、なんとかなる」

「でも…」

「生き残りを連れてすぐに行く。だから行け。敵さんは待っては───」

 言葉が終わる前に、彼のACが爆発した。

「なっ…、っ……」

 息をのんだ。立て続けに、前方に位置する2機のACが爆発した。抵抗する間もなく、一瞬で。

 そして、見た。

 暗闇でよく見えない筈なのに、なぜかその姿だけははっきりと捉えられた。

 炎を受けて光る、禍々しいまでの深紅なボディ。蒼く光るカメラアイ。

 敵。敵。オレの敵。

 本能がそう告げる中で。

 一目でわかった。コイツと俺は初対面じゃない。



≪敵ACを確認しました≫

 なぜなら、俺の両親を殺したのは、コイツだから。




≪───ランク1、ナインボールです≫