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 実際の≪ORCA旅団≫の通常戦力は、たった20機と言うわけでもなく。私は日替わりで、様々な支部拠点を転々として、数え切れないほどのノーマルとシミュレーションで戦闘を繰り返してきた。

 そして、6月頃。

 ホワイト・グリントが、撃墜された。あの伝説的な傭兵を撃破したのは、カラードランク31、最底辺に存在していた、後に≪人類種の天敵≫としてアナトリアの傭兵と並ぶ男だった。オッツダルヴァは海底で、旧レイレナードの潜水艦に回収され、漸く、オッツダルヴァは───否。ORCA旅団長、≪マクシミリアン・テルミドール≫が合流したのである。

 私は当時、メルツェル以外の≪ORCA旅団≫のリンクスの面々との交流を控えた。明日死ぬかもしれない同志達と、笑っては居られなかったのだ。レイレナードの≪クローズ・プラン≫───その計画が、始まろうとしていた。

 そんな私の考えを打ち破ったのは、女だった。

「おい、お前」

「む?」

 呼ばれ、振り返る。若い女だった。

「≪オールドキング≫を見なかったか?」

「オールド……? 誰だ、それは」

 男かも、女かも解らない。いや、男なのだろう。≪キング≫ということは、男であるということか。

「奴を知らない?あいつは…いや、いい」

 気になったが、干渉はやめた。首筋にあったリンクスであることを示す、ある種の≪首輪≫。彼女は、このORCAのリンクスなのだろう。早足で通路を通っていく彼女を見ながら、私は自分の向かうべき、シミュレーションルームへと足を運んだ。

「クローズ・プランか。……殺す命と守る命、はたしてどちらが多いのやら」

 そう考えつつも私は、どうにもここを抜け出す気にはなれなかった。



「おい、そこォ、やる気が無いならやめろ!」

「サー、ノーサー!」

 鬼教官の訓練は、相も変わらず怒声が響き渡っていた。

「教官」

「ん?あぁ、確かお前は……」

「レイルだ。今日はここの模擬戦だったな?」

「よしわかった。おいお前等! 今からこの男のネクストとの模擬戦だ、相手はネクストだ、気を引き締めていけ!」

「サー、イエッサー!」

 苦笑いしながら、シミュレーション用の、ネクストのコクピットを模したポッドの中に身を滑らせる。

 AMS接続。僅かな頭痛に顔面を歪ませるが、すぐに去った。

「≪ヘクセン・ナハト≫、戦闘モード」

 VRで再現された砂漠の丘が爆発し、中から機体が現れる。

「余計な演出を。いや……それでこそか」

 前へクイック。敵機数は16。

 新たに、余っていた背部にはMP-O200、オーメルの散布型ミサイルを搭載していた。速度を殺さずにある程度の火力を得られたためだ。

 ヒットマンとミサイルのクロス・トリガー。

 捉えたノーマルに、ヒットマンで回避ポイントを削りつつ、ミサイルを放った。16発のミサイルが連続発射され、回避できず、ノーマルは爆散した。

「使い勝手はいいな」

 マーヴ起動。同時に、衝撃が襲った。

「がッ…」

 右へクイック。どうやらスナイパーが居るようだ。幸い距離的も遠く、サイレント・アバランチのキャノンでもないので、威力はそこまで無かった。オーバード・ブースト。マーヴとヒットマンで、猛攻をかける。

『チィッ』

 想像以上に機動性があったそのノーマルは、マーヴの直撃のみを避けていた。

「できると見える……」

 グレネード起動。メインブースタを切った。降下。

 着地際にクイック。スナイパーライフルが砂を抉った。OGOTO発射。直撃。

「…二機、撃破」

『固まれ、集中砲火だ!』

 マシンガンやライフル、多種多様な弾丸が迫る。PAを前面に集中展開し、避けずにグレネードを放った。

『うおわぁっ!』

 一気に4機を巻きこんだ。

「残りは…10か」

 続く全方位からの砲火に、ヘクセン・ナハトを跳ねさせた。まずは近くにいたノーマルにトップ・アタック。

『そう簡単には!』

 ベテランだろうか。中年と思しき、低く掠れた声を上げながら、銃器を投げ捨て、格納していたレーザー・ブレードで接近してきた。

 旧来のレイヴンが扱うタイプのノーマルだ。

「チィッ」

 クイック。蒼い刃を紙一重で避けたが、PAが切り裂かれた。

『2番機、3番機、援護しろ!』

 マシンガンを持った2機を従え、V字になって攻撃を仕掛けてくる。PAを剥がして、ブレードで撃破するという作戦か。ネクストは、PAさえ失えば基本的な装甲はノーマルの技術と変わらない。対ネクストを想定されたであろうあの蒼いレーザー・ブレードを喰らえばひとたまりもない。

 とにかく先頭の一機に、攻撃を集中した。

 あろうことかそのノーマルは、自らの被弾も気にせず、オーバード・ブーストで接近してきた。レーザーブレードが迫る。振り下ろされるブレード・ユニットを、マーヴの先端で抑えつつ、コアに向かってただマシンガンを乱射した。反動によってバラけた弾も、ゼロ距離でコアを抉った。

 ズガァッ、と爆散するノーマルの煙を、オーバード・ブーストで突っ切った。マーヴを上空に放りあげ、僅かな時間で、ドラゴンスレイヤーを使い、マシンガン装備の2機を撃破した。

 切り捨てると同時にレーザーブレードをパージし、降ってきたマーヴをキャッチ。機体との接続時間の間に起動していたOGOTOを、重量型ノーマルに撃ち込んだ。

『ごわぁっ!』

 残りは7。気付けば既に囲まれていた。全機が、一斉にこちらに向かってくる。マーヴ接続完了。空に逃げる!

 飛び上がったアリシアを追って、ノーマルも飛んできた。機動性に特化した一機が高速接近。マーヴで撃ち落とし、横にクイック・ブーストすると同時にグレネードをパージした。

 ただ空中に放たれたOGOTOの弾薬庫めがけて、マーヴを一射する。格納されていた全ての榴弾が一斉起爆し、ランチャーごと全てのノーマルを吹き飛ばした。

「…まだまだ甘いぞ、鯱の兵も」

 離れ業を二つもやってのけた自分の能力に驚きつつ、今日の訓練は終了だ。


 7月。熱月(テルミドール)、多くにとってそれは、突然に起こった。

 管理機構カラードの思惑を外れた、複数のネクスト機による、アルテリア施設の同時襲撃。しかし、ある限定された少数にとってそれは、己の年月と人間性とを賭して積み上げてきた営為の所産としてあるべきものだった。

 誰もが自分の刃の矛先に迷ったことだろう。不安に思ったことだろう。

 そんな誰しもが胸中に不安を抱えるなか、ただ一人ORCAの謀略家・メルツェルのみは常とかわらぬ冷静さを保っているように思えた。理由は解らないが。彼は彼なりの考えがあるということだろう。

 その日、日付の代わった午前0時、全世界のアルテリア施設に対し断続的に襲撃予告が送りつけられた。

 そして、7月某日。全世界複数のアルテリア施設に対し、複数のネクスト機による同時襲撃が行われた。そのORCA旅団の画策はほとんどにおいて成功裏に終わり、彼らはクレイドルの拠って立つエネルギー基盤を大きく揺るがすことに成功した。翌日、マクシミリアン・テルミドールはORCA旅団とその旅団長の名において、全世界向けにごく短い声明を発する。

 “To Nobles, Welcome to the Earth”

 高貴なる者たちよ、地球へようこそ。

 それは空に住む全ての人々に対する宣戦であるとともに、地上にある多くの反企業勢力を奮い立たせる言葉であった。

 長きにわたり潜伏と待機を続けた鯱(オルカ)は、遂に表舞台へと登場した。