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 爆発。爆発。

 外で轟音が、立て続けになり続けた。

 父が死んだ。母も死んだ。マグリブ解放戦線によるアナトリア襲撃は、電撃的だった。

 “戦争”。

 俺はその言葉を知る前に、その概念を知っていた。



「ファントム。どこだ?ファントム」

「マックス。どうした。仕事中では」

 彼は、コロニー・アナトリアに住む男。俺よりも年下の、マクシミリアンである。普段は周りに「マックス」と呼ばせているようだが、理由は教えてくれない。彼とは、コロニー・アナトリアが再建される少し前からの親友だった。

「見てくれ。この人だ。マクシミリアン・ロベスピエール」

 彼は、俺に革命期の書物や資料などを持ってきては見せていた。特に興味も無い俺は、適当に流していたが、彼の眼は、輝いていた。それがある意味、羨ましくもあった。



 砲火がアナトリアを襲う。

 プラズマ・ジェットを吹かす巨大な人型兵器が飛翔し、アナトリアを焼いていく。

「老人と子供を最優先に逃がせろ!おいそこォ!何やってる! 逃げろ!」

 このコロニーの統治を行う政治家、エミール・グスタフだ。彼も若いのに、よくやっている者だと思う。


 あろうことはマックスは、コロニーを出よう、といいだしたのだ。当時両親を失ってパニックとなっていた俺は、首を縦に振ってしまった。情けない話だが、マックスは頼りになった。


 マックスと俺は、パニックに乗じてコロニーを抜け出した。彼の知り合いであるという、大柄の男のヘリに乗って、である。落ち付くために、俺は眠った。眠れば全てが治まる気がした。

 しかし現実とは非情だった。

 「エグザウィル」と呼ばれる、特徴的な建造物に入れられた俺達は、会議室のような部屋で、なにやら難しい話をされた。

 結果、何故か俺だけは追いだされた。抗議をする暇も無かった。この、周りが海に囲われた絶海の孤島に、放りだされたのだ。No.3、アンジェが撃破されたその頃である。暴動でも起きたかのように騒いでいたエグザウィルの中で、マックスはただ一人、静かにほくそ笑んでいた。彼の眼は、俺ではなく、誰でもなく。ただ、自分だけの未来を見据えていたのだ。


 屈強な男二人に放りだされた後、慌ててガラスを叩いていた俺に、横から声がかかった。

「どうした?……見ない顔だが」

 たまたま、BFFから会議に出席していたという。「友達と一緒に来たと思ったら、放りだされた」と話した。と思う。何分、親を失って、新天地へ逃げたと思えば、そこでも見放されたのだ。

「まぁいい。坊主、死にたくは無いな?」

 「当たり前だ」と答えた。当時二十歳に近かった俺が、恐らく親以外で初めて年上の人に対して敬語を使わなかった。

「よし、では、来い。此処で採用されなかったんだろう?なら、BFFで採用させてやるまでだ」


 BFF──Bernard and Felix Foundationと呼ばれる企業は、非オーメル陣営(レイレナードグループ、インテリオルグループと、このBFFグループ)として、このリンクス戦争に参戦していた巨大企業である。「精密射撃」に定評がある兵器開発をしているらしく、連れて行かれた後は、ポールによってノーマルACの基礎操縦技術のみを教わった。

 何故それだけなのか、というのは、ただ一つであり、簡単なことだ。

 本社艦を務めていた、クイーンズ・ランスが、アナトリアの傭兵によって撃沈された。皮肉な物である。アナトリアから逃げ伸びれば、そのアナトリアの刺客によって、俺は再び奪われたのだ。元はと言えば、マグリブ解放戦線のアマジーグという男を撃破したことが始まりだったらしい。俺は憤怒した。行き先の無い怒りに、唇を噛んだ。


 その後、オーメル陣営はアナトリアの傭兵を使って、地球の最南端、南極に建造していたBFFのコジマ施設「スフィア」を攻撃させ、同時に同社の精鋭ノーマル部隊、サイレント・アバランチを殲滅したという。ポールと逃げた俺は、“次なる戦争”へ向けて、一時放浪の旅をすることになった。


 放浪の旅は、割とすぐに終了した。リンクス戦争終結後、GAの出資によってBFFは生まれ変わったのだ。ポールはすぐにBFFに戻り、俺も彼の伝手でBFFへ入社することになった。

 そしてノーマルの訓練を受けて、ポールと共に、新生サイレント・アバランチに入隊した。


 当時、兵士として戦争する気が無かった俺は、よく訓練を怠ったりもした。

 概念は理解しても、その理由を見いだせないのである。

 ポールは「生きる為だ」と説いていたが、人を殺さなくても生きていけると、俺は思った。


 だが、そうも言ってはいられなくなった。

 ラインアークのRANK-9、ホワイト・グリントが、撃破されたのだ。カラードのRANK-1、オッツダルヴァはホワイト・グリントに撃墜され、最終的に、カラードRANK-31の男が、生き残った。

 そのカラードの男が、この「スフィア」に迫っているとの情報があったのだ。

「久々の大物だ。狩り受けるぞ」

 隊長はどこか意気込んでいた。俺に、サイレントアバランチ専用の実戦型ノーマルAC,048AC-Sが与えられた。要するに、迎撃作戦に出ろ、ということである。

 死に物狂いで訓練を繰り返していた。

 そして、その日が来た。


『ファントム、緊張しているか?』

「え…、そ、そんなわけ」

『フフ…。緊張しろ、ファントム。緊張だよ。…二流の奴らは、どうにも緊張をほぐそうとする。通常の状態に戻ろうとする。それがいい事だと思うか?』

 歴戦のレイヴンだったという。隊長が何を言いたいのかはまるで解らなかったが、俺はとりあえず自分の考えを返した。

「緊張をほぐすのは、正しい考えだと思います。リラックスして、訓練と同じ状態じゃないと」

『訓練と同じ状態だと?……お前は、訓練では緊張していないというのか?』

「…、それは」

『ハハハ。責めているわけではない。それは先入観だよ。お前のな。緊張はほぐさなければならない。リラックスしなければならない。お前はそう教えられ、考え、刷り込まれて生きてきたんだろう。≪戦争≫を知らないからな』

 リラックスしなければ、全力は出せない。今まで俺は、確かにそう考えていた。

『それがな、間違ってるとは言わない。…いや、言えないな。そこまで俺は万能ではないし、天才でもない。何が間違ってて何が正しいのか、私はそれを判断できるだけの器を持っていない。だがな。これだけは言える。“一度戦場に立ったら、緊張するなと言うのは無理だ”ってことだよ。これは絶対にだ。どれほどの死線を越えようと、どれほどの危険を乗り切ろうと…いや、そんな経験をすればするほど、緊張は絶対の存在感を放つ。緊張しない兵士はいない。どこにもだ』

「隊長も、そうなんですか」

 聞かずに入られなかった。今まで完璧に見えた彼もそうなのか、と。

『当たり前だ。ましてや私は、このサイレント・アバランチの部隊員全員の命を預かる身だ。緊張しないと言ったら、それは隊員の命を侮辱することになる。緊張しない指揮官は、ゴミだ』

 それは、意外だった。「緊張」に対する概念を、誤っていた。

『だから私は緊張をするなとは言わない。むしろ緊張しろと言う。まあ、過度の緊張は正常な判断を乱すから、それは論外だとしても、リラックスなんて言葉は使わない。それに考えてみろ。戦場で命の遣り取りをしている人間がリラックスだなんて、お笑い種だとは思わないか? いいや、笑えないな。私だったらそんな人間を相手にしたいとは思わないよ。怖いからな』

「それは、確かに」

『少し話が戻るが、訓練中のお前は緊張しているよ。必死に“緊張をほぐそうとしている”。そんな努力をするくらいなら、緊張を飼い慣らす努力をしろ。緊張は精神を張り詰める。緊張は集中を引き起こす。これから初めて戦場に立つことになるお前にはわかりにくいかもしれんが、そういうものだ。緊張がお前の命を護る。だいたいな、緊張しながら行わない訓練に意味なんて無いだろう。そんなのは惰性に過ぎない。だからな、訓練と同じ状態だと言うのなら、戦場でも緊張していろ。その状態を受け入れて初めて、そうだな、半人前くらいだ』

 苦笑いした。半人前か。しかし、そんなものなのだろう。

『出撃だ。第一班、第二班、第三班。所定の位置につけ。第四、第五班は30秒後に移動を開始しろ』

『了解』

 これが、部隊での戦闘。

 緊張しろ。

 やがて、黒い影──漆黒のアリーヤ・フレームを捉えた。

『第一班。攻撃開始。秒間隔で撃て。当てなくて良い、牽制だ』

 仲間を守り、守られ、助け、助けられる。それが、サイレントアバランチの、戦い方だ。

『被弾0。交わされましたな』

 我が師、ポールが報告した。隊長は冷静に、次の命令を言った。

『第二班。攻撃開始。牽制を継続。第三班。クイック・ブースト後を狙え。各々のタイミングでファイヤ。第一班、100m後退』

 俺は第四班に所属していた。

『敵機、未だ被弾0。更に接近中!』

『第四班攻撃開始。第二班、牽制しつつ100m後退』

『うわぁぁっ!』

 直後、一班の兵がやられた。

『第一班、全滅!そんな、一瞬で』

「クソッ…」

『落ちつけ』

 サイレントアバランチは、一時期ネクストにも迫る戦果をあげて見せた。しかし彼らは、別に無敵の小隊ではない。

『第三班、第二班を援護しつつ後退。スフィアをやらせるなよ、第四班、第五班前進。囲い込め』

 ネクストの続く攻撃。

『格が違うな、これは』

 第二班が全滅した。

「嘘だろ……」

『駄目だ、逃げ切れない!』

『第四班、牽制を続けろ。第三班は後退を』

『隊長!あのヒヨッコを』

『…ファントム、お前も撤退しろ』

「そんな、どうして!」

『お前はまだ若い。未来がある。私たちのような人間と、共に死んで、それで終わりというわけにはいかない』

「隊長!」

『第五班。牽制! 生き残るぞ。帰ったらパーティだ』

「くそっ…」

 俺は一心不乱に、ポールに連れられ撤退していた。

 3分後。サイレント・アバランチは、再び壊滅した。