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「有澤社のグレネードが欲しい。仕入れてくれるか」

「…はぁ?」

 彼は、ひたすらに変わった男だった。

 No.1、レイレナードの英雄。その名を、ベルリオーズ。

 彼は日夜、ACSISに設けられたモニタルームで、愛機≪シュープリス≫を眺めていた。

 私は、仕事もそっちのけで、彼の行動を見ていたが、勿論「チーフなのに何をしてるんだ」と何度も叱られたことだ。無論、私はまだ20代前半で、周りの整備士の方が、技術も、歳も、上だったと言えるだろう。

 誇り高く高貴。彼は仕入れたパーツの性能を最大限に使い、その費用に対して、お釣りが来るほどの戦果を上げ続けている。

「いつまでそうしてるんだい、旦那」

 ある整備士──≪チーフ≫としての私の部下だが、先述の通り年上だ──が、彼に声をかけた。彼は、もう3時間もモニタを睨んでいる。

「……いや、チューニングはどうしたものか、とな」

「次の依頼は確か…オーメル、いやGAへの侵攻作戦でしたっけ? 早いとこ決めて下さいよ。こっちも機体を看ないと」

「ああ、解っている」





「ベルリオーズ」

 決戦当日である。私は不安に駆られ、今まさにネクストに搭乗しようとする彼を呼びとめた。

「お前か。どうした」

「その……。終わったら、お酒でも飲みましょう」

「何を言っているんだ?酒は飲めなかっただろう」

「いいんです。だから、必ず帰ってきてください」

「元よりそのつもりだ。そして…いや、なんでもない」

 そう言って、彼はコクピットへ向かう。

「注水を」

 そして彼は、死地へと向かった。

 ≪アナトリアの傭兵≫との、決戦へ。





「有澤の、グレネードが欲しい」

 意を決して、私は整備班長へと要望を言った。

「はぁ…?」

「……頼む。私には、あれが必要だ」

「あぁ、いや…俺は別にいいと思うんだがな。≪上の連中≫はどうだか……」

「たかが一端の戦士への、自由さえ無いのか……」

 この整備士も、レイレナードの出身だった。

「まぁ、掛け合ってみるさ。……追いつけよ。≪ベルリオーズ≫に」

「……あぁ」




 なんとか有澤社製グレネードキャノン、≪OGOTO≫を手に入れた私は、シミュレーションでその性能を確かめた。機体がアリシアベースなのもあり、安定性はすぐれなかったが、そこは私が機体に改良を施した。今になっては、どうすればロックが外れない程度に出来たのか思い出すこともできないが、確かに、私のアリシアは、市場に流れている以上の性能を発揮していたはずだ。


 オーメルの尖兵として幾度も戦ううちに、私は自分の限界に気付き始めた。

 つまり、≪AMS適正≫である。

 AMS適正は、リンクスとネクストが≪リンク≫する為に必要な能力で、適正の低い物───リンクス間では、≪粗製≫などとも呼ばれていた───は、ネクストとの接続で身体が不調にもなったりする。私も、≪粗製≫とまでは行かないでも、平均的な数値を下回る程度には≪粗製≫と言えた。

 そしてある日、転機が訪れる。


 オーメルへ新たなるリンクスが配属された。名を≪オッツダルヴァ≫と言う。彼は新鋭機≪TYPE-LAHIRE≫───固有名はステイシス(停滞)と言ったか───を駆り、瞬く間に戦果を上げ続けたのだ。

 彼が新規採用されたその日。私は、彼が、彼のオペレータと思しき女性と共に、会議室に入りこむのを見た。恐らく、老人たちと話をしているのだろう。

 数分経つと、彼らは出てきた。私は思わず近くにあったトイレ(なんと女性トイレだったが、そんな事はどうでもよかった)に隠れ、彼の言葉を聞いた。

「老人の保身、か。老いた寄生虫どもが、いい気なものだな。実力主義などと謳ってみたところで、己の才能の無さを補えはしないというのに」


 私はその時から、オーメルを出る決意を固めつつあった。




 私がオーメルを出るきっかけとなったのが、かの男、≪オッツダルヴァ≫である。後にカラードのランク1となった彼が、どういうわけか私と話をしていたのである(私は当時、なんとランク8を背負っていた)。
 私と彼の機体がACSIS内に並べられていた。私は帰って来たばかりで、彼は機体の調整をしているようだった。

 機体から降りた時、彼が話しかけてきたのだ。

「アリシア、か。レイレナードの出身か?」

「ん? あぁ。そうだな。≪リンクス・ネーム≫も、レイル・ナルド(Raileonard)だ。君のは……ここの新標準機だったか。確か名前は…」

「LAHIRE。…ラ・イルかな。この≪ライール≫が守るべき≪オルレアンの乙女≫は…さて、どこに居るものか」

「……君は」

 私は理解した。彼は私を試したのか。オルレアンの乙女とはつまりアンジェ。彼女は、ベルリオーズの戦士前、アナトリアの傭兵と一騎打ちとなって戦士している。≪ラ・イル≫と≪オルレアンの乙女≫を知っているのは、よほどの歴史好きか、或いはレイレナードの出身か、である。これは間違いなく、後者だった。

「≪オッツダルヴァ≫だ。以後宜しく頼むよ」

「いや、違う。マク、マク…マクシミリアンじゃないのか、君は」

「…何?」

 今までどんなことも意に反さないような態度だった彼が、初めて違う反応をした。

「≪グリーン・ランド≫のレイレナード残党基地から、確か…スプリットとか言うネクストと共に逃げていた男じゃないのか」

 私は思い出した。一度切り、彼は全周波数で通信を送ってきていたのだ。

「あの≪裏切り者≫のアリシアが、お前だったということか」

「ッッ」

 私は拳を強く握り、歯に自然と力が入った。またもや、私の≪レイレナード≫への思いが否定されたかのように。

「貴様に、…言われたくは無い。貴様とてこの≪オーメル≫に来たんだろう!仕方が無いじゃないか、レイレナードは、もう、無いんだ…ッ」

 周りの整備士には聞こえない程度に、怒気を込めた低い声を出した。

「フン。≪レイレナード≫は確かに存在しない。だが、≪残党≫として活動している者たちは、いるかもしれないぞ?」

「是非とも行きたいところだな。こんな無能な老人共の下で働くのは御免だ」

 そこまで言ったところで、彼が私の腕をつかんだ。

「ッ」

「そこまで意思があるならいいだろう。≪私達≫と一緒に来い」

「な、に…?」

 眉を細めながら、彼を見た。彼の、顔が変わっていた。いや、厳密には変わってなどいないのだが、まるで別人になったようだった。後の熱月(テルミドール)、革命を起こす、≪マクシミリアン・テルミドール≫の、顔だった。


「フン。≪ORCA≫へようこそ。歓迎しよう」

 こうして私は、オーメルの呪縛から解き放たれた。