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 父が死んだ。  その事実を受け止めるのに、二年かかった。  私は地球連邦の軍人の一人息子だった。成績優秀の父の子だけあって、周囲からは常に期待され、私自身も才能があるようで、腕にもそこそこの自信があった。  しかし、軍に触れる機会があった私はモビルスーツに興味を持ち、機械弄りが趣味だったのだ。その思いは日に日に強まってゆく。  成年するよりも前に父は死んだ。自堕落になって、二年の間何もかもを捨てた。しかし、母が病気にかかると同時に、私のところに声がかかった。  おまえが来なければ、母親は死ぬ。  そういう意味の文書が届いたのだ。それから私は、父親の親友であった当時も現役であったモビルスーツパイロットの男に弟子入りし、1年猛修行をした。師の推薦と、連邦軍上層部の意向もあり、私はティターンズに入隊した。  といっても、入って数ヶ月。ティターンズはグリプス2のコロニーレーザー照射によって艦隊を失い、敗北、解散となった。  私はかろうじて生存し、私は別の部隊に異動した。なんでも、連邦の保有する特殊連合部隊だそうだ。その隊の副リーダーを任され、二年間戦った。  その後、母を預ける地球の病院から連絡があった。もう限界が来ていたそうだ。私は休暇を取り、地球に降りて母を看取った。  そこから、異変があった。  最初の違和感は、とある任務のブリーフィング。他の特殊部隊と合同だが、うちの部隊はほぼ全員が出撃だった。参加する部隊は7ほどあったのだが、1/4は我々の部隊から選出されていた。当時は他の部隊は別の依頼もあるのだろうと考えていたが、その考えは違っていた。  出撃から作戦開始。我々の部隊だけ、どう考えても行き先が違う。そして、ブリーフィングの指定とも違うルートだ。  しかし、特殊部隊にとって、勝手な行動は厳禁だ。我々は隊長の指示に従いながら進軍し、そうして罠にかかった。  目の前に突然、多数の赤い光が出現した。モノアイタイプ。ジオン製のモビルスーツの、カメラの眼光だ。  直後、私たちは無数の鋼鉄の雨に晒された。  それから数ヵ月が経ったころ。大打撃を受けた我々は味方部隊と合流し撤退。他の部隊と合流した際、彼らも攻撃を受け、我々は事実上失敗した。  我々はファントムの煽動に乗じ、同部隊のメンバーへ連邦脱出の話を投げかけた。不特定多数の情報源が生まれれば、いつ本部に気付かれるかわからない。即答返事したメンバーへ、彼が作った作戦ファイルを送信し、我々は急いで出撃する。  私は別働隊として、アールトネン准尉とジーン軍曹を連れ、先回りして中継地点で待機。ファントムたち本隊は、モビルスーツなどの機材、メカニックマンを積んだ大型コンテナを、実際にMS数機がかりで運送及び護衛を担当している。  しかし、途中でレイル中尉が妨害に現れた。軽い挑発に乗ったジーン軍曹は静止を振り切って突貫し機体を大破させてしまう。  私はどうにか場を収めようとしたが、増援として、恐らく連邦の正規追撃隊が到着したのだ。どうやら、レイル中尉もハメられたらしい。 「アールトネン准尉、迎撃するぞ」 『りょ、了解』  私は乗機《ジェガン》のブーストペダルを踏み込む。背面の巨大なスラスターが炎と咆哮を上げ、莫大な推進力で前進した。 『2番機はネモの回収に迎え』 『ああ』 「チッ!」  即効で数を減らそうと思ったが、敵の動きの方が早かった。一直線にジムⅢ二機に向かって突進した私は、突如機動を変更した機に対処できない。 「ジーン軍曹!脱出しろ!」 『え?』  ほぼ手遅れだ。分断されたネモの上半身を、ジムⅢのビームライフルは正確に捉えている。  姿勢制御、急速旋回。ビームライフルを追撃隊のジムⅢに構え最速でトリガー。ぎりぎりのところで、ジムⅢの胴体を貫いた。  しかし、一歩遅かった。敵ジムⅢは既にビームライフルの発射コマンドを入力しており、今まさにビームライフルの銃口から、蛍光色のピンクが覗いていた。 「ジーン!」  一瞬あとに、ネモの装甲に大穴が開けられた。ビームライフルから放たれた光の槍は、ネモを正確に貫いたのだ。 『ジーン軍曹!!』  アールトネン准尉も叫ぶが、煙を吹いて破片を撒き散らすそれは、既にモビルスーツではなかった。 『やられたか……だが、一人殺した。次は貴様の番だぞ』 「き、さま……ッ!」  ビームライフルを構え直すが、直後にはブーストペダルを踏み込んでいた。もう一機のジムⅢが既にミサイルを放っていたのだ。肩から射出された四基の弾頭。私は即座に頭部バルカンを発射した。  直進するミサイルを迎撃。爆破。山なりに射出された残り三基は、その中央をすり抜ける事で回避する。 『あ、あ……』  通信機からかすかに届く、呻くような声。見ると、ミサイルの一基が別の熱源を発見して再誘導を開始していた。その先に居るのは───。 「避けろアールトネン准尉、死ぬぞ!」 『し、ぬ……?』  注意を呼び掛けるが動じない。それどころか、何やら様子がおかしい。彼女のジムⅢは回避運動もせず、ぽつんと漆黒の宇宙を彷徨っていたのだ。 『う、うわぁぁあああ!』 「チィッ!」  脚を前方に振り脚部のブースタをフルスロットルでアンバック機動。両肩のスラスターを最大展開して急旋回し、白い尾を引いて遠回りに飛翔しているミサイルに向け、ビームライフルを放つ。  一基の後部に直撃させるが、慣性の法則に従ったミサイルの残骸は、容赦なくジムⅢへ襲いかかった。  爆音が響いた。回収が先か、撃破が先か。  しかし、敵は待ってくれない。  接近警報。ドガガガガ、とバルカンを乱射しながら、敵機は既にクロスレンジまでに迫っていた。  頭部バルカンの弾頭がジェガンの腰のグレネードに直撃し、コクピット周辺にまで爆発が及ぶ。 「ぐッ、……!」  敵はビームサーベルを振り上げていた。加速と同時に振りおろせば両断できる距離。私は咄嗟にビームライフルを捨て、右側の腰に装着しているグレネードを引っ掴み、それを前に突き出す。  直後、蛍光色の刃が、手のひらサイズの爆弾を裂いた。  ドゴォ!! と爆発が広がる。自機敵機共にマニュピレータやサーベルの柄が吹き飛び、前腕周辺を抉った。さらに敵のコクピット部分にまで大ダメージを及ぼしている。 『なん、クソ!!』 「嘗めるなよ新兵!」  頭部バルカンのトリガーを引く。狙いはコクピットの周辺装甲。本来はバルカン程度では破れない設計のそれはしかし、距離と痛んだ装甲の効果も相まって、簡単に貫かれた。  コクピットは潰した。私は左手でビームサーベルを引き抜き、素早く腰を両断し完全に無力化。 「ッ……ふう、終わった、か」  ひとつ息を吐いて周囲を確認する。レーダーに敵影なし。 『しなむ、中尉……』 「アールトネン准尉、無事か」 『はい……』  着弾したミサイルは、辛うじてコクピットにまでは至っていないようだった。しかし、両肩部、胸部は破損状態で、稼働は怪しい。 「レイル中尉に連絡する。ファントムと合流しよう。動けるか?」 『いえ……』 「分かった。合流まで残り時間はおおよそ3分だが……。見当たらないな」  まさか、あちらも何かトラブルがあったのだろうか。 「准尉、さっきのアレはなんだ?」  私は彼女の先ほどの機動を問うた。既に作戦はいくつもこなしているはずだ。 『…………』 「私には、何かに怯え、錯乱しているように見えたが」 『帰ったら、お話しします……』 「……そうか」 『シナム中尉、こちらレイル・ナルドだ。状況はどうだ』 「今、敵機を撃退した。……ジーン軍曹は……」 『すまない。……本隊が居るはずだな?合流しよう』 「ああ、私は准尉ともう少しここにいる。彼女の機体は動けそうにないからな。すまないが、……このポイントまで向かって欲しい」 『了解した』  蒼い光の閃光が遠ざかるのを眺めながら、私は准尉の機体に近づく。  こうして近距離で見ると酷い有様だった。ミサイルの直撃で、よくもまぁ無事だったものである。表面装甲は焼けただれており、コクピットブロックの外壁が露出していた。  私は再びレーダーに目を通し索敵するが、  そこで異変があった。 「!」 『これ……増援!?』  生きているレーダーを確認したのか、彼女も驚愕の声を上げた。  非常にまずい。敵機は二機。同数だが戦力が圧倒的に違った。彼女のジムⅢは動けないし、私のジェガンも右手のマニュピレーター周辺はグレネードの爆発によって吹き飛んでいるのだ。 「灰色のハイザック・カスタムが二機……特殊部隊か?」  最大望遠で敵機を眺めつつ、私は生きているシステムを経由して武装を起動する。  残る武装は、頭部バルカン49発、そしてビームサーベルのみだ。 「隕石に隠れていろ。私が時間を稼ぐ」 『な、やめてください! 逃げるべきです!もしくは援軍を!』 「幸いハイザックはまだこちらに気づいていない。だが、長距離回線を利用すれば必ず位置を特定される。なら、先手を打って有利な状況にした方がいい。どのみち、この機体状況ではジムを抱えて逃げるのも不可能だしな」  私は軽く機体状況を再確認し、ふっと息を吐く。今の一瞬で呼吸を整えたのだ。操縦桿を握り直し、力強くペダルを踏み込んだ。  加速。万全状態より幾分か軽いジェガンは、やはりいつもより早かった。距離は一瞬で1400から300まで縮んだ。急速接近に気づき銃口をこちらに向けるハイザックだが、もう遅い。  黄色い光が収束され、ハイザック・カスタムの握る狙撃用ビームランチャーはその莫大なエネルギーを吐き出した。しかし、それがジェガンを貫くことはない。  肩部のスラスターを最大展開。私は銃口の光と同時にその射線から逃れた。バルカンを9発放つと、ハイザックもブーストを吹かして簡単に回避する。  敵機の角度を計算。囲むつもりか!  背面の大型スラスターを最大点火。二機から大げさに遠ざかる。三機でV字になるような位置まで逃れると、反転して再び加速。一機のハイザックへ向け襲いかかった。  メガ粒子で構築された桃色蛍光色の刃を振り下ろす。ハイザックは身体をひねり、右肩のシールドを突きだしてきた。ビームサーベルは深緑の盾に阻害され、胴体を両断することはかなわない。 『無駄だぜ。俺らの機体は特別製でな。そんな一般品のサーベルじゃこの盾は切れない』 「チィ……、」  敵のシールドはどうやら対ビームコーティングが施されているらしく、ビームサーベルで貫くことはできなかった。 (こちらの最大火力を上回る盾、か)  当然、バルカンを叩き込んだところでそれを貫くことは、やはりできないだろう。 『散開して一気に叩く』 「ク!」  全速力で後退。同時に、先ほどジェガンが居た座標に向け頭上から黄色いビームが降り注いだ。一歩遅ければやられていた。  私はひとまず前方の機体に標的を定める。頭上から降り注ぐ二射目を回避すると、正面からハイザックを捉えてトリガーを引く。  ドガガガ!! と頭部バルカンが唸り、予想通りハイザックは盾を突き出して防御した。  カチ、と弾切れを知らせる空発砲音が鳴る。「ふう、」と息を吐き、ひとつビームを回避。リロード後を狙って、一気に加速、接近する。  左手にはビームサーベルを最大展開。わざわざシールドを狙って、その先端を突きいれた。  ズバァ、と深緑の鎧が抉れた。 『な、に……!?』 「過信しすぎだ、バカ者」  突き刺さった刃は、そのまま機体を横から貫いた。刺さったままのビームサーベルを捨て、動かなくなったハイザックのビームランチャーを奪う。 『クソ、むざむざやられるか!』  黄色い閃光。ハイザックを盾にそれを防ぎ、爆発を目くらましに真下からハイザックを捉える。 「……狙える」  トリガーを引く。  が。 「ッ……、エネルギー切れ! クソッ」  ランチャーを捨て、ペダルを踏み込むが、  スコン、とスラスターが空吹きした。 「こっちもか……!」 『チッ、真下か!』  万事休すか。  バルカンは残弾なし。攻撃手段はないし、推進剤も切れた。コクピット開閉ボタンに手が伸びそうになる。 「ク……」  敵機の銃口は既に黄色い光を放出しており、エネルギーの出力を今か今かと待ち抱えていた。 『終わりだ!』  直後。  黄色いビームが放出され、  機体が爆発した。  ただし。  爆発した機体はハイザックで、  撃った機体は───。 『間に合ったか』  よく知っている男の声だった。  我らを扇動し、組織として巻き上げた男── 「ファントムか!」  ガブスレイのフェダー・イン・ライフルが黄色い粒子を点々と放出しながら、こちらを捉えていた。  後部には、巨大なコンテナを運ぶ数機のモビルスーツが居る。どうやら脱出は成功したようだった。 『損害は聞いている。准尉の機体は第二コンテナ内へ』 「私の機体も、もう推進剤がない」 『了解した。おい、誰か手が空いている者はいないか。ジェガンを移送してくれ』 『私が行こう。他の機体よりも出力はある』  フライルーを駆るレイルの声。合流も無事にできたか。 『目指すはコロニー・インダストリアル4だ。索敵を怠らず、移動するぞ』 『了解』   2  『宝探し』という名の任務が開始されて、アイザック=シナムはトレーラーの一つの中で地図を凝視していた。  やがて地図と合致する建物を見つけ、シナムは隣の運転手に声をかける。 「そこの家からだな。車を止めてくれ」 「我々はどうすれば?」 「待機だ。荷物があるやもしれん。呼べば2,3人来てくれ」 「了解しました」  トレーラーから降り、彼はやや緊張した面持ちで家の敷地に入る。古びた様子はなくむしろ小奇麗ささえあった。恐らく、今も人が住んでいる家だ。 「……こほん」  ひとつ咳払いして、彼はインターフォンを押した。  ぴん、ぽーんと気の抜けた古いタイプのチャイムが外にまで響き、「はーい」という女性の声が響く。シナムは「ごくん」と生唾を飲み込み、身だしなみをチェックしながらその時を待つ。  数秒経って、がちゃり、と扉が開く。まだ20代前半であろう若い女性が柔和な笑みを浮かべながら出迎えた。  そして彼は開口一番。 「ほ、」 「欲しいのだが」 「え?」  彼のために付け加えておくと。  この『欲しい』とは『(家電が)欲しい』という意味である。  しかし。  見知らぬ一般人の家を訪ねるというシチュエーションに緊張した彼は、その過程もろもろをすべて吹き飛ばし、動詞だけを叩きつけてしまった。 「あ、あの……」  顔を赤くしながら、玄関先でもじもじしだす女性。 「?」  『言い切った』という満足感から、彼は自分が今何を発言したのかは覚えていない。無論、初めて会った異性から、顔を合わせて開口一番に『欲しい』などと言われれば、勘違いされてもおかしくはない。 「あ、あの、私、告白されたのは初めてで、どうしたらいいか──」 「……は?」 「え?」 「待ってくれ。何を言っている?」 「え、あの、欲しいんですよね」 「ああ、欲しい」 「でもその、いきなり、あの、言われましても……」 (なるほど、段階を踏んで交渉するべきだったか。しかしここまで来れば退くことはできん!) 「ああ、すまない。だが、今どうしても必要なんだ」  ぼん、と。再び女性の顔がリンゴのように赤くなっていく。  20代半ばに差しかかる彼は、割と顔受けがいい。所謂『イケメン』と言っても差し控えはない。  そんな男にいきなり言われれば──という話である。  互いに論点が合っていないまま、会話は続く。 「え、えっと、私でよければ……」 「は?」 「え?」  おかしい。と彼はようやく気付いた。 「……君は何を言っている。私は家電が欲しいのだが」 「え?」  結局、そこで家電は手に入らなかった。   3  再び車内。 「どうしたんですか、シナム中尉」 「なぁ、私はどこかおかしいだろうか」 「顔がおかしなことになってますね。どうしたんですか、その頬のもみじは」  指摘され、彼は鏡を見ながら自分の左頬をさする。 「私も解らん。交渉をしていたら、いきなり女性にぶたれてしまってな。どこで間違ったものか……」 「なんてことだ……ひどいことをする女性もいるのですね」 「まったくだ」  あの場において酷かったのは彼だが、この男は最後までそれに気付かなかった。 「次は誰もいない家に向かおう。またぶたれるようでは、私がもたん」 「了解しました」  こうして前途多難な宝探しは続いてゆく。
 父が死んだ。  その事実を受け止めるのに、二年かかった。  私は地球連邦の軍人の一人息子だった。成績優秀の父の子だけあって、周囲からは常に期待され、私自身も才能があるようで、腕にもそこそこの自信があった。  しかし、軍に触れる機会があった私はモビルスーツに興味を持ち、機械弄りが趣味だったのだ。その思いは日に日に強まってゆく。  成年するよりも前に父は死んだ。自堕落になって、二年の間何もかもを捨てた。しかし、母が病気にかかると同時に、私のところに声がかかった。  おまえが来なければ、母親は死ぬ。  そういう意味の文書が届いたのだ。それから私は、父親の親友であった当時も現役であったモビルスーツパイロットの男に弟子入りし、1年猛修行をした。師の推薦と、連邦軍上層部の意向もあり、私はティターンズに入隊した。  といっても、入って数ヶ月。ティターンズはグリプス2のコロニーレーザー照射によって艦隊を失い、敗北、解散となった。  私はかろうじて生存し、私は別の部隊に異動した。なんでも、連邦の保有する特殊連合部隊だそうだ。その隊の副リーダーを任され、二年間戦った。  その後、母を預ける地球の病院から連絡があった。もう限界が来ていたそうだ。私は休暇を取り、地球に降りて母を看取った。  そこから、異変があった。  最初の違和感は、とある任務のブリーフィング。他の特殊部隊と合同だが、うちの部隊はほぼ全員が出撃だった。参加する部隊は7ほどあったのだが、1/4は我々の部隊から選出されていた。当時は他の部隊は別の依頼もあるのだろうと考えていたが、その考えは違っていた。  出撃から作戦開始。我々の部隊だけ、どう考えても行き先が違う。そして、ブリーフィングの指定とも違うルートだ。  しかし、特殊部隊にとって、勝手な行動は厳禁だ。我々は隊長の指示に従いながら進軍し、そうして罠にかかった。  目の前に突然、多数の赤い光が出現した。モノアイタイプ。ジオン製のモビルスーツの、カメラの眼光だ。  直後、私たちは無数の鋼鉄の雨に晒された。  それから数ヵ月が経ったころ。大打撃を受けた我々は味方部隊と合流し撤退。他の部隊と合流した際、彼らも攻撃を受け、我々は事実上失敗した。  我々はファントムの煽動に乗じ、同部隊のメンバーへ連邦脱出の話を投げかけた。不特定多数の情報源が生まれれば、いつ本部に気付かれるかわからない。即答返事したメンバーへ、彼が作った作戦ファイルを送信し、我々は急いで出撃する。  私は別働隊として、アールトネン准尉とジーン軍曹を連れ、先回りして中継地点で待機。ファントムたち本隊は、モビルスーツなどの機材、メカニックマンを積んだ大型コンテナを、実際にMS数機がかりで運送及び護衛を担当している。  しかし、途中でレイル中尉が妨害に現れた。軽い挑発に乗ったジーン軍曹は静止を振り切って突貫し機体を大破させてしまう。  私はどうにか場を収めようとしたが、増援として、恐らく連邦の正規追撃隊が到着したのだ。どうやら、レイル中尉もハメられたらしい。 「アールトネン准尉、迎撃するぞ」 『りょ、了解』  私は乗機《ジェガン》のブーストペダルを踏み込む。背面の巨大なスラスターが炎と咆哮を上げ、莫大な推進力で前進した。 『2番機はネモの回収に迎え』 『ああ』 「チッ!」  即効で数を減らそうと思ったが、敵の動きの方が早かった。一直線にジムⅢ二機に向かって突進した私は、突如機動を変更した機に対処できない。 「ジーン軍曹!脱出しろ!」 『え?』  ほぼ手遅れだ。分断されたネモの上半身を、ジムⅢのビームライフルは正確に捉えている。  姿勢制御、急速旋回。ビームライフルを追撃隊のジムⅢに構え最速でトリガー。ぎりぎりのところで、ジムⅢの胴体を貫いた。  しかし、一歩遅かった。敵ジムⅢは既にビームライフルの発射コマンドを入力しており、今まさにビームライフルの銃口から、蛍光色のピンクが覗いていた。 「ジーン!」  一瞬あとに、ネモの装甲に大穴が開けられた。ビームライフルから放たれた光の槍は、ネモを正確に貫いたのだ。 『ジーン軍曹!!』  アールトネン准尉も叫ぶが、煙を吹いて破片を撒き散らすそれは、既にモビルスーツではなかった。 『やられたか……だが、一人殺した。次は貴様の番だぞ』 「き、さま……ッ!」  ビームライフルを構え直すが、直後にはブーストペダルを踏み込んでいた。もう一機のジムⅢが既にミサイルを放っていたのだ。肩から射出された四基の弾頭。私は即座に頭部バルカンを発射した。  直進するミサイルを迎撃。爆破。山なりに射出された残り三基は、その中央をすり抜ける事で回避する。 『あ、あ……』  通信機からかすかに届く、呻くような声。見ると、ミサイルの一基が別の熱源を発見して再誘導を開始していた。その先に居るのは───。 「避けろアールトネン准尉、死ぬぞ!」 『し、ぬ……?』  注意を呼び掛けるが動じない。それどころか、何やら様子がおかしい。彼女のジムⅢは回避運動もせず、ぽつんと漆黒の宇宙を彷徨っていたのだ。 『う、うわぁぁあああ!』 「チィッ!」  脚を前方に振り脚部のブースタをフルスロットルでアンバック機動。両肩のスラスターを最大展開して急旋回し、白い尾を引いて遠回りに飛翔しているミサイルに向け、ビームライフルを放つ。  一基の後部に直撃させるが、慣性の法則に従ったミサイルの残骸は、容赦なくジムⅢへ襲いかかった。  爆音が響いた。回収が先か、撃破が先か。  しかし、敵は待ってくれない。  接近警報。ドガガガガ、とバルカンを乱射しながら、敵機は既にクロスレンジまでに迫っていた。  頭部バルカンの弾頭がジェガンの腰のグレネードに直撃し、コクピット周辺にまで爆発が及ぶ。 「ぐッ、……!」  敵はビームサーベルを振り上げていた。加速と同時に振りおろせば両断できる距離。私は咄嗟にビームライフルを捨て、右側の腰に装着しているグレネードを引っ掴み、それを前に突き出す。  直後、蛍光色の刃が、手のひらサイズの爆弾を裂いた。  ドゴォ!! と爆発が広がる。自機敵機共にマニュピレータやサーベルの柄が吹き飛び、前腕周辺を抉った。さらに敵のコクピット部分にまで大ダメージを及ぼしている。 『なん、クソ!!』 「嘗めるなよ新兵!」  頭部バルカンのトリガーを引く。狙いはコクピットの周辺装甲。本来はバルカン程度では破れない設計のそれはしかし、距離と痛んだ装甲の効果も相まって、簡単に貫かれた。  コクピットは潰した。私は左手でビームサーベルを引き抜き、素早く腰を両断し完全に無力化。 「ッ……ふう、終わった、か」  ひとつ息を吐いて周囲を確認する。レーダーに敵影なし。 『しなむ、中尉……』 「アールトネン准尉、無事か」 『はい……』  着弾したミサイルは、辛うじてコクピットにまでは至っていないようだった。しかし、両肩部、胸部は破損状態で、稼働は怪しい。 「レイル中尉に連絡する。ファントムと合流しよう。動けるか?」 『いえ……』 「分かった。合流まで残り時間はおおよそ3分だが……。見当たらないな」  まさか、あちらも何かトラブルがあったのだろうか。 「准尉、さっきのアレはなんだ?」  私は彼女の先ほどの機動を問うた。既に作戦はいくつもこなしているはずだ。 『…………』 「私には、何かに怯え、錯乱しているように見えたが」 『帰ったら、お話しします……』 「……そうか」 『シナム中尉、こちらレイル・ナルドだ。状況はどうだ』 「今、敵機を撃退した。……ジーン軍曹は……」 『すまない。……本隊が居るはずだな?合流しよう』 「ああ、私は准尉ともう少しここにいる。彼女の機体は動けそうにないからな。すまないが、……このポイントまで向かって欲しい」 『了解した』  蒼い光の閃光が遠ざかるのを眺めながら、私は准尉の機体に近づく。  こうして近距離で見ると酷い有様だった。ミサイルの直撃で、よくもまぁ無事だったものである。表面装甲は焼けただれており、コクピットブロックの外壁が露出していた。  私は再びレーダーに目を通し索敵するが、  そこで異変があった。 「!」 『これ……増援!?』  生きているレーダーを確認したのか、彼女も驚愕の声を上げた。  非常にまずい。敵機は二機。同数だが戦力が圧倒的に違った。彼女のジムⅢは動けないし、私のジェガンも右手のマニュピレーター周辺はグレネードの爆発によって吹き飛んでいるのだ。 「灰色のハイザック・カスタムが二機……特殊部隊か?」  最大望遠で敵機を眺めつつ、私は生きているシステムを経由して武装を起動する。  残る武装は、頭部バルカン49発、そしてビームサーベルのみだ。 「隕石に隠れていろ。私が時間を稼ぐ」 『な、やめてください! 逃げるべきです!もしくは援軍を!』 「幸いハイザックはまだこちらに気づいていない。だが、長距離回線を利用すれば必ず位置を特定される。なら、先手を打って有利な状況にした方がいい。どのみち、この機体状況ではジムを抱えて逃げるのも不可能だしな」  私は軽く機体状況を再確認し、ふっと息を吐く。今の一瞬で呼吸を整えたのだ。操縦桿を握り直し、力強くペダルを踏み込んだ。  加速。万全状態より幾分か軽いジェガンは、やはりいつもより早かった。距離は一瞬で1400から300まで縮んだ。急速接近に気づき銃口をこちらに向けるハイザックだが、もう遅い。  黄色い光が収束され、ハイザック・カスタムの握る狙撃用ビームランチャーはその莫大なエネルギーを吐き出した。しかし、それがジェガンを貫くことはない。  肩部のスラスターを最大展開。私は銃口の光と同時にその射線から逃れた。バルカンを9発放つと、ハイザックもブーストを吹かして簡単に回避する。  敵機の角度を計算。囲むつもりか!  背面の大型スラスターを最大点火。二機から大げさに遠ざかる。三機でV字になるような位置まで逃れると、反転して再び加速。一機のハイザックへ向け襲いかかった。  メガ粒子で構築された桃色蛍光色の刃を振り下ろす。ハイザックは身体をひねり、右肩のシールドを突きだしてきた。ビームサーベルは深緑の盾に阻害され、胴体を両断することはかなわない。 『無駄だぜ。俺らの機体は特別製でな。そんな一般品のサーベルじゃこの盾は切れない』 「チィ……、」  敵のシールドはどうやら対ビームコーティングが施されているらしく、ビームサーベルで貫くことはできなかった。 (こちらの最大火力を上回る盾、か)  当然、バルカンを叩き込んだところでそれを貫くことは、やはりできないだろう。 『散開して一気に叩く』 「ク!」  全速力で後退。同時に、先ほどジェガンが居た座標に向け頭上から黄色いビームが降り注いだ。一歩遅ければやられていた。  私はひとまず前方の機体に標的を定める。頭上から降り注ぐ二射目を回避すると、正面からハイザックを捉えてトリガーを引く。  ドガガガ!! と頭部バルカンが唸り、予想通りハイザックは盾を突き出して防御した。  カチ、と弾切れを知らせる空発砲音が鳴る。「ふう、」と息を吐き、ひとつビームを回避。リロード後を狙って、一気に加速、接近する。  左手にはビームサーベルを最大展開。わざわざシールドを狙って、その先端を突きいれた。  ズバァ、と深緑の鎧が抉れた。 『な、に……!?』 「過信しすぎだ、バカ者」  突き刺さった刃は、そのまま機体を横から貫いた。刺さったままのビームサーベルを捨て、動かなくなったハイザックのビームランチャーを奪う。 『クソ、むざむざやられるか!』  黄色い閃光。ハイザックを盾にそれを防ぎ、爆発を目くらましに真下からハイザックを捉える。 「……狙える」  トリガーを引く。  が。 「ッ……、エネルギー切れ! クソッ」  ランチャーを捨て、ペダルを踏み込むが、  スコン、とスラスターが空吹きした。 「こっちもか……!」 『チッ、真下か!』  万事休すか。  バルカンは残弾なし。攻撃手段はないし、推進剤も切れた。コクピット開閉ボタンに手が伸びそうになる。 「ク……」  敵機の銃口は既に黄色い光を放出しており、エネルギーの出力を今か今かと待ち抱えていた。 『終わりだ!』  直後。  黄色いビームが放出され、  機体が爆発した。  ただし。  爆発した機体はハイザックで、  撃った機体は───。 『間に合ったか』  よく知っている男の声だった。  我らを扇動し、組織として巻き上げた男── 「ファントムか!」  ガブスレイのフェダー・イン・ライフルが黄色い粒子を点々と放出しながら、こちらを捉えていた。  後部には、巨大なコンテナを運ぶ数機のモビルスーツが居る。どうやら脱出は成功したようだった。 『損害は聞いている。准尉の機体は第二コンテナ内へ』 「私の機体も、もう推進剤がない」 『了解した。おい、誰か手が空いている者はいないか。ジェガンを移送してくれ』 『私が行こう。他の機体よりも出力はある』  フライルーを駆るレイルの声。合流も無事にできたか。 『目指すはコロニー・インダストリアル4だ。索敵を怠らず、移動するぞ』 『了解』   2  『宝探し』という名の任務が開始されて、アイザック=シナムはトレーラーの一つの中で地図を凝視していた。  やがて地図と合致する建物を見つけ、シナムは隣の運転手に声をかける。 「そこの家からだな。車を止めてくれ」 「我々はどうすれば?」 「待機だ。荷物があるやもしれん。呼べば2,3人来てくれ」 「了解しました」  トレーラーから降り、彼はやや緊張した面持ちで家の敷地に入る。古びた様子はなくむしろ小奇麗ささえあった。恐らく、今も人が住んでいる家だ。 「……こほん」  ひとつ咳払いして、彼はインターフォンを押した。  ぴん、ぽーんと気の抜けた古いタイプのチャイムが外にまで響き、「はーい」という女性の声が響く。シナムは「ごくん」と生唾を飲み込み、身だしなみをチェックしながらその時を待つ。  数秒経って、がちゃり、と扉が開く。まだ20代前半であろう若い女性が柔和な笑みを浮かべながら出迎えた。  そして彼は開口一番。 「ほ、」 「欲しいのだが」 「え?」  彼のために付け加えておくと。  この『欲しい』とは『(家電が)欲しい』という意味である。  しかし。  見知らぬ一般人の家を訪ねるというシチュエーションに緊張した彼は、その過程もろもろをすべて吹き飛ばし、動詞だけを叩きつけてしまった。 「あ、あの……」  顔を赤くしながら、玄関先でもじもじしだす女性。 「?」  『言い切った』という満足感から、彼は自分が今何を発言したのかは覚えていない。無論、初めて会った異性から、顔を合わせて開口一番に『欲しい』などと言われれば、勘違いされてもおかしくはない。 「あ、あの、私、告白されたのは初めてで、どうしたらいいか──」 「……は?」 「え?」 「待ってくれ。何を言っている?」 「え、あの、欲しいんですよね」 「ああ、欲しい」 「でもその、いきなり、あの、言われましても……」 (なるほど、段階を踏んで交渉するべきだったか。しかしここまで来れば退くことはできん!) 「ああ、すまない。だが、今どうしても必要なんだ」  ぼん、と。再び女性の顔がリンゴのように赤くなっていく。  20代半ばに差しかかる彼は、割と顔受けがいい。所謂『イケメン』と言っても差し控えはない。  そんな男にいきなり言われれば──という話である。  互いに論点が合っていないまま、会話は続く。 「え、えっと、私でよければ……」 「は?」 「え?」  おかしい。とシナムはようやく気付いた。 「……君は何を言っている。私は家電が欲しいのだが」 「え?」  結局、そこで家電は手に入らなかった。   3  再び車内。 「どうしたんですか、シナム中尉」 「なぁ、私はどこかおかしいだろうか」 「顔がおかしなことになってますね。どうしたんですか、その頬のもみじは」  指摘され、彼は鏡を見ながら自分の左頬をさする。 「私も解らん。交渉をしていたら、いきなり女性にぶたれてしまってな。どこで間違ったものか……」 「なんてことだ……ひどいことをする女性もいるのですね」 「まったくだ」  あの場において酷かったのは彼だが、この男は最後までそれに気付かなかった。 「次は誰もいない家に向かおう。またぶたれるようでは、私がもたん」 「了解しました」  こうして前途多難な宝探しは続いてゆく。

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