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「レイルカラード編01」(2012/08/03 (金) 20:04:47) の最新版変更点
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カラード側での生活が落ち着いていた時期。私はオーメルの尖兵として、さまざまなミッションを引き受けていた。
そんな中で、もっと強くなりたい、という気持ちを持ちつつ、プライベードでカラードに足を運んでオーダー・マッチをしていたりもした。
You Win の文字を見ながら、ふぅ、と息を吐く。
こんなものでいいか、とシミュレーションを終了し、ネクストのコクピットを模したカプセル状のシミュレータから出る。
「……」
割と汗をかいているようだった。なかなかに長期のAMS接続だったこともあり、若干頭痛もあるようだ。
「レイル様、レイル様」
近くにある温泉フロアへ足を運ぼうとしていると、オペレータを兼ねた秘書が、眼鏡をクイッとあげて、走って息が上がっているのか、顔を赤くしながら声をかけてきた。
「、君か。どうした?私は今日は休暇のはずだが」
「その……、オーメルグループの、決定で、新型機との模擬戦が急遽、決まりました……」
肩で息をしながら、詰まり気味に彼女は話した。
「模擬戦?……私との、か?」
「そ、そうです」
顎に手を当て、考える。
その時の私は、恥ずかしながらカラードのランク14を背負っていた。ミッションでの戦績と、こうして時たまオーダー・マッチに勤しんでいた成果であろう。
「それで、その相手は?」
「えっと……少々お待ちください。それと、ここでは話がしづらいので、移動しましょう
彼女に従って、私たちは歩きだす。彼女はポケットから携帯端末を取り出し、何やら操作を始めていた。
自分の匂いを若干気にしつつ、喫茶店に入った。適当に注文を済ませたころ、彼女は端末の画面を私のほうに向けた。
「ネクスト、"TYPE-LAHIRE"の試験です。リンクスは候補生から、優秀な成績を収めた被検体を搭乗させる予定です」
「…ふむ」
電子化された情報を見る、若干見難い。顔を近づけると、彼女が赤くなりながら俯いた。
「ロ、ローゼンタールと合同での企画ですので、武装類はローゼンタールのものも装備してもらっています。ライールの適切な戦闘適正を見極めるための、大切なテストです」
端末をしまい、眼鏡をクイッと上げながら、真剣な目つきでこちらを見る彼女。
「……なるほど」
「日程ですが、いかがいたしましょうか?」
「今日以外ならいつでも」
私は即答した。早く温泉に行きたい。
「わかりました。では、今夜連絡しますね」
「ああ」
いつの間にか来ていたコーヒーを一気飲みしてから、席を立って出口へ向かった。すれ違った店員が、手を鼻に当てる。忌々しい。
ひとつ咳払いしてから、出口を出た。温泉の区画は、少し遠い。
カラードの近くにある宿泊施設に戻った頃だった。端末がメールを受信し、中にはデータと簡素な文章があった。
“模擬戦の件は、急ですが明日となりました。かまいませんよね……?
時間は1030時、カラードのシミュレーション・ルーム第8室です。
それと、TYPE-LAHIREの基礎データと、実際に模擬戦を行うネクストのデータです。目を通しておいてください。”
添付されたデータには、簡単にライールの情報が書かれていた。新標準機となる近距離指向ネクスト。その外見や役割は、アリーヤに近しいものを感じた。
「アデル・ポーン。……ライール・フレームに、アサルトライフル、レーザーブレード、レーザーキャノン、チェインガン…それに右格納ブレードか」
この武装量だと、長期戦にもなりそうだな、と思いつつ、戦術を考える。
注意すべきは、やはりチェインガンとレーザーキャノンか。こちらの武装では、長期戦に弱い。敵機はアサルト・アーマーも搭載されていると考えたほうがよいだろう。
ということは。
「やはり、即効で撃破。しかないか」
だが、これはあくまでもテスト。ライールがある程度の戦闘データを取れないと、意味もないかもしれない。
「……チッ。やめだ。寝よう」
今日は疲れた。
-------------------
翌日。
割と早めに目覚め、朝食も済ませてしまった私は、暇を持て余していた。
「……カラードで機体の様子を見るか」
解体整備を頼んでおいたヘクセン・ナハト。元がレイレナード製なだけもあり、ライセンスを持っているとはいえ、オーメル内ではあまり手の込んだ整備もできない。
様々な企業の機体を看ているカラードの整備士たちの所でしかできないことだ。
「どうだ、様子は?」
モニタルーム越しに様子を見ている暑苦しそうな整備班長に声をかけた。
「おぅ、絶好調だぜ。ったく、もっと定期的に整備してやれよォ、機体が泣いてるぜ?」
「ハハ……」
「にしても、04-ALICIAかい……あんた、あんた、根っからのオーメルの人間じゃないな?」
「……まぁ、そんなところだ」
「大変だねェ」
モニタルーム越しに、アリシア・フレームを見る。
すでに整備は完了したようで、現在はコアに各部位を接続しているようだ。
と、モニタに少し映っていた、隣の機体に釘付けになる。
「、あれは……!」
「ああ?……ああ、そいつもオーメルの奴だな。知らないのか?」
「いや、知っている。なんでもない」
最後に右背についた天使の片翼を見てから、シミュレータルームへ向かう。
もうそろそろだ。
「あ」
シミュレータルームの前、白髪の少年に声をかけられた。
「あの、もしかして、レイルさんですか?」
「……そうだが、君は?」
答えるのに少し戸惑った。どうしてこんな子供が、一リンクスの名前を?誰かの暗殺か、いや。
「いえ、その。今回の模擬戦の相手です。名前は、ありません」
「……そうか。今日はよろしく頼む。お手柔らかにな」
胸糞悪い。
「レイル様」
シミュレータルームの扉をあけると、すでにオペレータの彼女がいた。時間まではまだ13分ある。
「もう少しであちらの準備が完了します。それまで中でお待ちください」
「……ああ」
“中で”というのは、即ちシミュレーションユニットの中である。
ロッカーから対Gスーツを取り出し、隣の小部屋で着替えた。
戻ってからカプセル状のそれを開き、中に入る。
「…ふぅ」
息を吐いて、幾つかの計器を押す。
ネクストのコクピットを模して、というが、中が全く同じというわけではない。機体を認証するためのカード入口や、対Gジェル計器防護カバーなど。
移動時に感じるGは、単なる揺れだけではないらしい。どういう理屈かは知らないが、一応実戦とほぼ同じ感覚で戦える。
AMS接続。Gジェル注水。
「……」
(名前はない、か)
『聞こえますか、レイル様』
「ああ」
『では、模擬戦を開始します。作戦時間は10分です。それまでに両機が大破に陥らなかった場合は、強制終了となります』
視界が開けた。緑だった。
芝生が無限に広がり、巨大な湖がある。VRの中でしか味わえない世界だ。
『行きます』
相手からの通信。あの少年の声だった。
「……ああ」
短く答えて、オーバード・ブーストを準備する。
『3.2.1…。開始』
開始宣言と同時に、収縮されたコジマ粒子が吠えた。一瞬で音速を超えた先鋭的な機体は空気を切り裂きながら、敵機へと向かっていく。
(ミサイル、マーヴ起動)
目標が見えた。ミサイルロックと同時に発射。オーバード・ブーストを停止し、右へクイック。
案の定、遅れてチェインガンが来た。掃射の要領で迫るが、ジャンプして縦にかわす。ミサイル、3機着弾確認。PAの効果によってダメージ軽微。
敵がクイックブーストを噴射して接近してくる。合わせて後ろへクイック。ミサイルをヒットマンに切り替え、両腕の銃で攻撃する。
敵機もアサルトライフル──オーメルのAR-O700──と、チェインガン──同じくオーメル製のCG-R500──によるクロス・トリガーで反撃してくる。互いに互いのPAを削りあう攻防。
やはり総火力はあちらが上だった。たまらずマーヴをグレネードに切り替え、発射。
ボンッ、とさく裂し、敵機は驚いて大きく距離をとった。
「ワン・パターンでは勝てん。来てみろ」
『ッ』
敵のクイック。アリーヤにも負けない速度。
マーヴに切り替え、迎撃。
しかし彼は左腕のレーザーブレード、EB-R500をシールドのように扱い、マーヴの銃弾を完全にやり過ごした。
「出来るッ」
前クイック。相対。アサルトアーマー。
敵も同時にAAを発動し、KPは互いに相殺しあっていた。連鎖的に小爆発が起き、PAがはがれた敵機にこれでもかと喰らい付く。
最大出力のクイック。マーヴの先端をシールド状のブレードに突き立た。もともとマーヴの弾丸を受け止めていて、ブレード発振器の装甲など脆かった。そのまま手を離し、振り返りつつヒットマンをばらまいた。マーヴを爆発した。
これで敵は盾を使えまい。格納型ブレード相手なら十分対処可能だ。
『くッ』
敵は右腕のアサルトライフルを左に持ち替えて、右腕に格納していたレーザーブレードを取り出した。
こちらもドラゴンスレイヤーを装備し、構えた。
『こっちにも、切り札はあるんだ!』
天使の片翼が羽ばたき、3本の光が放たれた。
「ッッ!?」
ゴォォッ、と後ろで轟音がなった。エラー。左背部損傷。強制パージ。
一本のレーザーが、ミサイルポッドを打ち抜いたようだった。回復しかけたPAを裂いて。
痛みに歯を食いしばっていると、眼前には流線型のライール・フレームが迫っていた。
ヴァァアッ!と、レーザーがひしめきあう。
互いに振りぬいた。切り払いの要領で距離をとり、銃を構え、発射。
敵はレーザーキャノンとアサルトライフルを織り交ぜていた。左腕のヒットマンの対となる右背部兵装はグレネードキャノンOGOTO。空中では使いづらい代物だった。
「チィッ!」
突撃。レーザーキャノンに気を配り、ドラゴンスレイヤーで切りつけた。
『うっ』
情け程度の防御をする彼。切りはらいつつ足で地面に蹴り落とし、バランス喪失を覚悟でグレネードを放った。
ボォッ、とライールの薄い装甲が弾け飛んだ。なんとか体勢を立て直し、PAが焼失したライールにマシンガンを浴びせつつ降下。レーザーブレードを突き立てて、機能を奪った。
『お疲れさまでした。戦闘モード、停止。シミュレーション、終了します』
良いデータが取れた、と彼女は珍しくすこぶる喜んでいた。軽くシャワーを浴びて、カラードの第3食堂で早めの昼食をとる。
適当に席を探していると、先刻まで戦っていた少年が、ミートソース・パスタを頬張っているのを見つけた。
「こんなところにいたのか」
やさしく声をかける。
「あ、あの、ありがとうございました」
「いいさ。私のほうこそな。久々に、冷や汗をかいた。あの場でのレーザーキャノンは、恐ろしかったよ」
「ありがとうございます」
少し嬉しそうに言う彼。外見年齢でいえば、14,15ほどだろうか。幼さの残る童顔と遅れた声変わり。席に着きつつ、そんなことを考えながら眺めた。
「あ、あの」
「どうした?」
「僕、なにが行けませんでしたか?」
「……、そうだな」
水が入っているというのに、紙コップをテーブルの真ん中に少し離して置き、続ける。
「これが君の機体、こっちが私の機体だとしよう。私はオーバード・ブーストで接敵。そして君の機体へ向け、ミサイルで先制攻撃した」
「はい」
彼はまじめに二つの紙コップを眺めていた。
「一対一のネクスト戦の場合は、幾つかの策をその場その場で考えていくといい。たとえば、私が君の立場だったら……そうだな、切り札であるレーザーキャノンは隠すとして、やはりチェインガンか。ミサイル発射よりも前にチェインガンを掃射し、ミサイルの誘爆を狙う。次にクイックで接近し、アサルトライフルとチェインガンのクロス・トリガーで攻撃、あるいは、ミサイルを引きつけつつ回避して、クロス・トリガーで迎撃。これで先手の攻撃も挫いて、フェアになれる」
「な、なるほど」
あまり解っていなさそうだった。
私は少し笑いながら、
「まぁ、君はまだ若い。候補生だろう?将来リンクスになることを考えているなら、今日の経験を活かして、役に立ててほしい。暇な時なら、そうだな…そちらの境遇がどうだか知らないが、相手を出来る環境であれば付き合おう」
「い、いいんですか!?」
「ああ」
「で、でも、忙しいんじゃ……」
「はは。大丈夫さ。今はトーティエントもいるしな」
ランク16、トーティエント。
上を見ている男だ、と思う。そのうち彼は、私を超えるだろう。
「さあ、冷めてしまう前に食べなければな」
ラーメンを啜る。少し温くなっていた。
カラードランキング表
No.1 ローディー / フィードバック
No.2 ウィン・D・ファンション / レイテルパラッシュ
No.3 レオハルト / ノブリス・オブリージュ
No.4 スティレット / レ・ザネ・フォル
No.5 王小龍 / ストリクス・クアドロ
No.6 リリウム・ウォルコット / アンビエント
No.7 ロバート・デイビット / ディペンダビリティ
No.8 ロイ・ザーランド / マイブリス
No.9 イルビス・オーンスタイン / マロース
No.10 有澤隆文 / 雷電
No.11 エイ・プール / ヴェーロノーク
No.12 ヤン / ブラインドボルド
No.13 ド・ス / スタルカ
No.14 レイル・ナルド / ヘクセン・ナハト
No.15 ミセス・テレジア / カリオン
No.16 トーティエント / グレイグルーム
No.17 カミソリ・ジョニー / ダブルエッジ
No.18 シャミア・ラヴィラヴィ / レッドラム
No.19 PQ / 鎧土竜
No.20 フランソワ=ネリス / バッカニア
No.21 ダリオ・エンピオ / トラセンド
No.22 チャンピオン・チャンプス / キルドーザー
カラード側での生活が落ち着いていた時期。私はオーメルの尖兵として、さまざまなミッションを引き受けていた。
そんな中で、もっと強くなりたい、という気持ちを持ちつつ、プライベードでカラードに足を運んでオーダー・マッチをしていたりもした。
You Win の文字を見ながら、ふぅ、と息を吐く。
こんなものでいいか、とシミュレーションを終了し、ネクストのコクピットを模したカプセル状のシミュレータから出る。
「……」
割と汗をかいているようだった。なかなかに長期のAMS接続だったこともあり、若干頭痛もあるようだ。
「レイル様、レイル様」
近くにある温泉フロアへ足を運ぼうとしていると、オペレータを兼ねた秘書が、眼鏡をクイッとあげて、走って息が上がっているのか、顔を赤くしながら声をかけてきた。
「、君か。どうした?私は今日は休暇のはずだが」
「その……、オーメルグループの、決定で、新型機との模擬戦が急遽、決まりました……」
肩で息をしながら、詰まり気味に彼女は話した。
「模擬戦?……私との、か?」
「そ、そうです」
顎に手を当て、考える。
その時の私は、恥ずかしながらカラードのランク14を背負っていた。ミッションでの戦績と、こうして時たまオーダー・マッチに勤しんでいた成果であろう。
「それで、その相手は?」
「えっと……少々お待ちください。それと、ここでは話がしづらいので、移動しましょう
彼女に従って、私たちは歩きだす。彼女はポケットから携帯端末を取り出し、何やら操作を始めていた。
自分の匂いを若干気にしつつ、喫茶店に入った。適当に注文を済ませたころ、彼女は端末の画面を私のほうに向けた。
「ネクスト、"TYPE-LAHIRE"の試験です。リンクスは候補生から、優秀な成績を収めた被検体を搭乗させる予定です」
「…ふむ」
電子化された情報を見る、若干見難い。顔を近づけると、彼女が赤くなりながら俯いた。
「ロ、ローゼンタールと合同での企画ですので、武装類はローゼンタールのものも装備してもらっています。ライールの適切な戦闘適正を見極めるための、大切なテストです」
端末をしまい、眼鏡をクイッと上げながら、真剣な目つきでこちらを見る彼女。
「……なるほど」
「日程ですが、いかがいたしましょうか?」
「今日以外ならいつでも」
私は即答した。早く温泉に行きたい。
「わかりました。では、今夜連絡しますね」
「ああ」
いつの間にか来ていたコーヒーを一気飲みしてから、席を立って出口へ向かった。すれ違った店員が、手を鼻に当てる。忌々しい。
ひとつ咳払いしてから、出口を出た。温泉の区画は、少し遠い。
カラードの近くにある宿泊施設に戻った頃だった。端末がメールを受信し、中にはデータと簡素な文章があった。
“模擬戦の件は、急ですが明日となりました。かまいませんよね……?
時間は1030時、カラードのシミュレーション・ルーム第8室です。
それと、TYPE-LAHIREの基礎データと、実際に模擬戦を行うネクストのデータです。目を通しておいてください。”
添付されたデータには、簡単にライールの情報が書かれていた。新標準機となる近距離指向ネクスト。その外見や役割は、アリーヤに近しいものを感じた。
「アデル・ポーン。……ライール・フレームに、アサルトライフル、レーザーブレード、レーザーキャノン、チェインガン…それに右格納ブレードか」
この武装量だと、長期戦にもなりそうだな、と思いつつ、戦術を考える。
注意すべきは、やはりチェインガンとレーザーキャノンか。こちらの武装では、長期戦に弱い。敵機はアサルト・アーマーも搭載されていると考えたほうがよいだろう。
ということは。
「やはり、即効で撃破。しかないか」
だが、これはあくまでもテスト。ライールがある程度の戦闘データを取れないと、意味もないかもしれない。
「……チッ。やめだ。寝よう」
今日は疲れた。
-------------------
翌日。
割と早めに目覚め、朝食も済ませてしまった私は、暇を持て余していた。
「……カラードで機体の様子を見るか」
解体整備を頼んでおいたヘクセン・ナハト。元がレイレナード製なだけもあり、ライセンスを持っているとはいえ、オーメル内ではあまり手の込んだ整備もできない。
様々な企業の機体を看ているカラードの整備士たちの所でしかできないことだ。
「どうだ、様子は?」
モニタルーム越しに様子を見ている暑苦しそうな整備班長に声をかけた。
「おぅ、絶好調だぜ。ったく、もっと定期的に整備してやれよォ、機体が泣いてるぜ?」
「ハハ……」
「にしても、04-ALICIAかい……あんた、あんた、根っからのオーメルの人間じゃないな?」
「……まぁ、そんなところだ」
「大変だねェ」
モニタルーム越しに、アリシア・フレームを見る。
すでに整備は完了したようで、現在はコアに各部位を接続しているようだ。
と、モニタに少し映っていた、隣の機体に釘付けになる。
「、あれは……!」
「ああ?……ああ、そいつもオーメルの奴だな。知らないのか?」
「いや、知っている。なんでもない」
最後に右背についた天使の片翼を見てから、シミュレータルームへ向かう。
もうそろそろだ。
「あ」
シミュレータルームの前、白髪の少年に声をかけられた。
「あの、もしかして、レイルさんですか?」
「……そうだが、君は?」
答えるのに少し戸惑った。どうしてこんな子供が、一リンクスの名前を?誰かの暗殺か、いや。
「いえ、その。今回の模擬戦の相手です。名前は、ありません」
「……そうか。今日はよろしく頼む。お手柔らかにな」
胸糞悪い。
「レイル様」
シミュレータルームの扉をあけると、すでにオペレータの彼女がいた。時間まではまだ13分ある。
「もう少しであちらの準備が完了します。それまで中でお待ちください」
「……ああ」
“中で”というのは、即ちシミュレーションユニットの中である。
ロッカーから対Gスーツを取り出し、隣の小部屋で着替えた。
戻ってからカプセル状のそれを開き、中に入る。
「…ふぅ」
息を吐いて、幾つかの計器を押す。
ネクストのコクピットを模して、というが、中が全く同じというわけではない。機体を認証するためのカード入口や、対Gジェル計器防護カバーなど。
移動時に感じるGは、単なる揺れだけではないらしい。どういう理屈かは知らないが、一応実戦とほぼ同じ感覚で戦える。
AMS接続。Gジェル注水。
「……」
(名前はない、か)
『聞こえますか、レイル様』
「ああ」
『では、模擬戦を開始します。作戦時間は10分です。それまでに両機が大破に陥らなかった場合は、強制終了となります』
視界が開けた。緑だった。
芝生が無限に広がり、巨大な湖がある。VRの中でしか味わえない世界だ。
『行きます』
相手からの通信。あの少年の声だった。
「……ああ」
短く答えて、オーバード・ブーストを準備する。
『3.2.1…。開始』
開始宣言と同時に、収縮されたコジマ粒子が吠えた。一瞬で音速を超えた先鋭的な機体は空気を切り裂きながら、敵機へと向かっていく。
(ミサイル、マーヴ起動)
目標が見えた。ミサイルロックと同時に発射。オーバード・ブーストを停止し、右へクイック。
案の定、遅れてチェインガンが来た。掃射の要領で迫るが、ジャンプして縦にかわす。ミサイル、3機着弾確認。PAの効果によってダメージ軽微。
敵がクイックブーストを噴射して接近してくる。合わせて後ろへクイック。ミサイルをヒットマンに切り替え、両腕の銃で攻撃する。
敵機もアサルトライフル──オーメルのAR-O700──と、チェインガン──同じくオーメル製のCG-R500──によるクロス・トリガーで反撃してくる。互いに互いのPAを削りあう攻防。
やはり総火力はあちらが上だった。たまらずマーヴをグレネードに切り替え、発射。
ボンッ、とさく裂し、敵機は驚いて大きく距離をとった。
「ワン・パターンでは勝てん。来てみろ」
『ッ』
敵のクイック。アリーヤにも負けない速度。
マーヴに切り替え、迎撃。
しかし彼は左腕のレーザーブレード、EB-R500をシールドのように扱い、マーヴの銃弾を完全にやり過ごした。
「出来るッ」
前クイック。相対。アサルトアーマー。
敵も同時にAAを発動し、KPは互いに相殺しあっていた。連鎖的に小爆発が起き、PAがはがれた敵機にこれでもかと喰らい付く。
最大出力のクイック。マーヴの先端をシールド状のブレードに突き立た。もともとマーヴの弾丸を受け止めていて、ブレード発振器の装甲など脆かった。そのまま手を離し、振り返りつつヒットマンをばらまいた。マーヴを爆発した。
これで敵は盾を使えまい。格納型ブレード相手なら十分対処可能だ。
『くッ』
敵は右腕のアサルトライフルを左に持ち替えて、右腕に格納していたレーザーブレードを取り出した。
こちらもドラゴンスレイヤーを装備し、構えた。
『こっちにも、切り札はあるんだ!』
天使の片翼が羽ばたき、3本の光が放たれた。
「ッッ!?」
ゴォォッ、と後ろで轟音がなった。エラー。左背部損傷。強制パージ。
一本のレーザーが、ミサイルポッドを打ち抜いたようだった。回復しかけたPAを裂いて。
痛みに歯を食いしばっていると、眼前には流線型のライール・フレームが迫っていた。
ヴァァアッ!と、レーザーがひしめきあう。
互いに振りぬいた。切り払いの要領で距離をとり、銃を構え、発射。
敵はレーザーキャノンとアサルトライフルを織り交ぜていた。左腕のヒットマンの対となる右背部兵装はグレネードキャノンOGOTO。空中では使いづらい代物だった。
「チィッ!」
突撃。レーザーキャノンに気を配り、ドラゴンスレイヤーで切りつけた。
『うっ』
情け程度の防御をする彼。切りはらいつつ足で地面に蹴り落とし、バランス喪失を覚悟でグレネードを放った。
ボォッ、とライールの薄い装甲が弾け飛んだ。なんとか体勢を立て直し、PAが焼失したライールにマシンガンを浴びせつつ降下。レーザーブレードを突き立てて、機能を奪った。
『お疲れさまでした。戦闘モード、停止。シミュレーション、終了します』
良いデータが取れた、と彼女は珍しくすこぶる喜んでいた。軽くシャワーを浴びて、カラードの第3食堂で早めの昼食をとる。
適当に席を探していると、先刻まで戦っていた少年が、ミートソース・パスタを頬張っているのを見つけた。
「こんなところにいたのか」
やさしく声をかける。
「あ、あの、ありがとうございました」
「いいさ。私のほうこそな。久々に、冷や汗をかいた。あの場でのレーザーキャノンは、恐ろしかったよ」
「ありがとうございます」
少し嬉しそうに言う彼。外見年齢でいえば、14,15ほどだろうか。幼さの残る童顔と遅れた声変わり。席に着きつつ、そんなことを考えながら眺めた。
「あ、あの」
「どうした?」
「僕、なにが行けませんでしたか?」
「……、そうだな」
水が入っているというのに、紙コップをテーブルの真ん中に少し離して置き、続ける。
「これが君の機体、こっちが私の機体だとしよう。私はオーバード・ブーストで接敵。そして君の機体へ向け、ミサイルで先制攻撃した」
「はい」
彼はまじめに二つの紙コップを眺めていた。
「一対一のネクスト戦の場合は、幾つかの策をその場その場で考えていくといい。たとえば、私が君の立場だったら……そうだな、切り札であるレーザーキャノンは隠すとして、やはりチェインガンか。ミサイル発射よりも前にチェインガンを掃射し、ミサイルの誘爆を狙う。次にクイックで接近し、アサルトライフルとチェインガンのクロス・トリガーで攻撃、あるいは、ミサイルを引きつけつつ回避して、クロス・トリガーで迎撃。これで先手の攻撃も挫いて、フェアになれる」
「な、なるほど」
あまり解っていなさそうだった。
私は少し笑いながら、
「まぁ、君はまだ若い。候補生だろう?将来リンクスになることを考えているなら、今日の経験を活かして、役に立ててほしい。暇な時なら、そうだな…そちらの境遇がどうだか知らないが、相手を出来る環境であれば付き合おう」
「い、いいんですか!?」
「ああ」
「で、でも、忙しいんじゃ……」
「はは。大丈夫さ。今はトーティエントもいるしな」
ランク16、トーティエント。
上を見ている男だ、と思う。そのうち彼は、私を超えるだろう。
「さあ、冷めてしまう前に食べなければな」
ラーメンを啜る。少し温くなっていた。
カラードランキング表
No.1 ローディー / フィードバック
No.2 ウィン・D・ファンション / レイテルパラッシュ
No.3 レオハルト / ノブリス・オブリージュ
No.4 スティレット / レ・ザネ・フォル
No.5 王小龍 / ストリクス・クアドロ
No.6 リリウム・ウォルコット / アンビエント
No.7 ロバート・デイビット / ディペンダビリティ
No.8 ロイ・ザーランド / マイブリス
No.9 イルビス・オーンスタイン / マロース
No.10 リザイア / ルーラー
No.11 有澤隆文 / 雷電
No.12 エイ・プール / ヴェーロノーク
No.13 ヤン / ブラインドボルド
No.14 ド・ス / スタルカ
No.15 レイル・ナルド / ヘクセン・ナハト
No.16 ミセス・テレジア / カリオン
No.17 トーティエント / グレイグルーム
No.18 カミソリ・ジョニー / ダブルエッジ
No.19 シャミア・ラヴィラヴィ / レッドラム
No.20 PQ / 鎧土竜
No.21 フランソワ=ネリス / バッカニア
No.22 ダリオ・エンピオ / トラセンド
No.23 チャンピオン・チャンプス / キルドーザー