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「サカキ過去編01」(2012/04/15 (日) 14:19:38) の最新版変更点
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あの、気が狂いそうになるほど紅い、血のような空と炎。そして、その紅蓮の炎を纏い、蒼い光を放つ、AC。
右手にはパルス、左手にはレーザーブレード、背中に、ミサイルと、グレネード。
俺の、敵だ。
気温の暑さに、目が覚めた。
炎が並ぶ中で、足元に違和感を感じた。
下半身を、トマトを潰したようなヒト。
父さんだった。
声が出ない。
左手側には、地面に血だまりができていた。その先を見ると、女の首だけが転がっていた。ああ、母さんだ。
「おと……ん、……かあ、さん、…きて、よう」
声を出せ。
蒼い光が、こちらを向く。
絶対的な恐怖を醸し出したような九の字のACが、こちらを見ていた。
こわい。
たすけて。
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけて──────
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「おい、サカキ。おい」
「あ、あぁ」
「どうした坊主。眠いのか」
「ん…、大丈夫」
古びた会議室。大きな暑苦しいテントの中で、今しがた作戦のブリーフィングが執り行われていた。どうやら寝ていたようだ。いやな夢を見たような気がするが、わざわざ考えて思い出したくもない。
「今回の作戦だがな、後方の補給基地が下位ランカーに荒らされてる。ちょっと2,3日ばかり一部の部隊をあっちに移住させて、目ぇつけてる野郎共に解らせてやりたいんだ」
40は過ぎたであろうか。力強い印象を与えられるが、老け顔に白髪と白い髭という、いかにも60代を思すような部隊の≪リーダー≫は、「そういうことで」と続けつつ、移住するパイロットを選んでいく。最後に、俺の名前も呼ばれた。
「お前が居りゃあっちはなんとかなる。頼むぞ、サカキ」
「…うん」
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『伝令。後方基地、予想以上の速度で攻撃を受けてる!』
『チィッ…。急ぐぞみな』
『了解…ッ』
「……」
オーバード・ブーストで、4機のACが砂漠を駆ける。見えてきた基地はいくつか煙が上がっており、見張りと思われるACを一機見つけた。
「アイツが」
ブーストペダルをさらに踏み込んだ。歯を食いしばりながらGを耐え抜き、出力を上げたOBでほかの3機のさらに前を行く。右腕のライフルを起動。射程外だ。ノーロック。発射。
風を裂きながら飛翔した弾頭は、かろうじて敵ACに着弾した。距離減衰が激しい。大したダメージはないようだ。
『出すぎるなよサカキ。奴らは≪ランカー≫だ』
ランカー。レイヴンズ・ネストによって管轄される傭兵、≪レイヴン≫たちを1から50までランク付けしたものである。無論レイヴンは世界中に五万といる。その中でランクに入るというのは、相応の実力があるということだ。
「…わかってる」
有効距離。奴もこちらに気づき、攻撃を仕掛けてくる。
≪メインシステム、戦闘モード、起動します≫
FCS起動。各関節にエネルギーが行き渡り、OB航行モードとは打って変わって、コンデンサのエネルギーが大幅に減り始める。OB停止、通常ブーストで進みながら、右手のライフルと、左手のマシンガンを起動し、攻撃を開始。
『オイ、敵だ!4機居るぞ!援護を!』
敵の回線を拾った。増援が来る前に、片づける!
右背のマイクロミサイルを起動し、一気に畳みかけた。後続の3機も同じく攻撃し、一瞬で敵ACは鉄屑と化した。
『チッ……ネストのAC?いや、違うな、ボロ基地の一般ピーポーか』
チャラい口調で言葉を垂らしながら、一機のACが出てきた。中両二脚、右腕マシンガン、左腕ブレード、左背にグレネードを積んでいる。強化人間か!
「チィッ」
前進。マイクロミサイルを放ち、左腕のマシンガンをばらまく。敵もマシンガンでミサイルをいくつか撃墜し、グレネードをミサイルの一機に打ち当て、近くのミサイルごとすべて起爆させた。
「くそっ」
こちらの放ったマシンガンは有効打とはならず、装甲に弾かれるばかりだ。
『出すぎるなサカキ。焦っても仕様がない』
この作戦のリーダーからの通信。同時にレーザーライフルを撃ちながら、自機の近くまで寄ってきた。
『ザコが集まろうが、この俺にゃ勝てねぇよ!』
敵機のブレード!本能が反応し、マシンガンをパージ。格納していた短距離型ブレードを展開し、敵機のレーザーを叩くように弾いた。
『がっ、コイツ!』
よろけた敵機を蹴り飛ばし、ライフルを連射する。その隙に味方機も一斉攻撃。全身穴だらけの敵機は、しまいに撤退していった。
『……ザ、…こえるか』
『東方補給基地、聞こえるか。私だ』
『ああ…ザイード。私たちはもう駄目だ…』
『おい、中で何があった』
『真っ赤なACに襲われ…そこまでは大丈夫だったのだが、壊滅寸前の基地を、さっきの二人がこれでもかと木っ端微塵に…生存者はもう……ザ……頼…ぞ』
『おい、まて、おい!』
『真っ赤なAC……どんなヤツなんでしょうね』
『…さぁな。ここは残念ながらダメみたいだ。撤収するぞ、リーダーに報告する』
『了解』『了解』
「…了解」
歪めた顔をしながら、リーダーとザイードが話し込んでいる。
「サカキ」
呼ばれて、振り返る。名前も覚えていない(かなりの人見知りだったという)男。
「ほらよ、食券だ。好きなモン食ってこい」
「え?」
「どうせ暇だろ?昼までにゃちぃと早ぇが、食えるときに食ってねえとな。お前はここのトップ戦力なんだから」
「ああ…」
当時、11歳前後の子供がトップ戦力などと、何のお笑い種だろう。
夜。就寝時間が迫るころ、基地全体に大きな声が響き渡った。
『伝令!』
見張りのACの男だ。
『第3基地が襲われた!』
災厄の、始まりだ。
基地付近は大騒ぎだった。この一帯は、もともと提携関係にあった複数の傭兵集団が固まることで、その防衛能力を高めていた基地だ。すべての基地を合わせたACの戦力は40をゆうに超えるし、腕の立つ者も大勢いた。俺たちが居るエリアが第7基地である。最初に襲われた第3基地はここから一番遠く、近くには国防軍の大規模基地、グローバル・コーテックスの支部もあり、いざとなれば互いに助け荒れるような状況にもなっていた。
『国防がネストに潰されたって!』
『だめだ、抑えきれん!』
『コーテックスはどうした!ネストはコーテックスを裏切ったのか!』
『いいからさっさと74式でも69式でもいいからよこせ!やばいんだって!』
しかし、そのほとんどは一機のACにやられてしまった、という。
『ネストは何やってんだ!』
『アークの傭兵に支援を求めろ!』
「全員聞こえるな!正体不明機を最大望遠で視認した。今はまだほかの基地で暴れまわってるみてぇだが、こっちにも来る。それ以前に、味方のピンチを助けるのが俺たちだ。…レイヴンはACに。ほかは避難の準備だ!急げ!」
「まずいな、これは」
ACに乗り込んで、ガレージから出た。眼前には巨大な煙と炎が広がっており、たびたび閃光と爆音が続いている。
「どうなってるんですか…ッ」
「サカキ、お前も逃げる準備をしておけ」
「どうして!なんで俺だけ」
声変わりも終わっていない高い声を張り上げるが、それを遮るようにザイードが早口で言った。
「国防とコーテックスの軍をたった一機でやったような奴だ。そんなところに子供のお前を生かせるわけにはいかん」
「でも、どうしろって…」
「お前、日本生まれなんだってな。近くにあるレオーネに知り合いがいる。そこに行って俺の名前をだしゃ、なんとかなる」
「でも…」
「生き残りを連れてすぐに行く。だから行け。敵さんは待っては───」
言葉が終わる前に、彼のACが爆発した。
「なっ…、っ……」
息をのんだ。立て続けに、前方に位置する2機のACが爆発した。抵抗する間もなく、一瞬で。
そして、見た。
暗闇でよく見えない筈なのに、なぜかその姿だけははっきりと捉えられた。
炎を受けて光る、禍々しいまでの深紅なボディ。蒼く光るカメラアイ。
敵。敵。オレの敵。
本能がそう告げる中で。
一目でわかった。コイツと俺は初対面じゃない。
≪敵ACを確認しました≫
なぜなら、俺の両親を殺したのは、コイツだから。
≪───ランク1、ナインボールです≫