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ss2-06(最終話) 回帰──強者ノ帰属── 初撃。6基のミサイルが飛翔した。 左腕のアトラデスを構え、先行のミサイル3基を両断。もう3基は表面で受け止める。AURAの効果はもうなく、アトラデスは簡単にへし折れた。 デッドウェイトを放り投げ、一瞬の相対に両手で柄を握り締め、袈裟斬りする──刹那、放り投げられるミサイルランチャー。 ──ハッ 嘲笑うような声と同時に、爆発が起きた。 内部の炸薬が全て起爆し、ヴァンガードを膨大な熱が襲う。 「がっ、アアッ」 ≪ヴァンガード様!≫ 上。 剣で防御態勢を取ったのは、体に染みついた癖だった。 「鈍ったか?ヴァンガードよォ」 ソーラーレーザーが照射される。緑色の閃光が一瞬でアトラデスの表面を焼き、遂には貫いた。 「クソがッ」 「俺様は戦士。お前は所詮ただの諜報員。力があっても、まるで使い方を解っちゃいない」 「黙れッ」 穴が開いたアトラデスを振り切る。その一瞬の間に、その小さな穴に、ビームブレードが突き刺さっていた。 「“お前の”力、見せてみろよ」 「チィッ」 ビームブレードを引き抜いて、最早使い物にならないアトラデスを投げた。 刃の矛先は冗談のように大きく展開された蝶の光に飲み込まれ、アビアティック自身も、空いた左手にビームブレードを握った。 気付けば雨が再び降り始める。頭が急速に冷やされ、「違和感」が現れた。 (……くそ、身体が重い) ≪失礼なこと考えないでください!≫ (そうじゃねえ、表しようが無いダルさが……ッ!) 眼前に迫る、黒い影。 慌ててビームブレードを構える。飛行速度に上乗せされた斬撃が、受け止めた腕を震わせた。 (クソ…こんなものかよ!) (もう一丁…やってやらぁ…ッ) リミッター・解除。 目の色が血のような深い赤に切り替わり、視界がクリアになる。神経が先鋭化されるにつれて、使い古された全身の感覚が薄くなっていく。 滴る雨粒が一瞬で蒸発する様な強大な熱を放ち、限界を超えた。 ≪警告。第一から第三のリミッター解除。予期せぬエラー信号(1)≫ パス。 ≪警告。第四から第八のリミッター解除。予期せぬエラー信号(2)≫ パス。 ≪警告。リミッター最終領域。予期せぬエラー信号(3)≫ パスしようとして───できなかった。 「ごばっ」 尋常ではない頭痛と嘔吐感。これでもかという程の膨大な情報と同時に、気を失いそうになる程の痛みが全身を襲った。 その中で、漆黒の「何か」が、密度と実体を以て、頭に流れ込んだ。 ≪警告。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。≫ それは、強引な手段により、彼女の身体に刻み込まれた、数え切れないほどの────、 ≪[エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー]────≫ 気が付けば、アルテミスの身体から、“投げ出されていた”。 「あ…く……」 情けない、掠れた声を発したのに気づく。 「アルテミス、は……」 「よォ」 倒れたまま回りを見ると、巨大な銃口を向けながら笑っているアビアティックが立っていた。 「お前の言う“力”も、“強者”も、こんなものか」 吐き捨てるように、言葉が続く。 「だ、まれ…」 「まぁいいがな。お前単体の力なんて、とっくの昔に見限ってる」 「“不確定要素”が入れば、それも解らんがなァ?」 「テメェ…」 「いずれは処分する個体だったんだ。これでお前の詰まらん心も元通りだよなァ!」 アビアティックの視線の先に倒れている少女に、緑色の閃光が奔る。 残ったありったけの力を込めて、飛び込んだ。 ───馬鹿野郎が。 ------------------------------------------------------ 目を開ける。見たこともない、温かさのある白い天井。 「……ここは」 左側には壁のみで、右側には幾つかの計器と機材が並んでいた。 「医療施設、か」 「ヴァンガード様!」 甲高い声を上げながら、女が慌てて入室してくる。 「アルテミス、か…」 動けていることを見て安堵しつつも、聞かずにはいられなかった。 「身体の、調子は…?」 アルテミスの頭は、二本角のままだった。装置を利用した後遺症か、あるいは。詮索する必要は、今は無い。 「なんとも、ありません…!」 涙を浮かべながら、静かに歩みよってくるアルテミス。 「助けてくれたと聞きました。有難うございます…ヴァンガード様は、英雄です」 ゆっくりと言葉を続けるアルテミスだが、ヴァンガードが目を細めながら返す。 「英雄扱いはやめろ。負け犬な俺に、その称号は重すぎる」 「でも」 「今の俺を見てみろ。ロクに身体も動かせない。今なら、お前の腰にある護身用のハンドガンで俺を撃ち殺せるんだぞ」 「それでも、貴方は“私の”英雄です」 微笑みながら、言った。 「……もう、それでいい」 照れくさいのか、目をそらして天井を見るヴァンガード。 「本当に、有難うございます。…大好きです、ヴァンガード様」 「ああ…俺もお前が大好きになっちまったよ」    [了] [[戻る>ヴァンガード編 二部]]
ss2-06(最終話) 回帰──強者ノ帰属── 初撃。6基のミサイルが飛翔した。 左腕のアトラデスを構え、先行のミサイル3基を両断。もう3基は表面で受け止める。AURAの効果はもうなく、アトラデスは簡単にへし折れた。 デッドウェイトを放り投げ、一瞬の相対に両手で柄を握り締め、袈裟斬りする──刹那、放り投げられるミサイルランチャー。 ──ハッ 嘲笑うような声と同時に、爆発が起きた。 内部の炸薬が全て起爆し、ヴァンガードを膨大な熱が襲う。 「がっ、アアッ」 ≪ヴァンガード様!≫ 上。 剣で防御態勢を取ったのは、体に染みついた癖だった。 「鈍ったか?ヴァンガードよォ」 ソーラーレーザーが照射される。緑色の閃光が一瞬でアトラデスの表面を焼き、遂には貫いた。 「クソがッ」 「俺様は戦士。お前は所詮ただの諜報員。力があっても、まるで使い方を解っちゃいない」 「黙れッ」 穴が開いたアトラデスを振り切る。その一瞬の間に、その小さな穴に、ビームブレードが突き刺さっていた。 「“お前の”力、見せてみろよ」 「チィッ」 ビームブレードを引き抜いて、最早使い物にならないアトラデスを投げた。 刃の矛先は冗談のように大きく展開された蝶の光に飲み込まれ、アビアティック自身も、空いた左手にビームブレードを握った。 気付けば雨が再び降り始める。頭が急速に冷やされ、「違和感」が現れた。 (……くそ、身体が重い) ≪失礼なこと考えないでください!≫ (そうじゃねえ、表しようが無いダルさが……ッ!) 眼前に迫る、黒い影。 慌ててビームブレードを構える。飛行速度に上乗せされた斬撃が、受け止めた腕を震わせた。 (クソ…こんなものかよ!) (もう一丁…やってやらぁ…ッ) リミッター・解除。 目の色が血のような深い赤に切り替わり、視界がクリアになる。神経が先鋭化されるにつれて、使い古された全身の感覚が薄くなっていく。 滴る雨粒が一瞬で蒸発する様な強大な熱を放ち、限界を超えた。 ≪警告。第一から第三のリミッター解除。予期せぬエラー信号(1)≫ パス。 ≪警告。第四から第八のリミッター解除。予期せぬエラー信号(2)≫ パス。 ≪警告。リミッター最終領域。予期せぬエラー信号(3)≫ パスしようとして───できなかった。 「ごばっ」 尋常ではない頭痛と嘔吐感。これでもかという程の膨大な情報と同時に、気を失いそうになる程の痛みが全身を襲った。 その中で、漆黒の「何か」が、密度と実体を以て、頭に流れ込んだ。 ≪警告。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。≫ それは、強引な手段により、彼女の身体に刻み込まれた、数え切れないほどの────、 ≪[エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー][エラー]────≫ 気が付けば、アルテミスの身体から、“投げ出されていた”。 「あ…く……」 情けない、掠れた声を発したのに気づく。 「アルテミス、は……」 「よォ」 倒れたまま回りを見ると、巨大な銃口を向けながら笑っているアビアティックが立っていた。 「お前の言う“力”も、“強者”も、こんなものか」 吐き捨てるように、言葉が続く。 「だ、まれ…」 「まぁいいがな。お前単体の力なんて、とっくの昔に見限ってる」 「“不確定要素”が入れば、それも解らんがなァ?」 「テメェ…」 「いずれは処分する個体だったんだ。これでお前の詰まらん心も元通りだよなァ!」 アビアティックの視線の先に倒れている少女に、緑色の閃光が奔る。 残ったありったけの力を込めて、飛び込んだ。 ───馬鹿野郎が。 ------------------------------------------------------ 目を開ける。見たこともない、温かさのある白い天井。 「……ここは」 左側には壁のみで、右側には幾つかの計器と機材が並んでいた。 「医療施設、か」 「ヴァンガード様!」 甲高い声を上げながら、女が慌てて入室してくる。 「アルテミス、か…」 動けていることを見て安堵しつつも、聞かずにはいられなかった。 「身体の、調子は…?」 アルテミスの頭は、二本角のままだった。装置を利用した後遺症か、あるいは。詮索する必要は、今は無い。 「なんとも、ありません…!」 涙を浮かべながら、静かに歩みよってくるアルテミス。 「助けてくれたと聞きました。有難うございます…ヴァンガード様は、英雄です」 ゆっくりと言葉を続けるアルテミスだが、ヴァンガードが目を細めながら返す。 「英雄扱いはやめろ。負け犬な俺に、その称号は重すぎる」 「でも」 「今の俺を見てみろ。ロクに身体も動かせない。今なら、お前の腰にある護身用のハンドガンで俺を撃ち殺せるんだぞ」 「それでも、貴方は“私の”英雄です」 微笑みながら、言った。 「……もう、それでいい」 照れくさいのか、目をそらして天井を見るヴァンガード。 「本当に、有難うございます。…大好きです、ヴァンガード様」 「ああ…俺もお前が大好きになっちまったよ」    [了] [[戻る>ヴァンガード編 二部]] #comment

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