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ss2-00 導入──蠢ク悪魔── 惑星シャーオック・ドルグ基地 静かに怒りを醸し出しながら、男が部下であるデルザイルの報告を聞いていた。 「で、なんだって?」 「で、ですから……回収した夜鴉が、再び奪取された、と……」 「見張りは何やってたんだ? タダで雇ってんじゃねえぞ」 「見張り人によると、侵入者は無し……夜鴉が単騎で離脱し、迎撃部隊を振りきったそうです」 「そうです、じゃねぇ。情報の精度は確かなんだろうな?」 「は、はいィッ」 全身から緊張という二文字の札を垂らしながら、デルザイルは震え続ける。 「チッ……あの試験機が逃げ出したってことは…まぁた厄介なことになりやがった」 「ヴァンガード様」 唐突に、後ろから女の声が聞こえた。 「アルテミスか。何の用だ」 声が幾分か落ち付いたのを見て、部下であるデルザイルが心の中で安堵のため息を吐く。 同時に、頬を僅かに染めながら、アルテミスが口を開いた。 「その……似合いますか、これ」 (……似合うも何も、飛行ユニットを取り付けただけだろ。しかも正面からじゃ見えねえ) だが、こうなっては面倒くさい。 「あー、似合う似合う。さっさと持ち場に戻れ」 その言葉を聞いて、安堵と恥ずかしさで急いで飛び去って行ってしまった。 (…やれやれだ) 「とりあえず、この件はなんとかする。探せ」 「は、い…? 何をですか?」 「ナイトレーヴェンに決まってんだろ。あれが敵に回ると面倒なんだよ。見つけられなかったら…解ってるな?」 目を細めながら追い詰めるように問うヴァンガード。デルザイルは再び震えだし、「はいィィッ」と言いながら部屋を出て行った。 「さて……」 玉座のような大きな椅子に座るヴァンガード、背もたれに頭を預けながら、斜め上に備えられたモニタに目を向け、独り言をつぶやいた。 「本当に、やれやれだな…」   「失礼、ヴァンガード様」 そこで、後ろから声が聞こえる。 先程とは別のデルザイルが、こちらに声をかけた。 「そろそろ会議の時間ですので、ここはお任せ下さい」 「おう、変なとこ触って不祥事起こすんじゃねえぞ」 「了解です」 ------------------------------------------------------ DF部隊会議。 惑星ポイーンでのアブストラクトの一件と、惑星デゴでの敗走から、惑星シャーオックへの本格攻撃が噂されている中、精鋭部隊であるDF隊が、ドルグ基地の会議室に集合していた。 一部欠席している者もいるが、大体の面々が顔を出している。 「───以上が現状だ。そこで、我々DF部隊は、集結を始める天使軍の動きを妨害・排除する」 お菓子に夢中な総帥・ヴァージニアに代わり、隊長であるダイムラーが説明を終える。 「連中の狙いはアビアティックなんだろう?むざむざやられるような奴でもないし、誘って潰せばいいんじゃねえのか?」 アルバトロスが意見を言う。 指名されたアビアティックは、終始無言で、目を閉じたままだ。居眠りではないようだが。 アルバトロスの言葉に、ダイムラーは首を横に振りながら答えた。 「今のところは保留だ。大まかな作戦はローランド、お前に一任する。」 「解りました」 「まだ時間はある、次の会議で、実際の作戦を決めて行こうと思う。以上だ。…マスター」 「よし、かいさーん!」 高い声が会議室にこだまし、隊員たちがせっせと退室していく。 「…? なにやってんだ、ヴァンガード」 既に殆どの隊員が退室した中、ヴァンガードは椅子に座ったまま端末を弄っている。そこに、ティーガが声をかけた。 「ん、見て解らないか? メール見てんだよ」 「手前、今がどんな状況なのか解ってんのか?」 「わーってるよ。そして、“今”俺が動いてもどうにもならないってこともな。だからこそ、俺に出来る仕事をやってんのさ」 「なんだ。女とじゃないのか」 挑発的に言うティーガだが、クカカッ、と笑い顔を歪めながら、ヴァンガードは楽しそうに言葉を続ける。 「面白いよなァ。こんな薄汚れた三流の悪党でも、名前変えて変装するだけで天使軍の一員になれるんだからよぉ」 「あぁ?」 意味が解らない、とティーガが首をかしげるが、そのまま言葉を紡ぎ続ける。 「先輩面して天使軍の下位グループを誑かしてやったら、要らねえ情報までベラベラ吐きやがってさぁ」 「何言ってんだ?」 「俺が、昔ガルドで潰した裏切り者共、覚えてっか?」 「…ああ、アビアティックを潰そうとしてた連中…」 「そ。そいつらの残党が、俺が誑かした天使軍共と手ェ組んで、率先してこっちを潰そうとしてるんだとよ」 「へぇ?」 そして、目を細めながら、最後の言葉を口にする。 「───本格的に俺らを…否。アビアティックを狙ってくるようなら…そんときは、俺やあんたの出番って訳だよ、ティーガさんや」 ------------------------------------------------------   ドルグ基地内、アビアティック・個室。 その中に、一人の男が入ってきた。 「ヴァンガードか」 部屋に入るなり、モニタを睨めつけているアビアティックが、こちらに振り向かずに言った。 「……。どうするつもりだ?アビアティック」 「どうするもこうするも、何とかするしかねェだろうがよ。よりにもよってこんな時期になァ」 「俺が掴んだ情報がある」 「あぁ?」 「取引しないか?アビアティック」 「…なに?」 アビアティックが振り返ると、ニヤリと笑ったヴァンガードが、ドルグ部隊旗を背中に取り付けていた。 [[戻る>ヴァンガード編 二部]] [[NEXT>ss2-02 奇襲──夜ノ砂漠ニ煌メク者──]]
ss2-01 導入──蠢ク悪魔── 惑星シャーオック・ドルグ基地 静かに怒りを醸し出しながら、男が部下であるデルザイルの報告を聞いていた。 「で、なんだって?」 「で、ですから……回収した夜鴉が、再び奪取された、と……」 「見張りは何やってたんだ? タダで雇ってんじゃねえぞ」 「見張り人によると、侵入者は無し……夜鴉が単騎で離脱し、迎撃部隊を振りきったそうです」 「そうです、じゃねぇ。情報の精度は確かなんだろうな?」 「は、はいィッ」 全身から緊張という二文字の札を垂らしながら、デルザイルは震え続ける。 「チッ……あの試験機が逃げ出したってことは…まぁた厄介なことになりやがった」 「ヴァンガード様」 唐突に、後ろから女の声が聞こえた。 「アルテミスか。何の用だ」 声が幾分か落ち付いたのを見て、部下であるデルザイルが心の中で安堵のため息を吐く。 同時に、頬を僅かに染めながら、アルテミスが口を開いた。 「その……似合いますか、これ」 (……似合うも何も、飛行ユニットを取り付けただけだろ。しかも正面からじゃ見えねえ) だが、こうなっては面倒くさい。 「あー、似合う似合う。さっさと持ち場に戻れ」 その言葉を聞いて、安堵と恥ずかしさで急いで飛び去って行ってしまった。 (…やれやれだ) 「とりあえず、この件はなんとかする。探せ」 「は、い…? 何をですか?」 「ナイトレーヴェンに決まってんだろ。あれが敵に回ると面倒なんだよ。見つけられなかったら…解ってるな?」 目を細めながら追い詰めるように問うヴァンガード。デルザイルは再び震えだし、「はいィィッ」と言いながら部屋を出て行った。 「さて……」 玉座のような大きな椅子に座るヴァンガード、背もたれに頭を預けながら、斜め上に備えられたモニタに目を向け、独り言をつぶやいた。 「本当に、やれやれだな…」   「失礼、ヴァンガード様」 そこで、後ろから声が聞こえる。 先程とは別のデルザイルが、こちらに声をかけた。 「そろそろ会議の時間ですので、ここはお任せ下さい」 「おう、変なとこ触って不祥事起こすんじゃねえぞ」 「了解です」 ------------------------------------------------------ DF部隊会議。 惑星ポイーンでのアブストラクトの一件と、惑星デゴでの敗走から、惑星シャーオックへの本格攻撃が噂されている中、精鋭部隊であるDF隊が、ドルグ基地の会議室に集合していた。 一部欠席している者もいるが、大体の面々が顔を出している。 「───以上が現状だ。そこで、我々DF部隊は、集結を始める天使軍の動きを妨害・排除する」 お菓子に夢中な総帥・ヴァージニアに代わり、隊長であるダイムラーが説明を終える。 「連中の狙いはアビアティックなんだろう?むざむざやられるような奴でもないし、誘って潰せばいいんじゃねえのか?」 アルバトロスが意見を言う。 指名されたアビアティックは、終始無言で、目を閉じたままだ。居眠りではないようだが。 アルバトロスの言葉に、ダイムラーは首を横に振りながら答えた。 「今のところは保留だ。大まかな作戦はローランド、お前に一任する。」 「解りました」 「まだ時間はある、次の会議で、実際の作戦を決めて行こうと思う。以上だ。…マスター」 「よし、かいさーん!」 高い声が会議室にこだまし、隊員たちがせっせと退室していく。 「…? なにやってんだ、ヴァンガード」 既に殆どの隊員が退室した中、ヴァンガードは椅子に座ったまま端末を弄っている。そこに、ティーガが声をかけた。 「ん、見て解らないか? メール見てんだよ」 「手前、今がどんな状況なのか解ってんのか?」 「わーってるよ。そして、“今”俺が動いてもどうにもならないってこともな。だからこそ、俺に出来る仕事をやってんのさ」 「なんだ。女とじゃないのか」 挑発的に言うティーガだが、クカカッ、と笑い顔を歪めながら、ヴァンガードは楽しそうに言葉を続ける。 「面白いよなァ。こんな薄汚れた三流の悪党でも、名前変えて変装するだけで天使軍の一員になれるんだからよぉ」 「あぁ?」 意味が解らない、とティーガが首をかしげるが、そのまま言葉を紡ぎ続ける。 「先輩面して天使軍の下位グループを誑かしてやったら、要らねえ情報までベラベラ吐きやがってさぁ」 「何言ってんだ?」 「俺が、昔ガルドで潰した裏切り者共、覚えてっか?」 「…ああ、アビアティックを潰そうとしてた連中…」 「そ。そいつらの残党が、俺が誑かした天使軍共と手ェ組んで、率先してこっちを潰そうとしてるんだとよ」 「へぇ?」 そして、目を細めながら、最後の言葉を口にする。 「───本格的に俺らを…否。アビアティックを狙ってくるようなら…そんときは、俺やあんたの出番って訳だよ、ティーガさんや」 ------------------------------------------------------   ドルグ基地内、アビアティック・個室。 その中に、一人の男が入ってきた。 「ヴァンガードか」 部屋に入るなり、モニタを睨めつけているアビアティックが、こちらに振り向かずに言った。 「……。どうするつもりだ?アビアティック」 「どうするもこうするも、何とかするしかねェだろうがよ。よりにもよってこんな時期になァ」 「俺が掴んだ情報がある」 「あぁ?」 「取引しないか?アビアティック」 「…なに?」 アビアティックが振り返ると、ニヤリと笑ったヴァンガードが、ドルグ部隊旗を背中に取り付けていた。 [[戻る>ヴァンガード編 二部]] [[NEXT>ss2-02 奇襲──夜ノ砂漠ニ煌メク者──]]

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