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12月も16日と中旬に入り、亜寒帯のシルム山地帯は最も寒い時期に突入しようとしている。

そして話は30分前に遡る。
午前10時23分、管制塔にて国籍不明機が確認された。
数分でフライトプラン未提出のノースポイント州防空軍所属の航空機だと判明したのだが・・・。
管制塔からの呼び掛けに対して反応が無く、更に飛行進路までもが不審であった。
写真撮影及び機体確認のためにスクランブル発進をすることになったスカイフィッシュ隊。
国籍不明機の数は約20もあり、基地は念のためAWACSまで寄越してきたようだ。

『こちらAWACS。スカイフィッシュ隊、目標まで15km。目標は速度400ノットだ』
「了解スカイフィッシュ1、それにしても20機も国籍不明機なんて・・・」
離陸してからの疑問を回線に投げかけると、アルフレッドが『最近はそういう不届き者が多いんだろう』と返してきた。
「ん?あれはなんだ?」
キャノピー越しに、米粒以下の大きさの黒点がいくつかとそれよりある程度大きい黒い物体が見える。
あれが目標だろう。レーダーを見て敵を確かめた。
『全隊へ告ぐ。国籍不明機は3機のB-52爆撃機と、その周りに17機のF/A-18Eだ。オーシア軍のか・・・?』
「スカイフィッシュ1、これより目標の写真撮影及び意図の確認に向かいます」

シナムの声に反応してカリスト、ヘック、アルフレッドの順でフォーメーションチェンジ。
デルタと呼ばれる三角形の編隊から、実戦的とされるフィンガーチップの隊形へと動いた。

驚くことに、20機の航空機たちは3機の大きな爆撃機とみっちり寄り添うような形で飛んでいる。
あんな飛び方をすると攻撃の際の回避行動が面倒なはずなのだが。
スカイフィッシュ隊が接近し、写真撮影を行おうとしている時の彼らは微動だにせず一直線に飛んでいた。
「こちらオーシア連邦、シルム山基地所属のスカイフィッシュ隊だ。所属と部隊名、及び飛行の意図を伝えよ」

「・・・こちらオーシア連邦、シルム山基地所属のスカイフィッシュ隊。所属、部隊名、飛行の目的を伝えよ」

二度の呼びかけに対して、彼らは無線の1つも返して来なかった。笑える話だ、同軍のくせに。
そこに、AWACS(ミッドナイトアイ)からの指示が来た。
『応答が無いな。部隊の動きに合わせて周囲を飛行し、写真撮影を行え。一人3枚だ』
了解したと返し、「カリストとヘックは左側から、アルフレッドは自分に付いて右側からの撮影を行います」と部隊を動かす。
フィンガーチップを崩した自分達は携行していたカメラを取り出し、機体を彼らの進路に合わせて固定。
そしてカメラで入念に撮影した。特に、B-52を。
だがその時。ヘックの声が回線に響いた。
『F/A-18Eの1機が編隊から離脱、引き続き監視します』
隊列を崩したスーパーホーネットだが、更にそれに連動するかのようにB-52の取り巻きであった機体達は大空へと散らばった。
雪山を眼下に、散開した取り巻き達を回避するために動いたシナム達。

事態を把握するために周囲を見回していた俺は、模擬戦でも聞き慣れたロックオンアラートが機内に鳴り響いているのに気付いた。
『ミッドナイトアイ、国籍不明機からの攻撃を受けた!交戦許可を要請する!』とアルフレッドの叫び声が聞こえる。
機体の出力を最大限に絞って、更にエアブレーキを展開した俺は急旋回へと移行した。
だが、その回避行動を困難にさせるかのように動く敵機達。避けた俺の行き先を制御する目的なのだろう。
鳴り続けるロックオンアラートから流石に恐怖も溢れたが、直後に入り込んだ無線に意識がはっきりとした。
『こちらAWACS。交戦を許可する。繰り返す、交戦を許可する。撃墜されるなよ』
「・・・了解!!」

肩凝りを感じながらも首をぐるりと回して周囲の敵を確認し、再び急旋回を行った。
狙うは──あれだ!
1機、散らばって動くハエの群れの中から外れている機体がいる。
この際、体当たりする勢いで突っ込む。多少は相手側の牽制もできるだろう。
シナムはF-15SEにアフターバーナーをかけさせ、機体を加速させた。
HMD上に表示される視界内の敵の数は3、右端に映っている奴が単機行動をしている。
『スカイフィッシュ3、フォックスツー!』
早速ヘックのミサイル発射のサインが聞こえる。あの大きな機体を上手く制御できてる証か。

しかしその刹那、機体側面から機銃の発砲音が「ヴォォォォォォォ」と響いた。
被弾した、そう思う寸前に機体をバレルロールさせたシナムは更に一度のループの後、再び単機で行動している敵に照準を合わせる。
響くロックオンアラート中に、微かに入るロックオン完了の音に合わせて『スカイフィッシュ1、フォックスツー!』と俺は叫んだ。
たちまちF-15SEのウェポンベイからAIM-9近距離ミサイルは飛び立っていった。だがその撃墜の戦果を見ることなく急旋回する。
爆発音で撃墜できた、と判断した後、目まぐるしく交差して飛ぶ飛行機達から獲物を探した。

『誰か援護を頼む、しつこい奴がケツに2匹もいる!』
AFの救助要請に向かおうとしたが、そうはさせまいと動く敵機。
しかしカリストの『待ってろアルフレッド!』という声でその必要はない、と考え、再び真上をすれ違った運の悪いF/A-18Eを追い始めた。
あろうことか彼のSu-35は機体を故意にスピンさせ、その回転に任せて機銃掃射をしている。どんなテクニックだか・・・。
ちらほらと鳴るロックオンアラートには一切耳をかさず、スプリットSで敵の腹を捉える。
操縦桿の握る手で機銃を撃ち、2機目を撃墜。煙を吹きながら堕ちるF/A-18Eをスレスレで交わしたシナムはそこから5機、6機と撃墜した。

最後にアルフレッドが「フォックススリー!!」と叫び、先ほどまで空を埋め尽くしていたF/A-18Eは1機も空から消えた。

「残るはあのB-52だな・・・」

そうシナムが言った時だった。

『・・・オーシア及びユークトバニアを始めとする連合国家に告ぐ』
いきなり回線に聞いたこともない男の声と、政治の臭さが見られる言葉が入ってきた。
勿論AWACS側も事態を把握していないらしく、『これはどういう事だ?』とAWACSミッドナイトアイも言っている。
『我々はベルカ公国を復活させ、連合国の魔の手より祖国を救済すべく行動へと出る』
『我々の名は──』

何かのイタズラか。それにしては規模が大きいのだが。

『ベルカの騎士団、だ。』
『まず最初に、連合国家の豚共が蔓延るオーシア国際軍需展を火の海とする。』
オーシアの都市、シンヒハマ市。シルム山基地から最も近い都市であり、今月の25日に連合国向けの軍事企業の展覧会が行われる。
彼らはそれを狙っているのだろう。本当でも嘘でも、間違いなく警備強化がなされるはずだ。




  • 2


基地に帰還し、癒しの女性管制官の声で誘導された後に部隊の部屋へと戻った。
自分達のベッドの脇にある棚から、カリストが拳銃を取り出す様を見た俺は「そんな物騒な物しまうべきだろう」と言う。
しかしカリストは『さっきの無線で言ってた、オーシア国際軍需展。あれに俺の知り合いの企業が出展するんだよ』と呟いてきた。

話を聞けば彼の拳銃はその知り合いの社長の所で作られたパイロット向きの護身用拳銃らしく、以前再会した時にタダで受け取ったという。
この会話を聞いていたヘック。
『そういえばそうでしたね。けど、ベルカの騎士団・・・とか言ったっけ。あれはなんなんでしょう?』
彼女の声には何か違和感を感じているようなものが感じ取れる。
そこに俺に次いで入室してきたAFは『ベルカの騎士団。昔のちょっとした神話みたいなのに出てくる、騎士達の事だな』と言った。
よっこいしょ、とベッドに腰を降ろした彼はそのまま続ける。
『簡単に言うと、ベルカの地下に住む化け物を果敢に倒したって話だ。ラーズグリーズとかに並んで、奥深い話だぞ』

「となると、今回の騎士団様はなんで地下じゃなく他の国に挑む?」
『ベルカは世界の頂点とでも思ってるんだろう』
AFに続いたカリストも、『なんか面倒な事になりそうだ』と呟く。
もちろんヘックは『どうせ軍のお偉い様がノースポイント防空軍でどうにかしてくれますよ』と皮肉を言った。
ノースポイント防空軍はオーシアの中でも大きな組織を作っているようなものだが、練度がお世辞にも高くない。
この前の交流模擬戦でも、彼らはヘックの操るSu-37に4分で撃墜されてしまうほど。
こんな辺鄙な地に配備されたパイロットに負けてしまうのだから、ノースポイント防空軍の気持ちは察してやりたい気分である。
『まぁそうなるだろうな。奴らもカリストの言う通りだ』
AFの言葉に頷いたヘックは、首にかけていたヘッドホンを耳に掛けてベッドに潜る。
「考えても仕方ない。どうせここらは平和なんだしな」

『でも・・・待てよ、もし本当だとしたら?』
そう呟いたのは、カリストだった。
『確かあの展覧会にはユークトバニアを始めとした連合各国の企業や軍関係者が来る』
「そこを狙ったら、連合国には少なからず衝撃は走る・・・と」
シナムは同調するかのようにカリストに続く。
「確か25日は自分達が展示飛行する日じゃないっけ?」
『その通りだ。ひょっとしたらのんびり飛ぶ訳にはいかんかもしれん』


カリストのその言葉を最後に、一同は就寝した。
最終更新:2013年05月15日 18:29