ノーマルの廃止が決まり、過去の遺物であるとも言う新型?と思しきACを手に入れた私達は、とりあえず地下に滞在していた。時を待っていたのだ。
彼──ゼプトロヌスから連絡を受け、集合場所である店に入った。
カラン、と音が鳴り、近くのテーブルで注文を承っていた女性店員が「いらっしゃいませ」と声をかけてきた。
私は猫背気味にカウンター席の前でグラスを眺めている男を見つけ、安心した。慣れない店に、少し緊張していたようだ。
額の汗を拭きながら、彼の隣の席に座った。
中々に反発性の低いイスに、思った以上にどっさりと腰を降ろす。
「…やっと来たか」
少し赤い顔を見せながら、グラスに残っていた飲料を一気に飲み干す彼。
「注文は」
マスターと思しき男が、背を向けたまま聞いてきた。一瞬誰が喋ったのか解らないが、とりあえず喉も乾いていたところなので、メニューを見ずに答えた。
「じゃあ、ミルクティーを」
そう返した私に、マスターが振り返りながら言葉を返す。
「ここが喫茶店に見えるのか。バーに来たら酒を飲め」
「手厳しいな」
苦笑しつつも、どうするかと迷っていると、隣の彼が代弁しだした。
「テキーラを」
「待ってくれ、私は」
そう、私は酒を飲めないのである。
「しゃあねぇな。ほら、ミルクティーだ」
乱暴に置かれたコップを苦笑しながら掴み、口へ運ぼうとした時、ゼプトロヌスが話しかけてきた。
「で、どうでぇ、首尾は」
「だめだ。チームに入ってくれそうな人材は居ない」
「へん、どうせ女の尻しか見てなかったんだろう」
「お前な……。いや、いい」
「んじゃ、俺も探しに行ってやるよ」
「……」
「ンだよその反応は」
「いや、それはいい。私が探す」
「そうかい…。んじゃ賭けるか」
「何を賭けるんだ?」
「金だよ金。おめぇがまぁ連れてきたら、まぁそうだな。50万Auでいいだろ」
「高いな。本当か?」
「代わりに、まぁ俺も暫くぶらぶらに行く。」
「よし、いいだろう」
「ただし」
「ん?」
「おめぇが連れて来れなかったら、こっちに100万だ」
「…そういう魂胆か」
「まぁ、誰か連れてくりゃいい話だ。マスター、勘定」
「あいよ」
「…いいだろう」
「言ったな? 覚えとくぞ」
「…ふぅ」
彼が店を出て、一息ついた。すると、目の前にグラスが置かれた。
「これは?」
「あんだけデカい交渉に乗ったんだ。奢りだよ」
グラスの中には、アルコール度数が冗談のように高い酒が置かれていた。
「こんぐらい飲んで見せろや。傭兵さんよ」
「はは…手厳しいな」
最終更新:2012年03月23日 19:18