ss-08 覚醒──二人ノ女神ヲ前ニシテ──

突撃したアルテミス、左腕のショットガンで牽制・弾幕を張りつつ、横から近づいて斬りつけようとする。

ブレードを振り下ろすが、其処に敵機は居ない。

「え…? ッッ」

急いで跳び引くと、目の前に蒼白い閃光が奔った。

(肩にある推進装置で交わしたのね…)

再びガトリングによる嵐のような攻撃が来るが、素早い動きで交わしながら、一気に距離を詰める。

「フルスロットルで…ッ」

輝かしい光を放ちながら、背部に格納された翼が展開。同時に、肩部の装甲も展開し、中から黄色いユニットが露出する。

更に機動性能を底上げしたアルテミスは、その勢いのままビームブレードで切りつける。

「フン…」

身体を捻るだけでやり過ごすナイトレーヴェン。ロボ一体分の距離、ナイトレーヴェンが足でアルテミスを蹴り飛ばした。

「きゃっ…!」

(やっぱり、駄目なの…?)

姿勢制御をしながら、迫りくるであろう陽電子砲を避けるため、勢いを利用しながら右に高速でずれる。

一直線の射線上から避け、再び蒼白い閃光と轟音が木霊した。

「やって、みせる…!」

AURA時間、残り20秒。




(やはり、厳しいか…?)

二人の戦闘地域から離れた地点で見守るヴァンガード。

「試運転に来たのがいきなり本番とはな……。あいつは……」

ヴォルクトも、ヴァンガードとは反対側の遠い地域で見守っているようだ。

「今のうちに攻撃仕掛ける、なんて根性はねえか」

再び、視線を二人に戻した。



AURA時間、残り20秒。

赤い噴射炎を後ろから出しながら、突撃するタイミングを窺う。

(落ちつけ……ヴァンガード様が見守ってくれてるんだ)

平行移動で牽制し合っていたが、直後にアルテミスが垂直に突撃する。

「喰らえ…ッ」

ブレードを振り上げる。

しかしそれを振り下ろさず、構えていたショットガンのトリガーを引いた。

ドゴォ、と炸裂音が鳴り響き、複数の弾がナイトレーヴェンを襲う。

「グッ」

数発を当てるが、決定打にはなっていない。

「俺の身体に、傷を…貴様ァ!」

ある程度距離を取ったアルテミスだが、敵が急速に接近している。

(変形…してる…?)

頭部が前面にせり出し、胴体と一体化している。両腕のエアインテークから空気を取り入れ、推進剤と同時に鋭利な機体がひたすら前へ進む。

(かわさ、無いと…ッ)

AURAの機動性でなんとか避けきるが、敵は瞬時に振り返り、ガトリングと陽電子砲の同時発射で攻めてくる。

「くぅっ…」

AURA時間、残り10秒。



AURAの発動から、機動性は上がっているが、やっと同じ土台に立ったようなものだ。

夜鴉の性能は、ヴァンガード自身が一番よく理解していた。

(あと15秒ってとこか…やっぱり…いや)

(今は信じてやるんだったな)

もしもの為にゲートを持ってきているが、回収するにはある程度近づかないといけない。

(なんとか、頑張ってくれよ…アルテミス)



AURA時間、残り10秒。

防戦に追い込まれたアルテミス、致命傷となる攻撃だけを避け、あとは体をひねり、装甲を斜めの形にして受け流す。

「くっ…うぅ……」

AURAの限界が近い。このままだと…

「これで終わりだ、堕ちろ」

再び変形し、高速移動状態で両腕の銃を乱射してくる。

紙一重で避け、互に振り返って牽制を続ける。

「なんとか…ヴァンガード様を守るために……」

≪アルテミス≫

(え…?)

直後、頭の中に声が響いてきた。

≪私です、アルテミス≫

(誰…?)

≪私の名前は、アストラエア。私が、貴女と、ヴァンガード様をお守りします≫

(アスト、ラエア……ッ)

AURA時間、限界。

「くっ…!」

ガトリングと陽電子砲の攻撃は続いている。

このままだと、負ける。

≪落ち着いてください、アルテミス。私の思考パターンと連動してください≫

(思考パターンと、連動…?そんな事…)

≪出来ます、ヴァンガード様を想ってください、それだけで…≫

(ヴァンガード…様……)

一瞬だけ、目を閉じる。

次に開いた時、世界が変わって見えた。

≪データ照合確認≫

≪人工知能AI、アルテミスと、同じく、アストラエア、思考パターンを連動≫

≪連動率87%。情報処理の為、アストラエアの稼働率を37%に固定≫

≪精神状態安定、リミッター、解除≫

「────」



「なにを、やってる…?」

アルテミスの様子がおかしい。

AURAが遂に停止した。やはり、無理なのか?

アルテミスが一瞬だけ目を閉じたのが見える。

次に目を開けた時───

彼女の瞳───否、全身のライトが、赤く、紅く、発光した。



内側から力が溢れてくる。

アルテミスの、黄色と水色の部分が、深い、深い紅の色で発光しだした。

同時に、限界だったAURAが、チャージもせずに再起動した。

≪二人分の力を合わせれば、奴を倒せます≫

背中から、腕から、紅い光だけが放たれ、頭部の複眼の発光も、一つ一つ、紅色に切り替わっていく。

『────』

「なん、だ…?」

その異様さから、ナイトレーヴェンも手を止めていた。

「俺は今、何を見ている……?」

目の前の、まるで女神が舞い降りたようなそれは、全身から紅い光を放ち、異様な雰囲気だけを放っている。

同時に、言葉を発した。

『───目 標 ノ 殲 滅 ヲ 最 優 先 ト ス ル───』

二人分の女の合成音が、戦場を支配した。

最終更新:2011年12月07日 17:30