ss-07 夜鴉≪ナイトレーヴェン≫
「これで、終わりか……」
暗いメタイヤ古戦場の中、漂う炎が、灰色のロボを煌めつかせる。
周囲には、40体近くの天使軍ロボが転がっており、射程外からの陽電子砲によって、その大多数が撃破され、混乱に乗じて全滅した。
「奴は、逃げたのか……」
「お、まえは…」
「む」
まだ生きていたのか、倒れているビクトリーが顔と手をこちらに向けている。
「お前は、何者…がふ」
「……」
「目標の殲滅を確認、帰還する」
「結局、奴は逃げ切ったか…」
ラムタ村に切り開かれた小さな施設内。
「取り巻きと思われるロボ40機近くを撃破しました」
「まあ、奴の部下かは知らんが、邪魔者を排除できたのはよかったことだ」
「はい」
録音されたテープの音声を吐きだすような機械音で喋る灰色のロボ──ナイトレーヴェン。
彼は、もともとヴァンガードの施設で作らる筈だった決戦兵器であり、その性能は、アストラエアの数倍以上であった。
しかし今は不在中に設計図と機材を強奪され、悪魔軍を潰すために行動する男…シェイデン=ヴォルクトの配下として、忠実なる戦闘兵へと化けさせられてしまっていた。
「とにかく、奴の動向を探ろう。いざって時はゲート何かを使って逃げ出す奴だ。見つけたら逃げる暇もなく潰してやらなければ」
話しながらラムタ村を抜け、西に移動を始める二人。
「了解です、マスター」
「ポイーンに居る可能性は低いが、一応探してみないと解らないな…ん?」
メタイヤ古戦場まで移動したあたりで、中央にロボが見えるのが解る。
「誰だ…?」
白と赤の配色、中型の脚部にバランスが整いつつ、なお且つ機動性能と防御性能を両立したような機体。
「データ照合…ヴァンガード私兵器、アストラエアと74%以上の一致」
「ふむ、アイツの手下か。…やれ」
「了解、マスター」
左腕の陽電子砲を振り上げ、その銃身から光が漏れだし、前方のロボを襲う───。
「どこに行くんですか?ヴァンガード様」
「ポイーンだ。ちょっと潰し損ねた奴がいるからな」
「それの相手を、私が?」
「そうだ。なんか不満か」
「いえ、ヴァンガード様の為なら…」
頬を染めながら答えるアルテミス。だが、前方を向いているヴァンガードには見えていない。
「ほら、ゲートだ。遅れるなよ」
二人が青い光に包まれ、ポイーンへ跳んだ。
「ん、此処は……」
アストラエアの時、初めてポイーンを見たときと同じような反応を示すアルテミス。
「ポイーンのメタイヤ古戦場だ。時間が合いさえすりゃ、灰色のロボが来る筈だ。そいつに仕掛けてくれ」
「了解です」
右腕のビームブレードを強く握り、左腕はシールドを前に防御姿勢で待機するアルテミス。
「俺は離れて見てる。危なくなったら回収して逃げるから安心しろ」
「わかりました、ヴァンガード様」
「っと…来やがったかな、んじゃ頼むぞ」
「……あれが」
敵もこちらに気付いたのか、灰色のロボの方が、左腕をこちらに突きだしてきた。
「ッ」
同時に、閃光と轟音がアルテミスを襲う。が、先に動いていたアルテミスは簡単に避けて見せ、左腕のレイドライフルを見舞う。
ドドドドッ、と4発連続で放たれた弾だが、大きさとは裏腹に、鳥のように軽快な動きで避ける敵機。
(接近戦…)
背部のブースタをフルスロットルで吹かし、赤い炎を煌めかせながら突撃するアルテミス。
相手がそれに呼応するように、右腕のガトリングに変更して、引きながら撃ってくる。
それを最小限の機動で交わしつつ、両腕のガトリングと左腕のライフルを一斉発射。
発射された複数の弾は、弾と弾の境目に身体をひねりながら跳び込ませ、簡単に避けてしまう。
「ッ…」
ショートレンジ。右腕のブレードを振り上げ、一気に振り下ろそうとするが───。
敵の反応の方が、数瞬早かった。
左腕から強烈な閃光が奔り、右腕をシールドごと肩からごっそり吹き飛ばす。
「ああ…ッ」
痛みを我慢しながら、ライフルで引き撃ちを始める。
(強すぎる…?)
襲ってくるガトリングをシールドで防ぐが、既に弾痕だらけであり、いつ装甲を突破されるか解らない。
(ヴァンガード様……)
同時に、機体が青い光で包まれ始める。
「…え?」
数秒としないうちに、何処かへ飛ばされた。
「大丈夫か?」
そんな声が聞こえたのは、暗い施設の中だった。
「あ……」
「余りに劣勢だったからな。すまなかった」
「いいんです、ヴァンガード様は悪くありません。私が──」
「いや……」
どこか申し訳なさそうに、ヴァンガードは話し出した。
「あの灰色のロボ───ナイトレーヴェンを設計しようとしたのは、俺なんだ」
「え…?」
「対不安因子用決戦兵器。従来のロボじゃ撃破出来ないほどの戦闘能力を有した兵器。そんなコンセプトから生まれたのが、アレだ」
「お前には重荷だった。すまない」
「ヴァンガード様…いっ」
そこで、右腕が無いままの事を思い出した。
「お前の腕も、何とかしないとな…来い」
「い、いえ、私は……」
「片腕だけで生きていきたいのか? いいから付いてこい」
「わかり、ました」
研究施設の奥地で、再び改修が始められる。
「治るまで眠ってろよ」
「はい……、zzz」
無痛注射器が利いたのを確認すると、部下のデルザイルに声をかける。
「AURA試験用パーツを出せ」
「いや、しかし、あのパーツは…」
「もう予備もない。AURA機構を最大限に発揮する為にも、アレの方が効率がいい」
「…解りました」
(アイツ…ヴォルクトっつったか…。まさか夜鴉を機材ごと持ってくたァな……)
急ピッチで行われた改修作業は、たった数時間で終了した。
ヴァンガードが常に横にいたので、カプセルを持ち出されることはなかった。
「これで、いいんですか?」
新調した両腕を見ながら嬉しさを見せるアルテミス。
「AURAと同調して機能を発揮する機構がある。AURAの有能性が引き延ばされた、ってトコだな」
「なるほど!」
心なしかテンションが上がっている気がしなくもないが、ヴァンガードは考えないことにする。
(……さて)
(いくら強化をしてもAURAを使っても、アイツへの勝率は半分に満たないが…どうしたものか)
「これで、あの灰色のロボにも勝てますね!」
意気込むアルテミスだが、ヴァンガードは少し不安だった。
「…ああ」
「とにかく、試運転に行くか」
「え?」
「“試運転”だよ。……つまらねえ馬鹿共を潰しに行く」
「? 了解です?」
ガコン、という音と共に、一人のデルゴンが怖気づいたように倒れる。
惑星、ガルド。
広大な砂漠を切り開いて作られた天使軍の一つの拠点惑星である。
そんな中、数人の悪魔軍が、砂漠で冷たい戦闘を繰り広げていた。
「か、かかか、勘弁してくれ! お、お前、DF隊のやつ、だろう、な、仲間を裏切るのかよ!?」
抗議するように叫ぶデルゴンだが、その声に「ハッ」と笑いながら、ヴァンガードは返した。
「先に裏切ったのは手前らだろうがよ。“アビアティックもちょろいもんだ”だと? クハハッ、嗤わせるな。その部下に“してやられてる”ようじゃ、アビアティックを裏から潰そうなんてこたぁ出来ねえよ」
彼は、アビアティック一派を不審に思い、裏から攻撃を仕掛けてDF隊の機能を乗っ取ろうとした中級悪魔のデルゴンである。
すると、ヴァンガードは無線を取り出し、デルゴンの目の前に突き出す
「…へ?」
「呼べよ」
「え、え…」
「仲間ァ呼べっつってんだ。そしたらお前は見逃してやる。懲りただろうしな」
なんだ、簡単じゃないか、とデルゴンが思いながら、心の中で、切り捨てる友人を簡単に選び出す。
「よ、呼びました。じゃ、俺は…」
「まだだ」
「へ…?」
「本当に来るか解んねえからな。おい、見張ってろ」
「ハッ」
3人のデルザイルが、尻もちをついているデルゴンを囲う。
「……おい、アルテミス」
「はい?」
デルゴンから離れた地点で様子を見ていたアルテミスに歩み寄り、声をかける。
「アイツに仲間を呼ばせた。お仲間が来たら、そこに座ってる方のデルゴンを仕留めてくれ」
「え? いいんですか?」
「ああ。何するか解ったもんじゃねえからな」
「き、来ました!」
大型だけに、遠くの物を察知したデルゴンが大きな声を上げた。
「じゃ、じゃあ俺は…」
とデルゴンが言うと同時に、ドォン!と轟音が鳴り響いた。
「ぐえェッ?」
デルゴンの正面装甲に散弾された無数の弾丸が突き刺さり、一気にその機能を奪い取った。
「おい、こんなところに……、なんだ、お前等!」
無数の弾が突き刺さったデルゴン、それを囲い込む3人のデルザイル、更にそれにショットガンを突き付ける大きな白と赤のロボ。更に──その中央に陣取る、黒と紫のデルファイター。
“彼らが始末しようとした”、アビアティックの一派であった。
「ひっ、てめえ、何をたくらんでやが───がぁッ!?」
喋り出すデルゴンに、レーザードプラズマが突き付けられる。
(あの現場を見せちまった以上、さっきの作戦は通じねえか)
「手前らのお仲間さんさァ、何処に居るのかな?」
いつもとは違う口調で語りかけるヴァンガード。
「そ、そんなこと言うわけ…あがっ」
開いた口に銃を突きこまれ、遂に恐怖で動けなくなるデルゴン。
「このままレーザーで焼かれるか、それとも仲間の居場所を吐くか、どっちなんだ?」
この場合、仲間の居場所を吐いても潰されるのだが───。
既に、このデルゴンにそんな事を考える余裕はなかった。
「ひっ、こ、こっから東に行ったちいせえ基地に、み、みんな集まってる筈───」
場所を吐いた所で、強大な熱量のレーザーが放たれ、デルゴンを一瞬で焼き上げた。
「これで、邪魔者は殆ど消せるか?」
「随分なことをしているじゃないか」
裏切り者の処理が捗り少し油断したヴァンガードに、後から声をかけられた。
「ッ…」
跳び引くと同時に振り返ると、黒と白の長身ロボ──シェイデン=ヴォルクトと、その隣には、同じような大きさの灰色のロボ──ナイトレーヴェンが構えていた。
「…チッ」
(このタイミングでか……)
「おい、お前等、増援呼んでさっきの奴ら潰しに行け」
「ヴァ、ヴァンガード様は…?」
二人の異様な雰囲気に怖気づきながら、デルザイルの一人が言葉を返す。
「俺は、コイツらを潰してから行く」
「随分余裕だね。隣のこいつがどれだけ厄介な存在か、君自身が良く解ってるんじゃないか?」
「そういうオマエは、コイツがどんな存在か知らねえだろうがよ」
言葉と同時に、アルテミスが構える。
「ふん、以前やられて逃げたような奴で、コイツに───ナイトレーヴェンにかなうと思うのかい」
「悪ぃが、俺らは“手前等が思っている程”馬鹿な奴らじゃねえんでな。行け!」
命令から一瞬、アルテミスが突撃する。
「捻りつぶしてやれ」
一方、ヴォルクトの指示と同時に、ナイトレーヴェンも駆けだした。
最終更新:2011年12月07日 17:27