ss-04 情報──操リ糸──

少し歩いた所、魔境の茂みの中。

(そろそろ、アビアティックが作戦を展開している頃か…)

先程の白い施設の方が少し騒がしくなっている。

(グリーマンの野郎は…この奥か)

開けた場所、30人を超える天使軍ロボが何やら話しこんでおり、その中央には先程の通信相手、シュトルバンガー=グリーマンが居る。

「グリーマン閣下」

「ッ…。到着したか、アーヴァン」

突然声をかけられ、グリーマン本人と周囲の天使軍ロボが身構えるが、声と姿からアーヴァンだと理解できたらしい。

「はい」

「今回は大いに感謝、だな。アブストラクトの情報提供、感謝しよう。お陰で、あの男と取引することが出来たのだからな」

「いえいえ、貴方の功績は、いずれ天使軍の為となるでしょう。その時にでも、精一杯お礼を頂くことにしますよ」

「グリーマン様、準備を」

隣にいた天使軍ロボ、パラボロイドが、グリーマンに話しかける。

「ああ、そうだな。アーヴァン、早速で悪いが、デモンズゲートの調整、頼めるか?」

「了解しました」

広場の奥に設置してある、巨大なゲート。

その隣にある機械に、データを挿入して行く。

(転送先は、シャーオックだったか。アビアティックは上手くいっているんだろうな…?)

心の中で考えながら、あくまで精確に数値を打ち込んでいく。

「よし、と……。これで、シャーオックへ転送できます」

「そうか。よし、我々も巡洋艦の準備だ。頼むぞ」

「了解しました」

先程のパラボロイドが、10人程の天使軍ロボを連れて森林に入っていくのを見ながら、思案する。

(アストラエアも、妙な事をしてないだろうな…? やはり、そのままデゴに送った方が良かったか)

(それにしてもアビアティックの奴…アブストラクトの代わりにデゴの基地を売るとはな。まあ、どうでもいいことだが)

グリーマンが誰かと話している隙を見て、ヴァンガードは悪魔軍用の無線を取り出して、小声で喋りかける。

「アストラエア、聞こえるか?」

『はい?無事に人と会えましたか?』

「それについては問題ねぇ、だが、ちょっと予定が変わってな。オマエと合流できそうにないから、予備用に渡しておいたゲートでデゴに向かえ。色も元に戻しとけよ。雪の中じゃ、元の色はともかく目立つからな」

『…? 了解しました』

要件だけを伝えると、早々に通信を切る。

丁度その時、茂みの奥から数人の足音が聞こえてきた。



───いじょうぶ大丈夫、俺様には協力者がついてるんだからよぉ

(来たか)

───ですねっ。ッ──

今度は女の声が聞こえ、同時にその方面からがやがやと銃を構える音が聞こえた。

しかしすぐに銃を降ろし、現れた男──アビアティックは、感づかれないようにこちらに目配せした後、一歩グリーマンに近づき、口を開いた。

「よぉ。協力者さん?」

横目でグリーマンを見ると、彼は軽く一礼し、返事を紡ぐ。

「どうだったかね? 作戦の出来は」

「ああ、上出来だ。アンタにもコイツの情報提供してくれたこと、感謝してやるよ。似合ってるだろ?」

アビアティックが肩の装置を指しながら言う。

肯定疑問形で聞いたアビアティックだが、グリーマンは少し申し訳なさそうに否定した。

「似合うかと問われれば、正直なところ微妙かね……」

「……。まぁ良い。追撃部隊が迫ってやがる。時間がねぇんだ。ゲートを頼むぜ」

「ああ、既に用意してある。……アーヴァン!」

(っと、ここで俺か)

「ハイ、こちらです」

先程作業していた装置の方に、悪魔軍一向を誘導する。

アビアティックは何やらニヤつきながらこちらを見るが、あまり目立つ行動は控えてほしい。

半分呆れながら、ヴァンガードは予定されたどおりの台詞を吐いた。

「既に転送先座標は調整済みです」

「……ご協力、感謝します」

アビアティックの隣の女が一礼し、ゲートに入った一向は青い光に包まれていく。

「では、また次の作戦で会うことになるだろうね。アビアティック君?」

「あぁ。次はデゴで、だな」

「私は次の作戦の成功を、我が軍での大いなる功績の第一歩としたい。君の目的は・・・」

「今更んなもん言わずとも分かんだろ?」


アビアティックはそう言ってニヤリと笑った。



同時に騒がしい音が消え、風の音が入ってくる。

(……さて。ここからか)

「さて、彼らも行ったことだ、我々も準備しよう」

グリーマンの一言に皆肯定し、例の巡洋艦の下へ足を踏み出していく。

「侵攻作戦は後日展開される。本隊が正面からぶつかっている間に、我々が後方から攻めて一網打尽だ」

歩きながらグリーマンが周りの天使軍ロボに説明する。

「要するに、それまで我々は休日、というわけだ」

(なんだ、そりゃ)


アブストラクトがデルファイター=アビアティックの手によって強奪されてからかなり時間がたった。

ポイーンでは、悪魔軍に対する徹底的な見張りを強めており、極度の緊張状態となっていた。



そんな中、半分悪魔軍の手も借りているシュトルバンガー=グリーマンは、これからの作戦の完璧さに、心を躍らせていた。

目の前には、巨大なシャトルに擬態した巡洋艦が上向きに設置されており、シャトルと同じ要領で射出できるようになっているようだ。

「では、我々もデゴへ向かおう。本隊は既に準備がほとんどできているそうだ。急ぐぞ」

「了解しました」

隣にいたゼロファイター=アーヴァンが周りの天使軍ロボの言葉を代弁する。

全員が搭乗したことを確認すると、シャトルに擬態した巡洋艦は射出された。


暫く進み、外に漆黒が広がったころ、惑星間移動用の推進装置がパージされ、シャトルに擬態している部分の外装も捨てられる。

同時に、巡洋艦の推進装置が点火、遥か彼方に見える白銀の惑星へ向けて、数時間の旅が始まる。



ポイーン発進から数時間。艦内のブリッジでは、デゴの悪魔軍基地侵攻作戦の簡易ブリーフィングが行われていた。

「───デゴに到着次第、レルグナ隊を収容し、悪魔軍基地を襲撃する」

「惑星デゴ着艦まで、5,4,3,2,1…着艦。氷海地帯へ、……着水、確認しました」

オペレータを担当するパラボロイドの報告と同時に、座っていたシュトルバンガーが立ちあがり、声を出す。

「そのまま、レルグナ隊との合流地点へ向かえ。ボルスノ基地を経由し、本隊とは別のルート……、北側から一気に攻める!」

シュトルバンガー=グリーマンは高々に宣言し、巡洋艦は戦速前進する。

「グリーマン閣下。少し席を外します」

「む? 了解した。本格的に制圧作戦が展開する前には戻るよう」

「すぐに戻りますよ」




ブリッジを出た廊下。誰も居ない事を確認し、ハンドガンを片手に無線機を取り出す。

「アストラエア、聞こえるか」

『あ、何やってるんですかヴァンガード様!天使軍が攻めてきて…』

「あー、解ってる。オマエは迎撃部隊にまぎれこめ。自分の力を最大限に発揮しろ」

その声色からは、子に期待を寄せる親のようだが、内心はこれっぽっちも期待してはいない。

(制圧作戦に、オレガーの部隊が動員されるのか…アストラエアはいいとして、アルバトロスとかは大丈夫なのか……?)

友の顔を脳裏に浮かべながら、相手が何かを喋っている事に気づく。

「…すまん、なんて言った?」

『だから、ヴァンガード様は何処に居るんですか?』

「……今は言えんが、終わったら迎えに行く。それまでだ」

もう性格は理解している。こう言っておけば、楽に戦ってくれるだろう。

『…解りました、信じてますからね?』

「ああ、じゃ、切るぞ」

無線を切り、再び回りに人がいないかを確認する。

会話中もそれらしい人影はなかったし気配もなかった。逆に不気味と言えばそれまでだが、声の小ささから、外から盗み聞きされた、なんてことはないだろう。

扉を開き、ブリッジに戻る。既に艦は戦闘準備に映っており、偵察カメラが、よく知る悪魔軍基地を捉えている。

「戻りました」

「いいタイミングだ。これよりレルグナ隊の突入になる」

モニタに表示された潜水艇内部には、デゴ専用であろうか、青い迷彩をしたガクゥーンを筆頭に、セタシオン・ロブガイズ・タラバトロンが、10人程姿を見せている。

モニタからの構造を見るに、二基編成のようだ。

「こちらレルグナ隊である。これより、敵軍基地へ侵攻を開始するものである」

やや可笑しな口調で宣言し、艦の下部から2基の潜水艇が発艦し、深い氷海の中を突き進んでいく。

「第一段階は終了だ。レルグナ隊の侵攻の成功を祈る」

横のグリーマンが僅かに笑うのを見ながら、ゼロファイター姿のヴァンガードは別の意味で、顔をニヤリと歪ませて見せた。

最終更新:2011年12月07日 17:19