色彩論

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27 : 名無しさん@chs 2007/08/21 (火) 22:58:31 ID = 496372c489 『色彩論』 黒。 黒のイメージは、大抵が悪いものとされる。 黒人差別も、夜闇を意識される黒から導き出された結果だ。実際は、こじつけかもしれないけれど。 夜の黒、悪魔の黒、闇の黒、黒黒黒。 全ての色を塗りつぶして、ただそこに黒があるだけ。 たたずむ、たたずむ、そこにある。ただそこにあるだけの、孤高の色彩。 絵の具をいっぱいまぜこぜにすると、黒になる。 何を混ぜても、行きつく先は黒になる。彩って彩って、終着点は、夜の色。 夜の黒。悪の黒。良くないイメージの黒。 それでいて、彼女の。 死神の、黒。 28 : 名無しさん@chs 2007/08/21 (火) 23:00:12 ID = 496372c489 私は、とある都会のまっただ中にいた。 喧騒が、私の耳を打つ。 車の行き交う音、人々のしゃべり声、靴と地面が相打って奏でられる音。 かつかつ、ぶうぶう、ぎゃあぎゃあ、きゃらきゃら。 私は聞く。色々な音を、その耳の奥に刻みつけ、頭の中に残す。 色々な音を、それぞれの特色を、色彩を。 音の、色を。音色を。 赤い音がある。黄色い音がある。緑色の音がある。 音が、そこここに満ちている。色々な彩りは、私の耳を動かせこそすれど、興味など湧き立たせることはひとつもなく。 ただ、かしましい、と。それだけを考えていた。 塗りつぶしてみたかった。全てを消した白ではなく、全てが飽和したからのゼロの色を。 全てが混ざり合って、全てが混じって、全てが全てを打ち消して。 混じりけのない、ゼロの、黒を。 私は希求した。 この上なく、この上なく、この上なく。まるで砂漠の中で水を求める旅人のように。 29 : 名無しさん@chs 2007/08/21 (火) 23:01:02 ID = 496372c489 そうして、私は黒と邂逅する。 全てを消してくれる黒、全てを見せてくれる黒。 ……私の、大切な、黒。死神さんの、黒。 「どうしたの? 久しぶりの都会、気分でも悪くなったの?」 だぼだぼの黒衣をはためかせて。よれよれの黒衣をはためかせて。 どこか鋭利ながも幼さが目立つかんばせを見せて。 その周囲が、私の世界が、彼女と私の間にある空気が、全て黒に染まる。 彼女の息づかい。彼女のまとう衣服、その衣擦れの音。 彼女の髪がゆれる音。彼女の鎌が奏でる音。 全てが黒となり、降り注ぐ。黒色の、音色になる。 30 : 名無しさん@chs 2007/08/21 (火) 23:01:55 ID = 496372c489 ぞくり、と肌が粟立った。 ゆらり、と体がよろけた。 それでも私は、薄く微笑んで、彼女に返す。 「いえ。なんか、死神さんって、黒だなー……って思いまして」 「それ、どういう意味?」 くすくすと笑いながら、私の言葉に反応し、彼女は笑う。 私も笑う。どうしてか分からないけれど、そうしたかったから。 「ね、ね、死神さん。手ぇ繋いでもいいですか?」 「なによいきなり……」 「あああああ、わたし、からだ動かなーい。助けてー、きゃあきゃあ助けてーっ。手ぇひっぱってー」 「うっわ、ベタベタの演技ね、それ……。でもいいわ、ほら」 彼女は困ったような笑みを浮かべながらも、私の手を握ってくれる。 小さな手。白い肌。細い指。白い爪。 それでも、それでも。 私は、彼女のことを黒いと思ったのだ。 31 : 名無しさん@chs 2007/08/21 (火) 23:03:09 ID = 496372c489 「ねぇ、死神さん。ちょっと映画見てから帰りましょう」 「え? 今日、いいものは別にないじゃない。何、考えているの?」 「なぁんにも。ただ……ちょっと見たくなって」 「ふぅん。まあ、いいわ、付き合ってあげる」 黒。混ぜて混ぜて結果として出来上がる黒。 どこまでも暗くて、夜の闇を抜き取ったかのようで。 温かくて、温かくて、だけれども、とても冷たくて寂しくて。 「さ、行きましょうか?」 「――はい!」 抱きしめて、温めてあげたくなる、そんな色。 (おわり)
黒。 黒のイメージは、大抵が悪いものとされる。 黒人差別も、夜闇を意識される黒から導き出された結果だ。実際は、こじつけかもしれないけれど。 夜の黒、悪魔の黒、闇の黒、黒黒黒。 全ての色を塗りつぶして、ただそこに黒があるだけ。 たたずむ、たたずむ、そこにある。ただそこにあるだけの、孤高の色彩。 絵の具をいっぱいまぜこぜにすると、黒になる。 何を混ぜても、行きつく先は黒になる。彩って彩って、終着点は、夜の色。 夜の黒。悪の黒。良くないイメージの黒。 それでいて、彼女の。 死神の、黒。 私は、とある都会のまっただ中にいた。 喧騒が、私の耳を打つ。 車の行き交う音、人々のしゃべり声、靴と地面が相打って奏でられる音。 かつかつ、ぶうぶう、ぎゃあぎゃあ、きゃらきゃら。 私は聞く。色々な音を、その耳の奥に刻みつけ、頭の中に残す。 色々な音を、それぞれの特色を、色彩を。 音の、色を。音色を。 赤い音がある。黄色い音がある。緑色の音がある。 音が、そこここに満ちている。色々な彩りは、私の耳を動かせこそすれど、興味など湧き立たせることはひとつもなく。 ただ、かしましい、と。それだけを考えていた。 塗りつぶしてみたかった。全てを消した白ではなく、全てが飽和したからのゼロの色を。 全てが混ざり合って、全てが混じって、全てが全てを打ち消して。 混じりけのない、ゼロの、黒を。 私は希求した。 この上なく、この上なく、この上なく。まるで砂漠の中で水を求める旅人のように。 そうして、私は黒と邂逅する。 全てを消してくれる黒、全てを見せてくれる黒。 ……私の、大切な、黒。死神さんの、黒。 「どうしたの? 久しぶりの都会、気分でも悪くなったの?」 だぼだぼの黒衣をはためかせて。よれよれの黒衣をはためかせて。 どこか鋭利ながも幼さが目立つかんばせを見せて。 その周囲が、私の世界が、彼女と私の間にある空気が、全て黒に染まる。 彼女の息づかい。彼女のまとう衣服、その衣擦れの音。 彼女の髪がゆれる音。彼女の鎌が奏でる音。 全てが黒となり、降り注ぐ。黒色の、音色になる。 ぞくり、と肌が粟立った。 ゆらり、と体がよろけた。 それでも私は、薄く微笑んで、彼女に返す。 「いえ。なんか、死神さんって、黒だなー……って思いまして」 「それ、どういう意味?」 くすくすと笑いながら、私の言葉に反応し、彼女は笑う。 私も笑う。どうしてか分からないけれど、そうしたかったから。 「ね、ね、死神さん。手ぇ繋いでもいいですか?」 「なによいきなり……」 「あああああ、わたし、からだ動かなーい。助けてー、きゃあきゃあ助けてーっ。手ぇひっぱってー」 「うっわ、ベタベタの演技ね、それ……。でもいいわ、ほら」 彼女は困ったような笑みを浮かべながらも、私の手を握ってくれる。 小さな手。白い肌。細い指。白い爪。 それでも、それでも。 私は、彼女のことを黒いと思ったのだ。 「ねぇ、死神さん。ちょっと映画見てから帰りましょう」 「え? 今日、いいものは別にないじゃない。何、考えているの?」 「なぁんにも。ただ……ちょっと見たくなって」 「ふぅん。まあ、いいわ、付き合ってあげる」 黒。混ぜて混ぜて結果として出来上がる黒。 どこまでも暗くて、夜の闇を抜き取ったかのようで。 温かくて、温かくて、だけれども、とても冷たくて寂しくて。 「さ、行きましょうか?」 「――はい!」 抱きしめて、温めてあげたくなる、そんな色。 (おわり)

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