二体のベルセルク

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春風またたくうららかなる季節、といえば聞こえは良さそうだが。私の気分はひどくブルーブルー、ブルーシャトーだ。 いや、ブルーと言うのには語弊があろうか。なんというか、恐怖というか。 眼前でくり広げられる光景があまりにあまりなので、思考が上手く働かない。 とかく、私が今、気持ちの良い季節の恩恵を受けることは無理、そういった状況に私は追い込まれている。 私の眼前にあるのは、赤い彼岸花と透明色の水。 それと、ふたりのベルセルク。 「うへへェ、死神さ~ん・・・・・・」 「・・・・・・かんねんしろー」 ゾンビというか、幽鬼というか。胡乱な挙措でこちらに近付くのは、幽霊の少女と死神の先輩である。 ふたりとも、頬は上気し、全身からまんべんなく色香という色香を噴出しており、艶やかなるさまを見せてはいるが、 私にとってそれは、魑魅魍魎や悪鬼羅刹が醸し出す、極彩色の殺気にしか見えなかった。 何故にこんなことになったのか、ときびすを返しながら、私はかような状況にいたるまでの経緯を思い返してみた。 「さあ、お姉さんと、このフルートを互いのいけない場所へとコンバインンンンッ!」 「・・・・・・ヤらせろぉ!(若本ボイス)」 ・・・・・・うん、なるたけ早く回想しとこう。 ことの始まりは、私があの幽霊と賽の河原へ行った時のことだ。 いつものように暇で仕方のない私は、幽霊と雑談するために、気持ちの良い場所として賽の河原を選んだ。 彼女は渋っていたけれども、脱衣婆のいない場所を教えると、にこにこしながらついてきた。 誰もいない湖のほとりにて、巨木にもたれかかり談笑する私と彼女。 「そういえば、死神さん」 「ん?」 「この賽の河原では、飲食可能なんですよね? 現世ではないですから」 「まあね。そこらにある彼岸花でも食べていれば?」 「いや、それ、猛毒ですから!」 そう、そこまではいつも通りだった。 が、幽霊が放った何気ない一言。それがあの、魔界のサバトに勝るとも劣らぬ、地獄開幕ショーの始まりだとは思いもよらなかった。 「なんか美味しいもの食べたいですねー。お酒とかと一緒に」 その言葉を皮切りに、やにわに飛び出たのは私の先輩。 いつの間にやら、私と幽霊の背後に回っており、それこそアメリカンコミックのヒーローのように、唐突に飛び出したのだ。 そのまま、ズッシャアアァァッ、とやたら格好良い効果音をともなって着地。私と幽霊に向き直った。 「・・・・・・お酒、なら、ある」 そう、先輩のその言葉が、サバトの始まりだったのだ。 何故か知らないが、幽霊と先輩はあまり仲が良くない。嫌ってはいないんだろうけれど、対抗意識が見えるというか。 なんというか、ライバル同士、と言うのがしっくり来るのかもしれない。 だから、なのだろうか。 先輩が酒瓶をどこからともなく大量にもってきて、私にしきりに飲ませようとし。 幽霊が何故か怒り顔でそれを阻止しようとし、以下のようなやりとりがなされた。 「も、もしかしてあなた、死神さんを酔わせていけないことしようとしていますね!?」 「・・・・・・それは・・・・・・ない。せいぜいが、3サイズ計測してお医者さんごっこを」 「ギエエエェェェェェッ!? この変態セクシャルアルティメットドエロ幼女めがあぁぁァッ! 下心丸出しだっつーの!」 「うふふ・・・・・・彼女、酔うとエロになっちゃうらしい・・・・・・よ?」 「だからといって、あなたのようなタシーロの蛮行を許しておけますか! いいや、許しておけません! 反語ォ!」 そう、それから話が展開されていって。 しかもその間に、先輩と幽霊でぐびりぐぶりと酒を飲む、飲む、飲む、呑む。 結果として、私がちょっと飲む間に、ふたりはすっかり出来上がって・・・・・・否、イッてしまった。 「うぐぇ・・・・・・先輩さん、や、やりまふねぇ・・・・・・」 「あ、あなたも・・・・・・。なかなかに、防御力、ある・・・・・・」 まあ、なんか酔っ払った際に、奇妙な友情が出来たのは喜ばしいことだったんだろうけれど。 それから後が問題も問題、大問題だった。 やにわにふたりは、私のことを語り始め、それで盛り上がっていったのだ。 「だいたいねぇ、反則なんですよ! 反則! 死神さんのあの黒髪! 顔立ち! 世話焼きっぽい雰囲気!」 「・・・・・・たまに、欲情、しちゃう時ある」 「そうですよねそうですよね! アニメに集中して、一喜一憂するのが可愛いのなんのって! 美人さんですし!」 「・・・・・・背後、から、ずっとずっと、ジーグブリーカーしたくなる」 「それじゃあ壊れちゃうじゃないですか!」 「壊れる、まで、めちゃめちゃにしたい・・・・・・」 「それはさすがにやめれええぇぇっ! 陵辱計画、ロリタンマー!」 カオスだった。サバトだった。 もう、ふたりが何を言っているのか、恥ずかしいやら恐ろしいやらで全部聞き取れなかった。 私がそう混乱している間にも、ふたりは浴びるように酒を飲み続ける。 そうして。 気付いた時には、もう遅かった。 ふたりのベルセルクが誕生したのである。ぶっちゃけ、ガッツより怖いかもしれない。 「そうですよ・・・・・・いつもいつも、死神さんはこっちのアプローチに気付かないんですから・・・・・・」 「・・・・・・わたし、も。それは、かんがえていた・・・・・・」 そうして、話がそんな方向に流れていって。結果として、こう。 ふたりは一緒に私の方を見、その双眸を猛禽類の放つがごとき彩りに染め。 頬を染めて、にっこりと笑いながら、言ったのだ。 「犯(や)りますか?」 「・・・・・・むしろ、嬲(や)る。否・・・・・・、姦(や)る!」 「死神さぁん?」 「・・・・・・爆竜合体、しましょう?(子安ボイスで)」 そして、悪夢の冒頭部にいたる。 私は、怖くなった。 ふたりは、欲情しきっていたからだ。 まるで、三日間エサを与えなかったライオンの前に差し出される肉の気分である。 しゃぶりつく? そんな表現すら、生ぬるい。 酔ったふたりは、私を希求していた。それこそ、生の証左と言わんばかりに。 私は、エサ。ふたりのエサ。 そんなナイトメアな現状を実感すると同時、私は逃げ出した。駆けて駆けて、駆けた。 「死神さぁん! 駄目ですよ、逃げては、ね? うふ、うふふふふふふ」 「ターゲット確認、標的、私の後輩・・・・・・。任務、遂行する(緑川ボイスで)」 「とまらないと、撃ちますよー? 止まっても撃ちますけれど? うふふ」 「神たる私をなめるなぁぁぁぁっ!(子安ボイスで)」 「ちょ、ヴァルキリープロファイルネタなんて、誰が気付くのおおおおおおッ!? レザード怖いよおおぉぉぉっ!」 私は、そんなことを叫びながら駆けた。背後に二体のベルセルクを引き連れて。 混乱していると、自分で放った言葉すら曖昧。それを実感した貴重な瞬間だった。もう味わいたくないけど。 幸運だったのは、私が駆けた先に、脱衣婆ならぬ、脱衣女がいたことであろう。 なんだかんだ言って冥界に身を置く者。彼女は、ふたりのベルセルクを、いともたやすく止めてみせた。 「あらあら、駄目よぉ・・・・・・? 心通わせてセックスしなきゃ、愛は成り立たないわあ・・・・・・」 「日ごろからショタを食っているあなたが、何を言いますか・・・・・・」 「可愛い男の子は、別腹ぁ・・・・・・。こればっかりはどうしようもないのよお・・・・・・(田中理恵ボイスで)」 「水銀燈みたいなしゃべり方はやめてください。キャラがかぶります。それ以前に、先輩の武器を奪わないでください」 かようなやりとりがあって、暴れたふたりを押さえたのは、すいぎんと・・・・・・げふんげふん、脱衣女だった。 なにやら、「愛は奪うものだが、力ずくは駄目」だとか、「同性間の問題なんて塵芥も同義」などと言ってるが、気にしない。 気にしないったら気にしない。説得している脱衣女が、こちらのことをちらちらと見、頬を染めているのなんて気にしない。 なんか湿っぽい水音が聞こえるのも、説得している彼女が何故かふともも同士をすりつけているのも。 気にしないったら。 「だからねぇ・・・・・・? まずは、絡め手からいって、そこで一気にアタックを・・・・・・」 「な、なるほどっ」 「勉強に、なる・・・・・・」 「アタックチャンスを間違えたら、悲惨よぉ・・・・・・? うふふ、また可愛い男の子が来たわぁ・・・・・・。じゃあねぇ・・・・・・」 そうして、彼女は去っていった。 二体のベルセルクを、二体の少女へと戻した彼女は。 私は。 私は――救われたのだ。 この時ばかりは、あのショタ好きの女に感謝せねばなるまい。そう、殊勝な考えをした瞬間だった。 「さ、死神さん、では実践をば」 「・・・・・・いっつ、爆竜合体」 「ちょ、そういえば、酔いはまだ抜けてなかったよなあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 「死神さーんっ!」 「・・・・・・わーいっ」 「お酒は適量にしましょうねええぇぇぇぇぇぇっ! ちょ、やめ、変なとこ触らないで、ちょ、うっぎゃぁぁぁぁぁっ!」 私は、知った。 狂戦士は、生半可な防壁など、塵芥とばかりに吹っ飛ばす、ということ。 私は、この日、ちょっと、大人になった。 青い、青い空に、私の悲鳴がさんざめく。 そう、いつまでも、いつまでも。 「なに自分で綺麗にまとめようとしてるんだってハチャヂャヂャアアァァァァッ!?」

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