伊方原発とトリチウム

伊方原発は広島市民の最大のリスク。広島市から100kmのところにある四国電力伊方原子力発電所は、広島市民にとって大きなリスクです。原子力規制委員会は全国の原発で福島並みの苛酷事故が起こった場合の放射能拡散シミュレーションを行っていますが、伊方原発から100km離れた地点の被曝線量は、めやすとして、1週間で4ミリシーベルト、1時間あたりの空間線量率に直すと、約40マイクロシーベルト/時となります。伊方原発が苛酷事故を起こした場合、広島市は帰還困難な避難対象区域となる可能性が大です。



伊方原発は、来る南海トラフ大地震では、最大震度が「震度7」となることが想定されている伊方町に建っています。同時に、大断層帯「中央構造線」のほぼ真上と言っていい地点に建っています。伊方原発には、「蒸気発生器」という、厚さわずか1.3ミリの1万本以上の金属細管の中を放射能を帯びた高圧の水蒸気が駆け巡っている機器もあり、わずかな揺れでも脆弱化した細管が破断して、冷却水漏れが生じる可能性が大です。つまり、伊方原発で福島並み、あるいは、それ以上の苛酷事故が起こる可能性は、かなり高いといえます。



伊方原発が通常の稼働で放出してきたトリチウム。しかし、伊方原発は、たとえ苛酷事故を起こさなくても、危険な原発です。伊方原発は、通常の稼働でも、大量のトリチウムを環境中に放出しているからです。



現在は原子力規制委員会に吸収された、旧「原子力安全基盤機構」という独立行政法人が出していた、『原子力施設運転管理年報』という文書には、各原発が各年度に環境中に放出した放射性物質の量が記録されています。これを見ると、各原発は、通常の稼働時でも、ヨウ素、希ガス、トリチウム等々、さまざまな放射性物質を環境中に放出していることがわかります。



『原子力施設運転管理年報』によると、伊方原発が2002年から2011年までの10年間に放出した「放射性液体廃棄物中のトリチウム」の量は、568兆ベクレルです。平均すると毎年約57兆ベクレルの液体トリチウムを放出し続けてきたということになります。東京電力の発表によると、事故を起こした福島第一原発が2011年5月から2013年7月までの27ヶ月間に放出した液体トリチウムの量は約40兆ベクレルです。1年あたりの平均放出量に換算して比較すると、伊方原発は、通常の稼働時でも、事故を起こした福島第一原発の約3倍の量のトリチウムを、瀬戸内海に放出し続けてきたということになります。



伊方原発が稼働を止めた後の、2012年度の液体トリチウム放出量は、1兆8000万ベクレルに下がっています。伊方原発は、大気中にも大量の気体トリチウムを放出し続けてきたはずですが、気体トリチウムについては、『原子力施設運転管理年報』には記録がありません。



トリチウムはどのようにして人体に影響を及ぼすか。トリチウム(3H)は、水素(H)の放射性同位元素です。崩壊するときにベータ線を発しますが、そのベータ線のエネルギーは、他の放射性物質が崩壊するときに発する放射線のエネルギーに比べると小さく、しかも、あまり遠くまで飛びません。このような性質から、トリチウムは、外部被曝について考えれば、確かにそれほど危険な放射性物質ではないかもしれません。



しかし、内部被曝について考えると、話は違ってきます。(以下、イアン・フェアリの『トリチウム・ハザード・レポート』(2007年)を参考にしています。チラシをご参照ください)



トリチウムは、気体の形でも、液体の形でも、きわめて高い浸透性を持っています。気体トリチウムは、鋼鉄でさえも比較的容易に透過します。また、トリチウムは、水素の同位体で、化学的な性質も水素と変わらないので、環境中の普通の水素ときわめて速く入れ替わります。これは、人体の中の水素とも速やかに入れ替わるということを意味します。また、トリチウムは、新陳代謝や細胞の再生の過程で、炭素と強く結びつき、「有機結合型トリチウム」を形成する傾向を持っています。



危険なのは、この「有機結合型トリチウム」です。「有機結合型トリチウム」は、水の形のトリチウムに比べて、はるかに長く体内に留まります。体内に摂り込まれ、細胞内の重要な有機分子(例えば、DNA)の近くに留まった「有機結合型トリチウム」は、長時間、細胞内の重要な有機分子に、至近距離からベータ線を照射し続けることになります。このようなトリチウムの影響を小さく見積もることはできないでしょう。さらに、「有機結合型トリチウム」そのものが、細胞内の重要な有機分子を構成してしまう場合もあるでしょう。



カナダの原子炉周辺の健康損傷。カナダの原発周辺では、原発から放出されるトリチウムが原因と見られる健康損傷が問題となり、いくつもの研究が行われ、その結果が発表されています。カナダの原発の原子炉は、トリチウムを特にたくさん放出する「重水炉」という型の原子炉だったからです。『トリチウム・ハザード・レポート』に紹介されている研究のいくつかを挙げてみると…



例えば、1989年と1991年に発表されたクラーク他による研究結果によると、カナダのオンタリオ州にあるブルース原発とピカリング原発の16の原子炉から25km以内の地域で、1971年から1987年までに白血病で亡くなった0歳から14歳までの子どもの数は、期待値25.7人に対して、実際には36人でした。約10人が、過剰に死亡しているということになります。



この研究によれば、原子炉が運転を始めて以降の白血病死が、それ以前よりも高くなっています。また、「原子炉から25km以内」という場所を、「死亡した場所」でカウントした場合よりも、「出生した場所」でカウントした場合の方が、死亡数が大きくなっています。ブルース原発とピカリング原発の運転が小児白血病の死亡率増加に関係していることが、強く示唆されます。



ジョンソンとルーローという研究者は、ピカリング原発から25km以内における先天性異常、死産、周産期死亡、新生児死亡、乳幼児死亡を研究し、1991年にその結果を発表しました。それによると、ピカリング原発から最も近いピカリング群区では、ダウン症が有意に増加しました。ダウン症の発生と、空気によって運ばれるトリチウム放出物の量との間には、統計的には有意ではないものの、相関関係が認められました。



ピカリング群区よりもピカリング原発からわずかに遠いアジャックス群区では、ダウン症の発生自体には超過が認められなかったものの、ダウン症の発生と、空気によって運ばれるトリチウム放出物の量との間に、正の相関関係が認められました。この研究では、特に空気によって運ばれるトリチウムへの曝露とダウン症との関連性が、明確に観察されています。ダウン症の発生率上昇は、チェルノブイリ原発事故でトリチウムを含む放射性降下物に曝されて地域についての研究でも示されているとのことです。



日本の原発周辺の健康損傷。日本の原発も、特に「加圧水型」の原発は、カナダ型原子炉ほどではないにしても、大量のトリチウムを放出します。日本では、関西電力、九州電力、四国電力、北海道電力が、加圧水型原子炉を採用しています。四国電力伊方原発の液体トリチウム放出量は、先に見たとおりです。



日本の原発の中で、特にトリチウム放出量が多いのが、九州電力の玄海原発です。液体トリチウムだけでも、2002年から2011年までの10年間に826兆ベクレル、1年平均83兆ベクレルを海水中に放出しています。



この玄海原発周辺での白血病による死者数を、厚生労働省の「人口動態統計」(1998年~2007年)を資料として調べた人があります。

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中村隆一氏の調査によると、人口10万人あたりの白血病による死者数は、全国平均では5~6人なのに、佐賀県では8~9人、さらに、唐津保健所管内では12~16人、玄海町では31~39人になっています。玄海原発に近い所にエリアをしぼるごとに、白血病による死亡率が跳ね上がるという傾向が、はっきりと認められます。玄海原発から放出される放射性物質が、周辺住民に健康損傷を引き起こしていることが、強く示唆されます。



伊方原発周辺では健康損傷は起こっていないのか? 周辺住民の健康損傷を引き起こしているカナダの重水炉は、五大湖という湖のほとりに立ち並んでいますが、伊方原発がまた稼働を始めれば大量のトリチウムを放出し始める瀬戸内海も、湖に似た条件を持つ半閉鎖水域です。伊方原発周辺では、伊方原発の運転が始まって後、何度か、魚の大量死が発生していますが、この現象にも、伊方原発から放出される放射性物質がなんらかの形で関与している可能性があります。



伊方原発の稼働による健康損傷についての研究はまだありませんが、その大量の放射性物質放出量と、トリチウムなどの放射性物質が体内に摂り込まれるしくみを理解すれば、伊方原発の稼働による健康損傷は、過去にもあったし、再稼働が行われれば、これからも生じ続けると考えるのが妥当ではないでしょうか。
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