関西電力の進めるセカタムダムの被影響地●奪われる土地とセカタムダム

奪われる土地とセカタムダム

今年、ラオス南部チャンパサック県にあるボロベン高原を訪ねました。高原と言
われるだけあって、標高が高く涼しい気候を利用したキャベツなどの野菜、コー
ヒーの栽培など農業の盛んな場所です。ここには、メコン河支流の支流が数多く
流れています。開けた農園地帯から更に道を上がっていくと、豊かな森や滝など
の美しい景観が広がる場所も見られます。豊かなのは表土だけではなく、高原の
地中には、アルミニウムの原料となるボーキサイトが眠っているとみられていま
す。また、ここには日本企業が関係する2つのダム計画があります。

その一つセカタムダムは、関西電力株式会社の水力発電事業です。発電能力60.8
メガワット、年間発生電力量380GWh、ダム建設が計画されているセカタム川は、
ボロベン高原からセナムノイ川、セコン川を経てメコン河に流れ込む清流です。
実施可能性調査にはODAも使われています。同社は、経済産業省の「平成17年
(2005年)度開発途上国民活事業環境整備支援事業」を受け、調査を行いました。
2007年第1四半期まで環境影響評価(EIA)を実施し、2007年末には建設が始まる
予定でしたが、着工には至っていません。

これまでの経緯についてはこちらをご覧ください。
http://www.mekongwatch.org/report/laos/laos_xekatan.html

ダムの影響を受けるA村には、約600人が暮らしています。村人は自給用の水田で
の稲作と、現金収入獲得のためのコーヒー栽培で暮らしています。セカタム川で
の魚とりも日々の暮らしにとって重要です。村人はニャフン族という少数民族で
す。今は独自の民族衣装などは身に着けておらず、低地のラオ人と見分けはつき
ませんが、独自の言語を持ち、他の民族との婚姻関係を持つ世帯はあまり多くな
い、ということです。この村は、セカタムダム建設によって水田を全て失うこと
になります。まだダム建設開始についての話はないそうですが、補償の話は2-
3年前から村に届いています。ある村人は、表紙も事業の説明もない補償レート
の表を持っていました。表は、土地と果樹、コーヒーの木などの補償レートが一
覧となっている簡素なものです。

A村は移住する必要はないのですが、近隣に他に水田適地はないので、現在耕作
している水田が水没すれば、実質的には稲作が不可能となり生活が立ち行かなく
なります。村の代表は、「企業は1ヘクタールあたり2千万キープ(現在のレート
で約2,500ドル)の補償を提示しています。でも、村人の気持ちとしては、金銭
ではなく一生使える土地がほしいと思っています。お金はすぐなくなってしまい
ますが、土地は何世代にもわたって使えるからです」と困惑した様子で話してく
れました。

ダムが建設されれば、A村の人々がここで暮らしていくことは不可能です。周辺
はプランテーション開発などが進み、次々と企業に土地が分配されている状況
で、村人はたとえ金銭で補償を得ても代替地を手に入れることができないからです。
もはや、この地域で余っている土地はないと言っても過言ではありません。

慣れ親しんだ土地を離れ移転することになれば、生活再建への懸念に加え、民族
の独自性もますます失われる恐れがあります。

注)情報提供者が不当な圧力を受けないよう、訪問時期と地名は伏せさせていた
だきました。

(文責 木口由香/メコン・ウォッチ)

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【セミナー】ダムをめぐる新たな議論:河川開発の国際潮流と日本
 2011年1月12日(水)14:00~16:45 (13:30開場)
http://www.mekongwatch.org/events/lecture01/seminar20110112_01.html
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メコン河開発メールニュース
発行:特定非営利活動法人メコン・ウォッチ
E-mail: info@mekongwatch.org
Website: http://www.mekongwatch.org/

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最終更新:2010年12月24日 00:33
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