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「ここなんだが…」
「ほぉ。お邪魔しまーす、と」
三人はその日の帰り、ユーリの家に寄っていた。
ユーリの父親が、どんな成果を挙げたことで殺されたのか調べるためだ。
「へぇ。こんなトコに住んでるんだね」
物珍しそうに部屋の中を見回すノーム。
「ああもう隅々見ないで。散らかってるし」
「で、どこだよ。その親父さんの研究成果は」
「こっちだ」
ユーリは、奥の部屋へと二人を案内した。
「あれ…?」
「どうしたよユーリ」
父親が研究に使っていた奥の部屋は、何も無くなっていた。
書類やメモの類もなければ、書籍も、鉛筆すらない。部屋は空っぽだ。

「誰かが持ち去ったのだろうね」
発言したのは、ノームであった。
「持ち去った…?誰が」
「おそらく政府だね。そんなに重大な成果だったのかな」
研究の内容について、ユーリは何も知らなかった。
「スマ君の時には、こんなことはなかったのかい?」
「あ、ああ。俺の親父は大学の研究室を使っていたからな。全て大学が管理しているはず」
スマの父親は、大学の非常勤講師だったそうだ。
その大学に父親の遺品を受け取りに行った際に、父親の机に置かれていた論文を盗み見たのだそうだ。
その後、全ての成果は大学の管理下に入った。
「それでもスマ君のお父さんの論文が発表されなかったって事は、そこにも政府の息がかかってたんだろうね」
「…そういう事か」
ノームは続ける。
「とにかく、これでユーリ君のお父さんの成果はわからなくなってしまった。どうするの?」
父親の成果は、恐らく何かとても重大なものであったはずだ。
政府が本腰を入れて消し去ったことが、それを煌々と物語っている。
ユーリが応えた。
「どうするも何も、地上に行けば全てが解るんだ」
「…そうだね」
ノームは頷いた。
「地上へ行き、卓上の空論でなく、実際に見てきたことを人々に話すんだ。政府も隠し通せないくらいにな」
「おおっ。よく言ったユーリ!」
スマがユーリの肩を叩く。
ノームは何も言わなかったが、代わりにユーリに向かってニカッと笑ってみせた。



数日後。『フロンティア』脱出作戦当日である。

「ここが、俺のアジトだ」
スマに案内されやってきたのは、裏路地のマンホールであった。
「ここに、入るのか?」
「ああ。大丈夫だ。中はキチンとしてる」

スマが慣れた手つきで、バールを用いマンホールをこじ開けた。
ゴトリ、とマンホールが開く。
円形の暗闇が顔を覗かせた。
「へぇ。いかにもアジトって感じだね。では、私はスカートだし、先に降りさせてもらうよ」
ノームはマンホールに入り、すぐに見えなくなった。
「じゃ俺も~」
それにスマも続く。
ユーリは、というと。
穴の前で立ち竦んでいた。
「はあ…」
恥ずかしながら、こういうのは苦手である。
「早く降りてこいよ~」
穴の下からスマの声がした。
仕方ない。覚悟を決め、梯子をしっかりと掴んでマンホールに潜っていった。

内部はコンクリの部屋であった。きちんと電気も点く。
「もともとは水道管整備員の拠点みたいなとこだったらしいな」
部屋の中には、電気ポットからガスコンロから、色々なものが運び込まれていた。
ここで生活でもする気なのか。
「そりゃなあ。今日の作戦が失敗したら、俺らは指名手配犯だ。家に帰るわけにもいかないぜ」
それもそうか。
「あと、これもな。お前らの分も」
そう言ってスマが取り出したのは、三丁の自動小銃だった。
「こんなものまで…」
ためらうユーリとは反対に、スマは慣れた手つきでマガジンをセットし、初弾を装填した。
「マジメに考えれば、こういうことになる。見るんだろ、空を」
自動小銃をユーリに突き出す。
「…ああ」
受け取った小銃はずっしりと重かった。

「では、作戦を説明するよ」
参謀役はノームである。
「狙い目は中央ゲートではなく、警備の少ない通風ダクト。少ないとはいえ三人の武装警備隊がいるね」
数では互角だが、相手は恐らく手練れだろう。
「さらに後々の追っ手を遅らせるために、その三人は確実に仕留める必要がある。そこで…」
続けるノーム。
「私が少しの間注意を引きつけるから、その隙に二人は背後に回りこんで警備隊を仕留める。以上だよ」
つまり、囮作戦である。
警備隊はいきなり撃ってはこないだろうが、こちらが撃てば発砲するだろう。やはり囮は危険度が高い。
「ダクト入り口さえ突破してしまえば、あとは距離を稼ぐだけだからね」
「その囮だが…」
ユーリが口を挟んだ。
「俺が代わるよ」
「どうしてだい?」
しばし沈黙が流れる。
ユーリが口を開いた。
「俺は体がでかいから目立つ。気づかれずに回り込むのに向いてない」
ノームは、しばらく考えた後、言った。
「…そうだね。ではユーリ君。危険な仕事だけど、頑張って」



ノームは席を外している。
景気付けの宴会の、買い出しに行ってもらったのだ。
「なあユーリ」
「なんだ」
「何でさっき、ノームを囮から下ろしたんだ?」
ユーリは、しばらく黙りこんだあと、応えた。
「なんていうか、とっさに庇いたくなったんだ」
それを聞いてへぇ、と言い、ニヤニヤ笑うスマ。
「何だよ」
スマは唐突に叫んだ。
「世界じゃそれを、愛と呼ぶんだぜ~!!」
「や、やかましい。黙れ」
「おあっ、図星か!?図星なのか!?」



その後。

宴会も終わり、いざ出撃となった。
自動小銃を隠したギターケースを、各自背負う。
そこでユーリが言った。
「なあ、果たして上手くいくんだろうか」
「さあな。わからん」

それを聞いたノームが言う。
「二人共、これを見て」
ノームが持っているのは、スマの目を一時的とはいえ機能停止に追い込んだ、あの100円玉であった。
彼女はその100円玉を真上に放り投げ、落ち目になったそれをキャッチした。

両手を動かして素早くキャッチしたせいで、どっちの手に100円玉があるかまではわからない。
「さあ、100円玉は右手にあるか、それとも左手にあるかな」
「……?」
二人は拍子抜けした。
「どゆこと?」
「いいから、どっちだと思う?」
二人は顔を見合わせたが、
「右手、かな」
「俺は左手だとおもうぜ」
やがてそれぞれの意見を述べた。

彼女はゆっくりと手を開いた。
100円玉は、どちらの手にも入っていなかった。
彼女は、ユーリの服の襟元から100円玉を抜き取った。
「…え?」
二人は同じように驚いた。
「ほらね。ものごとなんて、こんなものだよ」
ノームは続ける。
「上手く行くことも、行かないことも、こんな風に予想もしなかったことが起こることだってある。やってみなくちゃ、わからないんだ」
彼女はそう言って、100円玉をポケットに収めた。
「そうか…。そうだよな」
「ああ」
二人はなんだか妙に納得できた。
同時に、不思議と恐れも鎮まった。

「さあ、行こうか」
少年達は空を見るために、地上へと旅立った。



あとがき

読み切りのサイズに収めるために、結構話がカツカツになってしまいました(い
や、まだオーバー気味ですが)。
この雑文は、キーワードである『愛』『空』『地底』『100円玉』を、最もストレートに解釈した結果です、はい。
ギャグの才能はなかろうし、ラノベみたいになるのも何か嫌だったので、結構重めなストーリーにしたつもりです。
心理描写とかのテクとかは無いに等しいですが、文才のない自分なりには頑張ったかなと。