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第一回テーマ小説大会:色波





空から異常なまでの直射日光が落ちてくる。
額に流れる汗をひと拭いして地面に目を凝らす。


一瞬。太陽の光に反射して何かが光った。
「あった!」
急いでそこに駆け寄ってそれをひょいと拾い上げた。


鈍くも輝く円の形をしたそれには『100』と書かれている。
長老に聞いたら『ひゃく』と読むのだと教わった。
ほくほくとした気持ちで100をベルトに挟んだ袋に入れるとチャリンと軽快な音がした。


何年か前かは知らないがどこかの国同士が激しい戦争を起こし、空は焼け、野は消え失せ、地は涸れてしまった。
草木も生えない死の星となってしまった地球において、食料を得るのは至難の業である。
だが、僕たちはしっかりと食料を確保し、生きている。


それは、僕らの村にカラスが居るからだ。



カラスは2・3年前にふらりと僕らの村にやって来て、『何か光るものをくれたらそれに見合った何かをあげましょう』と言った。
最初は信じてなかった村民達が試しにその場にあった100の円を渡して『何か食い物をくれ』と言ったらニヤリと怪しげな笑みを浮かべて100を手にしたと思ったら次の瞬間、カラスの反対の手に林檎が握られていた。
かじってみて本物の林檎であると皆が信じた。


以降、村の供給源は全てカラスが担っている。



「カラスーっ!今日も光物持ってきたよーっ!」僕はカラスの所に走っていった。
村の中心にある岩に座っていたカラスはこちらをゆっくりと振り返って、「今日も来たんだね」と言ってニヤと怪しい笑みを浮かべた。いつもの事だから気にしない。
「はい、今日は結構拾えたよ」
「ほほう…これは100円玉ですね…。最近では殆んど見つからないから希少値が高いんですよ…。よく見つけてこれましたね」
「まぁね!」
「ではいつも通り食材を相当数でいいですか?」
「うん。お願い」
「分かりました」
気がつくとカラスの足元にかなりの数の食材が置かれていた。


「うわ!鶏肉だ!久しぶりだなぁ、ありがと!」
「いえいえ、キミが拾った光物にはこれ位の価値があるんですよ」
「そっか。……ねぇ、カラス?」
「はい?」
「本当に母さんに変えてくれないの?」
そう言うと、カラスの顔の皺がぐっと寄せられて、影がいつも以上に濃くなった。


「残念ながら光物とキミのお母さんとは交換できません」
「本当に…?」
「はい」
「…うん…分かった。またね」
「はい。さようなら」
少年は足元の食材を素早く拾い上げると、足早に去っていった。




その日の夜、真っ暗であるはずの村は炎の明かりで煌々と照らされていた。
なんだなんだ。と言って村民たちが集まった先にはカラスと見知らぬ男たちが居た。
「…お前がカラスか?」見知らぬ男たちの中心に居る最もキレイな服を着ている男が問いた。
「はい。何か御用で?」
「…そうだな。単刀直入に言おう、こんな村など捨てて私の元に来い」


ざわざわと村民たちが騒ぎ出す。
「ふざけるな!カラスさんは俺たちの生活に欠かせない人なんだぞ!」
「そうだそうだ!お前一人の物なんかになるなんておかしいだろうが!!」
村民たちはその男を一斉に罵りだした。
1つの言葉を最初にして、その罵りは村全体を包むほどに大きな声となった。


「だまれ!!!」
男は大きな声で叫んだ。皆がそれに反応して黙る。


「貴様ら今のこの星の内情を知らんとは言わせんぞ?どこに行っても食料など無く、世界中の村が全て飢餓状態にある。そんな中で貴様らだけぬくぬくと暮らしておいて『一人の物になるなんておかしい』?笑わせるな!
貴様らこそ今の今までこの男を独占してきたのではないか!独占をしているものに独占を拒む権利などない!!!」


「まてよ!その言い方だとお前もカラスさんを独占するって言ってるようなもんじゃねーか。独占を反対するアンタが独占する気かよ」村民の一人が言い返す。
その言葉を気にも留めないといったような顔で聞いた後、「貴様らが生きてもどうせ何も変わりはせん。ならばワシのような聡明な人間が生き残った方が良かろう」と言った。


「そんな!あなた私たちに死ねって言うの!?」1人の女性が反論すると、カーンッと空っぽの金属を蹴ったような音がした。
次の瞬間、その女性は胸から血を流して死んでいた。
男が銃を打ったのだ。


「今ここで死んで貰っても構わんのだぞ?」
冷たく言い放った男の言葉に皆が黙り込んだ。





「全くワシとしたことが判断を見誤ったわい」男がぼやいた。
「何がです?」カラスは尋ねる。
「8年前の戦争の日、空…他の星に逃げていれば良かったといっておるのだ」
「そうですか」
「当時は土地の権利が惜しくて残ってしまったが…こんな有様じゃあ誰も土地など欲しがらん」
「地底にはお逃げにならないのですか?」


馬鹿なヤツめと言いたげな目をして男は「地底は確かに避難時に持って逃げた食料があるが、治安は地上よりも悪い。そんな所にワシが行く訳ないだろう」
「そうですか」声のトーンを変えずにカラスは言った。


「それにしてもあの村のヤツら…今さらワシに助けを乞うた所で遅いと言うのに……馬鹿な連中だ」
「私が以前居た村の事ですか」
「あぁ。…本当に馬鹿な連中だ……いや、今はそんな事どうでもいいな」


男は傍にある机の上にあるコップの水を一気に飲み干してカラスを見た。
「本当にワシの妻を生き返らす事は出来んのだな?」
「はい。残念ながら」
「そうか、ならば愛をくれ」
男はその愛をまるで人間の名前のように言った。


「愛?」
「あぁ、昔のワシと妻のような深い愛だ。それならばできるだろう?」
「できますが…愛されたい人物でも居るのですか?」
「…西の果てにある町に絶世の美女が居ると聞く。その女に私を愛させてくれ」
「分かりました…では相当数の光物を頂戴したいのですが」
「いつも通り勝手に取っていって構わん。光物など腐るほどある」
その言葉を聞いたカラスはニヤリと笑うとスーッとどこかに出て行ってしまった。



数日後、男の下にその例の美女がやってきた。
一度も会ったことのない男をその美女は長年連れ添って来た夫のように愛した。


その日、男はその美女と外を見ながらお茶を楽しんでいた。
「気分はいかがです?」カラスはどこからともなく現れた。
「おぉ、お前か。最高だよ非常に幸せだ」
「そうですか、それではそろそろ光物を頂きたいのですが」
「なんだ、まだ持って行ってなかったのか勝手に持って行って構わんと言ったろう」
ニヤリと笑ったカラスはゆっくりと話し出した。


「ワタシ…光物が大好きでしてね」
「…?何の話だ?」
「だから、光物さえくれれば何でもあげるんです」
「………?」
「特に魂って特別キレイに光るんですよ」
その言葉に男はゾッとした。
言いようの無い恐怖を確かに感じたからだ。


「光物との交換は全て等価交換」
カラスはこちらにゆっくりと近づいてくる。


「だから、愛なんて人の気持ちを左右してしまうような大きなものと交換したいなら」
一歩。


「魂のような素晴らしい物が必要なんですよ」
また一歩。


「ワタシが人を生きかえらさない理由。それは魂を渡したくないからです」
もう目の前に来ている。


「もう十分愛を味わったでしょう?」
逃げられない。






「頂きます」


目の前が真っ黒に染まった。