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第一回テーマ小説大会:DON・MY※


甘く見てくれ。

『この世界…、地球は一度滅んでいる。いや、地球ではなく文明が滅んだのだ。生物が棲めなくなったのだ。そして、人類は生きるため地球を捨て、逃げたのだ……。

 何百年か後…くわしい年月は分からないが、人類は戻ってきた、地球に。地球には、まだ生物の生き残りがいた。学者が言うには、「進化を遂げたんじゃな~い?」らしい。さらに、人類も進化を遂げていた。異能の力…、俗に言う超能力や魔法、気などの類いだ。また、前文明の遺産が地底より掘り起こされた。異能の力もあり、科学技術は爆発的な発達を遂げた。前文明よりも高度な技術だ。しかし、………』







「そんなものばっか見てないで~、学園に行きなさ~い。」

「へぇ~い。しっかし、暇つぶしに見てたがおもんねぇな。」

俺は、幸村、幸村幸信だ。読み方は、ゆきむらゆきのぶ、だ。……。やはり、違和感がある。名前がどうのこうの、ではない。俺は自他共に認める不幸野郎である。そんな俺の名前に、しあわせ、という字が二重で入ってんだぜ。違和感しかねぇよ。………。自分で言ってて悲しくなってきた。この話はお終いだ。

 しかしだ、さっきの番組はおもんねぇ。何がおもんねぇって、みんな知ってるような知識しか言わないからだ。そのうえ、ギャグも微妙だ。……。ギャグだよな?あの学者。

 俺も異能の力は使える。俺だけじゃない、両親や学友も使える。そんなことは特別なことではない。前文明にも、Mr.マ○ックとかマギー○司とかいう超能力者がいたらしいが、今の人類は9割ぐらいの奴が使える。父さんは、気だ。急にムキムキになる。正直、かなり気持ち悪い。そして、母さんは、魔法的なものが使える。本人は、「魔法少女よ~。」と言ってはいるが、そんな歳ではない。断じて。しかし、年齢は年齢だが、見た目は結構若い。と思う。家族の贔屓目が入っている可能性もあるが。

「はやくしなさ~い、って言ってるでしょ~。」

母さんが呼んでいる。そうだった、これから学園だった。はぁ、学生やめてぇ…。

 学園は割と近い。徒歩で十五分ほど、だと思う。思うと言った理由は、不幸のせいでほとんど歩いて学園に行ったことがないからだ。犬に追っかけられるのは日常茶飯事、車に撥ねられ登校出来ずに病院に送られたこともある。ふぅ~。何時語っても悲しいものだ。







 学生服を着て朝食をとって、家を出た。不幸に遭わないように細心の注意を払いながら走るのが、俺の日課だ。

「お~い、ユキじゃねーか。待ってくれよ。」

さっそく不幸になってしまった…。このことが顔に出てしまったのか、ヤツはこう言ってきた。

「何変なつくりの顔してんだよ。」

「変なつくりの顔ってどんなけ失礼なんだよ!変な顔だろ、普通!変な顔もしてないけど!…ハァ…ハァ…。」

こいつは、俺の友人で、三澄幸也。これで、みすみたつや、と読ませる。こいつも、幸せ、という字が入っているが、こいつはぴったりだ。何せ、こいつの能力は、気を使えること。ともう一つ、周りの人間の幸せを無意識のうちに搾り取ることである。それにくわえて、もともとこいつはすごい運の持ち主である。強運とかでは言い表せれないほどである。言うなれば、豪運、だろうか。とにかく、すさまじい運を持っている。問題はこいつに近くにいられると、少ない運がガシガシ減っていく。ということだ。幸也は根はすごくいいやつだ、だからこそ困る。無下に追い払えない。しかし…。とそのとき。

「じゃあどうしたんだよ?そんな『不機嫌だ!』みたいな顔して。」

と、幸也は質問してきた。それに

「お前のせいで今、ガシガシ不幸になっていってるからな!バーカ!バーカ!」

と少し幼い感じだけど文句を言ってみる。…。かなり幼いか。まぁ、それはどうでもいい。俺はあいつのせいでかなり不幸になっているんだから、文句の一つや二つも言いたくなる。

「お前…、バーカ!バーカ!て子供かよ。」

……。言われてしまった。人に言われると案外傷つくな。

そんな感じで、俺たちは学園に向かった。







 この学園はちょっと特殊である。試験の内容が、だ。何が特殊かというと、試験の内容がガチャガチャというもので決定されるのだ。このガチャガチャは地底から掘り起こされた前文明の遺産だ。100円を入れてレバーを回すと丸い容器が出てきて、容器の中にいろんなものが入ってる、といったものだ。何故、試験を決めるものなのに100円を入れないといけないのか?と、学園側に質問してみたことがある。その時の返答は、「現在、学園の経営が困難なんですよ。だから、集められるとこからは集めないと。」だった。……。それでもなんか納得できない。まぁそれよりも、だ。試験内容は、入っていた課題を1カ月以内にクリアすること、だ。試験の内容も色々あり、単純に問題集をやったり、必殺技を習得する、異能の力を使わずに生活する、など様々だ。空っぽで何もしなくても良いというのもあった。そして、2カ月に一回の試験の内容を決める日が今日だ。

「ユキ、この日はいつも嫌そうな顔してるよな。」

「嫌なんだよ実際。不幸のせいでいつも変なのばっかり来るからな。」

「前回は『青春する』だっけか。かなりアバウトだったよな。」

「あれはつらかった。河川敷で何十人もと殴り合い『お前、なかなかやるな。』『おまえこそ。』ってやらなきゃいけないんだぞ。知りあいに見られて少しの間あだ名が、熱血君になったんだぞ。…もう少し捻ってくれても良かったのに。」

「僕は今回も空だったらいいんだけどね。」

「異能の力で楽なやつばっかだしやがって。せこいよな。」

「ひゅ~。あれ?ユキ見てみなよ。壁があるよ。」

「雑すぎるよ!話の逸らし方!」

「おっと、もうこんな時間だ。試験内容決めに行かなくちゃ。」

と、幸也はダッシュで逃げて行った。……。俺も行くかな。俺も急いで教室に向かった。







 教室では、みんなそわそわしていた。もう始まってるらしい。出席番号順に教室から出ていく。ガチャガチャは別室に置いてあるのだ。ボーっと過ごしていたら俺の番が回ってきた。俺は席を立ち別室に向かった。







 チャリン、ガチャ、ガチャ、コトン。出てきた、出てきた。確認すっかな。………?……空?空っぽ?マジでか。不幸体質のせいでこんなこと起きるわけがないと思っていたが、たまには良いことあるんだな。

 俺はこの幸運を………幸運だと思っていたものを噛み締めながら、教室に戻った。







 俺はあまり社交的ではない。それは、分かり切ったことだ。しかし、友達がいないわけではない。幸也は親友といってもいいほどだし、クラスメイトともそこそこいい感じに打ち解け合っていた。……はずなんだが、今日はどうも様子がおかしかった。話しかけても無視されるか、曖昧な返事しかしてくれないのだ。少数だと何か機嫌を損ねたのかなと思えるけど、クラス全体はちょっとわからん。まぁ、考えててもしょうがない。帰るとするか。







 ん?あれは幸也じゃないか。

「おーい、幸也。」

「………。」

……。あいつも無視か。いや、聞こえなかっただけかもしれない。

「おーい待ってくれよ、幸也。」

「………。」

もう一度呼んでみたが返事はない。やはり無視されているようだ。よくは分からんが、一人で帰るしかないか。………。べっ…別にあいつと帰りたいわけじゃないんだからねっ。







 家の様子もおかしい。いつもならベタベタと絡んでくる父さんが絡んでこない。むしろ、俺を避けてる感じだ。母さんも色々おかしい。いつも夕飯中に学園であったことを根掘り葉掘り聞くくせに今日は聞いてこない。というよりも、帰ってきてから会話ができていない。

 …おかしい。このことに関して思い当たるフシは一つしかない。……試験だ。カバンの中をあさり丸い容器を探す。あった……。捨てなくて良かった。もう一度容器の中をよく見てみる。

「……。んっ?これは。」

何回も折りたたまれた紙が容器の底に貼られていた。……なんで気付かなかったんだ、俺。紙を開いてみる。すると、音声が流れ始める。書いてる言葉を音声にする術式が施されているようだ。

『はっはっは、これを読んでいるのは幸村君だろ。これを引き当てるような不幸なやつは君しかいないだろうからね(笑)。』

イライラする。(笑)も、しゃべり方も、言ってることが外れてないあたりも。

『君が不思議に思っていることの説明をすると、君の知り合いの好感度を0にさせてもらった。つまりは空っぽだ。』

「何てことしてくれてんの!?」

『容器の中が空っぽだったのもそのことを示唆しているんだよ。どうだね?素晴らしいだろ?』

聞くな……。それと示唆してることも言わなくていいよ…。大して素晴らしくもないし。

『ここからが本題だ。試験の内容はこの状態から、家族の愛、家族愛。友人を大切にする心、友愛。男女間の愛、恋愛。……最後のは君には関係ないか。』

うるせぇよ!確かに、生まれてからこの17年間そういうことはちらりともなかったけど!他人には言われたくねぇよ!

『君にはこのすべての愛、プラス僕の趣味で同性同士の愛、同性愛を取り戻してもらう。』

えっ!?それ取り戻すというか足してるじゃん!俺は新たな扉は開かないよ!?

『最後に、この手紙は……』

あぁ?よくあるやつか。爆発するとかいう。それは困るな。

『君が照れてる時のしぐさなど、君の恥ずかしい秘密を大音量で再生しながらとんでいくから。』

それはめっちゃ困る!なんでそんなことされなきゃいけないんだ!いじめか!?

「あっ!待て、コラ!」
紙はひらひらと、窓からでて飛んでいく。ここはマンション。さらに、13階である。窓から手紙への距離は15mくらいだろうか。
「くそっ。今ものすっごい不幸だから大丈夫だよな!?」
と俺は、跳んだ、窓から、13階の窓から。
「もう…、ちょい…!」
人差し指と中指で何とか紙をキャッチする。「うおっ!?」がくんっ、と体が引っ張られる感覚におそわれる。落ちていく。地面に引っ張られる感覚の中、俺は姿勢を安定させる。地面が近くなってくる。全神経を足に集中させる。「だらぁ!」膝をクッションにして衝撃を緩和する。……。はぁ……、疲れた。足がしびれてるな。少し足りなかったかな。このくらいですんでラッキーと言ったとこか。

「やはり君の力は凄いな。驚かされるばかりだよ。」
そこには、手紙の主と思われる人物がいた。
「威濤…先生…。ぜんぜん驚いてるように見えないですよ?」
その人物は俺のクラスの担任教師、威濤煌輔。この字でいとうこうすけ、である。
「はっはっは、そんなことはないと思うけどな~。」

…今すぐ殴りたいが、今の自分じゃ確実に勝てないだろう。それに勝てたとしても停学、下手したら退学になってしまう。それは勘弁して欲しい。

「あの試験、どういうことなんですか?マインドコントロールは犯罪でしょう。」
「あれはマインドコントロールじゃないよ。それに心配しなくても最悪の場合僕も何とかするから。」
最悪の場合というのは、俺が試験に合格できなかったとき、ということだろう。とりあえず気になってることを質問しよう。
「で、どうやってその…愛を取り戻すんですか?」
愛を取り戻す、って言うの恥ずかしいな。
「さぁ?それは自分で考えなきゃ。意味ないじゃん。」
それを言われるとどうしようもない。
「それじゃ、もう用がないようなら家に戻りますよ。」
と言って手紙を破りながら家の方を向く。

「あぁ、最後に結果によっては退学してもらうから。」
「なっ!?」
振り向いたとき先生はもういなかった。



俺は部屋のベッドに寝転がり考えていた。
「どうやったら戻るんだろ。」
はぁ…。しかし、どうやって好感度をいじくったんだろうな。マインドコントロールじゃない、と言ってたし。ん?…なんか見落としてる?そう言えば先生は、最悪の場合僕も何とかするから、と言っていた。この言い方だと好感度をいじくったのは先生じゃないみたいだ。じゃあ誰が?……。頭が痛くなってきた。明日考えるかな。







 翌日も両親は冷たく、クラスメイトも冷たかった。今日改めて両親やクラスメイトにあって違和感があった。俺に対して冷たいというよりかは…。「おはよう。号令かけて。」先生が来たようだ。…あとで違和感について話そう。
「じゃあ、今日の連絡だけど……」



「先生!」
「ん?…君か。」
「不満そうですね。」
「不満ではないさ、君のことがあんまり好きじゃないだけさ。で、なんか用かい?」
「教師が生徒を嫌いと言っていいんですか?ちょっと話があって。」
「嫌いなんていってないじゃん。話って?告白かな?僕は同性愛者だからウェルカムだよ?」
「嘘ですよね!?」
「ん?アタリ前ジャナイカ。」

少し挙動不審だ。
「納得いかないけど、まぁいいです。本題なんですが、」
「まず場所を変えよう。」

「?ここでいいと思うんですが。」
「人に聞かれたくないじゃないか。」

少し頬を赤らめている。…危険だ!顔にでていたのか先生は弁解してきた。
「冗談だって、…これは。」

これは、の部分が気になったが触れないことにする。先生、昨日は結構シリアスだったのに。いつもの調子に戻ってる。
先生は場所の指定をしてくる。
「体育館裏で…」
「イヤです!!」
「何もしないって。」
「当たり前ですよ!外にでてその辺の木陰でいいです。」
もうイヤだ!!疲れる…!何でこの人こんな会話してるとき生き生きしてるんだろう。
「別にいいよ。さぁ行こうか?」
頼れる人がこの人しかいないなんて不幸だ…。心配でもあるな。だが、仕方がない。行くか。



「で、本題というのは?」
真剣な顔で先生は尋ねてくる。心配は無駄だったようだ。
「それなんですが、みんなの雰囲気がおかしいな、と思って。」
「………。おかしい、というのはどんな感じに?」
先生の態度が少しおかしいな。
「何か俺に対して無関心というよりも、みんながみんなに対して無関心、みたいな。」
「…その通りだよ。」
声のトーンを落として先生は言った。
「はい?その通りとはどういうことで?」
「だから、君への好感度だけじゃなく、この街の全ての人の好感度が0になっているんだよ。」
「はぁ?」
なにを言ってるのか分からない。
「それっておかしくないですか?先生は普通に接しているじゃないですか。それに俺もみんなに対しての感情は変わってないと思うんですけど。」
先生は説明口調で喋り出す。
「それはね、君が不幸だからだよ。好感度…つまりは人の繋がりっていうのは幸せなことだろ。君は不幸だ。つまりこの公式は君の場合ノットイコールなんだよ。」

「別にそんなことは…」
「あるんだよ。君はあの子、三澄っていう子の友達だろ。あの子の側にいると幸せが搾り取られる、そのことを君は不幸だと思っている。それに僕といることも不幸だと思っているだろ?」
「それは…。でも!他の人に対してはそんなことは!」
「…君は心のどこかで人を拒絶しているんだよ。」「……。」
何も言えない。俺は他人を拒絶しているのだろうか?
「僕と同…だ…。」
「えっ?今なんて?」
考え事してたからよく聞こえなかった。
「何でもないよ。」
何でもないような表情していない。どうしたんだろうか。
「それはそれとして、そんなこと誰が?学園側はそんなことしないでしょうし。」
「うん、信じてもらえないと思うけど。」
そこで先生は言葉を区切り、続けた。
「地底人、なんだよね~。」

一瞬思考が止まる。
「ふへっ!?」
やっとでた言葉はそんな間抜けな言葉だった。

「地底人って、悪い冗談……じゃないですよね。」
確かに信じられない。どういうことなのだろうか?すると、先生は俺の思考を読みとったのか語り出した。

「地底人って言うのは今も地底に住んでるわけじゃない。昔…前文明が滅ぶとき人類は宇宙に逃げたのは知ってるね?」「はい、一般知識程度には。」
「そのとき逃げれなかった人類もいたんだよ。考えてみたら簡単なことだけどね。全員が逃げれる訳ないんだから。そして、」
「逃げれなかった人々は地底へと移住した…。」
「その通り。けれど一カ所に集まることはできなかったからみんなバラバラに暮らした。まぁ大体、数十人から百数十人くらいで暮らしていたと思われる。そしてコロニー同士の関係性は皆無だ。違う文化を持ち、違う考えを持っている。非常にやっかいだよ。味方をしてくれるコロニーも有ると思うけど。」
「けれども異能の力は無いんじゃ?」
「そうだね。けど彼らは基本の身体能力が高いんだよ。」
「それは何故です?」
「文明が滅んだとき大気の汚染がひどかったからね、彼らは空気をろ過したり、酸素を生成しながら生きてきたんだよ。それでも酸素は足りなかった。それにあわせて進化していったからね。今のこの酸素がたくさんある中では動きやすいだろうね。バテにくいし。それに加えて僕たち逃げた側は重力の無い空間で進化してきたからね。体力面では圧倒的、だよ。そして、逃げた人類を恨んでいる、あるコロニーが恨みを晴らすために行動を開始したってところだね」
なるほど。頭の中がゴチャゴチャだがだいたいわかった。信じるかどうかは別として。
「でも、どうしてそんなこと知ってるんですか?」
そうだ、このことが気になっている。この人は何者なのだろうか?
「どうしてって…、教師だからね。」
……。教師だからってそんなことは知らないだろう。誤魔化したいのだろう。言いたくないのなら誤魔化されてあげよう。だが、これだけは聞いておこう。
「先生は味方ですよね?」

先生は少しの間呆けたように口を開けていたが、笑って、初めて信頼できるような声で、言った。
「教師は生徒の味方。当たり前のことだろう?」



「僕の情報網によると、みんなの絆を吸い取った奴らはここにいるらしい。」

地底人の存在を知った日から二週間ほどたった。あれから、俺は自分なりの方法でみんなとの絆を取り戻そうと奮闘したが、結局知り合い程度の関係しかない。地底人の行動もあった。襲撃を受けたのだ。絆を消したのは情報の行き来や連携をさせないためだった。そして、秘密を知っていて、よく二人で行動することになった俺たちが邪魔になったようだ。地底人の刺客たちは何とか撃退することはできた。しかし、その襲撃は俺たちに危機感を抱かせるには充分だった。速度、攻撃の威力などのそれらは普通の気の使い手のそれらより数段上だった。さすがの先生も焦り、先に仕掛けて短期決戦に持ち込もうと提案してきた。反対する理由もないし、正直、自分のやり方に限界を感じ始めていた。それなら、絆を奪い取っていった張本人のところにいき何とかするのは、当然のことのように思えた。
「その情報網は例の味方をしてくれるコロニーの、ですか?」
その質問に
「まあ、そんなところ。」
と曖昧な返事をする先生。一緒に行動するようになって分かったが、先生はいってもいいことははっきりと言ってくれるが、言いたくないことは曖昧に答えてくる。曖昧に答えられたら何度質問しても避けられる。……。絶対に答えたくないなら曖昧にしないでほしい。
「まぁ、疑いたくなるのも無理はないと思うけどね。」
そう言う先生の視線の先には、40階はあろうかというビルが建っていた。
「まさか、地底人がこんなに地底から離れて、空に近いところに潜んでいるとはね。」
先生は半ば呆れたように言っている。このビルはこの街のほぼ中央に建っている。
「盲点だったね~。まさか、こんな目立つ場所だったなんて。…さぁ行くかな。」
「えぇ、こっちは準備オッケーです。」

俺は靴のひもを強く結びなおしながら言った。
「……。前から思ってたんだけどタメ口でいいよ。もう戦友みたいな関係なんだし。名前も煌輔の最初をとってコウでいいよ。」
「イヤ、でも……」さすがにそれは…。
「僕は年齢で人の上下は決めないよ。僕もユキって呼ぶからさ。」

少し考えてから口を開く
「わかった。でも名前は煌輔さんと呼ぶし、俺を呼ぶときも幸信君あたりにしてくれ。」

先生は…いや煌輔さんは快活に笑った。

「はっはっは、わかったよ。さて、本当にいきますか。」



30階あたりまで上っただろうか?だがしかし、何もない。迎撃も罠も。不気味なくらいに静かだ。
「煌輔さん、おかしくないか?罠も迎撃も何もない。情報は嘘だったんじゃ?」「そんなことはない。罠は全て僕が発動しないようにしてるだけだよ。」
「………。」
改めてすげぇなと思ってしまった。簡単そうにいうんだもんな。会話しながらでも足は動かし階段を上る。ちなみにエレベーターは動かなかった。また5階ほど上っただろうか。その階は何もなく壁だけしかないだだっ広い部屋だった。そこには蠢く大量の人影があった。
「やっぱりね、一カ所に集まって僕たちを一網打尽にしようとしていたわけだ。」
煌輔さんは笑いながらそう言った。
すると人影の一つが言う。
「なに笑ってんだよ。今からおまえたちは死ぬんだぜ。前文明の映像のように一人ずつ襲いかかってやられるようなバカな真似はしねぇよ。」
くっ、少し期待してたのに。そうやって一人悔しがっていると煌輔さんが

「幸信君は先に行きな。前の襲撃の時、僕は戦わなかったしね。それに…、一人でボスと戦わないといけないのってかなり不幸じゃない?」
俺はその言葉に笑って答える。
「違いないな。それは不幸だ。」
二人で会話をしていたら、邪魔が入った。
「なに仲良く話してんだよ!!」
言いながら人影は一斉にこっちに跳びかかってきた。

「ぐあっ!」

「ガハッ!」

しかし、跳びかかってきた人影は一つ残らず後方に吹っ飛ばされた。
「幸信君行きな。」
俺は階段まで走り駆け上った。背中越しに煌輔さんの上機嫌な声が聞こえた。
「君たち前文明の映像がどうとか言ってたけど、一斉に跳びかかって全員吹っ飛ばされる映像なかったの?」



俺は最上階と思われるところに到達した。周りを見渡してみると大きな人影を見つけた。
「お前がトップか?」
少し強気に言ってみたがかなり怖い。がたいがかなりいいし身長は二メートル以上ありそうだ。俺より40センチほど目線が高いので見上げるようになってしまう。
「その通りだ。」
大男はその外観にふさわしい野太い声でそう言った。
「俺たちの街の絆はどうした?」
「フハハ、絆という言葉は胸くそ悪いが、いいエネルギーになるのでな。取り込ませてもらった。」
「と言うことは、お前の腹をぶち抜いたら、絆は戻ってくるんだな?」
「貴様にぶち抜けるのか?」
「ぶち抜いてやるさ。」
そこからは言葉もなく睨み合う。足がすくむ。しかし、俺がやるしかない。先に動いたのは俺だった。体重をあまりかけずにジャブを打つ。しかしながら、大男も流石にトップなだけはある。その巨体で軽やかによける。右手でパンチを打つ。大男は左によけた。ここで俺はすかさず回し蹴りを繰り出した、が大男は後ろに跳んで避ける。しかし、大男の後ろは壁だった。大男は逃げ場がなくなる。これはついている、と全体重を乗せた右ストレートを繰り出す。そこで、誤りに気づく。何がついている、だ、そんなことを思ったら――。しかし、俺のミスはもっと大変なものだった。大男は俺の右手を受け止めた、その瞬間俺の右腕は吹き飛んだ。
「なっ!!?」
俺は驚き、後ろに跳んだ。右腕は肩からまるまる吹き飛んでいる。苦痛に耐えていると、大男はにやにやしながら話しかけてきた。
「驚いているようだな。しかし、異能の力は珍しいものじゃないだろう?」それもそうだ、けれどやつは地底人のはず。どうして?
「お前は地底人だろ?なぜ力が使えるんだ!?」「それは昔のことだ。今は科学技術の発達で人工的に力をつけることができるんだよ。もともと力の使える貴様たちは知らないかもしれないがな。」
「く…そっ。」
これは俺のミスだろう。少し考えたらわかったことだったのだろう。この状況は絶望的で…不幸だ。自然に笑みがこぼれてくる。
「?何を笑っている。」
大男は不愉快そうにそう言った。
「不幸だ、今最高に不幸だ。一人で親玉と戦い、利き腕を吹き飛ばされてるんだからな。」
「なら何故笑っている?」「俺が勝つからだ。」
瞬間――。俺は大男の懐に跳び込んだ。左腕に体重を乗せて前に突き出す。…そう言えば、俺の力について詳しく話していなかったな。俺の力は、幸せと基礎能力が反比例する、だ。幸せなら能力が下がり、不幸せなら能力が上がるのだ。つまり、今の俺はすんげぇ強い。
相手は反応できていない。そのまま左手を振り抜く!「ぐほぁ!?」大男の巨体に風穴があいた。それだけではすまず巨体は吹っ飛び、壁をぶち抜き、空中に放り出された。大男の風穴から光が漏れだし、視界が真っ白になる。視界が戻り目を開くと光の粒子が降っていた。「よくやったね。」声がしたほうを見ると、さっき別れたときと同じ姿、汚れ一つない姿で立っていた。
「楽勝だったみたいだな。こんなことなら煌輔さんが戦った方がよかったんじゃ?」
「いや、僕には無理だよ。倒せても命を奪う力がないからね。」煌輔さんは残念そうに言う。
「はぁ!?倒すだけじゃだめだったのか?最初は殺すつもりはなかったんだぞ。」
「ゴメンゴメン。言い忘れてた。しかし、すごい怪我だね。治そうか。」
「ああ、わるいな。」
煌輔さんの能力は、不完全な破壊と不完全な再生、だ。命を消すこともできないし、造ったりする事もできないが、神の奇跡もどきなことはできる。腕を治すことくらいどうってことないだろう。「治ったよ。」
煌輔さんの言葉通り右腕は元に戻っている。まだ少し鋭い痛みが残っているが。
「さて帰りますか。」煌輔さんはそう言って歩き出す。ああそうだ、と言いながら煌輔さんは振り返って言った。
「試験合格おめでとう。」



それから十日ほどたったある日のこと。
「やっぱりこの生活の方がいいな。」
と独り言を言っていると
「君が取り戻した生活だからね。」
と煌輔さんが話しかけてきた。続けて煌輔さんが言ってくる。
「同性愛には目覚めなかったねぇ。取り戻したものは家族愛と友愛だろ。華がないな。」
思わずにやけてしまう。
「ふふん、それが手に入れちゃったんだな。」
「同性愛を?」
「違うよ!男女愛、彼女だよ!」
なんて恐ろしいことをいってくるんだ!
「そっかぁ、君に彼女か。これは驚いたなぁ。」
「煌輔さん、驚いてるように見えないよ。」
…あれから煌輔さんとは友達みたいな感じで接している。
「あの時100円を入れたからこうなったんだとしたら、やすい買い物したな、と思うよ。」
「僕は100円のほうがいいな。」
「夢がないし、安いな煌輔さん。」
最近、力が弱くなっている。理由は分かり切っている。俺がいるこの場所は、とても幸せな場所だから――。