快天BOOKS
外国人作家:A~M
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Auster, Paul/偶然の音楽
評価 | ★★★ | |
訳者 | 柴田元幸 | |
ジャンル | 小説 | |
出版年 | 1998 | |
出版社 | 新潮社 | |
コメント | ニュートラルで静謐な文体。全体としては割と退屈な物語だが、主人公の感情描写が正確であるため、読者をどんどん引き込んでいく。マトモなように見えて、少しだけズレている。だからこそ人間らしいキャラクターになっている。ラスト50ページの展開がスゴイ。「音楽」の要素は取って付けたような感じがするが、石を積み上げていく描写は巧い。 |
Bach, Richard/イリュージョン
評価 | ★★★ | |
訳者 | 村上龍 | |
ジャンル | 小説 | |
出版年 | 1981 | |
出版社 | 集英社文庫 | |
コメント | 寓話の中にバックの思想がとことん注ぎ込まれている。思想というよりは、バックが自然と獲得した「真実」なのかも知れない。例えば、小説の中で主人公はキリスト教に対して批判を述べるのだが、キリスト教徒にとっては冒涜であっても外部から見れば真実だったりするわけだ。大空から地上の全てを見下ろす飛行気乗りのバックだからこそ、説得力もある。ただ、村上龍の小説技法が押し出され、なんとなく「だいじょうぶマイ・フレンド」を思い出した。 |
Bukowski, Henry Charles/詩人と女たち
評価 | ★ | |
訳者 | 中川五郎 | |
ジャンル | 小説 | |
出版年 | 1992 | |
出版社 | 河出書房新社 | |
コメント | 訳者の語彙の少なさ、表現力の乏しさが、本来のブコウスキーの文体やキャラクターを消している。詩人であること・女好きであることに自己投影は出来ず、男性ならではの苦悩や、老年ならではの独特な人生観に納得はしても、潔さまでは感じない。「パンクスとしてのブコウスキー像」のイメージでは捉えられず、そこを許容しない限りはこの物語に入り込む余地はない。 |
Carver, Raymond/Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選
評価 | ★★★ | |
訳者 | 村上春樹 | |
ジャンル | 小説 | |
出版年 | 1997 | |
出版社 | 中公文庫 | |
コメント | 良くも悪くも村上春樹の文体になっている。しかし、彼でないとカーヴァーの魅力はここまで表されないだろう。彼の短編には常に不穏な空気が漂っている。それは、登場する人物が無力な人間ばかりだからだろうか。何か決定的に悪いことが起こりそうな予感が生まれ、もちろんそれが裏切られることもあるが、大抵の場合はその悪い予感の通りに物語は進んでいく。ただ、それが「悪い」ままで終わるわけではなく、より深い意味での「運命のどうしようもなさ」みたいなものが見えてくる。主人公たちは必ず何か大切なものを失うが、そこで喪失の悲しみや辛さを具体的に描くわけではなく、喪失の本質のみを描いているように感じる。 |
Cocteau, Jean/怖るべき子供たち
評価 | ★★ | |
訳者 | 東郷青児 | |
ジャンル | 小説 | |
出版年 | 1991 | |
出版社 | 角川文庫 | |
コメント | タイトルから想像するような怖ろしさ、つまり子供らしい純粋さとか残酷さみたいなものがなかなか体感できなかった。ストーリー展開も、その構成も、文体も、詩人であるコクトーの技量は確固としてあるわけだが、好みに合わないのでどうしようもない。どんなに巧みな構築で、どんなに美しい表現であっても、「小説を読む楽しみ」に繋がらない物語を読むのは辛い。 |
Coelho, Paulo/ベロニカは死ぬことにした
評価 | ★★★★ | |
訳者 | 江口研一 | |
ジャンル | 小説 | |
出版年 | 2003 | |
出版社 | 角川文庫 | |
コメント | 重度の心臓病と診断され、あと一週間しか生きられないと知らされたベロニカ。限られた命の中で、彼女は自分らしく生きる方法を模索するようになる。精神病院という舞台設定によって、何が普通で、何が異常かという認識を根底から問い直すことになっている。重厚なテーマが感動的なストーリーによって彩られていく。「常識」や「普通」という認識に多くの人が縛られていて、そこから外れる一人の人間を、残りの人間は「異常」として見てしまう。この物語では、そういう「普通」の「異常性」を暴いてもいる。だからこそ、リアルに読者に伝わるのではないか。 |
Dostoevskii, Fedor Mikhailovich/罪と罰
評価 | ★★★★★ | |
訳者 | 工藤精一郎 | |
ジャンル | 小説 | |
出版年 | 1987 | |
出版社 | 新潮文庫 | |
コメント | 今となっては珍しくもないテーマだが、ここまでヒリヒリと伝わってくる作品はそうないだろう。長い作品だが決して飽きさせない構成だし、様々な小説形式の魅力が詰まっている。この作品において「罪」と「罰」は同位に置かれていない。確かにラスコーリニコフは罪人として罰を受けるが、それは社会(読者)がそう捉えているだけであって、彼自身にとっては別物である。その確信犯的な矛盾が、この作品を比類なきものにしているのではないか。しかし、彼の思想に多少の共感を抱く自分は罪人だろうか。 |
Garcia Marquez, Gabriel Jose/百年の孤独
評価 | ★★★★★ | |
訳者 | 鼓直 | |
ジャンル | 小説 | |
出版年 | 1972 | |
出版社 | 新潮社 | |
コメント | 様々な人物が登場し、大小のエピソードが次々と紡がれ、百年という長い年月を緩やかに描いているにも関わらず、全く飽きさせない語り口には驚嘆せざるを得ない。マコンド崩壊までの間に多くの人間の命が生まれ、また失われていくことになるが、特に彼らの「死」の描写が巧みであるが故、物語が重厚かつ非現実的なヴェールに包まれていくように思う。ラテン・アメリカの歴史を母体にして、奇抜なアイデアやストーリーで彩るという手法により、神話性を持ちながら歴史性を持つという絶妙なバランスがある。同時に、それらは曖昧に混ぜ合わされるという不思議な構造をしている。 |