.世界の中心 一日目 ・租借シナリオ一日目夜より派生  唐突に、目が覚めた。 色々なことがあって疲れているはずなのに、妙に目がさえて眠れない。 「どうすっかなぁ……」 ..A:羊でも数えるか A:羊でも数えるか 「羊でも数えてりゃ眠れるだろ」  羊が1匹……羊が2匹……羊が3匹…… 羊が72匹……羊が73匹… 羊が325匹……執事が326匹…… あれ? 執事って何人じゃなかったっけ? いや、そもそも俺は羊をだな。 ……どうして羊って数えてるうちに違う物になったり、逆に目がさえてきたりするんだろうね? そんなことを考えているうちに、ゆっくりと眠気に飲み込まれていった。(租借シナリオ2日目へ) ..B:水でも飲むか B:水でも飲むか 「仕方ない、水でも飲むとしますか」  体を起こし、美羽達を起こさないように台所へ。 戸棚からコップを出し、水を注いで口にした。 どうして水を飲むと急に汗をかくんだろう、何てくだらない事を考えていると、 「ユウト様……?」  含んだ水を思いっきり噴出した。 「ゴフ、エフ、ケハ!!」 「だ、大丈夫ですか!?」 「コフ、あ、ああ平気っす。えっと、ユリア、姫」  異国のお姫様がそこにいた。 忍び足で急に後ろから話しかけるのはやめて欲しい。正直、ちょっと怖かった。 「すいません、喉が渇いてしまって。  皆様を起こさないようにと思ったのですが、逆に驚かせてしまったようですわね」 「あ、何だ姫様も? あー、コップはこちらの物を」 「ユリア、です」 「んあ?」 「ユリア、で構いません。私達は今日から家族ですから。  家族を姫、って呼ぶのも、なんだかおかしいでしょう?」 なるほど、姫様だけあって人の心を掴むのには長けているらしい。 「あいよ、んじゃユリア。コップはこっちのコレを使ってくれ。  それから、家族に様付けも変だよな? 俺にはそんなに畏まらなくても大丈夫だから」 「はい、ユウトさん」  ユウトさん、だなんて名前で呼ばれたのは何時振りだろうか。 なんだかこそばゆい感じがする。 「では、私はこれで。お休みなさいませ、ユウトさん」 「あ、ちょっと待った」  そういえば、ずっと疑問に思ってたことがあった。 「はい? なんでしょうか?」 「俺達は、家族なんだよな?」 「ええ、先ほども申し上げました通り、私達は家族です」 「じゃあ家族に隠し事は無しだ。正直に答えてくれ、なんで家に来たんだ?」 「……気づいて、らしたのですね」 「そりゃな。あんな説明で納得できるほど、俺はバカじゃない」  そう。先ほどの説明じゃ、ユリア達が家に来た理由としては薄すぎる。 ホームステイするなら何もこんな一般の家に来ないでも、ノア先生の家でもいいはずだ。 むしろ、そちらの方が面倒な問題も起きなくて済む。 それなのに家に来たということは、何か別の理由があるとしか思えない。 「わかりました。正直にお話いたしましょう。ここでは何ですから、少し外に出ませんか?」 「わかった、ちょっと待っててくれ」  この時間帯にもなると外はひんやりと冷たく。 火照った体に丁度いい。 ユリアは中々口を話し出そうとしなかったが、決意したのだろう、やっと重い口を開いた。 「私達の世界は、今崩壊の危機にあります」 「私達の……世界?」 「はい。私の世界と、そして……ユウトさん達世界」  信じてくださいね? と前置きして、ユリアは説明を始めた。 曰く、ユリアは異国の姫様なんかではなく、俺達の世界と対を成す世界からやってきたこと。 曰く、ユリアの世界は今崩壊の危機にあること。 曰く、ユリアの世界が崩壊すると、俺達の世界も崩壊してしまうこと。 一言で言ってしまえば、わけがわからなかった。 「世界は、後一年足らずで崩壊してしまうでしょう。  それを止めるために、私はユウトさんの元に来たのです」 世界を救ってくれと、彼女は言った。 まるでどこかのRPGのような話だ。 世界の崩壊を止める勇者。それを慕うお姫様。 ゲームの中じゃ当たり前な話も、実際言われてみると違和感が残る。 当たり前だ。ここは現実であって、ゲームの中じゃないのだから。 「理解していただけましたか」 「ああ、大体は。でも、すぐに返事するわけにもいかない。  まだわからないことも多すぎる。少し、時間をくれないか」 「……そうですよね、こんな話、すぐに信じろと言っても無理な話でしたわね……」 「明日には、きっと答を出すと思う。だからそれまで」 「わかりました。明日、またユウトさんの答を聞きたいと思います」 「ん。それじゃ、そろそろ帰るか。  美羽達に見つかったらうるさいし、いい加減寒くなってきた」 「そうですわね。風邪を引いてはいけませんし、早く寝ないと明日大変ですから」  世界の崩壊。一日だけの猶予。考えることが山積みだ。 家に入るとき、後ろでユリアが呟いた、 「私は、ユウトさんを信じています」  という言葉が、やけに強く胸に残った。 .世界の中心 二日目 (一日目、選択肢Bを選んだ場合)  結局、碌に眠れないまま朝はやってきた。 「ういっす、おはよ……」 「え、あ、嘘、兄貴!? やっばい、寝坊した! 今何時!?」 「落ち着け美羽。寝坊してないし遅刻でもないから」 「6時54分……ホントだ。待って待って、コレは夢ね? 早く起きて現実のアタシー!」 「俺どんだけ信用ないんすか」  洗面台へ向かい、顔を洗う。 多少は目が覚めたかとも思ったが、感じるのは強い寝不足感だけだ。 鏡の中にはクマを作った俺。我ながら、酷い顔だ。 「おはよう……お兄ちゃん……」 「ああ、美優おはよう。って、また眠そうな顔してんなぁオイ」  美優の低血圧ぶりにはいつも驚かされる。 つい最近の事例を挙げると、寝ぼけてパジャマで学園へ行ったぐらいだ。 あれは面白すぎて止められなかった。あとで美羽に叱られたが。 「ほら、顔洗って目覚ませ」 「うん……だってまだ夢見てるもん……」 「は?」 「お兄ちゃんが……私よりも早く起きてる夢……」 「お前ら姉妹は揃いも揃って……っ!」  そんなに俺は寝ぼすけな印象があるのか。 それと美優、一つ訂正させろ。お前はいつも二度寝した俺が殴られる音で起きるくせに。 少なくともいつもお前よりは早く起きてるわ。  リビングにつくと、そこには香ばしく焼けたパンが既に準備してあった。 低血圧な美優とは違い、美羽は朝に強い。 おかげで、いつも朝食はコイツに任せっきりだ。 時々、兄として何か手伝おうとも思うが、如何せん朝は起きられん。 そもそも、料理を手伝うといっても俺はカップ焼きそばの麺を汁ごと溢してしまう程の腕の持ち主だ。 つまり、足手まといにしかなるまい。 「うっわ、やっぱり夢じゃなかったんだ」 「人の顔見て第二声がそれかマイシスター」 「冗談。まぁテルテル坊主ぐらいは作ったけどね」 「ハッハッハ、最近美羽はどんどん冗談が上手くなってくるなー」 「いや、テルテル坊主は本気で吊るしてあるけど。  兄貴はトースト、ジャムとマーガリンどっちがいい?」 「むしろそこは否定しようぜ……  あー、俺食欲ないからいいや。朝飯食べる気分じゃないんだわ」 「あらあら、いけませんわ。朝の食事は力の源。朝食から一日は始まるのですよ?」 「ん? ああ、おはようユリア。もう起きたのか」 「ええ、まあ。ユウトさんも?」 「ん、まあね。それより、ユリアは飯どうする?」 「ええ、ではジャム、と言うものをお願いします」 「だってよ、美羽」 「……いや、わかっちゃいたけどそれやるの私なのよね……  ユリアさん、アップルとオレンジどっちがいい?」 「では、その黄色い方を」 「あいよ〜、で、だから兄貴はどうすんだってば」 「だから、俺はいらないって何度も」 「ダメです。朝ごはんはしっかり食べないと」 「そう言われても、食欲が」 「何だ、貴様。姫のお言葉に従えないのか」 「んげ」  そういえば、すっかり忘れていた。我が家のもう一人の同居人。 姫のお付の騎士にしてメイドというややこしい立場のお人。名前はレンさんだったか。 「姫様がユウト殿の体をお気遣いになって申したというのにその言い草、何たること」 「ヘイヘイ、わかったって。んー、んじゃ俺マーガリンで」  トーストに噛りつきながら、美優がつけたテレビを眺める。 画面には、ガガガのオニ太郎が映っていた。 レンさんはアニメが珍しいらしく、しきりに美優にアニメのことについて尋ねている。  美優も満更では無いらしく、これまた珍しいほど意気揚々と質問に答えていた。 これなら、仲良くなるのも時間の問題だ、とほっと胸を撫で下ろした。 それにしても、最近このアニメビジュアルが昔と大分変わったよな。 昔はもっと、こうなんていうか熱血色の強い勇者チックなロボットアニメだったはずなのに。 あーあ、キャットレディも随分可愛らしくなって……ん? ガガガのオニ太郎? 「あれ、これ平日にやってるアニメだったっけ?」 「何言ってんの。今日は土曜日でしょ。兄貴、まだ寝ぼけてんの?」 「すわ、ぬかった! なんだよ、じゃあこんな朝早く起きるんじゃなかった」 「早起きは三文の得……」 「美優の言うとおりよ。休日だからっていっつも寝てばっかだと、体に悪いよこのバカ兄貴」 「三文? なんですか、それは」 「早起きすると得なことがあるってことだよ。  でも知ってるかユリア? 三文って実は価値がとても低いことの喩えなんだぜ」 「まぁ。ユウトさんは博識ですのね」 「まぁな」  曲がり間違っても四コマ漫画から仕入れた知識とは言えないけどな。 「……」 「……」 「ん、どうした美羽にレンさん。なんか凄い目つきでこっち睨んでるけど」 「……朝から変だなーと思ってたけどさ。『ユリア』って何?  兄貴、何でユリアさんのこと呼び捨てなの?」 「某も同じことを思っていた。ユウト殿、返答次第によっては……」 「だぁ、待て待て待て! お前らが考えてるようなやましいことは何も!」 「そうですわ。ユウトさんが、昨晩私とお話した時に……」 「んな、同居一日目にして夜這い!?」 「貴様っ! 姫に不埒な真似をっ!!」 「違う違う違う違う! いやほら、昨日から俺達は家族だろ? だから」 「し、しかも理由が『家族だから!?』  そんな、兄貴がアタシや美優のことも狙ってたなんて! 変態だとは思ってたけどまさかそこまで!!」 「ええい、もう我慢ならん! そこに直れ、剣の錆びにしてくれる!」 「ギニャァァァァアアアア!!」  いつから我が家は戦場になったんだろうか? こぼれる涙が止められらない、そんな朝の一コマだった。 「ひでぇ目にあった……」  ここは学園。レンさんと美羽の連携コンボで、危うく生死の境をうろつくハメになるとこだった俺は、命からがら何とか逃げ出してここへ来た。 学園は自己の能力の向上を心がける学生のために、休日でも門を開いている。 とはいえ、そんなマジメな生徒なんてそうそういるはずもなく。 誰も居ない教室で一息ついているというわけだ。 「うぅ、寝不足の上に走り回ったから貧血起こした……」  全く、少しは体を労って欲しいもんだ。 机に突っ伏したまま、俺は、 ..A:姫達のことについて考えていた A:ユリア達のことについて考えていた  ユリア達のことについて考えていた。 昨日された話。まだ、返事は考えていない。 そもそも、世界を救えって言われても、まともに実感がわかない。 何で俺が? 俺は何か特別なのか? そんなはずはない。魔法も下の下、力もそこそこ。そんな普通の男だ。 じゃあ、何故姫はあんな話を……あんな話? あれ、どんな話だったっけ? つい昨日のことなのに、思い出せない。 記憶にもやがかかっているようだ。何なんだ、一体? 「おいっす。珍しいね、ヒロト君が休みに学校にいるなんて」 「あ、ノアさん。いや、これには結構深い事情がですね?」 「こーら。学校では先生って呼べって言ってるでしょ?」 「休みに先生も何もないっすよ」 「……ん? あれ、君……?」 「へ? なんすか?」 「いや、でも……ああ、なるほどバグか……シナリオが……」 「の、ノアさん?」 「ッチ、クソ。なるほどな。こりゃ時系列まで弄らなきゃ……ああ、こっちの話。  ところで、見た感じヒロト君疲れてるみたいね。少し休んだ方がいいわよ?」 ノアさんにそう言われた途端、急激な眠気が襲ってきた。 昨日何かあった気が……するのに。考えごとが……あった……ような…… 「もしもし、私だ。ったく、あれほど……には気をつけろって何度も……  ハイハイ、言い訳は後。さっさと処理……」 最後に、ノアさんが誰かと電話しているのを聞きながら、俺は深い眠りに落ちていった。 (結構メタな話なバグがあった設定で、先生達組織が改竄。租借シナリオ第2話 - 1.二日目:朝に戻る) ..B:美羽達のことについて考えていた B:美羽達のことについて考えていた  美羽達のことについて考えていた。 昨日の話を鵜呑みにすると、俺はどうやら異世界へ行かなければならないらしい。 そこに、美羽達を連れて行くわけにはいかない。家族を危険に晒すのは耐えられない。 俺が居なくなったら、あの二人はどうするのだろう。 泣いてくれるだろうか。それとも、何事も無かったかのように過ごすのだろうか。 両親が随分前に他界してから、俺は必死に兄を努めてきた。 その俺が、居なくなるかもしれない。あいつらは、耐えられるのか? そう考えると、ますます簡単には返事をするわけにはいかない気がしてくる。 堂々巡りの思考の中、俺の意識は段々と薄れていった。 ...B選択後 選択肢B選択後 「ん、んん……んあ?」  ふと目を開けると、既に辺りは紅く染まっていた。 時計を見れば時刻は既に5時30分を回っている。 「マジで疲れてたんだな……」  無理な格好で寝たからだろう、所々体がしびれている。 グキグキ間接を鳴らしながら、立ち上がった。 「なんだ、もう帰るの? もう少しゆっくりしていったらいいのに」 「あ、ノアさん」 「コラ。何度言わせるの? 学校ではセンセイ、でしょ?」  休日に先生も何もあったもんじゃないと思うが。 この人は昔から、こういうところのこだわりだけは捨てようとはしない。 「あれ、でも先生、何でこんな所に? 今日は休みだったんじゃ」 「私の可愛い生徒が休日に勉強してるかもしれないでしょ?  だからそういう生徒の為に休みにも学校にくるようにしているの」 「へぇ、教師の鑑って奴ですね」 「まぁ、残念ながら居たのは睡眠学習に勤しむ生徒が一人きりだったけどね」 「睡眠学習だって一種の学習ですよ。実際、俺今までそれで乗り切ってきましたし」 「だから貴方の成績は芳しくないのね。やぁっと理由がわかったわぁ〜」  相変わらずキツイところはキツイ。 早くに両親を亡くした俺達家族は、その教育権をノアさんに託され、以来彼女が我が家のお母さん的存在だ。 本人にそんなこと言うと『お姉さんでしょ!』と可愛らしく怒られてしまうが、きっと美羽達もお姉さんよりお母さんと思ってるに違いない。 二人の顔を頭に描いた瞬間、眠る前に悩んでいたことを思い出した。 「……どうしたの? 何か悩んでるみたいだけど」 「え、あ」  顔に出てしまったのだろうか。ノアさんは心配そうに顔を覗いている。 無論、こんな相談出来るはずもなく。ここは適当に誤魔化すとしよう。 「あー、いえ。ちと変な格好で寝たから軽く気分が悪かっただけです」 「……そう、じゃあ聞かないであげるわ」 「? それってどういう」 「だって。私にそんな嘘をついて誤魔化そうとするぐらいだもの。  人には相談できない悩みなんでしょう?」 「うぐっ、正解っす」 「ほーらね。私の観察眼を舐めて貰っちゃ困るなー」  そう言えば、昔っから俺はこの人に嘘をつけた例が無い。 どんなに上手く嘘をついても、何故かすぐにバレてしまうのだ。 ノアさん曰く、『そんなの目を見たら一発よ』だそうで。 或いは、それがこの人の能力なのかも知れない。 「じゃ、俺そろそろ帰ります」 「あら残念。もう少し二人きりを楽しもうと思ったのに」 「ノアさ……せ、先生は今日どっちに?」 「自宅に帰るわ。私が居たら姫との親睦も上手く図れないでしょうし」 「いえ、決してそんなことは」 「だって、貴方達きっと私におんぶにだっこしちゃうでしょう?  親睦って言うのは本人達が結ぶものよ。私が手助けしちゃ意味ないもの」 なるほど。こういう所は先生なんだなー、と実感する。 親であり姉であり先生。この人にはお世話になりっぱなしだ。 「帰り道には気をつけてね?」 「はい。先生もお気をつけて」 「フフ、もう先生なんて呼ばなくてもいいのよ?」 「そこら辺の基準はどうなってんですか」 「学校が終わったら先生も終わり。簡単でしょ?」  休みの日でも学校に居たら先生で、学校が終わったらノアさん…… 頭がこんがりそうだな。  外はもう日が落ち、空もそろそろ星が見えてくるほどで。 随分長い間寝てたんだな。早く帰らないとあいつら心配するだろうし。 急ぎ足で家へと向かう。こういう時、近いのは得だよな。 走ったおかげか、ほんの10分足らずで家の前に到着した。 「ただいま、と」  ドアノブに手をかけ、扉を開ける。その先には 選択肢 ....A:美羽がいた A:美羽がいた 「お、兄貴おっかえりー」 「あん、何だ居たのか美羽」 「む、居たのかとはなんだよー。せっかく兄貴の帰りを待っててやったのに」 「ん〜? なるほどなるほど、お前も可愛いとこあんだなー」 「可愛い? 恐ろしいの間違いじゃなくて?」 「ひゃい?」 「やっと帰ってきたか。待ちわびたぞ、下郎」  あっれっれー、なんかうしろにオニがみえるよー、なにかなーあれ。  誰がどうみてもまごうことなきレンさんです、本当にありがとうございました。  何にありがとうございましたって、俺の人生に。何か後ろに修羅背負ってらっしゃるんですもの。   「ひ、ひとつお聞きしてもよろしいでせうか?」 「何だ」 「何でそんなに怒ってらっしゃるのでせう?」 「今朝のこと、よもや忘れたとは言わせんぞ」  ハイ、すっかり忘れてました。  ってっちょっちょっちょ、まだその件で怒ってらっしゃったー!?   「ま、待て待て待て!! ユリアから事情じゃないの!?」 「知るか。姫様はお前を探しに外へ出て、先ほど帰って来た途端疲れて御休みになられた」 「んで、寝言で『ユウトさん……』とか呟くもんだからさー。有罪じゃね? コレって」 「さて、何か言い残すことは?」  正直色々ありすぎて何を言えばいいかわからないんですが。  例えば、今晩『がき☆つか』がやるから録画しといて、とか。  明日の朝には『アラシの語欲!』がやるから見たいなー、とか。  あ、あと『仮免ライダー電脳』もやるんだよなー。   「ってか、その後ろの大剣はなんですか?」 「フ、冥土の土産に教えてやる。これは、お前の最後を奪うものだ」 「メイドが冥土の土産って誰がそんな上手いことをアッ―!」  血だらけで簀巻きのまま外に野ざらしは大変きつうございました。  おかげで夕飯食べ損ねてしまいましたですよ? あぁ、お腹すいたなぁ。  鳩ラッシュ、僕疲れたよ、なんだか眠いんだ……  結局、解放されたのは夜が更けてユリアの目が覚めてからでしたとさ。とほほ…… ....B:美優がいた B:美優がいた 「お帰りなさい」 「あれ、美優だけか。美羽は?」 「ユリアさん達と一緒に買い物」 「ふーん。て、え? 買い物? ユリアとレンさんが?」 「うん」  ナンテコッタイ、嫌な予感しかしやしない。 片や生粋のお姫様。まして、この世界に来て日が浅い。 片や銃刀法を違反どころか無視を決め込む騎士メイドさん。 もし姫の身に何かあれば、天気予報のお姉さんは 『本日の天気は晴れのち血の雨になるでしょう』 と悲しいニュースを読む羽目になる。しかも降水確率90%オーバーときた。 「な、なんてことを! 誰だそんなバカなこと許可したのは!!」 「美羽お姉ちゃんが、ユリアさんと一緒に買い物行こうって。  そしたらレンさんも着いていくって聞かなくて」 とんでもねぇ。仮にも、ユリアはお姫様だ。もし何かあったらどうすんだ。 この場合、何かあったらというのはユリアに対してじゃない。 周りの人間に、主に俺に対してだ。  レンさんが何かしらの理由で御用となったら、連帯責任でユリアの経歴にも泥がつく。 仮にも地位の高い人物の経歴に傷をつけたとなっちゃ、ましてや姫だ、王家が黙っていまい。 人生オワタ、と頭の中の誰かが騒ぎ出す。 頭の中のその人は、何とか必死に樹海に行こうとする。 だってのに、周りは罠がいっぱいで、上から下から針に潰されティウンティウンするのだ。 何が言いたいかというと、つまりそれだけ今俺はパニクっている。 「おい美優! 美羽はどこに買い物行くって言ってた、何時何分何秒に出てった!?  そもそも、なんで止めなかったんだ!? どう考えたって死亡フラグ立ちまくりだろそれ!」 「お兄ちゃん、落ち着いて。出てったのはお兄ちゃんが家を出てから10分後ぐらい。  止めなかった理由はあれ」 「あれ?」  その指差された先には、一着のメイド服と一本の大剣。 「……置いてったの?」 「うん。お姉ちゃん、ユリアさんとレンさんが普段着る服を買いに行くって」 「先にいえよなぁ」  一気に肩の力が抜けた。 ったく、同居人が増えると気苦労が増えていけない。 いくら事情があるとはいえ、こういうのは姉妹の分だけで充分である。 今後もこういうのが増えるようなら、対策を考えなきゃ行けないかもしれない。 「ま、それなら安心だろ。美優、腹減ってないか? 久しぶりに俺が飯作ってやるよ」 「えっ……い、いいよ。私が作る」 「なんだよ。久しぶりに漢の飯を作ってやろうってんだぞ? 遠慮すんなって」 「べ、別に遠慮じゃなくて」 「あ、でもなんか俺餃子食べたい餃子。よし、今日は中華料理だ!」  後ろで美優が騒いでいるようだが聞いちゃいられん。思い立ったが吉日と言うし。 確か餃子の皮は余っていたはずだよな。それから薄力粉はどこにあったか。 最後に餃子を水で蒸す時に軽く薄力粉を混ぜると、いい感じに羽がつくのだ。 よっしゃ、俄然やる気出てきた。ちょっと本気出して作ろう、うん。 「ただいまー」 「ただ今戻りました」 「お、おかえりー。随分遅くなったんだな」 「そうなの、レンさんがごねちゃってさ」 「し、しかし、やはりこのような服は騎士としては……」 「ハイハイ、話は後で聞いてやるから、まずは飯食おうぜ。作っといたから」  テーブルの上には既に所狭しと料理が並んでいる。 チャーハンにホイコーロー、豚肉が余っていたから雲白肉もセットで。 そしてメインディッシュの餃子。中華チックな香ばしい匂いが、部屋中に充満している。 「げ、兄貴が今日飯作ったの!?」 「あら、いい匂い。ユウトさんは料理の腕もおありでしたのね」 「だから、問題なのよ……」 「なんだよ、旨けりゃ問題ないだろうに」  何が問題なのか、昔から美優と美羽は俺の料理を嫌う。 昔、悪友の家で徹マーした後腕を奮ってやった時は、悪友に 『頼むから料理人になってくれ。あるいは俺の為だけに飯を作ってくれ』 と頼まれたほどの腕の持ち主なのに。告白っぽくて気持ち悪かったからぶん殴ったけど。 逆に、インスタントやトースト等といった単純な料理は糞がつくほど下手だったりするが。 「さ、飯だ飯だ。今日は疲れたからな、俺もうハラペコだっつの」 「ええ、では夕飯にしましょう。レン、貴方も隠れてないで席に着きなさい」 「し、しかし」 「しかし、ではありません。夕飯時には王家が一同に会して食を取りました。  なら、ここでも皆が一同に会して食事するのが礼儀というものでしょう」 「う……わかりました、それが姫様の命であれば」  渋々と恥ずかしそうにレンさんが、その後ろからユリアが顔を出す。 ユリアはあの豪華なドレスとは一転して、質素な純白のワンピースを着ている。 それでもオーラ、とでも言うのだろうか、高貴なイメージが抜けない辺り流石だ。 避暑地のお嬢様ってこんな感じなんだろうか? 対して、レンさんはGパンにTシャツとボーイッシュなカジュアル系。 これはこれで、キャラのイメージにあってよく似合っている。 美羽は服のセンスいいからな。俺達兄弟の中で一番おしゃれさんだし。 「な、なんだその目は。やはり似合わないと思っているのか?」 「んなまさか。むしろ似合いすぎて驚いたぐらいだ。ユリアも、よく似合ってるぞ」 「ありがとうございます。  衣服のことはよくわからないので、全て美羽さんに選んでいただいたのですが」 「ふっふーん、どうよ兄貴、私のこのチョイス。ぴったりでしょ?」 「ああ、GJだ。よかったマークをやろう」 「よかったマーク? 何それ」  最近読んだ小説の中に出てきたシールのことだが、お前は知らなくてよろしい。 「その、何だ。ミウには感謝している。  自分の服のことなど無頓着だった故、彼女が居なければどれを選べばいいかわからなかった」 「お、もう呼び捨てするほどの仲になったのか」  美優とは仲がよくなったと思ったが、美羽とももうそんなに仲良くなっていたのか。 意外と、レンさんも人の心を掴むのが上手いのかもしれない。 「ああ。だから、その何だ。お前も私のことをさん付けで呼ぶのはやめてくれ」 「へ? 何で、いいじゃんか別に減るもんじゃなし」 「減る、減らないの問題ではない。  お前が姫様を呼び捨てにするのならば、私も呼び捨てにしろと言うだけの話だ」 「えと、何か関係あるのかそれ?」 「大有りだ。某は姫様のメイド。だというのに、某だけ敬称で呼ばれるのはおかしいだろう。  それに、その、どうにもむず痒いのだ、そのようにさん、等と呼ばれるのは」 「あー、なるほどな。了承、んじゃこれからレンって呼ぶからな」  そっちのほうが俺も楽でいい。昨日、ユリアに向かって家族に敬称は変だと言ったのは俺だ。 なら、俺だってそれに習うべきだろう。 「ま、二人とも腹減ったろ。今日は腕によりをかけたからな。思う存分食ってくれ」 「う、腕によりをかけちゃったわけね……よりにもよって」 「アッハッハー、上手いこと言うなあ美羽は」 「そんなつもりないわよ、バカ兄貴!!」 「あの、何故ユウトさんが料理をしてはいけないのですが?  匂いも見た目も申し分ないほどなのですが」 「ふ、フフフフフ、ユリアさんも今日の夜辺りにわかるわよ、理由が……」  何だかんだと文句を言いながらも、全員が食卓に着く。 いただきます、の合図が終われば、この場は今朝よりも険しい戦場と化す。 飛び交う箸と怒号。鋭い牽制とフェイント。そして、絡み合う箸と箸。 マナー? 礼儀? 何それ、おいしいの? ほら、ユリアももっと前に出ろ、じゃないと……ってえぇ!? 何そのすばやい箸捌き!? コレも淑女のたしなみです、って違う、それ嗜み違う。 「うぅ…… 「おいおい、どうした美優? 箸が進んでないじゃ、あ、それは俺の!!」 「だって……これ、全部ほうれん草入ってる」 「あったりまえだ。お前低血圧なんだから、ちゃんと鉄分採らないと  ほら、レバニラとってやったから、ってぬわ、追撃!?」 「でも、ほうれん草もレバーも嫌い」 「だーめ。兄貴命令だ。ちゃんと食べなさい」  美優は低血圧な癖に鉄分豊富なものをどうしてか嫌う。 俺の料理の腕が上がったのも、実はそのせいだ。 ピーマン嫌いな子供よろしく、どんなに巧妙に隠しても美優は上手いことそれを取り除く。 そうして俺と美優の戦いは激化し、ついに俺はこの料理の腕を手に入れてしまった。 しかもその戦いは未だ続いている。こいつの好き嫌いはどうにかならんものか? 「そんなんじゃ、お兄ちゃんみたく強くなれないぞー?」 「お兄ちゃんみたいになりたくないから食べない」 「な、なんという反抗期。あっはっはー、割とショックでかいですよ?」 「いいのよ。美優、それが正解。アンタは、食べちゃダメ」 「どういう意味でしょうか?」 「フッフッフ、ユリアさんも今日風呂に入ってその意味がわかるわ……」  そんなこんなで夕食も無事終了。久々に家族の団欒という奴を味わった気がする。 やっぱり、食事は大勢でとるもんだよな。賑やかなのは嫌いじゃない。 ところで、風呂場で『イヤーッ!?』だの『あぁ、これでまた三ヶ月あの地獄を味わうのね』だの『明日から走りこみましょう、ええ是非に!』だの聞こえたけどなんだったんだろう。 .二日目夜  そして、夜が訪れる。  昨日と同じように外に出た俺とユリアは、家から少し離れた公園のベンチに座っている。  無言と、静寂。その二つだけが支配する世界は、新鮮なようで、清清しさは全く無い。   「答えは、決まりましたか?」 「ああ。一日中考えて、やっと決まったよ。俺の答えは―――」 選択肢 ..A:引き受ける A:引き受ける 「引き受ける。ここで断ったら、男が廃るってもんだ」 「ほ、本当に良いのですか? もしかしたら、命を落とすかもしれませんよ?」 「ッハ、今更惜しむような命じゃない。それに、美羽や美優を置いて死ぬかってんだ。  どうせこのまま手こまねいてても世界が壊れちまうってんなら、少しでも抵抗してやるさ」 「―――ありがとうございます。ユウトさんなら、そう言ってくれると信じていました」 「まぁな。さって、んじゃさしあたって体力作りでもしようかね。ユリアさんも参加する?」 「え、な、何故でしょう?」 「だって、ますいんじゃないの? 風呂場の声、聞こえてた」 「も、もう。ユウトさんは、時にいじわるです」  ハハハ、と笑い声が風に吹かれて飛んでいく。 その声はどこまでも遠く、世界さえ超えていくような、そんなことを予感させる夜だった。 ..B:やっぱり、無理だよ B:やっぱり、無理だよ 「やっぱり、無理だよ。俺には手伝えない」 「そうですか……そうですね。急すぎましたし、貴方にも家族が居ます」 「その、ユリアの話を信じてないわけじゃないんだ。でも……」 「わかっています。大丈夫、また別の人を探します。無理を言ってしまい、申し訳ありませんでした」 「いや。頑張ってくれよな」 「はい。ユウトさんも、応援していてくださいね?」 .BAD/カタストロフィー  そして、世界は終わりを迎える。 灼熱と氷河が支配するような世の中で生物はあまりに脆く。 それでも何とか生き抜いた人たちは皆、死んだような目で空を見上げる。 その先には亀裂の入った空。ふとすれば、今にも崩れてしまいそうな。 「もう、終わりだな」 「うん……ちぇ、もちょっと、生きてみたかった」 「私も……もっと、二人と一緒に居たかったな……」 「大丈夫。俺達は、世界が終わってもきっとずっと一緒だからな」 「アハハ。それなら、少しは安心かも」 「ずっと、一緒。うん、悪くないね」  遠くには、燃えるような夕日。そして、エメラルドブルーの海。 最後に、こんな風景を家族で見れたことは、きっと幸せなんだと思う。 ぱりん、と。何かが砕ける音がして、砕けちる風景。 ―――やがて、世界は。                                 END