世界が見えた世界・4話 A


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 美優がいた。
「……なんだ、この状況は」
 なぜか目の前に美優がいた。ちなみに俺の現在の状況は、自室の布団で目覚めを迎えたところ。そしてなぜか美優が俺のベッドに入って俺にしがみついてた。
「いいわけないだろ! どういう状況だこれは!」
 布団を跳ね飛ばすことも出来ない。美優さん意外と怪力ですね! 万力のようにぎりぎりと締め上げられた体がばきばきと嫌な音を鳴らす。
 だというのに当の美優は幸せいっぱい夢いっぱいのほんわか笑顔を浮かべながら、頬をすりすりとこすり付けてくる。可愛らしいことこの上ないのだが黙って受け入れ続けるわけにも行かない。
「美優、おきるんだ美優! なんかよくわからないけど娘の状況はまずいような気がする! 美羽が見たらすごいことになる気がするんだ!」
「……んぅ~、おねえちゃんなら、もうがっこうだよぉ」
 そうか、それは安心だな……なんてことあるか! むしろ逆の事態だろ!
「おい、ちょっと待て! じゃあ何か、もう家出ないとまずい時間なんじゃないのか!?」
「ん~、ダイジョブだよぉ……おねぇちゃ、よーじがあるから、はやくでたんだもん……」
 なんだ、そうだったのか……それにしても美優、なんかしゃべり方が幼児後退してますが。あと、腕に何かやわらかいものが当たってるんでいい加減離れてくれると助かります。
 男の子ですから、そういうのは妹だって困ります。
 というか年頃の男には朝の生理現象というものがあってだな?
「美優~、いい加減はなれてくれ~」
「ん~……ぬくぬく」
「お前男の布団はいってきてしがみついた挙句頬ずりするとか! 俺だからいいものの、他のやつになったら何されても文句言えねぇぞ!?」
 ていうか、ごめん。俺もなんか変な気分になりそうですお願いします勘弁してください放して! 俺を解放して!!
 じたばたもがく。芋虫だか蓑虫だかなんかみたいにもがく!
「うう……お兄ちゃん……うるさい……」
 ぎゅうぅぅぅぅ……!
 ぐ……あ…………? し、締め付けが、さらに強く……!? 馬鹿な、美羽ならともかく、美優にこれほどの腕力が……!?
 だ、だがしかし、兄たる俺が妹に力比べで負けることが許されるのか!? 否、断じて否! そのようなこと、あっていいはずが――
 メリッ。
「アッ――!」
 なんか背中で致命的に嫌な音が聞こえた。絶対聞こえちゃいけない類の音が聞こえた。
「……美優……強く、なったな」
 ニヒルに口元を歪め、真っ白に燃え尽きた俺の意識は白く霞んでいった。




 次に目が覚めたのは、多分無意識に刷り込まれた危機意識のおかげだと思う。
 ほら、よくあるだろ? 大事な用事がある日に目覚ましの直前に目が覚めたり、目覚ましが止まってしまったのにはっと時間通りに目が覚めたり。……まあ、それを当てにしすぎて寝坊することもまたよくあることだけど。とにかく、そんな感じ。
「……………………。今、何時だ」
 相変わらず美優は隣にいたが、今度は抱きついていない。それは助かる。助かるのだが、それってようするに寝る体勢を変えるくらいの時間、俺は気絶してたことにならないだろうか?
 もはや確信すら覚える予感に、恐る恐る時計を見る。
「――――――――」
 あと15分でホームルームが始まっちゃいます。
『ちょっとボブ、私また学校に遅刻しそうなの。本当、困っちゃうわ』
『HAHAHA! シンディ、そんな時にはこれさあ!』
『まあ、なぁにこのお人形? 顔もなければ服も着ていないじゃない。ぜんぜん可愛くないわよ?』
『まあちょっと見てくれ。ほら、ここの鼻のボタンを押すと……ごらん! 見る見るうちに僕そっくりになっちゃっただろう?』
『本当! これなら、学校においておけば遅刻にならなくて済むわね!』
『そのとおり! そしてこの人形、まるで本人のように動いてしゃべることも出来るんだ! これで、皆勤賞もばっちりだね!』
「って、わけのわからん脳内劇場をやってる場合じゃねえええ!」
 なんだよ今の深夜のテレショップ風味は!
「美優! おきるんだ美優! 学校に遅れるぞ!?」
 布団を跳ね上げ美優を揺り起こす。しかし夢の中へ完全に沈んでいる美優はその程度のことでは目を覚まさない。
 それでも辛抱強く、首ががっくんがっくん激しく揺れるくらい揺らしているとさすがに美優も眉をしかめた。な、何とか起きてくれそうな……。
「んー、おにーちゃん……? はなれちゃ、や……」
「ごはっ!? く、お、落ち着け俺……クールになれ結城大翔! 俺はこんなところで屈しない男だ!」
 甘えんぼバンザイといわんばかりのしぐさで擦り寄ってくる美優。得体の知れない何かが脳内に溢れた。
 待て俺、落ち着け! ここしばらく味わって居なかっただだ甘エアーが漂ってきたくらいで俺の理性がゆらいだりなんかは……!
「おにーちゃん、すきー……」
「ぐはぁ!?」
 ま、負けないでもう少し! あと少しがんばって俺! とにかく美優を起こすんだ俺!
 あっさりと白旗を揚げそうになる理性を奮い立たせる。
「美優、おきろ、起きるんだ! 言っとくけどな、お前今そうやってすごい和んでてもどうせ目ぇさめたら恥ずかしさでフリーズするんだぞ? 早く起きたほうが後々被害が少なくて済むぞ!?」
 あと俺の自己嫌悪もそれに比例して少なくて済むのでお願いします! 妹にどぎまぎしたとか正直人様に語れる話ではありません!
「っていうか、もうあと10分でホームルーム始まるぞ! 美羽に怒られるぞ!!」
 あるいは殺されちゃうかもしれない。だってあの人、たまに物凄く怖いから。
 ユリアさんにみっともないところを見せるの、嫌がってたしなぁ……こんな場面見せたなんてばれたら、どんな目に合わされるか想像もつかん。
「お、お姉ちゃんに……ガクガク、う……? はれ? お、お兄ちゃん、おはようございましゅ……」
「ああおはよう美優。そしてこれを見ろ」
 目覚まし時計を目の前に突きつける。
「…………。…………? ……………………!!!!!!!」
「現状を確認したか!? ほら、早く布団から出るんだ!」
「お、おおおに、おにい、お兄ちゃん!? こ、この時間!? わ、ワタシ、なんでっ!?」
 実に見事な混乱っぷりを見せてくれているがあいにくと今は時間がないのだ。
「焦るのは後だ! お前はとにかく家の中の戸締り確認とすぐに家を出られるようにしといてくれ! 俺は着替えて準備したらすぐに出る!」
「わ、わわわ、わかった!!」
 美優がわたわたと戸締りやらなにやらをする音を聞きながら、俺はすばやく着替え、水をかぶって寝癖だけ無理やり収める。靴を履いて家を出るのに5分も要していない。
 とはいえ、残り5分少々で間に合うかといえば絶望的……だがしかし、諦めるわけには! 二人並んで駆ける!
「そういや、ユリアさんたちは? あんだけ騒いでたらっ! ちょっと顔出してきそうなもんだけどっ!」
「ユ、ユリアさんたちは、準備が、あるから、先に、出るって!」
「そうか! なんかよくわからんが! わかった!」
 は、走りながら会話するの、きついな! しかも美優がもう限界っぽいし。朝の怪力はなんだったんだ?
「はぁ……おっそいなー、ヒロ君。朝部屋で寝てるのは木に登って双眼鏡で覗いて確認したし……まさか見落とした? って、やっときた! お、おはようヒロ君! 偶然だね……ってノンストップでスルーですかっ!?」
 なんか今よく知った顔を見たような気がしたが全速力で走ってるから道端にいる人の顔なんかいちいち気にしてられない。まあ、俺の知り合いは大抵学生だから、こんな時間にいるわけはないだろ。どーせ気のせいだ。
「ちょ、ヒロ君、たんま……うわ、犬が、野良犬が!?」
 後ろで犬が騒いでる。朝からうるさいなぁもう。とかいってるうちに、学校の入り口(側溝)まで、あと少し!
「美優、ついてきてるな!?」
「……はぁ、はぁ! う、うん!」
「よっしゃあ! 飛び込めえ!!」
 スピードを落とすことなく側溝に振り返りながら突っ込む。背中に強い衝撃があり、息が詰まる。そこに、美優が突っ込んできた。それを全身で受け止める。
「ぐっ!」
「お兄ちゃん、だいじょぶ!?」
「平気だ、一気にもぐるぞ!」
「う、うん!」
 いつもの倍の速さで沈んでいく体にさえもどかしさを覚える。
 学校に出てすぐ時間を調べる。残り時間、2分! 現在地は、1階廊下!
「って遠いな畜生!? 美優は近くてうらやましいなもう!!」
「ご、ごめんなさい……」
「別に責めてる訳じゃないから早く教室に行け! 俺も急ぐから!」
「う、うん、ありがとう、お兄ちゃん」
 律儀に頭まで下げる美優に苦笑しながらその場を後にする。学園への入り口で使ったあの技は偶然から生まれたものだ。以前遅刻しそうなときに、俺をクッション代わりに全力疾走してきた美羽が開発者となる。
 なかなかしんどい技だから、緊急時以外は封印している禁断の技だ。
 それはともかく、階段を3段飛ばしで駆け上がり、廊下を全力疾走。HR直前ということで廊下にも人影はないから走りやすいが、それが逆に焦燥感を煽る。間に合うか――!?
 時間が気になるが気にしている暇はない。今はただ、そう、走りぬくのみ! 目的地はすぐそこだ!
  キーンコーンカーンコーン
「まだだぁぁぁぁっ!!!」
  キーンコーン
「間に合ったぁぁぁ!!!」
 何とかチャイムが鳴り終わる前に教室の扉を開けた俺は。
  カーンコーン
 チャイムが鳴り終わる前に、教室に入ることが出来なかった。なぜなら。
「ふむ。どうした、結城兄。早く入らないか。普段なら教室に入っていないということで遅刻扱いだが、今日は特別に許してやるぞ」
 意地の悪いの笑みを浮かべる乃愛先生のよこに、見慣れない、それでもよく知っている人物が立っていたせいだ。
 雪のように白い肌。宝石のような翡翠色の瞳。透き通った蜂蜜色の髪。ドレスのよく似合う彼女は、なぜかうちの制服を着て乃愛先生の横で、こちらをきょとんと見ていた。
 ユリア……さん? あれ? 教室、間違えた……とか、そういう話じゃ、なくて……。え?
「ほら、早く席に着きたまえ結城兄。男子諸君が殺気じみているぞ? こんな美少女転校生の自己紹介を邪魔しちゃいかんだろう」
「て……てんこう、せい…………? 転校生って、うちの、生徒になるってこと……ですよね?」
「何を当たり前の事を言ってるのかな君は。ほら、早く席に着きたまえ」
 乃愛さんに言われるまま、自分の席にふらふらと着席する。後ろの席の貴俊が苦笑していた。そうなる気持ちはわからんでもないが仕方ないだろう、学校にきたらいきなりユリアさんがいるとか。
 そんなビックリドッキリ展開予想しろというのが……。
「いや、そうでもないのか……」
 昨日の家の前での騒動を思い出す。学校に用事。手に持っていた紙袋。そういうことか。
「それじゃあユリア君、あの遅れてきた彼のためにも、もう一度自己紹介をしてやってくれたまえ」
 そのときの乃愛さんの顔は、間違いなく『邪悪』に分類されるものだった。
 何をたくらんでいるのかは明白。乃愛さんはユリアさんの性格をしっかりと把握している。だから、こんなことを言えば、ユリアさんがどう返してくるかなんて予想しているに決まっている――!
 あの人は、俺が遅刻してきたことを許してやるつもりなんて、まったくないのだ!
「乃愛先生、ちょっとま――!」
「え? でもノアさん。今入ってきたのはヒロトさんですよ?」
 ユリアさんが、俺の名前を呼んだ瞬間。クラス中の視線がぐるりと俺に集中する。その一糸乱れぬ動きはホラーじみていた。
『ヒロト…………さん?』
「ひぃっ!?」
 寒気がするほどの殺気を向けられ思わず喉の奥から悲鳴が漏れた。中にはコンパスやカッターなどの筆記用具を持っているものや、竹刀やスパイクなどの道具を構えているものもいる。お前ら、それは部活で使うものであってこの場では必要ないと思いますから仕舞ってくれ!
 そして乃愛さんは満足そうにうなずかないでください! 孔明か、あんたは!
「よーし、ほらみんな。まだ美少女転校生の紹介が終わっていないんだ、結城をいじめるのもそれまでにしておけ」
 一同の視線がぐるりと前へ向き直る。視線のとげとげしさも何かの悪い冗談だったといわんばかりに消え失せた。ユリアさんは何があったのかいまいち良くわかっていらっしゃらない御様子。……あとで、余計なこと言わないように釘刺しとかないとな。もしうちに居候しているなんて事がばれたら、間違いなくフクロだ。
「それで、さっきも言ったようにこの娘は姫様だ。まあだからといって遠慮するような人間はうちのクラスにはごく一部しかいないだろうな。私から言えることは、何か変なことして私の給料下げたらどうなるか思い知らせてやるからな、ということだけだ」
 すみませんねぇそのごく一部で。乃愛さん今日はほんとにとことん意地が悪いな……! しかも後半部分ではクラスの温度が恐怖で凍りついたぞ。
「それじゃあ、恒例の質問タイムだ。さあ、彼女に何か質問があれば何でも質問するといい」
 乃愛先生は笑顔だが、あんなこと言われた後でそう軽々と質問なんか出来るわけが、
『はぁいっ!!!!』
 ありましたっ! 元気いいなぁうちのクラスの連中は……。
「ユリアちゃんのスリーサイグホォッ!?」
 佐藤が綺麗な放物線を描いて宙を舞う。物理学的には、45度の角度で物体を投擲したときにもっとも綺麗な放物線を描いて最長距離で飛んでいくけど、なんかそんな感じで。
 佐藤はそのままロッカーに頭から突っ込んだ。頑丈な奴だしだいじょうぶだろう。問題は、佐藤が宙を舞った原因だ。
「貴様……姫様に対してなんという破廉恥な!!」
 深く静かな怒りとともに、拳を振り上げた姿勢で立っていたのはレンさんだった。乃愛さん……どういうことですか、これは……。
「ああ……ちなみに、彼女もうちのクラスメイトになる転校生。レン・ロバイン君だ。お姫様のメイドでナイトをしている。何か無礼をはたらくと今みたいな目にあうから、重々承知してくれよ」
 いや、遅いよ!? クラスの心がひとつになった瞬間だった。まあ、乃愛さんのことだからわざとに決まっている。
 しかし、さすがにこれでうちのクラスの勢いも、
「ユリアちゃんの今日のパンツげへぇっ!?」
「ユリアちゃんのパジャマのがらハァッ!?」
「ユリアちゃん、結婚してくだブゲラッ!?」
 落ちるわけないねっ! そうだよね、ウチのクラスだもんね! 田中が鈴木が斉藤が、次々に命知らずな質問を繰り広げているぜひゃっほう!
 ……だめだこいつら、早く何とかしないと。
 あるものはその場に叩きつけられ、あるものは天上に顔面が埋め込まれ、あるものは窓から放り出されてグラウンドに突き刺さる。ここまで豪快なアクションは映画でもなかなか見られない。
「ははは、随分と余裕の表情じゃないか、結城兄」
 いつの間にか乃愛さんが隣に立っていた。この混乱を笑いながら傍観するのは教師として、担任としていかがなものだろうかとも思うが、
「どうせ全員無傷で帰ってくるに決まってるから心配なんかしませんよ……大体ありゃ自業自得もいいところでしょうに」
 なんだかんだで大事になることはないだろうという確信はある。
「だが彼らも別に完全に下心だけで動いているわけではあるまいよ。ああやってはしゃいでみせて、彼女を受け入れようとしている。まず距離を置こうとする誰かさんとは別にな? ま、9割9分は下心だろうが」
「いー加減、俺の悪いところをちくちく責めるのはよしてくれませんかねぇ……」
 居心地悪いな。
 なんでこんなあてつけみたいなことするのかね、この人は。
「俺、なんか乃愛先生に悪いことしましたっけ? いや、遅刻したのは悪かったと思いますけど」
「うん? 別に私は何も怒っていないぞ。ああ、君の気合の入った料理が食べられなかったくらいでこの私が怒るとでも思うのかね?」
 それかよ。あんた何歳ですかっ!? そんな子供みたいな理由で不機嫌になるのって大人として教師としてどうよ!?
 わかってはいるんだけど、やっぱり滅茶苦茶だ、この人。
「ん、どうした結城兄? 普段お世話になっている人を呼びもせずに、幼馴染や同居人、妹達だけにその腕を存分に振るったことについて深く反省していたのかな?」
「はいはい……俺が迂闊でしたよ…………美羽にでも聞いたんですか?」
「いや、結城姉は何も言わなかったさ。あれはあれで兄の料理がうますぎることを気にしているからな。自分から喜んで、そんなことを報告したりはしないさ」
 って事は……壇上に立っているユリアさんを見る。おそらく原因はあの人なんだろうな。そのユリアさんは教室内の光景を戸惑った様子で見ていた。
 教室内ではいまだに、レンさんが変態質問をやめないクラスメイトをちぎっては投げちぎっては投げる大立ち回りが繰り広げられている。みんなやたらと楽しそうだ(レンさんはマジだが)。
 ぼーっと見ていると、視線がぶつかる。
「? にこっ」
「ぐっ……」
 つい、視線をそらした。いかん、油断してた……。乃愛さんがニヤニヤ笑っているのはわかっているが、こればかりはどうしようもない。横目でユリアさんをこっそり見てみると、なぜ俺が視線をそらしたのかわかっていない様子だった。
 ……そういう無防備な笑顔に男は弱いんですよ。
「さあ、他に姫様に質問する者はいないのか? 存分に投げ飛ばしてやる」
「いや、それは趣旨が変わってる」
「はい! んじゃあ俺も質問!」
 今度は清水か……ほんとに懲りないな、このクラスは……。
 というか投げ飛ばされることを期待しているようにしか見えない。
「ユリアちゃんの家はどの辺りにあるんですかー? やっぱりお姫様だし、でっかい家とかマンションとか借りてるわけ?」
「っ!? ちょ、ま……ふがっ!?」
 すごい豪邸に住んでいそうだの、マンションワンフロア全部貸しきってそうだのといった想像が駆け巡る教室内。あまりにも危険な話題の流れを変えようとした俺の口が無常にもふさがれた。
「おいおい結城兄。生徒諸君の知る権利をどうしようというのだね?」
 いやいやいやいや、その質問はどう考えても俺の死亡フラグでしょうに! ユリアさんの性格からして素直に答えるに決まっているし、この質問だとレンさんが止める理由もない……ていうか清水! お前もなに流れ無視して普通の質問してんだよ!?
「はい、私は今、ヒロトさんのおうちでお世話になっています。ね、ヒロトさん」
 背後に花でも背負っているかのように可愛く微笑み、こちらに同意を求めてくるユリアさん。だから、そういう顔されると怒れねぇぇぇ!
 ぎゅるん!
 クラスメイトがいっせいにこちらを向く。
『ゆうぅぅぅぅきぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!』
「ひいぃっ!?」
 悪鬼共の視線を受け、とっさに乃愛さんの拘束を振りほどいてその場から飛びのく。次の瞬間には、俺の机は様々な魔法の餌食となって粉微塵になっていた。
「お、お前ら、少しは手加減しろ! 今のは病院送りどころじゃすまねぇだろうが!」
『安心しろ……生かして返すつもりは――ない!!』
 何でシンクロ率百パーセントなんだよ、この修羅共は! 相変わらずこのクラスは妙なところで団結力を発揮するな!
 次々に飛んでくるそれぞれの魔法をかわすが、どんどん教室の端に追い詰められていく。げ、マジでなんかやばいぞこれ……! いくらなんでも、この状況は!
「やめなさいっ!!!!」
 本格的に命の危険を感じ始めたとき、凛とした声が響いた。全員の視線がその声に――教壇に立つユリアさんに向く。
「よってたかって1人の人を責め立てるなんて、あなたたちはそれでも学友ですか! 恥を知りなさい!!」
 ピシッと背中に棒でも入れたかのような美しい直立姿勢。教室全体に響く声。だれもが、言葉を聞かずに入られない。そんな空気を、あっという間に作っていた。
「ユリアちゃん。確かに君の言うとおりだ……結城、済まなかったな」
「俺も悪かった……ちょっとお前のこと、誤解してたよ」
「俺も、突然のことでちょっと目の前が真っ暗になっただけなんだ」
「ああ、俺も急に足元がなくなったような気がしてな……すまん」
「お前ら……」
 佐藤が田中が鈴木が斉藤がさわやかな笑顔でなんかいってるけど、鈴木と斉藤は単に物理的な要因だと思うぞ。まあ、これで今の馬鹿騒ぎが収まるのならこっちとしても願ったりだ。ともあれ、これでひとまずの問題は片付いて……。
「あ、それから、結城兄はしばらくこの2人の学園生活を補助するために一緒に行動してやること。席も姫さまは結城兄の横、メイド君はその後ろだ」
『結城てめぇぇぇぇぇっ!!!!』
「ひぎぃぃぃっ!?」
 乃愛さんの言葉で羅刹と化すクラスメイト達。乃愛さんには今度ちゃんとご馳走を用意しようと思います。
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